第3話 亜梨栖の仲良くなっちゃう作戦からの月梨戦争

月羽がお隣さんとか夢か…ドッキリか。

「ドッキリとは珍しい…」

「ん? ドッキリじゃないよ。証拠見る?」

そう言われて隣の502号室に案内された。

月羽が鍵を開けた時点でお隣さんって事が証明されたが丁寧に中を案内してくれた。

中には大門家での試験勉強の際に見た覚えのある家具やアクセサリーなどが置いてあった。

これ本当に引っ越してきたやつだ。

あの時の英文ってこういう意味だったのね…

「これでヨシくんの避難場所出来たね。あたし基本1部屋しか使わないからここの部屋ヨシくん専用にしてあげるっ」

「いや、気持ちは嬉しいけど…それは悪いよ」

その後少し久しぶりに会った月羽と入学しかから今に至るまでの話をしてから自宅である501号室に戻った。


そういえば、月羽がお隣さんになったということは…中学の時のように通学は基本一緒になるだろう。そうすると面倒なのが今俺の前でスマホの画面フィルムを張り替えているお姉様…

姉さんは本当に不器用なので気泡を消せないで苦労している。

『なんでこっちが消えたらこっちに出来るのよっ』『この説明書通りにやったのにおかしくない?』『はぁ?嫌がらせですかぁ気泡のくせにぃー』など独り言が激しい。

俺はそれを眺めていたが、見ているこっちがイライラしてきたので姉さんからスマホを奪い一発で貼って返した。

ドヤっ。

「目の前に天才がいる…」

「て、天才だなんて。こんなの慣れれば簡単だよ」

「あっ、照れてる。可愛いなー」

頬杖をつきながらこっちを見てくる。て、照れてないし。

「よしっ。お礼にお姉ちゃんが夜ご飯を作ってあげるわ。何が良い?」

なんでそうなる…

「いやいやー俺作るよ」

俺が姉さんの料理を割と必死に阻止しているのには理由がある…姉さんの作る飯はマジで不味いのだ。

隠し味とか言って訳わかんない調味料を入れるのが原因だろう。

前あったのが甘いチャーハン…

チャーハンを食べているにもかかわらずデザートを食べている気分になった。

あの時めっちゃお腹空いていたにも関わらずあれ食べた瞬間食欲がピタリと無くなった。

隠し味に黒蜜を入れたとか言ってたな…

この味音痴め。

「むー。せっかくお姉ちゃんのご飯をご馳走しようと思ったのに。しかも、お母さんから伝授してもらったミートソースを」

それは超魅力的だ。うちの母さんが作るミートソースはうまい。姉さんはレシピが載っているであろうメモ用紙をパタパタさせているのでこれはイケるのでは。

「じ、じゃあお願いしようかな」

「嫌よ。一度断ったんだから…ねぇ?」

イラッ。

「それではなにをお望みで?」

怒り感情を抑えながら聞いてみた。

「そうだねぇー」

そう言って何か企んでやがる。

「あたしと一緒にお風呂入るか明日一緒に登下校するのどっちがよい?」

……は?

