第4話 かえでーと

俺は何度か見返したがやっぱり文面は変わらなかった。

あまり面識のない小木ノ城さんからのデートの誘い。

これはトラップか?

それとも…俺のことが好きなのか…

一目惚れってやつですかい?

……。

んなわけあるか。

こういう時は現実的なことやあり得ないことなど様々なことを考えてしまう。

その後も布団に転がりながら色々妄想したり考えたりしたが、余計にモヤモヤするだけなので本人に直接聞くことにした。

とりあえずこの件は月羽と姉さんには内緒にすることにしよう。

面倒ごとは出来るだけ避ける!!

最後にもう一度文面を見ると宛が書いてない事に気付いた。

ということは他の誰かに向けて書いたものや俺以外の人に向けて書いた可能性も考えれる。

少しだけ期待している自分がいるので『ご、ごめんね。これ見なかったことにして』とか言われたら割とショックかも…

この事はひとまず忘れよう。

頬を叩き気持ちを入れ替えると月羽からご飯が出来たと呼ばれたのでリビングに向かった。


翌朝少し早めに登校すると小木ノ城さんは読書をしていた。

涼夜と愛依奈が居ない方が話しやすいので小木ノ城さんに声をかけることにした。

「お、おはよう。あのさ…ちょっといい?」

「え?なに?」

俺は後ろから声をかけたので小木ノ城さんは不機嫌そうに振り返る。

少し焦ったがとりあえずスマイル…スマイル。

しかし俺の姿を確認すると驚き、戸惑った後ニコッと微笑んだ。

……?

「おはよ…ど、どうしたの?」

少しうつむき右手を口元へ当てながら聞いてくるその感じ…可愛いぞっ。

「いやぁ。昨日貰った小包の件なんだけどね。あの中に入っていた手紙みたいなやつ読んだんだけどあれっ……」

「そ、その件は…ほ、ほ、放課後話すねっ」

俺が言い切る前に顔を赤くして言葉をさえぎられてしまった。

「了解。放課後にあの階段で良い?」

そう聞くと小木ノ城さんは静かにうなずく。

この時点で間違って入っていたもの、俺以外の人へのラブレターでないことがほぼ確定した。

ってことはやっぱりそういうことなのか。

机にカバンを置き教科書やノートをしまい頬杖ほおづえをつきながら手紙のことを考えていると右から視線を感じた。

その2、3分後に愛依奈と涼夜がほぼ同時に教室に入ってきた。

「オッス!朝から変なやつに追いかけられたわ。あー疲れたー」

軽く息を切らした涼夜が席に座った。

「なっ。変なやつとは失礼なっ。こんな可愛い変なやつなんていないよ?」

「2人ともおはよー。朝から元気だな(笑)」

愛依奈はカバンを置くと椅子をクルっとこっちへ向けて俺の机に頬杖をつく。

いつもその格好だよなぁ。

「涼夜変人がこっちを向いたぞ」

「ヤバっ、変人が移るから逃げろー」

「むぅー。そうかい。そうかい。そんなこと言っちゃうんだこの2人は」

そう言うと愛依奈は俺の頬をつねる。

「痛い痛い…」

「この失礼なお口をふくむ顔にはお仕置きよ」

俺だけ?

