第6話 4-K教室の集い
入学してからまだ間もないのに理事長室に呼ばれている問題児…神崎理稀です。
冗談は置いておいて…
神田先生からここで待っててと言われたのでジョーカこと小木ノ城楓と2人で理事長室前に立っております。
何もやらかしてないからね?
その間に俺の袖をちょくちょく引っ張るジョーカが最高に可愛い。
ジョーカの方を見るとハッとして手を引いた。
天使がここにいるよ。
それから5分ぐらい経つとドアが開いた。
俺とジョーカは顔を見合わせて頷いてから理事長室に入った。
「「失礼します」」
すると理事長が電話を終えたらしく、ソファーに案内されたのでそこに座る。
てか、この扉自動ドアなのね。
今とても緊張しています…
すると向かいのソファーに理事長が座った。
「君が神崎理稀くんだね。私はこの学校で理事長をしている
旭理事長が手を差し出してきたので慌てて握手する。
「楓から神崎くんの話を聞いたのだが、友人同士で集まれる教室が欲しいんだったね?」
……?
理事長、今ジョーカの事を楓と言った気が…
はて?どのような関係でしょう?
すると、俺の疑問を感じ取ったらしい。
「あぁ。君の隣にいる楓は私の孫だよ。変な誤解はしないでくれよ?ハハハッ」
ハハハッ…。
そう来ましたか。
「誰かと関わる事を拒んでいた楓がこの前友人と出かけるからと言ってニコニコしていたのが嬉しくてね。その友人にお礼をしたかったのだよ。その友人が神崎くんのような良い人でよかった。空き教室なら別棟にいくつかあるから好きに使ってくれ」
な、なんか知らぬ間にジョーカに取ってメリットのある存在なれたようだ。
そして俺の家が溜まり場になることは防げたな(笑)
「ありがとうございます」
「おじいちゃん…ありがとう」
出されたコーヒーを飲んだらブラックだったので超苦かった…
「さっそく今日から使えるようにするが、別棟の教室はセキュリティ設備があるから入室する
そんな場所をお借りしても良いのだろうか?
セキュリティがあるってことはそういう事だろうし。
「俺たちの他に神栖愛依奈、佐屋涼夜の2人が使わせてもらう予定です」
旭理事長は頷くと席を立ち内線で電話を始めた。
その後少し雑談をすると部屋をノックする音が聞こえた。
扉が開くと愛依奈と涼夜、神田先生が入ってきた。
状況を理解出来てない2人の姿が面白い。
「授業中呼び出して悪かったね。楓と理稀君から話を聞いてね。集まれる部屋を用意したんだよ」
「へ? あ、ありがとうございます。あの…何かやらかしたから呼び出しって訳ではないですよね?」
恐る恐る尋ねる愛依奈と首を縦に振って頷く涼夜。
「そんな訳ないだろう。君たち3人と神田先生には感謝している。これからも困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」
「理事長…わ、わたしは何もしてません。ただの担任ですから」
「そういうと思って1つだけお願いしたいことがある……この4人の集い?になるのかな。それの責任者になって欲しいのだよ」
「楓と神田先生、理稀君、神栖さん、佐屋君この5人が集まると色々変わるのではないかと思うのだ」
俺は1つの違和感を覚えた。
恐らく他の人達も気づいただろう。
孫のジョーカはともかく、俺だけ名前呼びなんですけど。
「高校生は一生に一度だけ。好きに使って悔いのない学校生活を送って欲しい。それと別棟に入るカードキーだ。受け取ってくれ」
その言葉に全員が頷き、カードキーを受け取った。
その後5時間目の終了まで居座らせてもらい教室に戻ることになった。
理事長室を出るとき肩を叩かれた。
「理稀君…楓のことを頼む。あの子は君に出会ってから昔のように明るくなってきた。言葉不足だと思うが楓の事をよろしく頼む」
旭理事長の方を向くととても優しい表情で理事長というよりは1人の孫思いの祖父という感じだった。
「はい。任せてください」
そう伝えて理事長室を後にした。
