第8話 黄昏の約束

俺の背後からスマホの着信音が鳴る。

今日は休みなんだからゆっくり寝かせてくれ…

あれ。俺の部屋にこんなに抱き心地のいいものなんてあったかな…

そういえば家と違ったとても良い香りがする。

このまま寝ていたい…

ムニュっとした感触が顔に当たる。

鳴り止まぬ着信音。

俺は抱き枕?を思いっきり抱いて寝ていたが

それがもぞもぞ動き始めた。

ってこれ抱き枕じゃない!

思い瞼を開けると目の前にスヤスヤ寝ている下着姿の先生が…

今に至るまでの出来事を整理する。

昨日家を追い出されて…神田先生の家にお世話になって…一緒のベッドで寝て…

んんん?

そういえば今日って旅行の出発日だよな。

スマホの時計を見ると8時45分。

集合は学校最寄駅に8時30分だった気が。

……。

1つわかったことがある。


寝坊しました!!!


「メ、メグちゃん起きてー。や、やばいよ」

しまった…ついメグちゃんと呼んでしまった。

「ん。おはよ。ダーリン…」

目をこすりもぞもぞしている。

好きだっ…いや、なんでもないです…

って誰かダーリンじゃ! べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ!

今の俺絶対顔赤いわ…

そんなことより…

「先生寝坊です。寝坊! 待ち合わせ時間を15分過ぎてます!」

「ほぇっ!?」

寝坊という言葉を聞いた瞬間飛び起きた。

「さっきメグちゃんって呼んだでしょ? それはダメよ? 恵海と呼びなさい♡」

今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。

俺が慌てて着替えている時にメグちゃ…恵海が誰かに電話している。

恐らく旅行メンバーのうちの誰かだろう。

恵海って呼んで良いのかなぁ?

遅延の言い訳は恵海が寝坊して合流予定の俺も遅れているってことにしているらしい。

恵海ありがとう…

今回はジョーカが手配した車で行くことになっているので俺、恵海は車で直接軽井沢へ向かうことにした。

結局車に乗って出発した時刻は9時を回ってしまったので大幅遅れです。

所要時間は3時間ちょっとらしい。

こうして俺と恵海はみんなとは別に軽井沢へ向かうことになった。

「わたし、勢いで直接向かうわなんて言っちゃったけど車で県外へ出たことないの…」

車に乗り込んでから15分ぐらい走った時に恵海からの衝撃発言。

えぇ…心配だ。

「と、とりあえず俺が全力でサポートするので頑張ってください。無理そうでしたら近くの駅から電車で向かいましょう」

「わかったわ。頼りにしてるわダーリン♡」

「なんでダーリンなんですか…」

そう呼ばれると鼓動が早くなるからやめて欲しい…

「だってーわたしの家に始めて泊まった男の人だからねっ。つまり、わたしの始めてをあげたのよ」

い、意味わかりません…ど、動揺なんてし、してましぇん。

……。

「ふふっ…こんな感じでからかわれるのどう? 嬉しい?」

「嬉しいわけないじゃないですか。やめてくださいよー。先生のからかいキツイです」

「先生じゃなくて…恵海だってばー」

そう言うと少し頬を膨らませた。

可愛いぞーめぐみー。

そして冷静になれ自分…。

「ちなみにみんなと合流してからもそう呼んだ方が良いですか?」

多分2、3人から恵海が敵認定されるだろうけど。

「恵海って呼んで良いのは2人でいる時にだけよっ?だからみんなにはナイショ♡」

信号待ちで止まっているので俺の唇に人差し指を当ててきた。

好きだーーー!!