「し、しゅ、しゅみましぇんでしたー」

つねられているので口調が変になった。

それを聞いてクスクスと涼夜が笑っている。

「よし。謝ったので許すっ」

ようやく離された。

愛依奈の手っていい匂いする…

「愛依奈さま…隣のチャラ男バカにしてますぜ」

「んんん? ほぉ…コヤツを仕留めねば。理稀抑えろー」

「了解ー」

そんな感じでいつもの3人がたわむれていると小木ノ城さんがこちらをガン見していた。


そして迎えた放課後。

愛依奈は神田先生に頼まれごとをされて教室を出て行き涼夜は用事があるらしく先に帰っていった。

そしてバッグに教科書をしまった後トイレに行き戻ると教室には本を読んでいる小木ノ城さんだけになっていた。

なんか少し緊張するな。

「ねぇ。よ、理稀くん。ここで話さない?」

本をパタンと畳むと俺の方を見て微笑む。

いきなり話し出したので少しびっくりしました…

そういえば小木ノ城さんって他の人に微笑んでいるところを見たことない。

つまり、俺だけに微笑む。

ちょっと嬉しい。

「誰も居ないしここで話そうか」

俺は自分の席に戻ると小木ノ城さんが椅子を俺に寄せてくる。

ち、近いっす…心臓が高鳴っている…

「ねえねえ。次の土曜日空いてる?」

少し心配そう上目づかいで見てくる。

土曜日か…特に予定ないな。

「土曜日空いてるよ」

するとニコッと笑って俺の手を握る。

え? これドッキリでしょ?

だって愛依奈と涼夜は俺を置いてどっかに行くし彼女は俺を確実落としにかかっているし。

まぁ、誰かが面白がってくれるのであればそれでいいか。

「その日にわ、わたしと……」

デートして欲しいでしょ?

どこに行くかな。少し遠いけど都内の方が良いだろう。渋谷か原宿か…それとも……

「デートして欲しいなっ♡ ……その…秋葉原で」

うんうん。デートね。

あれ?今デート場所にバグが起きた気が。

「え?秋葉原って言った?」

疲れているのかな。こんなお嬢様のような人があの街に興味あるわけがない。

「えぇ。秋葉原で一緒に買い物してほしいの。ダメかなぁ?」

えぇぇぇーー!!!?

嘘じゃなかったよ。

まぁ月1ペースで行ってたので実家のような安心感があるからそこだと嬉しい。

「いいよ。土曜日秋葉原行こう」

「やったっ!!楽しみにしてるねっ」

こんな楽しそうな小木ノ城さんを見たのはこの学校で俺だけだろう。

そう思うと何か特別な気分になった。

その後少し話してから家路につくことにした。

一緒に話しながら帰りたかったが小木ノ城さんはお迎えが来てるらしい。

よっ、お嬢様っ。

「じゃあね。理稀くん。土曜日のこと忘れないでねっ」

「忘れるわけないよ。楽しみにしている!」

「うん。バイバイ」

小木ノ城さんはそう言って夕陽が差し込む廊下を嬉しそうに歩いていく。

『小木ノ城さんの事を好きか否か』

後ろ姿を見ながらそんな事を考えてしまった。

俺の周りには変なやつを含めると深い関わりがある女性たちは4人だ。

その中でもし、誰か1人に絞らなければならないとしたら誰を選ぶのか。

俺は……

そんな事を考えていると見覚えのある人が歩いてきた。

「ね、姉さん?」

この感じたと俺に用事があるわけではなさそうだ。

声をかけるかスルーするか。

少し様子を見たがどうも元気がない。

まさか俺が居ないから?

そんな事は無いだろう。だって中学の頃なんてしばらく会わなかったんだし、むしろ前の環境に近く好き勝手に出来るから好都合なのではないだろうか。

その後姉さんは俺の存在に気づいたと思われるが何もアクションなくそのまま去っていった。

なんだろう…この気持ち。

近くに姉さんが居なくて寂しい?俺が居るにも関わらずスルーしたことへの怒り?