「え……なにそれ?」

ちょっとなに言ってるかわからないっす。

冗談だろうと思って姉の方を見ると割とマジな顔してたのでおそらく本気だ。

高校生にもなって一緒にお風呂とか恥ずかしすぎる……

しかし、一緒に登下校の方がリスクが高い。

まず明日の朝間違えなく月羽が迎えに来るかロビーで待ってるだろう。そこに俺と姉さんが一緒に行ったら間違えなくバトル開始…

朝からそれに巻き込まれるのは勘弁…

それに放課後は涼夜と愛依奈と一緒に楽しく帰りたい…できれば小木ノ城さんも…ね。

なんか割と小木ノ城さんの事が気になっている気がする。

もちろん好きとかそういう感情ではなく何となく話してみたいので『興味がある』の方が合ってるだろう。

両者を脳内天秤のうないてんびんにかけると『一緒にお風呂』という結論に至った。

「ねねね。まだ?」

「前者でお願いします」

「まぁ! それは一緒に入りたいの?それとも明日一緒に行きたくないの?」

姉さんは後者を選ぶと思ったらしく驚いていた。

「両方です」

「両方かー。まぁいいわ。お風呂掃除してきて、うちはご飯の準備するから」

逆の方がいい気がする。もう少ししたら風呂に入るというのになにを準備するのか気になる…

『うちらがお風呂入ってる間に煮込むのよ時間の節約ってやつ』とか言わないよなぁ。

それは失敗フラグだからマジ勘弁。

キッチンで食材を切り始めた姉さんを横目に風呂場に行き掃除を始める。

その際に入浴剤の有無を確認した。あれで浴槽のお湯の色を真っ白にしてしまえば恥ずかしいものはなにもない。

お風呂掃除終えてキッチンに戻ると「逃げるな野菜」とか「キャッ危ないな野菜のくせにー」など聞くだけで危なっかしい声が…

「姉さん俺が切るから…」

怖くてみてられないので助けることにした。

「大丈夫だし。うちに任せなさいっ」

「任せられませんっ!」

「やだー。うちが切るのー」

まるで子供のように駄々をこね始めた。

……。

仕方ない。教えるか。

そう思い姉さんの背後に回ると両手の上に俺の手を被せ包丁の使い方を教えることにした。

「わっ、びっくりした…ど、どしたの…よ」

「いや、包丁の使い方ぐらいマスターして欲しいからこれから教えるよ」

「あ、ありがと…」

その瞬間リビングの方から夕陽が差し込んできた。

そのせいかいつもより姉さんが赤い気がした。

俺は玉ねぎ、ニンジン、椎茸の切り方を教えた。

玉ねぎを切ったときは2人とも号泣してお互いの顔を見て笑ったりした。

そう。まるで子供の頃のように……

食材を切り終えるとちょうどお風呂が沸いたらしいので着替えの準備をする。

すると、姉のスマホに着信が。

しかし、一向に出ようとしない。

「姉さん出ないの?」

「良いのよ。これから楽しみがあるんだしあんなの後回し。後回しー」

そういうとルンルンで部屋に着替えを取りに行く姉さん。

しかし、鳴り止まぬ着信。

とりあえず俺は気にしないで風呂に入ることにした。

髪と体を洗って湯船に浸かる。

40℃のお風呂が体にしみるー。

ちなみに今日は別府温泉の入浴剤を入れてみた。

湯船に浸かりながら明日の学校について考えたり、姉さんについて考えたりしていた。

湯船に浸かってから10分が過ぎたが一向に姉さんは入ってこない。

「何だよ入ってこないのかよ…」

思わず呟いてしまったが楽しみっていう訳ではなく少し腹を割って話したい事があっただけ。

ほら、お風呂で話すと良いって言うじゃん?