早くこの車から降りないと俺の理性が崩壊する…

車は高速道路へ入り次第に交通量と分岐、合流が増えてきた。

俺はスマホのマップとにらめっこして必死に案内している。

父がドライブ好きなので道案内には慣れているが都心は複雑なので緊張する…

昔間違って高速を降りてしまったことや目的地と逆方向に向かってしまったこともあったなぁ。

ちなみに恵海の車にあるナビが5年以上前のもので当てにならない。

高速道路に入る前、道が新しくなっていたところをナビ通り行ったら行き止まりになり、恵海が涙目で「このぉ。ポンコツゥ…行き止まりに案内してどうするのよっ」と言いながら必死にUターンをしていた。

溝に落ちそうになったときはマジで焦った。

そこから俺がスマホを使って道案内をすることにしたが、1箇所間違えるたびに飲み物一本奢るという、わけわからん条件を出された。

必死にナビをしたのと恵海の運転技術によって首都高速を抜けて無事都心から脱出。

今のところノーミス。

SAに寄りたかったが運転手が混んでいる場所は好きじゃないらしくかたくなに入ろうとしなかった。

SAが近づくと「前の車遅いわねぇ。抜かすわ」と右レーンに車線変更した。

その後「あらまぁ…ここからじゃ入れないわね」なとどわざとらしく残念がっていた。

そして、やっと空いているPAを発見して休憩。

だいぶ走った気がするがまだ埼玉県でした…

「飲み物奢るから食べ物奢ってよ?」

自販機で飲み物を選んでいると隣にいる恵海が聞いていた。

「泊めてくれたお礼したいのでいいですよ。寧ろご飯代も出しますよ。何にします?」

普段だったら断るけど宿代が浮いたと思えばとても安い。

「ふふっ…冗談よ。その男気が気に入ったから両方ともわたしが出すわ。好きなもの選びなさいっ」

えぇ…この前のミルクティーの件があるから割とケチなイメージがあるし怖いんだけど。本当に良いのだろうか?

「早くしなさいよー。そうしないとブラックコーヒーにするわよ?」

それだけは勘弁。

「えーっと…この桃のジュースでお願いしま……えぇ?」

俺が言い終える前に恵海がブラックコーヒーのボタンを押してガコンとが落ちてきた。

「優柔不断な君にはこれをプレゼント」

「えぇ…飲めないんですけど…」

とは言ったものの買ってもらったものを粗末にするわけにはいかない。

缶コーヒーの蓋を開けて口をつける。

苦っ…やっぱり今の俺にはブラックは無理だった。

「どう? 美味しいでしょ?」

「コーヒーの良い香りするんですけど苦味がキツイです」

その後2、3口飲んでみたがギブアップ…(><)

「仕方ないわねー飲んであげるわ。代わりに欲しかった桃ジュースあげる」

そう言っていつのまにか買っていた俺が飲みたかった桃のジュースをもらった。

一口飲んだ瞬間口いっぱいに桃の甘さが広がる。

あまーい( ´∀`)

「それわたしの飲みかけだから。そしてこのコーヒーも理稀の飲みかけっ。交換だねー。間接キスだねー♡」

ブハッ…

危うく吹き出すところだった。

今日の恵海いや、神田先生おかしいぞ?

わかった!これは夢だ。そうに決まってる。

「あのせん…じゃなかった恵海、俺の頬をつねって欲しいです」

一瞬キョトンとしたが状況を理解したらしくニコッとした。

そして俺の頬を思いっきり引っ張ってきた。

「痛たたた……シュ、シュトプゥ」

「このこのー、痛いかー? ごめんなさいは?」

えぇ…なんで謝らなくちゃならんの?

「シュ、シュミマシェンデシタァ」

やっと解放された。

「もう!夢な訳ないでしょ? 失礼よ?」

あっ、気づいてましたか…

「神崎くん…いや、理稀くんともっと仲良くなりたいの」

なんでだろうか?