上手く表現出来ないがまた一つ心残りな出来事が起きてしまった。


色々考え事していると気づいたら家(502号室)の前に来ていた。

月羽から渡された合い鍵で鍵を開けると月羽がすでに帰宅していた。

「おかえりー!遅かったね?」

「ただいまー。友達と話し込んじゃってね」

帰宅するところが俺の家ではなく同級生の女の子の家とか違和感しかありません。

キッチンにいる月羽は夜ごはんを作っているらしい。

基本自炊している月羽は本当に尊敬に値する。

しかも料理のレパートリーが豊富でどれも上手い。まだこの場所に居候いそうろうしてから被った料理や美味しくない料理がない。

「月羽の旦那は幸せだろうな」

そう言うとキッチンの方から悲鳴が聞こえる。

「月羽どうした?」

キッチンへ向かうと卵を落としてしまったらしい。月羽にしては珍しいミスだ。

「大丈夫か?今拭くもの持ってくる」

リビングからティッシュを箱ごと持っていき2人で拭く。

「も、もぅ変なことい、言わないでよぉ」

「何か変なこと言ったか?」

「言ったよぉー。あたしの旦那って…」

えぇ…俺は褒めたつもりなんだが…女の子の扱いは難しい…

「あぁ。本当にそう思ったんだよ。家事は出るし適度に相手に気遣える。最高だなってね」

すると月羽は顔を赤くして卵の殻を拾っている。

「バ、バカにしてぇ。もぉ…」

えぇ?バカにしてないぞ。褒めているぞ。

女の子の扱いは難しい…(2回目)