え、言わない?あれっ……

仕方なくお風呂から上がって髪を乾かしリビングに戻ると珍しくイライラ気味に電話をする姉さんの姿が。

「そうだね…わかる……あの、そろそろ…え? 何もないってばー」

いかにも『通話を終えたいんですけどっ』って感じの表情をして指で机を叩いている。

お疲れ様です。

俺がベランダで軽く涼んで戻ると通話は終わって机に突っ伏している姉さんがいた。

「もしもーし?お風呂空いたよ?」

覗き込むように言うと急に起き出した。

び、びっくりしたなぁ。

「あいつ…忙しい時に電話してくんじゃねーし。あー楽しみが消えたー」

だいぶご立腹ですね…

その後渋々1人で浴室に向かっていった。

その間にキッチンにある姉さんが作った赤色の調味料を味見するとケチャップの味に打ち勝つ甘さと苦味が暴走して……

とりあえず不味い。

こんな物をパスタに絡められたらひき肉、野菜と小麦に申し訳ない。

捨てるのも勿体ないので家にある調味料を酷使して何とか普通に食べられる状態に修復。

そして俺はリビングで漫画を読み姉さんを待つことにした。

15分ぐらい経つと風呂から姉さんが上がってきたので、麺を茹で始め、ミートソースを作って2人で食べることにしたが…

俺は視線のやり場に困っていた。

「ん?なにかしら」

目の前にいる姉さんは下着姿で座っているからである。

「いや、なにかしらじゃねーよ。その姿…その目のやり場に困るんだけど」

すると待ってましたかと言わんばかりにニヤッとして胸を強調してきた。

「どうどう?昔とは違うお姉ちゃんのお身体は」

……この人何言ってるんだろう。

「まぁ。素晴らしいプロポーションだと思います…はい」

姉さんの訳わかんない質問を軽く流してキッチンへ向かう。

茹で上がったスパゲティにミートソースをかけてリビングへ持っていく。

「「いただきます」」

2人同時に言ったが姉さんは食べ始めないので俺が先に食べる。

これは俺に毒見させているな。

俺が普通の顔して一口食べ終えるとその後一口食べた姉さんの手が止まる。

「……ちょ、え?うそっ?」

恐らく自分の想像していた味と異なったから困惑しているんだろう。

俺が味を調整したことは黙っておこう。

姉さんはこちらをチラ見するとそのまま食べ始めた。

こうして少し濃い日曜日が終わっていった。



「やっぱり理稀よしきはうちの最高の弟」

なんて思っちゃうよねー。

だってうちが困っていると呆れながらも手を差し出してくれる。

そういうところにかれるのかなぁ。

好きだなぁ。

もちろんloveじゃなくてlikeだからね……多分。

亜梨栖ありすは貼ってもらった保護フィルムを眺めながらそう思っていた。

実家の頃から比べると確実に距離は縮まってきていると実感している。

うちの性格上一気に事を片付けたいのでとことん詰めていくのです。

例えば完成まで3日間ぐらいかかるプラモデルがあるとするとそれを2日間で終わらせようとする。

せっかちなのかもしれない。

1つの目標があるとそれに対して全力で取り組むけどその際周りが見えなくなるのはうちの悪いところだけど気にしない。

そして今の目標は理稀と"昨日より仲良くなる"これのみ。

今日の作戦は女子力アピール!!

仲良くなっちゃう作戦開始ー。

美味しいご飯を作って、一緒に風呂に入って疲れたお身体を流して一緒に寝て理稀のストレス解消。

こうすれば確実にアピール出来るはず。

やばっ、これ理稀から好かれちゃうやつじゃん。

キャー『あの……お姉ちゃん…好きっ』とか言われちゃったらどうしましょ。

そしたらもちろん焦らしてOKするに決まっているわ。

というわけでキッチンに立った。

まず、野菜の切断からね。

タマネギの皮を剥いて、ピーラーで人参の皮を剥く。

よし、ここまで順調。次は野菜の切断ね。

とりあえず左手で野菜を抑えて包丁を振り下ろす。

すると切れた野菜がピョーンと流しにダイブした。

みじん切りってやつにするらしいので落ちた人参を拾い、半分にした人参をもう半分にするためにもう一度包丁を振り下ろすと今度は床に落ちた。

「おい。逃げるな野菜」

あれ…もしかして野菜に嫌われてる感じですか?

脱衣所の方から覗いていた理稀が声をかけてきたが女子力アピールのためにうちがやりますっ。

すると理稀はうちの背後に回って切り方を教えてくれた。

背後と両手に伝わる理稀の温もりが何とも言えない感情にさせてきた。

今の亜梨栖…めっちゃしあわせですっっ!!

しあわせな時間は短く感じるのか理稀のレクチャーが上手いのか…野菜に逃げられる事なくあっという間にみじん切りになっていた。

やばい…loveになりそう…理性を保て…うち。

そんな事を思いながらリビングに戻るとうちのスマホに着信があった。

画面を見ると『ななみ』と書いてあったのでとりあえず無視。

今はそれどころではないのよ。

理稀が浴室に入っていたのを確認するとスパゲティに入れる調味料を作る。

パパッと作ってお風呂へGO!!

