第5話 秘密基地を作りたい愛依奈ちゃん
俺はベットに横になりながら姉さんの好きな人について考えていた。
昨晩の夜、机に置いてあった2冊の本。
何気なくページをめくるとうちの学校の図書室で借りたものだとわかった。
あの姉さんが本を頼ってまで結ばれたい人か…
どんな人なんだろうか?
別に興味ないし追求しない予定。
なのに…何故かむしゃくしゃする。
むしろ姉さんから逃げるためにここに一人暮らしする予定だったのだから誰かと結ばれて同居でもすれば良い。
そうすれば念願の一人暮らしが出来る。
「よし。姉さんを全力サポートして俺の自由を手に入れる」
そう決意して就寝した。
月曜日の朝。
若干寝坊して教室にいつもより15分程遅く着くと俺の席に座る愛依奈と涼夜が何かについて話している。ジョーカは相変わらず何もしないで頬杖ついている。
「おはよー」
俺はとりあえず空いている愛依奈の席に座る。
さぁ、そこはあたしの席じゃーと突っ込め。
「おはよ。ねねっ、聞いてよー」
俺がこの席に座った事スルーなのね。
「どうした? 悩み事か?」
「ちょーー悩んでるんだよ」
そのテンションだと何かに悩んでいるとは思えないのだが…
「愛依奈って悩み事とか無縁そうだけどな」
「それって褒めてる?バカにしてる?」
「褒めてるに決まってんだろ…フッ」
ダメだ笑ってしまった。
「ありが…って最後鼻で笑ったでしょ?失礼なやつだなー ね?ジョーカ?」
思わぬキラーパスにビクッとしたジョーカ。
「え? えぇ…そうね?」
恐らく話を聞いていなかったんだろう。目を泳がせながら適当に答えていると思うけど否定してくれなかったのショックだわ…
「この男は学食で俺が食べようとしたカツ丼を目の前で売り切れにさせる失礼なやつだからな。小木ノ城の発言は間違ってない!」
「その件は本当に申し訳ありませんでした…」
深々と頭を下げた。
先週この3人で学食に行った時「俺はカツ丼を食べる」と朝から言ってた涼夜の目の前で俺がカツ丼を注文して売り切れにさせるという事件があった。
「ま、許してやろう。俺は心が広いからな」
「え?極小でしょ。ミジンコレベル……痛っ」
涼夜が愛依奈の頭をお手製のハリセンで叩いた。
「女の子に暴力なんてサイテー。ね?ジョーカ?」
再びキラーパス。
「へ?ま、まぁ。時と場合によるんじゃないかな」
意外と肯定派だったのか。俺を含む3人が
「あれれ…何かおかしな事あったかな?」
あたふたしてるジョーカ。
「そ、そんなことより昨日観たアニメに秘密基地が出てきて良いなぁーって思ったのよ。それで、それで。この4人の秘密基地を作りたいなって思って…どうかな?」
責任感を感じたのか愛依奈は無理矢理本題に戻した。
さりげなくジョーカを含めて4人にしているところ優しいな。
「秘密基地か。悪くないな。けど俺たち高校生だし、この付近住宅街で秘密基地を作れそうな場所ないぞ?」
「そこで高校生という立場を利用したガキ…じゃなかった子供とは違った秘密基地を作ろうじゃないか!」
このお姉さん子供のことガキって言いかけたぞ。こ、怖い(笑)
「愛依奈って子供嫌いだろ?」
「はぁ?そ、そんなことないし。見た目ヤンキーの子供なんて受け付けませんオーラ全開の涼夜先輩に言われたくありませーん」
「だから。この髪色はじいちゃん譲りのものなんだって。地毛だから地毛っ」
そう言って涼夜は愛依奈に髪を見せつける。
「じ、冗談だってば。てか、涼ちゃんの髪の毛いい匂いするねー」
また話が脱線した。
「涼ちゃんって言うなー」
その涼夜の叫びとともに噛んだ…じゃなかった神田先生が入ってきた。
愛依奈が噛んだちゃんとかバカにするから…
この話の続きは昼休みにすることになった。
そして迎えた昼休み。
ジョーカを誘って俺たちは屋上へ向かった。
この学校は屋上が解放されているのが良い。
ソーラーパネルの陰に4人で座って昼ご飯を食べる。
俺は自分で作ったお弁当。愛依奈はコンビニのサンドイッチ。涼夜はおにぎり2個スーパーで半額になった唐揚げ。ジョーカは2段のお弁当…めっちゃ豪華!