そして迎えた土曜日の朝。

緊張して全然寝られなかった…

月羽は朝早くから同じクラスの友達と千葉と東京の境にある某夢の国へ行った。

俺は地元の駅に9時半集合なので8時過ぎに起床し準備を整える。

こういうのは早めに行って待っているものだと何かに書いてあったので少し早めに家を出る。

待ち合わせの駅には約束の時間より15分前に着いた。

すると噴水の前に一際目立つ清楚なお嬢様が待っていた。

白色のワンピースに麦わら帽子。

ベタな格好だが…とても似合っているので

通りすがりの人達が時々チラ見している。

「ごめんね。早く来たつもりだったけど待たせちゃった?」

手を上げてその人の元へ向かった。

俺の存在に気づくとニコッとして小走りでかけてくる。

「ううん。眠れなくて少し早く来ちゃった」

そういうと俺の横に立った。

すると香水と思われるいい匂いがする。

「ささっ。行きましょう。電車あまり乗らないので乗り方教えて欲しいのっ」

そういうと俺のこと右腕を抱きしめるようにくっついてきた。

か、可愛い…

そう言って駅のホームは向かう。

小木ノ城さんに切符の買い方やICカードについて説明した。

するとICカードを1枚買っていた。

まるで子供のようにはしゃいでいる。

俺が小木ノ城さんの切符を買おうとしたらタッチして改札内に入ってしまったので別のところで埋め合わせしよう。

そしてホームへ乗る特急列車を待つ。

都内まで少し距離があることに加えこの時間の上り列車は混むのでで行きは特急を使うことにした。

お嬢様を満員電車に乗せるわけにはいきません。

ホームの売店で飲み物やお菓子を買い込み特急列車に乗り込む。

約1時間弱しか乗らないが、たまにはこういうのも良いだろう。

「なんか悪いね…俺が買うべきなのに」

「ううん。いいのっ。お父さんに今日のことを伝えたらご飯代と飲み物代くれたから使っちゃおっ」

どうやら小木ノ城さんはこのことを両親に伝えたらしい。

まぁただの買い物だし?問題ない。

……よね。

列車は走り出すと窓際に座った彼女は子供のようにテンション上げてはしゃぐ。

「は、早いのね! すごいわ!」

「小木ノ城さんは普段電車乗らないの?」

「そうね。新幹線はたまに乗るけどこういう電車は乗らないわ」

目をキラキラさせながら相変わらず窓の外を見続ける。

なんか子供を始めて電車乗せたらこんな感じなんだろうなとか思った。

「ねねっ。わたしのこと小木ノ城さんって呼び方じゃなくて違った呼び方でお願いっ」

なるほど…

確かによそよそしい気がする。

涼夜も愛依奈も苗字じゃなくて名前で呼んでいるし。

「そしたら何て呼べばいい?」

「任せるわ。かえで、かーちゃん、誰かさんと同じようにジョーカでもいいわ」

えー。どうしよ…

「ちなみにジョーカって呼び方嫌いじゃないわ」

これはそれで呼べってことかな。

「そしたらジョーカって呼ぶよ」

すると待ってましたと言わんばかりにニコッとした。

愛依奈作の呼び方気に入ってるんだな。

そんな感じで色々話しながらお菓子を食べたりしているとあっという間に終点の駅に着いた。

そこから乗り換えるために少し歩いた。

小木…じゃなかったジョーカは相変わらずキョロキョロしている。

「これが朝ラッシュね。確かにすごい人混みだわ」

「いや。これはラッシュじゃないよ。休日だし。本当のラッシュはこれの数倍人が居るらしい」

「まぁ。それは大変ね」

超他人事(笑)

まぁこのお嬢様からしたら電車通勤なんて一生縁がなさそうだ。

そこから環状線に乗り換え数駅で秋葉原に着いた。

休日の昼間だというのに相変わらずの人混みだ…

「とうとう来てしまったのね…この地に」

「やっと着いたな。楽しもうじゃないか」

「そうね。今日買いたい物はこれよ」

するとメモ用紙を見せてきたが買う量が半端ない。

フィギュアに雑誌、その他グッズ、一部家電製品など…

ぱっと見数十万円は使うだろう。

「お、おう。買い物へ向かうか」

「行きましょう!レッツゴー」

そう言って俺の腕に密着してきた。

この体勢緊張するな…『これはただの買い物』と自分に言い聞かせてお店へ向かった。


驚いたことにジョーカはかなりのアニオタだった。

俺が知らない作品や絶対知らないだろうと思った作品も普通に知っていた。

そのため非常に話しが合う。

お昼に入ったファミレスで喋り込んでしまい12時過ぎに入ったが店を出たのが15時を回ったときだった。

再び買い物を再開。

「わたしの買い物ばかりになってるね。理稀くんは何か欲しいものないの?」

欲しいものか…1つあるかな。

「ジョーカの買い物に付き合うの楽しいから気にしないで!けど欲しいものか…1つあるかな。売ってるかわかないけど」

「それって何? もしかして……わたし?」

……はい?

ジョーカのジョーク?

自分で考えてあれだけど初夏なのに寒気が…

それから状況が読み込めなかったが脳内で復唱すると意味がわかってきた。

その瞬間顔がめっちゃ熱くなった…そして言い出しっぺのジョーカも俯いて顔から今にも湯気が立ちそうになっている。

「あ、あぇ…うーんとね…」

ダメだなんて言っていいかわからん。

「な、なんかごめんねー。買い物続けよー」

「そ、そうだな。欲しいのはクジ限定のやつなんだよ。あの店いこうぜ」

お互いの顔を見れない状態でとりあえず通りを進むが相変わらずジョーカは俺の腕にしがみ付いてきている。

たまに当たる胸の感触が……

え?何この状況…

そんな感じで歩くとアニメグッズが豊富に揃うお店に到着。

俺が探しているものは『社畜OL美咲の魔法少女掛け持ち生活』という作品だ。

残業当たり前の黒色な企業で働く美咲がある日飲み会帰りに拾ったステッキが魔法少女への変身アイテムでそれを酔っ払って振ってしまい魔法少女になってしまい仕事と魔物退治を掛け持ちするギャグアニメ。

美咲は20代後半という設定だが魔法少女変身すると見た目小学生になる。しかし性格等は変わらないのでその格好で持って帰った仕事をやったり酒を飲んだり…

けど、キャラ可愛いしギャグアニメが好きなので観てる。

で、この作品に出てくる魔法少女で美咲の先輩(年下)のかなでちゃんがお気に入り。

黄土色のロングヘアーにサイドテールの髪型。程よく肉付きがあり見た目ギャルっぽいのにめっちゃ真面目なところが好き。

奏ー好きだー!!

どこかにこんな感じの人居たような…気のせいか。

ゴホン……まぁこのキャラのA2クリアポスターが欲しい!!

何回かクジにチャレンジしたが惨敗ざんぱい

というわけでジョーカとそのクジがある店に来たのだ。

「これが欲しいのね。わたしに任せてっ」

ジョーカはクジのあるレジへ向かっていった。

「とりあえず5回分お願いします」

そう言ってジョーカは5回クジを引くが俺の目的のクリアポスターが出ない。

「ごめんね。出なかったよ」

なんな申し訳なさそうに手を合わせる。

「気にしないでくれっ。ありがとな」

ジョーカだけにやらせて欲しい本人がやらないわけにいかないので3回クジを引くことにした。

1回目…缶バッジ。2回目…ラバーストラップ…。そして3回目。

お店をハシゴしてトータルで10回近く引いているのに出ない。

最後の1回は願いながら引いた。

恐る恐るクジを開けるとそこにはクリアポスターのB賞という文字が。

キターー!

しかし『B賞 クリアポスター 美咲』

……。

B賞という文字が見えてからのこのガッカリぶりは半端無い。

美咲のこと嫌いじゃないけど……奏ちゃん…

すると気を使ったのかジョーカがこれ欲しかったやつと言って俺の手から奪った。

「これ奪っちゃったからわたしもお礼に奏ちゃんポスタープレゼントしなきゃだね」

するともう一度クジを引きに向かった。

店員さんビックリしてたし気を使ってくれてクジの中身を確認してある事を見てから三択にしてくれた。

3回分買って確実に手に入れるのもありと言ってくれたがジョーカは『当ててみせるっ』と言ってじーっと見ている。

そして一番左のクジを選んで開封すると…

『B賞 クリアポスター 奏』

の文字が。

「理稀くんやっーーたーー」

ジョーカがこちらへ駆けてくる。

「うぉーーありがとうーー」

店員さんとジョーカ、俺の3人でハイタッチをした。

なんか頑張ったで賞として告知ポスターまで頂いてしまった。

ありがとうございます!!

それからジョーカの欲しがっていた家電を見て夜ご飯を食べたりしたら20時を過ぎていた。

「そろそろ帰ろうか。帰りも特急列車使う?」

「ううん。その必要はないわ」

そうか。帰りは普通列車に乗ってみたい的なやつかな?

「帰りはお迎えの車を用意してるから電車は使わないわ。もちろん理稀くんも乗っていって」

へ? 迎えの車ですか…

この荷物を持って地元まで戻るのは正直キツイと思っていたので助かった…

するとジョーカは電話をかけて、5分ぐらい経つと高級車が駅前のロータリーに入ってきた。

まさかと思ったらこの車でした。

荷物を積み込み、車に乗り込む。

シートがフカフカじゃー。

「楓様お待たせいたしました。お連れ様はどちらへお送りすればよろしいでしょうか?」

「理稀くんどこまで乗ってく? わたしの家に来ちゃう?来ちゃう?」

腕を車のシートに乗せて顔を近づけてきた。

ち、近いっす…

「いや。今日は帰宅するよ。また今度お邪魔しようかな」

そう言って地元の駅のロータリーでお願いした。

「えぇ。是非遊びにきてねっ」

車に乗ると次はここ行きたいとか今日の出来事を話した。

忘れていたけどジョーカって教室では無口だけど今日はよく喋る。

車に乗って1時間ちょっとで俺の最寄駅に着いた。

俺が運転手さん?にお礼を言って車から降りるとジョーカも降りてきた。

「理稀くん今日はありがとう。とても楽しかったわ」

「こちらこそありがとう!楽しかったよ」

「あの…理稀くん。ちょっと待って…」

振り返ると俯いたジョーカがそこにいた。

え?これってもしかして…

「理稀くんあのね……わ、わたしと」

マジか。これはあれなのか?あれだよな?