ジョーカの事をよろしくと言われたが俺に出来ることはあるのだろうか…
そんな事を考えながら教室へ向かった。
今日は5時間授業なので本日の学校はこれにて終了。
一度教室に戻りバックを持って指定された別棟の教室へ向かう。
渡り廊下の先にカードリーダーがあった。
始めてきたけど本当にセキュリティ機能があった。
神田先生は後から向かうとのことだったので4人で先に指定された4-K教室に向かった。
教室のドアを開けると信じられない光景が広がっていた。
広さは準備室程度の大きさだが、その中に冷蔵庫、クーラー、空気清浄機、ソファー3人がけ×2つとテーブル。荷物置きの棚があった。
奥には水道にガスコンロ。
何故か電子レンジまである…
これ生活出来るわ。
この状況を見た発案者のテンションは御察しの通り爆上がりだった。
「ねねねー。これすごくない! 生活出来るよ? テンション上がるわー」
そう言って愛依奈はソファーにダイブする。
「フカフカー。おやすみー」
一方涼夜は一通り備え付けの家電類を見て回ってこちらに戻ってきた。
「おいおい。理稀この空気清浄機…最新モデルだぞ。買ったら数十万するやつだ…これ使って良いんだよな?」
疑問形で話しかけてきた割には空気清浄機のタッチパネルを操作している。
その姿はとても楽しそうだった。
俺はとりあえずソファーに座ることにした。
理事長室の物よりは少し劣るがフカフカしてる。
するとジョーカが隣にちょこんと座ってきた。
「みんな喜んでくれたかなぁ?」
俺だけに聞こえる声量で聞いてきた。
「当たり前だろ。本当に感謝してる」
すると頬を染めてニコッとした。
「2人共ー。何話してるん?」
愛依奈が向かいのソファーからニヤニヤしながら聞いてきた。
「な、な、何でもないよっ!」
ジョーカは何かありそうな態度で返答する。
「まぁ、深いことは聞かないことにするよ」
そういうと立ち上がってウロウロし始めた。
ふと、この教室をどのように使っていくのかを考える。
学校なのでゲーム類を始めるのはマズイだろう。しかし、雑談するにも限度がある。
うーん…どうしたものか…
「理稀悩み事か?」
腕を組み考えていると涼夜が隣に座ってきた。
ジョーカと愛依奈は買い出しとか言って自販機に飲み物を買いに行った。
「いや。この教室をどう有効活用するかを考えていたんだ。ただ娯楽のために使うのはどうかと思うし、誰か入ってきた時説明出来なくなる…」
「でも理事長が好きに使ってくれて構わないと言ってたからいいんじゃないか?」
確かにそう言っていた。しかし、本当にそれで良いのだろうか?
そんな不安を打ち砕く出来事が起きた。
教室のドアが開くと神田先生が入ってきた。
両手に紙袋をいくつも持っておりバーゲン帰りの主婦って感じ。
「いやー荷物まとめるのに時間かかっちゃった。ここわたし…
そういうとドスンと紙袋を床に置き色々なものを取り出した。
「え? なにそれ?」
思わずタメ口になってしまった。
「ん? わたしの好きな雑誌や漫画よ。後はお昼寝用の枕でしょ…ティーカップ。お皿に…」
……。
俺と涼夜は顔を見合わせて
「ねねっ。2人も手伝ってよー。男の子なんだから女の子を助けるっ。はい! これ持って」
俺と涼夜は渋々手伝うことにした。
しかし、どっから出てきたのかってぐらい大量に物がある。
中には明らかにゴミと思われるものもチラホラ…
捨てようとしたら「ダメよ。それは貴重な…えーっと……何かだから!」とのこと。
この人の部屋絶対散らってるわ。
そんな感じで神田先生の荷物整理を終えるとほぼ同時に買い出し組が帰ってきた。
「飲み物10本は重いわ…あー。メグちゃんさっき逃げたっしょー」
「いいじゃない。この飲み物わたしの奢りなんだし」
袋の中を見るとお茶や炭酸飲料、お水まで色々なものが入っている。
その中にプレミアムミルクティなる物があった。
自販機で350ml 210円という学生からしたら少し購入する事を