「あ、あのこれ食べきれないので皆さんで食べて…」
「良いの? サンキュー。これだけじゃ足りないと思ったんだよー」
涼夜の声に体をビクッとさせてから静かにお弁当を差し出した。
俺と愛依奈は顔を見合わせて笑いを堪えた。
涼夜は気づいてないらしく、「この春巻き美味い」とか言って1人で食べている。
「んで、朝の続きなんだけど…この学校の空き教室か一人暮らしの理稀くんの家を秘密基地にしようと思います」
待て待て…人の家を勝手に候補に入れるな。
「空き教室を借りるなんて無理そうだから有力候補は理稀邸だろうな」
涼夜よ…貴様敵だな。
「理稀の家行ってみたいし…あたしもそこで良いんじゃね?って思う」
これはマズイぞ。
どうにか回避しないと…うちにはお姉様がいるし…
愛依奈とジョーカを連れて行ったら月羽の時のように揉める可能性が…
「いやー。うち、狭いし…学校の方がいいんじゃないか」
「え?この前、部屋余ってるって言ってたよね?」
あれ?そんなこと言ったっけ?
「ジョーカ、いえ、楓様…助けてください」
愛依奈と涼夜は俺の家に押しかけようとしているので残るは楓様のみ。
ジョーカはハッとこっちを見ると少し頬を赤らめて考えている。
「もしかしたら…空き教室使えるかも。聞いてみるね」
……?
俺含む3人が顔を見合わせた。
何かコネ的なやつがあるのか?
「ジョーカちゃんそれマジ? 助かるわー。狭そうなの理稀邸より教室の方が良いからよろしくね」
「愛依奈さんはすぐに態度変えるからな。モテないぞっ?」
すると愛依奈に睨まれた…
こうして俺の家が秘密基地化することはひとまず回避出来た。まだ、決まってないけどね。
日差しも強く、遠くに入道雲が見える。
夏が近づいてきているな。
この日は6時間目の後に夕礼があるので体育館に集合し、表彰や今後の行事について話したりした。
その時遠くから雷鳴が聞こえた気がしたので外を見ると積乱雲がこっちに向かっていた。
ま、まさか昼休み遠くにいたやつか?
俺雷苦手なんだよなぁ…
夕礼の後はそのまま解散なので愛依奈と喋りながら教室へ向かい教科書をバッグに詰めて、涼夜と合流し3人で昇降口へ向かった。
その後校門を出た辺りで大きな雨粒が落ちてきた。
「ヤバっ、雨じゃん。もっと降れー」
愛依奈は両腕を伸ばし空を見る。
「おいこらっ…本当に降ってきたらどうすんだよ」
涼夜は呆れながら愛依奈に言った。
「大丈夫!あたし晴れ女だから。雨雲逃げていくからっ」
その瞬間ドバーッと一気に降ってきた。
3人でとりあえず雨宿りが出来るところまで走った。
「はぁ。晴れ女ねぇ? 愛依奈が変なこと言うから…」
「あたし凄くない?フラグ回収というか
下校時に雨乞いするとか性格悪すぎだろ。
そして、恐ろしいほどポジティブシンキングだな…
俺と涼夜は呆れて言葉も出ない。
「あっ、あたしの下着透けちゃった…今日は水色なの」
「バカっ。男2人の前でそんなこと言うなし」
焦る涼夜とあさっての方向を向く俺。
「フフッ照れてる。涼夜くんってそう言うのいっぱい見てきたから平気っしょ?」
「はぁ? そんなわけないだろ」
俺と愛依奈は涼夜の方を見た。
「愛依奈は
「特に深い意味はないです」
「涼夜ってチャラ男だから中学の頃女の子を持て余してたんだと思ってたわ」
「2人とも酷いな。そんなこと一切ないから……おい、ジト目するな」
それにしても止まぬ雨…
むしろ雨量が増してきている。
ふとバッグを見ると折り畳み傘が入っていた。
「折り畳み傘あったからこれ使って2人帰りなよ?」
「いやいや。そんな悪いって」
「俺の家ここからそんなに遠くないし。使ってくれ、じゃあ俺は走って帰るわ」
傘を置くと俺は土砂降りの中走って帰った。
マンションに着くとエレベーターの前に月羽が居た。
俺の存在に気づくと驚いてこっちに近づいてきた。
「ヨシくんどうしたの? ずぶ濡れじゃない」