告白というやつ。

ヤバイめっちゃ緊張する。


「わたしとお友達になってくださいっ」


ジョーカが初めての彼女になるのかな。

楽しかったし話し合うし良いだろう……ってあれ?

友達って言われた?

「と、友達?」

すると静かに頷く。

そっか…そう来たか…

「ジョーカ…何言ってるんだ?」

すると驚いた顔で俺の方を見てきた。

「ダ、ダメってこと?」

俺は首を横に振った。

「俺たちとっくに友達だろっ!俺はそう思ってたぞ?」

すると雷雨からの快晴のように一気に表情が変わった。

「うんっ!」

それから連絡先を交換して今日は帰ることにした。

帰宅するとジョーカから『今日はありがとう(^^) またデートしようね♡』とメッセージが入っていたので『今度は俺が面白い場所へ連れて行くよd( ̄  ̄)』と送ってに倒れこむように寝落ちした。

充実して楽しい一日だった…いい夢が見れそうだ。



わたしは小木ノ城楓。朝陽乃学院1年のEクラスです。

皆さんは友達いますよね?

わたしは……小中学校では話せる人はいましたが友達と呼べる人はいませんでした。

そもそも友達とは何なんでしょうか?

気兼ねなく話せて、信用できて、悩みを打ち明けられる人と。

そして一緒にいて楽しいと思える人。

誰かがそのように言っていました。

もし友達の定義がそれなのであれば、わたしに友達なんて出来るわけがないと思っていました。

あまり言いたくないのですがわたしの実家はお金持ちです。

これが不幸だとか幸せだとか考えたことはありませんが、それがわたしとクラスメイトの間に壁を作っていることは明らかでした。

ある日たまたまテレビを点けて好きになったアニメについて話そうと思いましたが、この話題で盛り上がれる人は限られていて、その人たちは少々苦手で気づいたらまた1人に…

徐々に心を閉ざしながら朝陽乃あさひのに入学して何となく3年間を終えよう…そう思っていました。

そう。あの人に出会うまでは…

人には勘というものがあります。

一応わたしにもあるのですがあまり役に立ちませんし、当てにしてなりません。

しかし、わたしの隣の席に神崎理稀という人物が座った瞬間…神栖愛依奈という人物に声をかけられた瞬間…佐屋涼夜という人物と目があった瞬間。

佐屋くんは優しいってわかっているんだけど見た目ちょっと怖いです…

この3人となら仲良くなれるだろうとわたしの勘が働きました。

そして核心をついたのが理稀くんが2人と話していたお姉さんとのテレビ争奪戦そうだつせん

『涼夜ー、聞いてくれよー。昨晩アニメ観ようと思ったらうちのバカ姉さんがチャンネル変えて観れなかったんだよ…酷くね?』

『それは災難だったな…兄弟がいる家庭のあるあるだな』

『へぇー理稀ってアニメ観るんだ…オタクなのね…ウケる』

『バカにするなあよぉ面白いんだからな』

『はいはい。オタヨシキくん』

『痛っ。女の子を叩くなんて酷いぞ。暴力りはんたーい。ささっ、涼夜も』

『痛っっ…なんで涼夜もまで叩くのよ…赤くなったらどうしてくれるわけ』

『いや、ささっ涼夜もって言われたから叩いてくれってことかと(笑)』

『それは一緒に理稀に暴力りはんたーいって言って欲しいってことよ! あたしをドMにするなし』

『そんなことどうでも良いから俺のお悩み相談を…』

『こんな可愛い女の子が叩かれてそんなこととは酷いぞ。モテないぞ。見逃したアニメ観れなくなるぞ…』

『ガーン…それは勘弁…』

この会話に入りたい。3人に混ざってわたしも愛依奈ちゃんを叩きたい…じゃなかった…

3人と仲良くお昼食べたり、楽しくお話ししたい。

そこでわたしは作戦を立てることにしました。

まず理稀くんに見逃したアニメの原作をプレゼントする→理稀くんと仲良くなる→3人と仲良くなり楽しく会話する。

これだっ!

そして土曜日の夕方。

用事を済ませ本屋へ向かったので少し遅くなってしまいましたが買えれば問題ありません。

お店に入りお目当ての本を見つけてレジに並ぶと背後から声をかけられました。

「あれれ? ジョーカちゃんではありませんか」

え?ジョーカ?人違いでは。

そう思い振り向くとそこには愛依奈ちゃんが雑誌を持って手を振っていました。

「こんにちは。神栖さんですよね?」

「おぉ。あたしのこと知ってるんだ!嬉しいな。ねねっ。この後一緒にアイス食べようよー」

おおっ。わたしが誘われた…う、嬉しい…

「はい。是非是非。わたしがお金を出しますので行きましょう!」

そう言って本のお代を払い近くのアイスクリーム屋でアイスを買い2人で食べました。

「いやーダブルを買ってもらっちゃって悪いねー何かお礼をしたいんだけど…」

これはチャンスなのでは?

「あの…1つだけお願いしたい事が…」

「なになに?」

愛依奈ちゃんは興味津々にこっちを見てる。

「神崎くんに渡したい物があるので月曜日の放課後に屋上への階段に来てくれって伝えて欲しいです」

すると愛依奈ちゃんは驚いた後ニヤッとして、頷いている。

……??

「そういうことね。あたしに任せなさいっ!」

「ありがとうございます!」

とりあえずこれでお渡しする事が出来ます。


アイスクリームを食べ終えたわたしは帰宅しました。

ふと自宅のリビングに置いてあった雑誌に目を通すと『仲良くなりたい異性とデートすると親密度UP』なんて記事が。

……これだっ。

部屋で手紙を書くことにしました。

アニメ関係に詳しい理稀くんとアニメの街へ行くと親密度UPに加え欲しいものが手に入る。

わたしからすれば一石二鳥なのです。

『わたしは貴方が気になります。今度デートしてくださいな かえで』

これでよしっ。

あとは放課後にこれを渡せばオッケーです。

少し緊張するけどきっと大丈夫だと信じて…本の中に手紙を入れて寝ることにしました。


それからは順調で無事にお手紙入りの本を渡して次の土曜日にデート(お買物)をして土曜日の夜に至ります。

理稀くんと無事にお友達になれたわたしはどこかテンションが高かったみたいでお父さんやお母さんに『楓が明るいなんて珍しい』と言われました。

むぅ…そんな根暗じゃありません。

今日買ったグッズを部屋に並べて写真を撮ったり飾ったりしているだけで今日の思い出がよみがえってきて自然と頬が緩んでしまいます。

「このポスターの片割れは神崎家にあるのね…」

つい独り言を。

あのB賞のクリアポスターは2枚並べて貼ると手を繋いでいるようになる。

わたしはこれも理稀くんにプレゼントすると言ったのですがこれはジョーカが持っててとわたしのカバンに入れてくれました。

自然と荷物を持ってくれたり、わたしが欲しいものを探していると一緒に探してくれたり店員さんに聞いてくれたり…

彼なら友達以上に…

そんなことを考えてはいけません!

……。

わたしの小さい頃のくせで何かについて考えたり気になると解決するまでとことん追求してしまうのです。

あのクリアポスターを手に入れた時の笑顔とハイタッチの感触が忘れられない…胸のあたりがモヤモヤする。

これは何なんでしょう?

「理稀く……ん…」

そして一つの結論に至りました。



『わたしは愛依奈ちゃん、涼夜くんと友達になる…そして理稀くんをわたし……楓の友達以上の存在にするっ!』






















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