とりあえずケチャップでしょ?あとは塩胡椒にコンソメ…あと、甘さが必要ね。

棚を漁ると蜂蜜とブラックコーヒーを発見!

コーヒーはいい感じに入れることができた。

しかし、隠し味として蜂蜜を入れようとすると蓋が取れて全体の半分が器に吸い込まれていく。

「あっ……」

思わず苦笑い。

味音痴と言われているうちでもわかる…これ不味いやつやー。

てか、誰が味音痴じゃー。

どう誤魔化そうか考えていると再び着信が…

あーもう…なんなん?

少しイラッとしながらスマホを見ると『大切な話があるー』だって。

仕方ない。放置すると後々面倒だしパパッと済ませてお風呂へ。

2、3分なら話すだけならお風呂に間に合うだろう。

しかし、何故女子の電話は長いのか…

結局15分ぐらい話してしまった。

うちとしては秒で終話しゅうわしたかったんだけどひたすら愚痴を聞かされて……こっちから『じゃ、またね』が言えなかった。

最後なんて『なに?理稀どうしたの? し、しょうがないわねー』なんて自作自演して無理矢理切ったし。

あの…ごめんね。理稀…

なんか色々真っ白になったので机に伏せていると理稀から声がかかった。

つまり、『一緒のお風呂で仲良くなっちゃう?作戦』失敗…

「あいつ…忙しい時に電話してくんじゃねーし。あー楽しみが消えたー」

思わず口走ってしまった。

ふと理稀の方を見ると若干引かれてる。

もういい。お風呂でさっぱり何もかも流してやるっ。

あっ、さっきの理稀から教えてもらった包丁の使い方は流さないように脳内HDDにバッチリ保存してあります。

そう言って浴室に向かい、鏡に映った服を脱いだ自分を見て思った。

「やばっ…太った……」

お腹辺りをプニプニ突きながら思わずため息…

お風呂ではこれからどうするかを考えていたがいい案が浮かばないし、ツキノワ?浮輪?理稀の女友達の存在が引っかかる。

「あいつ…マジなんなん?」

入学式の日にうちも学校に行く用事あったから一緒に学校に行って理稀のクラスを確認したり色々やりたかったのにー。

とりあえずお腹空いたのでお風呂から上がる。

長く浸かりすぎたかなぁ。めっちゃ暑い…

全裸はヤバイからとりあえず下着だけ付けて麦茶でも飲もっ。

麦茶を持ってリビングに行くと視線のやり場に困っている理稀と目があった。

「ん?なにかしら」

わかってはいるけどどう思っているか気になる?

「いや、なにかしらじゃねーよ。その姿…その目のやり場に困るんだけど」

ほうほう。そうかい。待ってたよその答えを。

「どうどう?昔とは違うお姉ちゃんのお身体は」

アピールチャーンス!

理稀の友達の何とかって子マジで胸元が平面だったたからうちの大きいものを見せつけておけばあの子に興味無くなるはずね。

「まぁ。素晴らしいプロポーションだと思います…はい」

お褒めの言葉…いただきましたーありがとうございますー!!

うんうん。この言葉を待ってたのよ。さてっ、気分が良いうちに恐らく…いや、絶対に不味いスパゲティを食しますか。

なんか理稀が美味しそうに食べているのは気のせいか…とうとう理稀の舌もイカれたのか。

そう思いながら…ビビりながら一口食べる。

「……ちょ、え?うそっ?」

あの蜂蜜マシマシの謎の物体がミートソースになるとは。

ミートソースの中にほんのり蜂蜜の香りと甘さがあって…マジで美味しい。

あれ?もしかして料理上手くなっちゃった感じですかねーこれは。

しかし、残念ながらそれは無いという事に気づいた。

理稀の方を見ると髪をいじっている。

これは理稀隠し事をしている時に発動する小さい頃からのくせだ。

そういうことか。

うちの失敗を見えないところでカバーしてくれたんだね。

惚れてしまうわ。いや、もう惚れているのか?