「いやー。友達に傘を渡して走ってきた」
すると月羽は腰に手を当ててため息をついた。
「もぅ…無理しちゃダメよ? 風邪ひいちゃうよ? ほんと…ヨシくんは優しすぎるんだから」
へ?俺って優しすぎるのか? そんなことはないと思うが。
月羽はポケットからハンカチを取り出して俺の顔を拭いてくれた。
「あ、ありがとう…ハンカチ汚れちゃうからもう大丈夫だよ」
「ううん。少しぐらい汚れても平気。それよりもあたしは優しいヨシくんを拭いてあげたいの」
て、照れる…
そして2人でエレベーターに乗り5階へ向かった。
「うちでお風呂入る? すぐに沸かせるけど」
「いや、この格好でお邪魔するの悪いからまた今度お願い。その…気遣ってくれてありがとう!」
俺がニコッとすると顔を背けられた…
なんで??
「じゃあねヨシくん」
「おう。じゃあ!」
帰宅するとバッグを玄関に置き靴下を脱いで脱衣所直行。
浴室のドアを開けると何故か風呂が沸いていた。
冷静に考えると、この状況が理解出来るが今の俺はとりあえずシャワーを浴びてお風呂で温まりたいとしか思ってなかった。
とりあえず頭と体を洗い湯船へ…
40℃のお湯が気持ちいい…やばい寝そう…
瞼が落ちかけた瞬間『バン』という浴室のドアが開く音に目が覚めた。
その方向を見ると全裸の姉さんと目が合った。
その瞬間思考が停止した。
数秒の沈黙の後…とりあえず「あっ、ごめん」と謝って風呂を出ようとすると腕を掴まれて浴槽に戻された…
え?いつもよく喋る姉さんが無口なんだか…
「とりあえず浴槽に入ってて」
そういうとシャワーで体を流し始めた。
浴室内にはシャワーの音やシャンプーの音が響く。
ヤバイ…相当ご立腹らしい…
こういう時は…
「あの…亜梨栖お姉ちゃん。お背中をお流ししましょうか?」
その際ビクッとしてこちらを向きかけたがそのまま洗い続ける。
「亜梨栖お姉ちゃんだって…か、可愛い…」
シャワーの音で聞こえてないと思ってるだろうがバッチリ聞こえました。
「いえ、大丈夫。 1人で洗えます」
「そ、そうか。わかった」
ヤバイ超怒ってる。どうしよう…最悪月羽邸に逃げ込もう。
俺は端っこに寄り壁の方を向いた。
すると空いているスペースに姉さんが入ってきた。
「理稀くん。うちの一番風呂奪ったわね」
「はい。ずぶ濡れだったので…つい入ってしまいました」
「楽しみにしてたのに…」
風呂場に沈黙が訪れた。
そんなに怒ることかな?と思いながらももう一度謝ろうそう思い振り向こうとした瞬間… 「うーそーよー! びっくりした? ねね?」
……へ?
思わず振り返るとお姉ちゃんのお体があったので再び壁を向こうとしたら強制的に向きを変えられた。
「人と話すときは後ろ向かない! てか、お姉ちゃんがそんなことで怒るわけないでしょ? オロオロしてる理稀可愛かった」
クソー騙された…なんかムカつく。
「まるで昔の理稀のようだった…」
昔の俺ってどういうことだろう。
「俺は変わってないけど?」
「そんなことないわ。 いい意味でも悪い意味でも変わっている。もちろん…うちもね」
なるほどね…自分ではわからないけど変わっているのか。
俺も昔…小学生の頃みたいに姉さんと仲良くしたいとは思っている。けど、環境やあの頃と性格も変わってきてるから難しいと思う。
年齢とともにお互いに友達や恋人が出来て別々の道を歩んでいくものだと思っている。
「俺も正直に言うと昔みたいになりたいって思うんだ。けど……今の姉さんには好きな人がいる。それを邪魔したくないから。だから昔のようには…」
「理稀が邪魔になることなんてない!」
久しぶりに姉さんが本気で何かを言った気がした。
その目を見る限り本気だろう。
「自分の弟を邪魔だなんて思うわけないじゃない? そんなこと思うなんて姉じゃないわ」
な、なんか少し前の姉さんと別人なんだよぁ。
誰かと入れ替わった?