「こんな事言ったら怒られちゃうかもだけど…昔好きだった人に似てるの。見た目がね。性格はもっと荒々しい人だったんだけど…わたしを助けてくれた恩人にね」

まぁ。気持ちはわかる。

好きだった人との共通点や似ている箇所を見つけるとその人と照らし合わせて好きになってしまうこともある。

俺にもがいてあの人がその人にとても似ている。

元気にやってるかなー。

機会があればまたお話したい。

「さっ。そろそろ行くわよ。3年前の事を思い出している暇はないわ。これ以上遅れたら何言われるか…」

3年前。

夕暮れというか黄昏時という方が合っているだろう。

駅から少し離れた公園で女子大生と思われるお姉さんの自転車チェーンを直してあげたことがあった。

中学の頃無駄に自転車を乗り回していたからチェーンが外れるの日常茶飯事だったし直すのなんて朝飯前だったんだけど…あのお姉さんにすごく感謝されたっけ。

『本当にありがとうね。次会った時お礼する。約束!じゃ、バイバイ!』

あの頃の俺は少しひねくれていた。

次会うことなんてないだろうし、それっぽい言い訳をして逃げるように去っていったと思っていた。

今思えば何かしらの理由で急いでいたと思えるし、あのお姉さんを信用する。

クソッ、あの頃の自分が許せない。

いつかあの人に会う機会があったら色々お話ししたいなぁ…なんてね。

あんな美人滅多にいないし割とタイプだった。

そんな事を考えているとあっという間に群馬県を超えて長野県に入っていて、高速道路を下りていた。

「ちょっ、理稀ー。ガソリンのランプ点いちゃった!! スタンド調べてー」

「えっ、マジ?えーっと…一番近くて約10㎞先みたいです」

唖然とする恵海。

「どうにかならない?」と言われたがどうにもなりません!

「10㎞ぐらいだったら走るんじゃないですか? 運転の操作次第だと思いますけど?」

「わかったわ。超低燃費な運転をするわ」

とは言ってたものの、相変わらず体が背もたれに押し付けられるようなベタ踏み加速をしていたのでどこが変わったかさっぱりわからなかった。

途中気になったので聞いてみると「気持ちを低燃費にしたわ。そうすれば大丈夫だと思うの」などと意味不明な発言をしてました。

そこから何とかスタンドまでたどり着き無事給油することができた。

「よかったー。理稀のおかげよっ♡ ありがとう!」

俺何もやってませんよ?

「ねぇ…このまま2人で違うところ行っちゃいたいなぁ……なーんてね」

顔は冗談を言っているようには見えなかった。

「わ、悪くはないですね…けど後々面倒なことになりますよ?」

「ふふっ、そうね。大人しく向かいますか」

姉さんとか特に危ない。

目的地まで残り2㎞ちょっとになった場所に景色のいい展望台があったのでそこで恵海とのツーショットを撮って指定された別荘に到着した。

そこでは先着組がバーベキューをしていた。

これにて恵海とのデート?は終わり、これからは教師と生徒の関係に戻る。

……のか?




どうもー。愛依奈だよっ♡

……だなんて呑気のんきな事を言ってる場合じゃないのよ!!

時は旅行出発日の朝にさかのぼります。

待ち合わせ場所に到着すると何やら騒がしい。

「おはー。ねねっどうしたん??」

「おはよ。それがさぁ…」

近くにいた涼夜に聞いてみると理稀とメグちゃんの2人と連絡が取れないらしい。

その後亜梨栖さんが理稀を追い出した事が発覚。

月羽ちゃんがブチギレ寸前みたい。

「あの!…オシャレのために弟を追い出すなんて姉失格だと思います!」

「し、しょうがないじゃない。普段とは違うオシャレした亜梨栖ちゃんをお披露目したかったのよっ。普段とのギャップで一気に落とす…同じ女なんだからわかるでしょ?」

「……けど。そのために追い出すとかあり得ません!最低です。」

こんな感じでバトルが繰り広げられている。

今回は月羽ちゃんが正しいかな。

けど、今日の亜梨栖さん…めっちゃ可愛い!