うん。やっぱり理稀はうちの自慢出来る最高の弟よ。

絶対誰にも渡さないんだからっ。

そんな感じで夜ご飯を食べ終えるとベットで漫画を読み始めた理稀の元へダイブ。

「な、なんだよっ」

「ううん。なんでもないっ。ぎゅー」

感謝の気持ちを込めて抱きしめたくなったのでうつ伏せになっている理稀の背中から抱きつくと暴れる事なく何もしない。

…???

お姉ちゃんに抱きつかれるの好きなのかな。

しかし、後から聞いたら面倒だから動かなかったそうです。

……チッ。

『アリスのヨシキと仲良くなっちゃう作戦』はまだまだ続くよっ。



あれから1週間後の土曜日に事件は起きた。

俺と姉さんが昼ごはんを食べ終えて俺がトイレに入ったタイミングでインターホンが鳴った。

来客か。一昨日注文したゲームが届いたのか。

そのまま10秒ぐらい経つとまた、インターホンが鳴る。

姉さんよ。居留守をするな。

まぁトイレに入っている俺が言える立場かわからんけど。

そこから何回かインターホンが鳴ったが姉さんが出る気配がなくしばらくすると玄関の開く音が聞こえた。

ってことは両親か…月羽?

後者だとマズイな。

それから2.3分後にトイレを出るとやたらリビングが騒がしい。

……マジか。

ドアを開けると月羽と姉さんが言い争いをしていた。

「なんでうちに入ってくるのよ!しかも勝手に鍵を開けてっ」

「誰も出ないからでしょ。この鍵はね。あたしの大切な大切なヨシくんから預かっているものなの。文句ある?」

「はぁ?理稀はこの亜梨栖がいるから平気よ。ささっその鍵をお返しなさい」

「お断りします。信用出来ないので」

リビングのドアを開けると仁王立ちする月羽とベットに寝っ転がっている姉さんがバトルを繰り広げていた。

「2人とも何を争っているんだよ」

俺が声をかけると獲物を見つけた獣のごとくこちらに目線を向け2人に両腕を抑えられた。

……こ、怖っ。

「やっほ。ヨシくん迎えに来たよー。ささつっ新たな我が家に帰ろうじゃないかっ!」

「勝手に人な弟を奪わないでくれる? 理稀はここでうちと末長く住むのよっ…」

2人は俺の両腕を引っ張るのではなく両腕に抱きついてきて俺を境に火花を散らしている。

月羽と亜梨栖の神崎理稀という人物を奪い合う戦争が始まった。

その後もらちがあかないので2人が色々なもの(主にゲーム)で勝負することになり勝者の方に俺が住み、敗者は俺に1週間関わらないという…わけわからん展開になりました。

種目は3つで1つ目がオセロ…なんで?