少し前に姉さんから一口貰ったがあの味を思い出すとまた飲みたくなる。
それを取ろうとすると横から手が伸びてきて取られた。
「これはわたしの物よ。高校生の君たちにはまだはやーい」
「あー。1人だけお高い飲み物取ったな。メグちゃんズルいぞ」
「そうだ。俺もそれ飲みたかったー」
愛依奈も狙ってたらしく俺と2人で抗議を始める。
「はいはい。タダで飲み物飲めるんだから文句言わない」
そう言って俺にお茶。愛依奈には水を渡した。
「ちょっ、メグちゃん。なんで水なんだよー!」
「愛依奈ちゃんにはお水が似合うと思ったんだけどなー。わたし的に120円するお水もなかなか高級だと思うよ?」
すると、愛依奈は納得したのか黙ってペットボトルのキャップを開けて飲んだ。
ちょろいな…
こんな感じで今日は神田先生の私物を整理して解散した。
翌日の放課後。
4-K教室に来た4人はある事に悩んでいた。
「ヤバイ…まだ先だと思っていたのに割と迫ってきてる。愛依奈ちゃん…ピンチ!」
「ジョーカが唯一の救いだと思ったんだが…」
「ご、ごめんね。わたし、それ苦手なの」
「仕方ない。他を当たるか、自分達で解決するかだね」
4人同時にため息をつく。
悩みの種は迫り来る中間テスト。
俺はご存知の通り勉強が出来る方ではないし、愛依奈は俺より下らしい。涼夜は可もなく不可もなくという感じだ。
ジョーカは勉強出来るのだが教えることが大の苦手らしい。
俺たち3人はクラスの中でトップレベルのジョーカを頼る気満々だったのだがそれが出来ずに撃沈している。
「最悪さー、一応教師であるメグちゃんに頼るしかないんじゃない?」
おいおい。一応って…ま、この教室の私物を見たらそうなるか(笑)
「だなー。この前の高級ミルクティを渡せばいい釣れるんじゃね?」
「だねー。代表者として理稀買ってこい!」
「えー。金ないし嫌だよ。てか、俺が飲みたい」
「あー。でも、なんか飲むだけ飲んで適当に教えてきそうだよねー」
「それあるわー」
神田先生の悪口を言っていると教室のドアが開いたので4人全員ビクッとして、恐る恐る扉の方を見ると1人の見覚えのある生徒がいた。
「あっ。すみません…間違えました……ってヨシくん?」
そこには資料をいくつか持った月羽がいた。
「おっ、月羽じゃん。どうした?」
「授業で使った資料を返しにきたんだよ」
少し重そうに持ってたので手伝うことにした。
どうやら1つ教室を間違えたらしい。
隣の教室に資料を置くと肩を叩かれた。
「ねねっ。あの教室で何やってるの? まさか、溜まり場にしてるとか?」
「まぁ。間違ってないかな…けど許可は取ってるよ。今は同じクラスのやつと迫り来る中間テストの作戦会議をしてる……あれ?」
俺がこの学校に入学出来たのって月羽に教わったからだったよな。
って事は…
月羽の方を見るとキョトンとしてる。
「あの。月羽様…お願いがあります」
「ん? 何かな? あたしに出来ることな
らなんでも言って」
月羽は平らな胸を張った。
「俺はわかったんだ。月羽が必要だと…」
どんな感じにお願いするかわからなかったので変な言い出しになってしまった。
「あ、あ、あたしが必要ってどゆこと?」
月羽あたふたしてる。俺変なこと言ったかな?
「俺は月羽にお願いがあるんだ。隣の教室へ一緒に来て欲しい」
「わ、わかった…ついて行きます…」
うーん…月羽の様子がおかしいんだけどなんでだろ。
そんな感じで月羽を4-K教室へ招き入れた。
教室中から視線を感じる。
と言っても3人からだけどね。
「みんな!テスト対策の先生を連れてきた。 月羽に頼めば中間テストなんて怖くなくなる」
……。
えぇ、誰も反応してくれないんだけど。
「いやいやー。彼女さん連れてきて先生とか言われてもねー。ねぇ涼夜?」
「そ、そうだな。まぁ勉強が出来なくて困っているという事実はあるが…」
「よ、理稀くんの彼女…う、嘘でしょ…」
おいおい。3人もと誤解だ。
月羽の方を見るとなんか照れてるぞ?