アイボリーカラーのタートルネックニットとデニムのフレアスカートに、マットな黒のサッシュベルトを合わせており、とてもメリハリが効いていて良い。

そして髪型も変えていてこれは普段とのギャップがあるから魅了されるかもね。

「過ぎてしまったことは仕方ないじゃない! てっきり貴女のところに行ったのと思っていたわ」

「き、来てませ……んよ?」

お、動揺してる。

「それ本当? 理稀が出て行った後、隣からインターホンのチャイム聞こえましたけど?」

今まで優勢だった月羽ちゃんが少し焦り始めた。

その微妙な違いを見抜いた亜梨栖さんは流石だと思います。

「実は…貴女も理稀を無視してたんじゃないの? うちのマンションに付いてるインターホンって録画機能あるのよねぇ? 見てみようかしらねっ?」

「ト、トイレに行ってたのよ…出たくても出れなかったのよっ!」

その答えも想定済みなのか亜梨栖さんはニヤリとした。

「そしたらー、理稀のことが大好きな貴女はもちろん連絡したわよねぇ?」

うっ…と言わんばかりに俯く月羽ちゃん。

それと同時に高級車が駅前ロータリーに到着した。

「か、楓ちゃん到着みたいね」

月羽ちゃんは必死に話をそらす。

中から純白のドレスのようなワンピースを纏ったジョーカが降りてきた。

か、か、可愛い!!!

はぁ…あたし女の子だけどギューってしたい抱きしめたい!!

「おはようございます! お待たせしました。みんな集まった?」

「おはー。あー…えっと、理稀とメグちゃんの2人と連絡が取れんのよ」

そう伝えるとジョーカの瞳から輝きが消えた。

「えっ…今日来ないの…?」

目の輝きを失ったジョーカ…いや、楓さん怖い…

するとあたしのスマホに着信があった。

画面を見ると『恵海』の文字が。

『もしもーし。メグちゃん心配したよー』

あたしはわざと大きな声で通話した。

『愛依奈ちゃん。ごめーーん…今起きたところなの…悪いけど先に向かっててくれる?』

『あぁ…寝坊ね。了解! 伝えておくよ』

『そういえば理稀来ないのよねぇ』

『彼ならわたしと合流予定だから心配しないで! 乗せて直接向かうから』

『あーね。了解了解!』

『ってことでシクヨローじゃあねー』

通話終了。

理稀の無事が確認されたことで一件落着っ。

……。

とはならなかった…

この前理稀がメグちゃんに向かって『可愛い』発言してたのが原因。

あの2人かイチャついて向かってくるのではないか?

なーんて亜梨栖さんが心配してたけどメグちゃんは彼のこと興味なさそうだし、その点は大丈夫だと言っておいた。

大丈夫だよねぇ?

なんでだろ…なんか心配になってきた…


その後車に乗り込むと流石高級車って感じで揺れないし静かだしとりあえず最高です( ^ω^ )

助手席に涼夜が座って、その後ろにあたしとジョーカ、その後ろに亜梨栖さんと月羽ちゃん。

涼夜は運転手さんと車について語っている。

車種だとかトルク?だとかめっちゃ盛り上がっている。

後ろでは再びバトルが勃発。

「あーもう。心配だわ…貴女が泊めてあげないから」

「だ、か、らぁ…追い出したお姉さんが元凶でしょ!」

よく聞くと亜梨栖さんは月羽ちゃん邸に泊まってもオッケーってことだよね。

意外と信頼してる?

「オシャレのためだって! 部屋に閉じ込めておくわけにいかないでしょ。サプライズしたいのっ」

「これだから…イケイケな女子は…」

月羽ちゃんは「フッ」と言わんばかりに呆れている。

「そーいう貴女も普段なーんにもしてなさそうなのに今日は…じっ、みっ、にっ、化粧しちゃって…地味なのに…ププッ」

「『地味』を強調するなーーー!」

この争いが収まる兆しがない…

『喧嘩するほど仲がいい』

なんて言葉があるけどその言葉が本当ならこの2人の場合、仲良しを通り越して親友…いや、婚約してそうだわ。

喧嘩の盗み聞きも飽きたので外を眺めていると少し海が見えた。

あー海行きたいなぁ。

なーんて考えながら反対側を見るとジョーカの落ち着きがない。

とりあえず可愛いのでこっそり近づいて耳に息をかけてみた。

「ひゃん!」

ジョーカは手を自分の頬に当てて背筋がピンと張った。

か、可愛い…お持ち帰りしたいわぁ。

やばっ…あたし変態みたいじゃん…

ん?変態だって? やかましいわ!!

「愛依奈ちゃん…に、にゃにするのぉ」

「だってー可愛いんだもん。暇なんだもん。構って欲しいんだもん」

するとジョーカはむぅと頬を膨らませてあたしの太ももをツンツンしてきた。

ちなみにあたしはショートパンツを履いているので太ももが露出した状態。

「キャッ…くすぐったいなぁ。悪い子にはお仕置きだぞぉ」

そういってジョーカの横腹をプニプニした。

「やん♡ そこはダメェ♡」

走行音と会話で前後には聞こえていなかったらしい。よかった…

てか…なにそのセリフ。

エ、エロい(//∇//)

なんかコーフンしてきたーぁ。

今のあたし絶対にやけているって。

よし決めた。今夜はジョーカと寝るんだっ!

イチャつくんだっ! ラブラブになるんだっ!

一応言っておくけど…あたし女の子しか愛せない訳じゃないからね?

普通に男の子の事好きだよ? 今は魅力的な人いないけど。

車は都内を抜けて埼玉県へ入った。

涼夜と運転手さんは相変わらず話をしていて、あたしとジョーカはイチャイチャしたり、お話ししたりしていた。

そしてあたし達の後ろの方々はいつのまにか寝落ちしていた。しかも2人は肩を寄せ合ってスヤスヤ寝ている。

亜梨栖さんがお姉さんで月羽ちゃんが妹みたいね。

無音カメラで1枚写真を撮ると高速道路を降りたのでそろそろ到着だと思うんだけど、あたしも眠くなってきたのでわざとジョーカの肩に寄りかかって寝ると左腕であたしの頭を撫でてくれた。

はぁ…あたしの嫁にしたい!!

この時間がずっと続けっ。

そこから結構走ったらしいが寝ていたので一瞬で目的地に到着していた。

「愛依奈ちゃん着いたよっ」

「え? あっ、了解ー」

車から降りて背伸びをするとスッキリした。

あっ、これが空気が美味しいというやつか。

なんか高原って感じだわ。

周りはよくわからない木々に覆われいて、その真ん中に白い大きな建物があった。

これが別荘かぁ…

外にはバーベキューセットと食材が準備されていた。

こういうのって普通自分達で準備するんじゃないの?

さ、流石お嬢様…

とりあえず建物の中に荷物を置くことにしたので入ると玄関の奥に暖炉付きのリビングがあり左側に客室と思われる部屋があった。

部屋割りは2人が到着してから決めるらしい。

ちなみに2.2.3人に分けるらしく、涼夜と理稀の2人が固定ではなく全員でくじを引くらしい。そして、明日の夜にまたシャッフルするみたい。

そのことを知った喧嘩していた2人が一緒になって何やらお祈りらしきことをしている。

別荘を見学したり色々準備していると1時間ぐらい経って時刻は午後1時前。

一台の車が入ってきた。

理稀、メグちゃんの御到着。

ようやく全員集合して、バーベキューを始めた。



……。

俺は部屋割りを見て絶句した。

A室…ジョーカ、愛依奈

B室…俺(理稀)、恵海…いや、神田先生?

C室…残り3名…言わずともわかるよね?

これは一波乱ありそうだ。

てか、涼夜が可哀想過ぎる…

A室は平和そうでいいなぁ。

B室も平和だろうけど、になっていたら危険だ。

部屋割りが決まると各部屋に向かっていった。

部屋はビジネスホテルのツインルームぐらいの大きさで入って左側にテレビが置いてありその奥に化粧台があった。右側にベットが1つあって、奥がベランダに通じるドアがある。

……あれ?

1つっておかしくね?

部屋番号を二度見するも合っている。

恵海が来てからだとチェンジは不可能に近いだろうから来る前にジョーカに伝えねば。

そう思い出入り口の取っ手を握ろうとするとドアが開いた。

「理稀ー。同じ部屋になったねー。運命よ。 ささっ、鍵を閉めて2人っきりでゆっくりしましょう」

「えぇ…あっ、そうですね」

恵海は俺の肩を持ってくるりと向きを変えた。

「あれ?」

恵海はこの部屋の異変に気付いたらしい。

「ちょっと! ベットが1つしかないじゃない!」

おっ、これはオコですか? 変えましょう!

そう提案しようとしたが…

「これは嬉しい誤算ね…翌朝までイチャイチャ出来るわぁ…グヘヘ…」

え? グヘヘって言わなかった?

「今日は運転でお疲れでしょうし、もう1つベットを用意してもらいましょう! 連絡しま……!!?」

最後まで言い切る前に口を手で押さえられた。

「わたしは疲れているけど疲れていないの。わかる? もしもう1つのベッドを用意させたら…君の成績通知表が荒れるわよぉ…」

なんか矛盾してるし、職権濫用しょっけんらんようだーー!

「わかりました。このままにしましょう…」

2日連続で恵海と寝ることになるとは。

姉さんが御乱心になりそうだ。

そう思っていると部屋がノックされた。

「ちょっとー。理稀出てきなさいよ。お姉ちゃんの部屋に来てよー。あの部屋は嫌なのー」

ヤバっ…この部屋を見た姉さんは…

予想① 俺を強制的に連れ出して恵海とバトル

予想② この部屋に居座って恵海とバトル

予想③ ヤンデレ化する

どれも非常に面倒だしマズイ…

残された手段は……

「理稀出てきなさいよー。フッフッフッ…こっちにはマスターキーなるものがあるのデース。ガチャリ…空きましたぁ。ヨシ…あれ?」

部屋の中には誰もいなかった。

俺は恵海の腕を引っ張りながら2人で芝生の上を走っていた。

「このまま夜逃げするのかしら? キャーわたしをどこへ連れて行くのー♡」

「ちょっとそこまで」

「そんなこと言わないでこのまま大阪や九州まで行ってしまいましょう」

裸足で行けないし、荷物置きっぱなしっす。

俺たちは丘の上にある大きな木の下にやってきた。

そこは見晴らしが良くて、遠くの方に町が見えて反対側には別荘が見える。

「はぁ…運動不足ね。疲れたわ…抱っこして♡」

「嫌ですよー」

「もう。わたしを無理やり連れ出したくせにっ♡ あ、日没だね。雲ひとつなくて綺麗ね」

西の空は茜色に染まって赤く、東の方へ行くにつれて徐々に藍色になっている。

見事なコントラストだ。

俺と恵海は芝生に座り込み空を眺める。

「これが黄昏時ですか…なんか不思議な感じがしますね」

俺が空を見ながら言うと恵海は手を握ってきた。

「この時を『逢魔おうまとき』とも言うのよ。これって『魔に逢う時』っ書くの。『魔物や妖怪などに遭遇する怪しい時刻』らしいわ」

もしかしてそういうの信じてて怖いから手を握ってきたのだろうか。

「昔、うす暗くなった時に大きな災禍さいかに出くわすと信じられたみたい。だから薄暗く周囲が見えづらい時間であることを意識しよう、注意しようという呼びかけでもあるという説らしいわ」