「大好きよ…理稀っ」
……。
いくら身内とはいえ大胆に好きと言われると照れる。
「あ、ありがとう…」
その後5分ぐらい湯船に浸かってからお風呂を出た。
風呂を上がると昨日の余りご飯を使って炒飯を作って、冷凍餃子を焼いて晩飯完成。
鶏ガラの素があったのでそれでスープも作れば炒飯セットの完成。
晩飯が完成するのとほぼ同時に下着姿の姉さんが来た。
何回かパジャマかジャージを着てくれと言ったが聞かなかったので諦めました。
「おぉ。ちょうど炒飯食べたかったのよね。
『いやいや偶然だから』と心の中でツッコミをして、「一番風呂のお詫びだよ」ってことにした。
夜ご飯を食べている辺りから再び雷鳴が聞こえてくるようになった。
スマホのアプリで雨雲レーダーを見ると雨量が強い赤色がこっちに迫ってきていた…
こ、これはヤバイ…
食器を片付けて、明日のお弁当を作り冷蔵庫にしまうとベットで動画を見ることにした。
イヤホンで音量上げれば雷鳴なんて怖くない。
しかし、イヤホン越しに雷鳴が次第に大きくなってきていることがわかった。
あっ、これヤバイやつ。
姉さんは俺の隣で平気そうにこの前借りてきた本を読んでいる。
動画を見ているとものすごい閃光が見えた1、2秒後にピシャーン(なんか言葉で説明難しいけどこんな感じ)の爆音が響く。
前述したが俺は雷が大の苦手だ。
小学生の頃に近くに落雷があって、その時の音と光がトラウマになってそれ以降雷は本当に苦手になってしまった。
雷の爆音の後俺は気づいたら姉さんに抱きついていた。
「ちょ、ど、どうしたの?」
「カ、カミナリコワイヨ…」
俺の口調が片言になると言うことは精神的に参った状態である。
後々冷静に考えると物凄く恥ずかしいけど姉さん以外誰も居ないし気にしないことにした。
「よしよし。理稀大丈夫だよぉー。お姉ちゃんがいるから怖くないよぉ」
そう言って頭を撫でられている。
普段の俺だったら速攻『何するんだよー』と逃げ出すが今の俺は落雷に体力を奪われた+雷にビビりすぎて精神的に疲れているので抵抗は一切しません。
むしろこのまま撫でていて欲しいと思っている。
その後雷が収まるまでこの状態でいた。
「ごめん…取り乱した。なんか恥ずかしいところ見られたな…」
「カミナリ様感謝します…」
「何か言った?」
「ううん。怖いものは怖いからね。これからもお姉ちゃんを頼りなさい」
やっぱり実家の頃と性格が違いすぎるって。
これは『私たち入れ替わってるー』的なやつか?