「キャッ…あたしが彼女とか照れるんですけどー」
……。
ヤバイどうしよう…
とりあえず月羽のことを紹介しなきゃ。
俺が発言しようとしたら月羽が一歩前に出た
「皆さん初めまして。ヨシくんの幼馴染の大門月羽と言います。誤解してるようですけどまだ彼女じゃないです。ヨシくんから勉強を教えてほしいとお願いされたので試しに教えさせてください」
言い終えるとペコっとお辞儀した。
すると3人が拍手した。
「月羽ちゃんかー。よろしくね! あたし愛依奈です。呼び方は任せるー」
「俺は佐屋涼夜だ。理稀と同じクラスなんだ。その…よろしくな」
「小木ノ城……か、楓。よろしく…」
「はい。よろしくです」
こんな感じでこの集会に月羽が加わった。
あの日以降神田先生含め6人ほぼ毎日集まっている。
そしてテスト前日の放課後。
勉強を教わってるのは俺と涼夜。
愛依奈は最初教わってたが飽きたのか勉強テーブルから抜け出した。
ジョーカは月羽を警戒してるらしく愛依奈と神田先生と端っこで雑談してる。
なかなかの人見知りだから仕方ないか。そのうち仲良くなってくれたらなぁとか思ってる。
時々ゲラゲラ笑って
涼夜のコントロールが良いらしく百発百中だったが、一度だけジョーカの頭に当てて涼夜が土下座をしていた(笑)
「り、涼夜君。痛かった…」
「本当に申し訳ありませんでした。おい。愛依奈お前も謝れよ」
「えぇ? あたし悪くないんで……わ、わかったわよ。すみませんでした」
そんな感じで2人で土下座する姿は面白かった。
「楽しそうだね。ヨシくんがこんな良い人たちと仲良くやってて嬉しいよ」
「あぁ。本当にいい奴らに巡り会えたと思ってる。あの頃の事はもう忘れかけてるよ」
「そうだね。けど、あの頃のヨシくんがあの神崎理稀じゃなかったらあたしはここに居ないね」
「そうだな。あの頃の俺は……」
そう言いかけた時何かが頭に当たった。
入口の方を見るとジョーカが申し訳なさそうにあたふたしている。
「犯人は……楓かー」
俺は立ち上がり丸めた紙を優しくジョーカの方に投げた。
「キャー。変な人が来たわ。ジョーカちゃんを守るのはあたしの役目…と見せかけて…行けっメグちゃん!」
突然のキラーパスにビクッとする神田先生。
「えぇ? どうすればいいのよ?」
「へ? 知らん」
うわー。無責任。そして攻撃側の俺もどうすれば良いかわからないので一時停止中。
「むせきにーん。とりあえず、お菓子あげるわ。これで良い?」
俺もオチがわからないのでとりあえず頷く。
お菓子を受け取ってソファーに戻った。
するとゾロゾロと付いてきてティータイムになった。
「そういや。メグちゃんがティーセット持ってきてたよね? それでお茶会じゃー」
「良いんだけど。ティーカップ5つしかないわ。誰か紙コップになるわね」
俺はとりあえずヤカンに水を入れて火をつけた。
「うーん。とりあえず月羽ちゃんはお客様だから外して…持ってきてくれたメグちゃんも外して、ここを用意してくれたジョーカちゃんも外して…あたしも外して…男子2人でじゃんけんし……」
「「異議あり!!」」
俺と涼夜が同時に異議を唱えた。
「特に何もしていない愛依奈もじゃんけんに加わるべきだ」
「そうだ。そうだー」
「はぁ? なんでよー。ここは女の子に譲るべきじ……」
「お断りです」
言い切る前に涼夜がキッパリ断った。
その後結局3人でじゃんけんをして愛依奈が負けるというお約束な結果で終わりました。
お茶を飲んで雑談してると下校時間になっていたので解散することにした。
神田先生とは教室で別れ、ジョーカはお迎えなので昇降口で別れ4人で家路についている。
「明日からいよいよテストだねー。自信ある?」
「結局サボったあたしは自信ないかな…とりあえず赤点取らなきゃいいや」
「俺は月羽ちゃんの教えのお陰でどうにかなりそうだよ」
「同じく。やっぱり月羽に頼んで良かったよ」
月羽のおかげでなんか自信ついたし、いい感じの結果を出せそうだ。
駅で愛依奈、涼夜と別れてからマンションまでの数分間久しぶりに月羽と2人きりになった。
「なんか2人で帰るの久しぶりだね」
「そうだな。月羽に俺たちの先生をお願いしてから一緒に帰れなかったからな」
あの教室に月羽が来てから2人きりになることが本当になかったのだ。
片方が早く帰ったり、先生に頼みごとされたり、姉さんに絡まれたり…
「ねぇ。テスト終わったらどこか出かけようよ」
「そうだな。あのメンバーで出かけたら面白そうだよな」
……。
少しの沈黙があったので月羽の方を見ると少しだけムッとしてた気がする。
「あっ、ごめんね。そ、そうだね。みんなで出かけよう」
あの沈黙は何だったんだ? 変なことを言ったつもりはないんだが…
そしてマンションに着きエレベーターを待つ。
「ねねっ。お互いが上手くいく
「そんなものがあるのか? 是非是非!」
割と占いとか御呪いを信じる派なんだよな。
「そしたら…ちょっとこっち来て……人目がつかない場所がいいな。そこで正面向いててね」
え? 人目がつかない場所で何するん?