2つ目が俺が実家から持ってきたリモコン型コントローラーを振って遊ぶスポーツゲーム。

ちなみにボーリング、ゴルフ、野球、ボクシングの4つの競技で競うらしい。

しばらく起動させてないから動かなかったらどうしよう。

最後の3つ目は料理対決。

今日の晩御飯を2人が作り美味しかった方の勝利。

最後の料理はこの時点で勝敗決まってる…

なんか種目が偶数になったので引き分けの場合は俺が決めるらしい。

頼むから引き分けだけは勘弁。

というわけで第1ラウンド開始っ。

月羽が持ってきたオセロ盤を使ってのバトル。

月羽が白で姉さんが黒。

前半は姉さんの圧勝とも言えるほどオセロ盤が黒い。

「やばっ、これ圧勝しちゃう感じですねぇー。初戦から敗退して泣かないでよね」

月羽はニヤリとしてから「そ、そうですねぇ」とワザとらしく目元を抑えた。

それを見て頬が緩む姉さん。

これは姉さんの負けフラグですね。

……。

案の定姉さんのボロ負け。

ぱっと見オセロ盤の8割は白い。

これは月羽の戦略が上手いのか…それともうちの姉がヘタクソなのか。

恐らく両方ですね。

月羽は瞬時に姉さんの性格を見抜いていい感じに攻めていっていた。

オセロ盤が黒から白に変わる瞬間の姉さんの表情と行動が面白かった。

『え?、ちょっ、なんでよー』とか『こんな手を使って…この子絶対黒いわ…黒羽よ黒羽』など…

後半は白から黒になるに度に俺の腕を叩くから若干赤くなった…

そんな感じで1回戦は月羽の勝利。

続いて第2回戦。

なんかゲームのセッティングや片付けは俺の仕事になってる。

最初にボーリングから始まった。

月羽はストライクが1回、あとは2.3本残しの連続。一方最初ガーターばかりだった姉さんが後半ストライクを連続させたので僅差で姉さんの勝利。

ドヤ顔の姉さんと悔しがる月羽という普段あまり見ない光景に新鮮さを感じる。

月羽って悔しがると『ぐぬぬ…』って言うのを今日初めて知ったけど…ちょっと可愛いなって思いました(小声)

続いて野球、ゴルフの順に競技が進んで行ったがこの2つはとても残念だった。

野球に至っては変化球を投げまくるがストライクゾーンに入っていない。それなのにバットを振りまくる。

途中からワザとバッターを狙いまくってデッドボール連発。

「ちょっ、ワザとうちのこと狙ったでしょ」

「そんなわけありませんよ? ランナー塁に回るしあたしのメリットありませんし」

「そ、そう。ならいいけど」

ニヤつく月羽。

姉さん…ワザと狙われているぞ。納得するなー。

野球が終わるのに1時間もかかった。

普通にプレイすれば10分もかからないのに。

続いてのゴルフは案の定OBの嵐。

月羽は狙ってるのかってぐらいウォーターハザード(通称池ポチャ)を連続。

姉さんは逆に森に突っ込みまくる。

スコアがえらいことになってた。

「はぁ…ゲーム内のあたし下手なんだけど。変わって欲しい」

「はぁ。こんな強風の時にゴルフやるなし。うちなら帰って理稀を甘やかすわっ」

ゲームに文句を言う2人…

ゲーム内の月羽はコントローラー通りに動いて文句言われるとか可哀想だな…。そして姉さんよ…リモコンを振るタイミングでカーブをかけられるのでそれを調整すれば真っ直ぐ行くのになぁ。