雷雨が収まったのが22時頃なのでそれまで姉さんに寄り添ってもらって収まったら翌日の準備をして寝ることにしたがゲームの電源を入れてしまい気づいたら深夜1時前。
慌てて寝ることにした。
風呂の中で昔の俺について話したせいか昔の夢を見た。
それは俺と姉さんともう1人幼馴染のボーイッシュな女の子…名前が思い出せない。確か年下だった気がする。その3人で遊んでいる夢だ。
近くにあった小さい山に登ったり、公園で鬼ごっこをしたり…
とても楽しかった思い出がそのまま夢に出てきたが1つ現実と違ったことがあった。
それは最後に「今度会いに行くから待っててね」と手を振って別れたことだ。
その別れの後パッと目を覚ました。
目覚ましを見ると7時55分……
寝坊しましたー。
朝飯を食べないで走ればなんとか間に合いそうだ。
速攻で着替えて家を出る。
「姉さん…起こしてくれよ」
そう思ったが昨晩寝るまでに「明日早く行くから」と言ってたわ…
けど、俺の横に姉さん寝てた気がするが…今はそれどころじゃない。
学校に予鈴がなる2分前に着くことができた。
教室に入ると涼夜と愛依奈がこっちを見てニヤっとした。
「今日休みかと思ったわ。お寝坊さん」
「……二度寝しただろ?」
「おーす。普通に起きたら8時前だった…あせったー」
机に倒れこむように座るとジョーカが「おはよっ」と挨拶してきた。
「おはよー。疲れた…」
「珍しいね。理稀くんが寝坊なんて」
「昨日の雷のせいかな。眠れなかった…」
「あれ酷かったよねー。怖かった」
俺とジョーカが話していると涼夜が話しに割り込んできた。
「今日の小木ノ城のお弁当も豪華なのか?」
その瞬間ジョーカがビクッと反応して涼夜ではなく俺の方を見て「う、うん。少しかな」と言って前を向いた。
涼夜は相変わらず怖がられている(笑)
すると俺の耳元で「俺何かマズイこと言ったかな?」と聞いていた。
「いやぁ?特に無いんじゃね?」
涼夜のことを怖がっていることは伏せておこう。
すると愛依奈が涼夜のことを叩いた。
「痛っ。何するんだよー」
「あのね……女の子にお弁当のおかず貰うとしてるんじゃ無いよぉ。デリカシーが無いなぁ。このヤンキーは」
「わ、悪かった…てかヤンキーじゃないから」
この2人仲良いなと思いながらバックから教科書を取り出す。
バックの中に違和感があった気がしたけど気のせいだろう。
そして朝のホームルームが始まって今日の授業が始まった。
朝飯食べてないから終始空腹…
そして四時間目が終わり待ちに待った昼休み。
昨日の雨で屋上が濡れていそうだったので
教室で昼飯を食べることにした。
4人の机を向かい合わせにしてお弁当や買ったサンドイッチ等を取り出す。
そんな中俺は焦っていた…
何故ならカバンの中にお弁当が入っていないのだから。
「あ……」
「「どうした?」」
愛依奈と涼夜が訪ねてきた。
「昼飯がない…」
その瞬間に俺以外の3人が驚く。
「購買行けばまだ買えるんじゃね?」
涼夜のその言葉に購買の存在を思い出して財布を取り出した瞬間前の方から声が聞こえた。
「あの…よし…神崎くんいる?」
「えぇっと…後ろの廊下側にいますよ! 神崎くーん お客さんだよー」
その声の方を見るとあまり話したことがない女子生徒に呼ばれた。
立ち上がると廊下から見覚えのある人が入ってきた。
俺からすると普通だが周りからすると美人らしく教室内が騒つく。
「理稀ー。お弁当だよー」
「あ、ありがとう…助かった」
その瞬間ザワつきが大きくなった。俺のことを下の名前で呼んでいたため彼女と勘違いしたらしい。
「お、お前彼女いたのか…」
はい??
「美人さんだねー。ま、このわたくし、愛依奈ちゃんより劣るけどね」
「あわわわ…そ、そんなぁ…」
おいおい。勘違いしてるぞ。
「いやいや。この人俺の姉だから」
……。
何故白ける。
「恥ずかしいからって冗談はよせよ」
「残念ながら彼女じゃなくて理稀の姉です。神崎亜梨栖って言いますっ」
ニコッと微笑むと涼夜が顔を赤くしていた。
お、お前まさか…
その後何故か姉さんも一緒にお弁当を食べることになった。
机は俺の右斜め前の人から借りることにした。
こういう時の姉さんはよく喋るし、自宅でのあの適当さがなく人当たりの良い人って感じだ。
そのため姉さんが今日へ戻った後色んな人から質問責めにあった。
『家でもあんな感じなのか』『仲は良いのか』『今好きな人や付き合っている人はいるのか』など…
最後の質問は涼夜さんからの質問でした。
そんな昼休みを終えると5時間目が始まるのだが時間になっても神田先生が入ってこない。
当然休み時間の延長みたいな時間になっているので騒がしい。
すると、教室の後ろ扉が開いて神田先生が顔をひょっこりのぞかせた。
それを見た教室内の生徒は一斉に席に戻る。
「小木ノ城さんと神崎くんちょっといいかしら?」
え?呼び出し?
「すみませーん。皆さん自習しててくださーい」
そう神田先生が声をかけたあと俺とジョーカを連れて廊下を歩く。
軽く世間話をしながはたどり着いた場所は職員室でも生徒指導室でもない。
その場所に俺は唖然とした…
目の前に『理事長室』と書いてあったのだ。
あれれ? 俺なんかやらかしたっけ……
どうも。弟のことが大好きな亜梨栖ちゃんです。
なんか
ま、別に今回はうちの方が思い出多いし良いでしょう。
んで、時は
うちは夕礼が終わったあとダッシュで帰りました。
おじいちゃんから西の方角に積乱雲があると高確率で雨が降ってくると教わったから。
その予想は的中してマンションのロビーに着いた瞬間小雨が土砂降りになった。
おじいちゃんありがとう。
今度このこと報告しなきゃ。
気温も徐々に上がっており帰宅すると汗をかいていたのでパパッとお風呂掃除をしてお風呂が沸くのを待つ。
その間に漫画を読んだり好きなアイドルのブログをチェックしたり…
少し夢中になり過ぎて気づいたら15分ぐらい経っていた。
脱衣所に向かうと理稀の物と思われる服が脱ぎ散らかしてある。
そういえばリビングにいなかったわね。
ってことは…
パパッと服を脱ぎ浴室のドアを開ける。
するとビクッとした理稀がいた。
「あっ、ごめん」と謝って風呂を出ようとする理稀を獲物を捕らえた獣のごとく腕を掴み浴室に戻す。
「とりあえず浴槽に入ってて」
そういうとシャワーで体を流し始めた。
浴室内にはシャワーの音やシャンプーの後が響く。
ラッキー。
このチャンス逃しませんわ。
だからこの前考えたツンデレ?作戦というものを決行するわ。
イマイチ理解出来てないから成功する保証ないけどやってみる。
「あの…亜梨栖お姉ちゃん。お背中をお流ししましょうか?」
はうぅ…何?何なの?
可愛い…キュンとしちゃったわ。
「亜梨栖お姉ちゃんだって…か、可愛い…」
思わず声に出てしまったけど聞こえてないわよね?
洗って貰いたいわ。もう体の隅々までね。
けど、今はダメよ。
そう言い聞かせながら「いえ、大丈夫。1人で洗えます」と伝えた。
つ、辛いわ…
「そ、そうか。わかった」
理稀の方を見るとシュンとして浴槽の端に寄り壁の方を向いてた。
ごーーめーーん。
心の中で精一杯謝った後に気を取り直して続きよ。
「理稀くん。うちの一番風呂奪ったわね」
「はい。ずぶ濡れだったので…つい入ってしまいました」
「楽しみにしてたのに…」
そろそろデレますか。というか種明かし?
少し間を開けるつもりだったのに言い出すタイミングがわからず5分ぐらい経った。
「うーそーよー! びっくりした? ねね?」
理稀が思わず振り返ってきたのでニコッとすると再び壁を向こうとしたので強制的に向きを変えた。
「お姉ちゃんがそんなことで怒るわけないでしょ? オロオロしてる理稀可愛かった」
はぁ…久しぶりに癒されたわ。
「まるで昔の理稀のようだった…」
上手く言葉で表せないけど、素直というか…ピュアだったわね。
「俺は変わってないけど?」
「そんなことないわ。 いい意味でも悪い意味でも変わっている。もちろん…うちもね」
人は変わるものよ。趣味や好みのタイプ。時には性格だって変わると思う。けど、それは成長と共に変わりゆくものだと思うから変化がないのは逆におかしいと思うわ。
「俺も正直に言うと昔みたいになりたいって思うんだ。けど……今の姉さんには好きな人がいる。それを邪魔したくないから。だから昔のようには…」
だ、か、ら…その好きな人ってね。あなたよ?