き、緊張するんですけど。
言われた通りに正面を向いたまま直立しているが何も起きない。
終わったのかと思い、振り返ろうとすると後ろから腰の辺りに細い腕が伸びてきた。
それと同時に背中にほんのりと温もりが。
御呪いと言ってたのでなんか呪文を唱えたり、催眠術みたいなやつかと思ってたので物凄く動揺してます。
「あ…あの…」
「こうするとあたしとヨシくんの力が行き来するの。あと数分こうすればいい結果間違いなし」
お、おう……。恥ずかしいけど月羽のお墨付きなら試してみる価値はあるかな?
その後お互いに会話がなく少し気まずくなったのか、御呪いが終わった。
そしてやってきたエレベーターに乗って5階へ向かった。
「じゃあ。また明日! お互いにテスト頑張ろうな」
「そうだね。ヨシくんなら出来るから今日やったことの復習を忘れないでね」
「サンキュー。その…月羽変わったな」
ずっと思っていた事を言ってみた。
明らかに中学の月羽と別人になってるし。
どっちが良いかと言われたらどっちなんだろう。
「…まぁね。前みたいにダラけてるあたしじゃダメだと思ったの。これからはニュー月羽ちゃんになるよー」
顔は笑っていたが長い付き合いの俺には無理してることがわかってしまった。
「そっか。けど、無理はしない方が良いぞ? 俺たち友達なんだから素でいてくれた方が嬉しい……かな」
「そっか…わかった。ヨシくんがそう言うなら…」
どこか浮かない表情だった。
うーん…月羽を笑顔にするにはどうすればいいんだろうか。
そんな悩みも生まれてしまった。
とりあえず…テスト頑張るぞー!
しっかりと復習してから布団に入った。
やっほ。前話をお姉さんに奪われた月羽だよー。
最近ヨシくんと接点なさ過ぎて辛すぎる。
あたしのクラスも楽しいんだけどいつかEクラスの子とも仲良くしたいな。
べ、別に? ヨシくんを守ろうとかしてないし?気になってないし。
何だかんだ1週間あたしの部屋に招いたとき以来本当に合わなくなっちゃった…
あの時もっと攻めておくべきだったのかなぁ。
けど、昔は昔。今を楽しもう!
そんなわけで
あたしは読みたいものとか無いんだけど、教室にいても暇だしついて来ちゃった(笑)
ふと雑誌コーナーを見ると『猿でも出来るかも?開運術』『これで決まり。好きな相手を振り向かせるワザ50選』という何故か惹かれる雑誌を見つけたので手にとってみた。
開運すれば偶然ヨシくんに会えるのではないか?そんな神頼みになる程、会えていないのです。
とりあえず借りてみて、やっても損がなさそうなものを実践することにしました。
その日は直帰して早速雑誌を読んでみると自宅で出来るものが多々あったので驚きです。
開運するために家具の位置を変えたり、いらないものを捨てたりあたしなりに頑張ってみました。
その後振り向かせる50選の雑誌を読むことにした。
『後ろからギュッとするとラブラブ度UP!!