こちらも1時間ぐらいかかった。

あまりにも長期戦なのでうたた寝してしまった…

ちなみに両方とも月羽の勝利。

勝利というかかろうじて勝ったって感じです。

そして始まったボクシング。

お互いに待ってましたと言わんばかりにニヤニヤしている。

このゲームは自分のアバターを作って対戦する仕様になっている。

「お姉さんをボコボコにしてあげますね♡」

「こっちこそ返り討ちよ。楽しみにしててね♡」

2人ともニコニコしているが闘争心が顔に出てて見ている俺が怖い。

そして第1ラウンド開始。

お互いリモコンを持った手を前に振り必死に相手にダメージを与えていく……のだが。

月羽は『このっ、バカっ。え?ダメージ受けてるぅ?』

とか言いながら猫パンチを繰り返す。

見ててとても和む。

一方姉さんの方は俺と昔勝負してたからか意外と上手い。

たまに出る右ストレートで月羽に大ダメージを与えている。

途中何を思ったか手だけなく足も動かし始めて『この亜梨栖キックしないんだけど』とか言い始めました…

そりゃ足にコントローラー付けてないしキックするわけないですよ。

本気で言ってるのか…

そんな感じで姉さんの勝利。

ゲームが終わった瞬間に2人とも床に倒れこむ。

現在の勝敗は月羽3勝の亜梨栖2勝で月羽が一歩リードしている。

まぁ次がお料理対決なわけなので勝敗は目に見えている。

俺は倒れ込んでいる2人に飲み物を渡す。

「ヨシくーんありがとうっ! 大切にするね」

そう言って俺の方は飛びついてきた。

いや、大切にしないで飲んでください。

月羽を避けるわけにいかないのでとりあえず受け止める。

しかし予想以上に勢いがよく2人してベットに倒れこむ。

「あはは。ごめんねー。ギュッ」

と言いながらも俺の上から退こうとしない。

この時1つ気づいてしまったが、月羽の胸は本当に平野だ…

まるで、幼女が乗っている感じ。

「む。今あたしに対して変なこと考えなかった?」

「そんなことないよ…あはは…」

「あっ、うちの弟になにしてくれるわけ? ま、その平野じゃ山に慣れている理稀は見向きもしないわ」

「平野? 山?」

月羽は俺の方を見て首をかしげるが俺の口からは言えないので目線をそらす。

「もしかして自覚ない感じですかぁ? ここのことよっ」

そう言って姉さんが月羽の平野を揉み始めた。

「ひゃん…」

……。

……。

硬直する俺と赤面する月羽、なんか申し訳なさそうにする姉さん…3人の時が止まった。

「や、やってくれたわね…しかも理稀の前で……ゆ、ゆ、許さない」

あ、月羽がキレた。

すると月羽は俺の上からスッと立ち上がりすっと姉さんの後ろに回り込む。

すると姉さんが着ていたシャツを掴み上に持ち上げた。

「「へっ?」」

俺と姉さんは同時に驚く。まぁ俺より姉さんの方が驚いただろう。

そして月羽も驚いていた。

何故ならば姉さんはブラを着けていなかったから。

まぁその一瞬だけ姉さんのを見てしまったよね。

小学校低学年の時は一緒にお風呂に入っていたから約10年ぶりの再会!!

お久しぶりですっ。

ってなに考えてんだ俺……

とりあえず色々整理したくなったのでベランダへ行き夕日を眺めることにした。

ふと、線路の向かいにある高級マンションの方を見ると1人の女子?と目が合った気がした。

なにせ、距離が離れているので確信が持てない。

小木ノ城?

ふとその人物の名前が脳裏のうりぎった。

我に戻ってそっちの方を見るとそこには誰も居なかった。

これよくアニメとかドラマであるやつじゃん!!

こういうのって物語上重要人物になったりするけど小木ノ城に限ってはなさそうだな。

だって接点無いしあの子本当に寡黙なんだもん。

ふと、部屋の方を見ると半裸の2人がまだバトルしてたので見て見ぬ振りをしてマンション下を走る電車を眺めていた。


それから10分ぐらい経ってもらちが開かなそうなので2人に軽くお説教。

その後お料理バトルが繰り広げられた。

その間に先ほど2人がやってたゲームを1人で楽しむ。

いやー久しぶりにやると楽しいね。

へ、別に2人がやっての見て楽しそうだなとか思ってないんだからね?

そのあいだも2人のバトルは終わらない。

『ちょっとコンロ独り占めしないでくれる?』『うちの食材盗んだでしょ』『ちょっ亜梨栖、砂糖と塩のラベル貼り替えたでしょ』などなど…

しょうもない争いが繰り広げられた。

お互いに全力で潰し合っている。

何されるかわからないのでこの御二方おふたかたを怒らせる事ないよう大人しく生きていきたいと思います。

そういえばスルーしそうになったけど月羽が亜梨栖と呼んでいた気が。

ふとスマホを見るとアイーナという名前だけ外人っぽい人からメッセージが来ていた。

まぁ、友達の神栖愛依奈かみすあいななんだけどね。

自分で付けたのならセンスを疑うわ。


アイーナ『よっ!』

よしき『よっ!』

……既読ついて返信なし。

なんやねん!

…5分後。

アイーナ『いやいや〜それじゃ話終わっちゃうでしょo(`ω´ )o バカモノッ』

……イラッ。

よしき『特に用事ないし(。-∀-)』

アイーナ『あたしはあるのっ!!』

よしき『ほう。聞こうではないか』

アイーナ『ふっふっふっ…腰を抜かすなよ( ̄+ー ̄)』

よしき『それはない(`・ω・´)』

アイーナ『今…あたし…全裸なのっ』

よしき『写メ送れ!!』

アイーナ『セクハラだー。訴えるぞー』

よしき『気になる!!写メはよっ』

アイーナ『すみませんでした(´・ω・`)』

よしき『よろしい( ̄^ ̄)で、要件は?』

アイーナ『あっ、今ねジョーカちゃんと一緒にいるのよ』

……は?誰?