あぁ。この事実を伝えたい。けど、そんなこと言ったら回復しつつある関係が間違えなく崩壊して修復不可能になるだろう。
けど1つだけ言えることがあった。
「理稀が邪魔になることなんてない!」
そう。どんな時でもそれだけは言える。
「自分の弟を邪魔だなんて思うわけないじゃない? そんなこと思うなんて姉じゃないわ」
たまにはこのくらい言わなきゃね。超間接的にアピールよ。
「大好きよ…理稀っ」
うちったら…何言ってるのよ。そんなこと言うつもりじゃなかったのよ?
この雰囲気が悪い。
振られたらどうしよう…そしたら家族として好きってことにしておけば自然ね。
「あ、ありがとう…」
そ、それはどういう意味かしら?
YESorNOで答えて欲しいのだけど…
まぁ。なんかいつもより親密に話せたのでこれだけでも良かったのにそれに加えて嬉しい出来事がありました。
開運してる感じですかー?
夜ご飯を食べ終えて雷鳴が聞こえるなか本を読んでいるとすごい閃光が見えた。
雷の爆音には流石のうちもビックリした。すると理稀の様子がおかしくなった。
「カ、カミナリコワイヨ…」
なんか日本に来て数年の外人みたいな片言を話している。
「よしよし。理稀大丈夫だよぉー。お姉ちゃんがいるから怖くないよぉ」
とりあえず甘やかしてみるか。
すると…珍しく抵抗しない。むしろ若干甘えてきている。
あの…幸せを上回ったわ。この状態ってなんて言うのかしら?
その後雷が収まるまでこの状態でいた。
「ごめん…取り乱した。なんか恥ずかしいところ見られたな…」
「カミナリ様感謝します…」
「何か言った?」
「ううん。怖いものは怖いからね。これからもお姉ちゃんを頼りなさい」
そう。いつでもウェルカムよ。甘えたい時は甘えるのが一番。
その後雷雨が収まったのでお互いにやることをやって寝た。
しかし、あんな事が起きたあとじゃ寝付けるわけないわ。はぁぁ…最高ね。
結局ベットに入ってから1時間ぐらい寝れずに就寝したのは2時前だった。
翌朝物音で目が醒めると時刻は8時ピッタリ。
……。
寝坊しました…
今日少し早く登校して新しい本を借りようと思ったのに…
うちの学校は朝、昼休み、放課後に図書室が開くらしい。
そして、女の子の準備は時間がかかるのです。
いつも通り準備していると登校時間に家を出ることになるだろう。
どうするか…とりあえずスッピンで全力疾走→授業中トイレに行きメイクする。
これに決めた。
速攻で着替えてバックを持ちお弁当を入れようとすると2つあった。
…?
これは理稀の忘れ物だわ。届けなきゃ。
バックに2つのお弁当を詰めて全力疾走。
中学の時陸上部だったので走りには自信があるけど…胸にある重りが邪魔ね。
色んな人、特に502号室の子を敵に回しただろうけどそれどころじゃないわ。
教室には予鈴がなってから2、3分後に到着。
本当にギリギリだった。
教室に着くと同時に担任の先生が入ってきた。
朝の全力疾走のせいかほぼ全部の授業でうたた寝して、4時間目の地理の授業はDVD鑑賞だったので爆睡。
気づくと昼休みになっていた…
Eクラスに到着すると入口のところで話している女子生徒が居たので聞いてみることにした。
「あの…よし…神崎くんいる?」
「えぇっと…後ろの廊下側にいますよ! 神崎くーん お客さんだよー」
教室にいてくれて良かったわ。
その後なんか色んな場所から視線を感じたけど気にしないわ。
中には『神崎くんの彼女?』なんて声も…
まぁ、なんて嬉しいことを言ってくれるのかしら。同居してるし?彼女みたいなものね。
その後お弁当を渡してさりげなく一緒にお弁当を食べることに成功。
理稀のお友達である涼夜君、愛依奈ちゃん、楓ちゃんはとても良い子で理稀のお友達にふさわしいわ。
502号室の何とかちゃんのように警戒する必要は無さそうね。
お弁当を食べ終えて廊下に出ると理稀が追いかけてきた。
「姉さん。お弁当本当にありがとう…このお礼はいつかするから」
「いいのよ。大切な弟のためだからね。お礼期待してるね」
そう言うと理稀はニコッとして教室に戻った。
守りたいあの笑顔…
理稀…これからも存分に甘やかしてあげるわ。覚悟してねっ♡
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