気になる男子にやってみよう』
ふーん…ふーん。
そのシチュエーションを想像したら顔が熱くなった…けど効果ありそう!
その後身体を密着させることによって精神が通じ合いお互いに幸せになれます。
とか
……。
「んなこと出来るかぁー」
思いっきり雑誌を叩きつける。
その後借り物だと気づき慌てて拾った。
そ、そ、そんな密着だなんて……バカじゃ無いの?
へ、変なこと想像させないでよねっ。
その日の夜はベットに入るも雑誌のシチュエーションを想像してしまってなかなか寝付けなかった…
翌日そのせいで5時間目の授業中居眠りをして、資料の返却係になりました。
「開運とか嘘じゃん…もー。イライラするー」
思わず独り言が出てしまった。
今日は早く帰って観たいドラマがあったのに…
再放送いつなんだろうか。
そんなこと考えていると別棟の4-L教室に到着したつもりだった。
扉を開けて教室に入ると4人の生徒が雑談していた。
慌てて出ようとすると明らかに知っている人がいた。
「あっ。すみません…間違えました……ってヨシくん?」
それは最近会うことができていなかったヨシくんであった。
「おっ、月羽じゃん。どうした?」
「授業で使った資料を返しにきたんだよ」
資料ってこの待合室みたいな部屋に返すのか思ったけど、どうやら教室を間違えたみたい。
その後ヨシくんが荷物運びを手伝ってくれた。
4-L教室に荷物を置くと気になっていたことを尋ねてみた。
「ねねっ。あの教室で何やってるの? まさか、溜まり場にしてるとか?」
「まぁ。間違ってないかな…けど許可は取ってるよ。今は同じクラスのやつと迫り来る中間テストの作戦会議をしてる……あれ?」
ん? ヨシくんどうしたんだい?
「あの。月羽様…お願いがあります」
「ん? 何かな? あたしに出来ることな
らなんでも言って」
ヨシくんのためなら、ある程度のことは頑張るよっ!
「俺はわかったんだ。月羽が必要だと…」
……へ?
それっても、もしかしてー…。
「あ、あ、あたしが必要ってどゆこと?」
ヤバイ動揺しちゃってる。
「俺は月羽にやってほしいことがあるんだ。隣の教室へ一緒に来て欲しい」
な、何をやらせるつもりなの。
と、隣ってどっちよー。
「わ、わかった…ついて行きます…」
何があっても大丈夫なよう心の準備をしておく。
「みんな!テスト対策の先生を連れてきた。 月羽に頼めば中間テストなんて怖くなくなる」
ヨシくんがそう言ったが他の3人の反応なし。
ちょ、気まずいんですけどー。ヨシくん責任とってよね。
「いやいやー。彼女さん連れてきて先生とか言われてもねー。ねぇ涼夜?」
……ん?
「そ、そうだな。まぁ勉強が出来なくて困っているという事実はあるが…」
……んん?
「よ、理稀くんの彼女…う、嘘でしょ…」
……んんん?
あの3人から見てあたしってヨシくんの彼女なのね。
「キャッ…あたしが彼女とか照れるんですけどー」
3人からそう思われるってことはお似合いってことね。
フフッ、とりあえず挨拶しておきますか。
ま、彼女じゃないし、誤解は解いておかないとね。
いつか…本当の彼女になってみせる…
「皆さん初めまして。ヨシくんの幼馴染の大門月羽と言います。誤解してるようですけどまだ彼女じゃないです。ヨシくんから勉強を教えてほしいとお願いされたので試しに教えさせてください」
言い終えるとペコっとお辞儀した。
すると3人が拍手した。
「月羽ちゃんかー。よろしくね! あたし愛依奈です。呼び方は任せるー」
「俺は佐屋涼夜だ。理稀と同じクラスなんだ。その…よろしくな」
「小木ノ城……か、楓。よろしく…」
「はい。よろしくです」
そう。まだ彼女じゃないから…
こんな感じであたしのお勉強会が始まりました。
この日から一緒に帰れると思ったんだけどそうはならなかった。
テスト開始3日前のこと…
完全下校時間の前に涼夜君が家の用事で帰宅、愛依奈ちゃんは神田先生とどこかに行ってしまった。
教室に残るのはあたしとヨシくん、楓ちゃんの3人。
あたしはヨシくんに現代文を教えていた。
『私はあの人について考えていた』
「この文書の『あの人に対する気持ちを答えよ』って出てるからこの前の文章を読んでいくと…ここに書いてあるね」
「なるほど…『君のことしか考えられない』だな」
その瞬間あたしの向かいに座っている楓ちゃんが「ひゃう…」というちょっとよくわかんない言葉を発した。
あたしとヨシくんが楓ちゃんの方を見ると頬を染めて
この子を敵認定するか審議ですね。
1つ安心できることはヨシくんは彼女のこと何とも思ってないということだ。
これはあたしの勘だから当たってるはず。
「おーい月羽ー。この問題は?」
少し考え事をしてしまった。
「ご、ごめんね。どれどれー」
「
てか、なに?何で名前がヨシな訳?