アイーナ『あっ、小木ノ城ちゃんの事。偶然本屋で会ったのよー。偶然だからねっ?ストーカーしてないからね?』

こいつ…まさか…

アイーナ『ちなみに隣でアイスを食べています。小さい口で食べるジョーカちゃん可愛いでしょ?』

いや、ここから見えないし。

よしき『見えるわけないだろ。アホッ』

アイーナ『アホ言うな(ㆀ˘・з・˘)』

アイーナ『でね。ジョーカちゃんがねー月曜日の放課後に渡したいものがあるらしいよ』

よしき『ようやく要件にたどり着けたわ(笑)』

アイーナ『普通に伝えたんじゃ面白くないからね( ̄∀ ̄) じゃまた月曜日会いましょヾ(๑╹◡╹)ノ"』

よしき『(・∀・)ノ』

え?小木ノ城さんが渡したいものってなに?

忘れ物かな。

愛依奈との連絡が終わると料理対決も終わった。

月羽がハンバーグとエビピラフ、そして海鮮サラダの3品。

姉さんが五目御飯、お刺身、そして謎の物体……

ほんの一瞬だけ一瞬姉さんの方が美味しそうだと思ってしまったがほぼ買ってきたものというか昼飯の残り。

「勝者は……月羽!!おめでとう」

「わーい!これで1週間ヨシくんはあ・た・しのものよ♡」

「なんでよ!美味しそうなお刺身と五目ご飯よ?」

「今日の昼飯は…」

「うっ…」

ぴょんぴょん跳ねる月羽が可愛い。

それに比べて姉さんは魂が抜けてポカンとしている。

敗者は俺に1週間関わってはいけないからそうなるか。

ということで持ち物を準備して502号室に移動することにしたがその前に少しやることがあったので月羽には先に行ってもらった。

「姉さん。お疲れ様。行ってきます」

そう言って俺は姉さんを後ろから軽く抱きしめた。

その瞬間姉さんがビクッと軽く跳ねる。

「え、えぇ。い、いってらっしゃい」

なんか上手く表現出来ないけど、とりあえず感謝したくなった。

そして俺は502号室に向かったのであった。


502号室(月羽邸)に移動したからと言って特に何も起きていない。

例えば告られたとか月羽に這い寄られるなどそう言ったことは一切なく中学の頃遊びに言った時とほぼ同じ。

そして迎えた月曜日。

前に愛依奈から送られてきたメッセージの件が頭に残っていたのであまり熟睡出来なかった。

そのせいで授業中ものすごく眠かった…

うたた寝すると涼夜からシャーペンの芯を飛ばされてその痛みで目が醒める…またうたた寝の繰り返しだった。

こういう時って時間経つの早いんだよな。

って事で放課後を迎えた。

涼夜には愛依奈からこの件を話したらしく先に2人で帰ってるそうだ。

小木ノ城の方を見ると手招きしてきたので後について行く。

そして屋上への階段で足を止める。

周りに人気は無く部活の掛け声が遠くから聞こえるぐらいで比較的静かな場所だ。

「あ、あの小木ノ城さんどんな用事かな?」

「……あるの…」

小木ノ城はうつむきながら話したので聞き取れなかった。

「え? なんだって?」

「渡したいものがあるの…これ」

そういうとカバンからラッピングされた箱のようなものを渡された。

「家に帰ってから開けて……それじゃ…」

そういうと小木ノ城さんは帰っていった。

今開けてはダメなのか。

とりあえず帰宅することにした。

マンションに着くと501号室に入りそうになったが慌てて502号室に移動する。

そして俺の部屋(仮)で例の小包を開ける。

すると中から俺の好きなアニメの原作の1.2巻が出てきた。

……?

どゆこと?

その中に1枚の手紙のようなものがあったので手に取り内容に絶句した。




『わたしは貴方が気になります。今度デートしてくださいな かえで』









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