なるほど…さすが教員って感じだわ。

「けどね。わたしはこの時間って災禍だけじゃなくていい出会いもあると思っているの」

「確かにそうですね。昔こんな空の下でいい出会いありました」

「むぅ。聞き捨てならないわね。その人は誰? 好きな人? 彼女?」

「違いますよー」

「なら良いけど…ねねっ。わたし達はこの時を魔に逢う時じゃなくて好きな人に逢えた時にしない?」

恵海は首をちょこんと傾げてこっちを見た。

「それって告白ですか?」

「それはどうかなぁ。ねねっ約束しようよ」

焦った…ここで告られたらどうしようかと思ったよ。

「何をです?」

「次に今日と同じ状況…つまり、黄昏時に2人っきりになったら、お互いの気持ちを伝え合うの。それは好きでも嫌いでも良いわ」

「わかりました。約束します」

そう伝えると恵海はニコッとした。

「フフッ…ありがとう。黄昏の約束ね」

こうして2人は約束した。

黄昏の約束か。なんか良いネーミングだな。

「ちなみに…今のままだと理稀はわたしにフラれるわよ?」

「えぇ…そうなんですか! お、俺も今のままの恵海だとフると思います」

恵海は少し驚いた顔をした。

「またまたー、強がっちゃってっ。可愛い♡」

「そんなことありません。ほ、本音です」

はい。少し強がりました…

お互いニコッと笑い、握っていた手を離す。

「ささっ、戻りましょう。みんなが心配しそうですし」

「そうね。戻ろっ」

こうして2人並んで別荘に戻ったのだった。


その後姉さん、月羽から質問責めにあったり、晩飯の料理担当にされたり…

色々あったが楽しかった。

ちなみに晩飯はまさかのカレー。

食材がそれ用のものが準備されたいた。

恵海が「またカレー? 昨日つまみ食いしちゃったけどあっちの方が美味しいわね」と割とデンジャーな発言をしたが幸い誰も気づかなかった。

その後食器を片付けていると恵海が寄ってきて「恵海ちゃんのために作ってくれたカレーの方が愛情を感じて美味しかったわ」と耳元で囁かれた。

こっちの方が高級な食材使ってるんだけどなぁ…本当に隠し味は愛情とかあるのかね。

晩飯を食べ終えるとリビングで雑談したりボードゲームをやったり、月羽と姉さんの喧嘩を眺めて…その後止めたりなど…

疲れのせいか時間が経つにつれて次々と寝落ちしていく。

姉さん→月羽→恵海→愛依奈の順番。

俺と涼夜、ジョーカは普通に起きているのでお菓子を摘みながらテレビを見ている。

気づいたら涼夜もテーブルに伏せて寝ていた。

俺とジョーカは顔を見合わせて笑った。

「そろそろ寝ようか」

「そうだね。けど、みんなを各部屋に運ばないとだね」

そういうとジョーカは立ち上がった。

「え? 放置でいいんじゃね(笑)」

「もぅ。ヒドイよぉ。そしたら…わ、わたしと一緒に…」

ジョーカが何か言いかけた時に涼夜が起き出した。

「悪い。寝落ちしていたみたいだ」

ジョーカは少し頬をプクっと膨らませてからどこかに行ってしまった。

どうした?

少しするとどっかから担架を持ってきた。

「これでみんなを各部屋に運んでね」

病人か(笑)

けど、抱きかかえて運ぶの辛いし、流石に女性の足と腕を持って運ぶわけにはいかないしナイス判断かもしれないな。

俺と涼夜の2人で寝落ちした4人を運んだ。

愛依奈は目を覚ましてジョーカを無理矢理誘ってお風呂へと向かったので運搬は3人で済んだ。

タンカーを持ちながら俺の部屋に入った涼夜が「ベッド1つしかなくね!?」と気づいてしまったが、俺が床に布団を敷いて寝ると嘘をついておいた。

流石に「このベッドで2人一緒に寝るんだ♪」なんて言えない…

全員を運び終えた後にリビングで涼夜と少し話してから各部屋に戻った。

寝息をたてて寝ている恵海可愛い。

俺はジャージに着替えてベットに入った。

「今日はお疲れさまでした」

そう小声で伝えて瞼を閉じた。

「フフッ。ありがとう…」

……?

寝言? 幻聴? 俺疲れているんだな…早く寝よ。

……。

……パクっ。

右側の耳たぶ食われた!?

右の方を向くとニヒヒと笑う恵海の姿が。

「寝てませんでした。感謝してくれてありがとねっ」

うわー。めっちゃ恥ずかしい…

「感謝している気持ちあるならこの服を脱がせて欲しいなっ♡」

「わけわかりません…」

「良いから。良いから。はいここのボタンを外して…」

カーテンの隙間から入り込む月明かりでぼんやり照らされる恵海が…神秘的というか、美しいというか…うまく言葉で表現できない。

月明かりが暗闇を照らしその光が恵海の体を照らす。

まるでドレスのように…

などと考えていると腕を掴まれた。

「ねぇ…暑いしこの格好だと寝られないから早く早くー」

言われた通りにしないと寝かせてもらえなそうなのでボタンを外して上着とスカートを脱がす。

こ、これって…次ある感じ?

「ありがとう。じゃ、おやすみ」

……。

「お、おやすみ…」

その後恵海は俺と反対側を向いて寝てしまった。

その後なんてあるわけないよね。

あはは……

ま、ゆっくり寝られるからいいか…

静かな部屋の外から足跡が聞こえた気がしたが瞼が自然と落ちてしまった。

こうして旅行一日目が終了した。















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