あ、あたしに何読ませてんのよ!
「ははっ、なんか俺のことみたいで照れるな」
やかましいわ!!
ヨシくんからそんなこと言われるとなんかこっちが告ってるみたいでマジ恥ずかしい。
案の定楓ちゃんもあたふたしている。
「んで。この時の由の気持ちってなんだろうね」
「知るかー。自分で考えんかい!」
ヨシくんはキョトンとしている。
まったく。これだからは鈍感は困るのよ…
そして迎えたテスト前日。
あたしとヨシくんはマンションのロビーにいます。
あたしは少しだけ攻めてみることにした。
「ねねっ。お互いが上手くいく
この前借りてきた胡散臭い雑誌の御呪いを実践してみることにしました。
「そんなものがあるのか? 是非是非!」
断られたらどうしようとか思ったけどいい反応で良かったー。
「そしたら…ちょっとこっち来て……人目がつかない場所がいいな。そこで正面向いててね」
素直に聞いてくれたのは良いけど緊張するー。
えぇっと…腰のあたりに手を伸ばして…密着すれば良いのよね。
『これは抱き枕よ』
そう言い聞かせないと緊張でおかしくなりそうだった。
「あ…あの…」
「こうするとあたしとヨシくんの力が行き来するの。あと数分こうすればいい結果間違いなし」
とりあえずそんな内容だった気がしたのでそれっぽく言ってみました。
ヤバイ…緊張してきて何を話していいかわからないのと落ち着くんですけどー。
はぁ。このままギュッとして寝たい…
その後沈黙に耐えられなくなってきたので御呪いは終わり。
そしてやってきたエレベーターに乗って5階へ向かった。
「じゃあ。また明日! お互いにテスト頑張ろうな」
「そうだね。ヨシくんなら出来るから今日やったことの復習を忘れないでね」
「サンキュー。その…月羽変わったな」
え?なに?あたしは思ってもない言葉に動揺する。
「…まぁね。前みたいにダラけてるあたしじゃダメだと思ったの。これからはニュー月羽ちゃんになるよー」
とりあえず高校生になったら変わろうと思っていたし、ダラダラしているあたしよりしっかり者のあたしの方が好きになってくれると思ったのよ。
「そっか。けど、無理はしない方が良いぞ? 俺たち友達なんだから素でいてくれた方が嬉しい……かな」
……友達か。
『友達』という単語が物凄く引っかかった。
嬉しいような寂しいような…
あたしとヨシくんは友達なんだ。
それ以上の関係にはなれないのかな…
1つだけわかっていることがある。
今のままじゃ進展はない。
「そっか…わかった。ヨシくんがそう言うなら…」
その後帰宅すると真っ直ぐ自分のベットに向かいダイブした。
『友達』という単語が頭から離れない。
「ヨシくん…好きな人とかいるのかな…。楓ちゃんなのかな…もしかして…愛依奈ちゃん?」
楓ちゃんにはあたしに持っていない独特な雰囲気を持っている。
その雰囲気に飲まれてしまうのではないかとも思ったがそんな男ではないと信じる。
愛依奈ちゃんと居る時のヨシくんとても楽しそう…
テストに集中しなきゃならないのに余計なことばかり考えてしまう…
1つだけ決心して勉強することにした。
仰向けになって拳を握り誓う。
『あたしは誰にも負けない。今すぐじゃなくてもいい……必ず神崎理稀を手に入れる』
そう決意してテストの復習を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます