第16話 夏休みと初めての……
最近気のせいか時間の流れが早くなってる気がする。
湿気に悩まされた梅雨が明けて今度は猛暑日に悩まされる日々に…
夏を感じられて嫌いじゃないって人もいるらしいけどその人とは仲良くなれなそうだ。
まだ7月だけどもう秋になっていいよ…
そして今日は終業式。
全校集会を終えて教室に戻ってきた。
うちの学校は夏期課題が少なく俺を含め勉強が嫌いな人からしたらラッキーと思える。
各教科プリント3〜4枚ぐらいと、書道ぐらいだ。
一日一科目終わらせてしまえばほぼ1週間で終わる。
後は遊び放題だーー。
しかし、姉さん曰く『夏休み明けと同時に実力試験があるらしい』とのこと。
その事は一切言われておらずクラス中に『遊べるー』『中学の時鬼みたいな課題に悩まされたー、けど今はそれがない』と言った喜びの声が聞こえた。
この学校怖くね?
いきなり『テストだよ』なんて言われたらクラス中が凍りつくよ。
俺の周りのいつメンも同様の喜びをしていた。
「ねねっ。宿題これだけだってー。みんなー遊びにいこーぜー」
愛依奈が喜びのあまり俺たちに絡んできた。
「そうだな。中学の頃とは違って宿題に追われることがないのか。遊ぶぞー!!」
涼夜も珍しく愛依奈に便乗して盛り上がっている。
それを俺とジョーカは眺めている。
ふとジョーカと目があった。
そこから何もなく目線を逸らされた。
こんな事、前にもあった気がする。
嫌われてない……よね?
「あなた達〜。宿題ないからって勉強サボちゃダメよ。わ、わかった?」
おっ、これは『休み明けにテストあるよ』という忠告なのだろうか。
もし、これが忠告だとして、気づいた人っているのかな。
見た感じ居ませんね。
ふと思ったけど、なんか先週からメグちゃんが割と別人のようになった気がする。
姉さんや月羽から『あの教師には気をつけた方が良いかも』と言われたけど何か関係があるのだろうか?
まぁ…あるよね。きっと。
「今週末に花火大会があったりイベントが多いですがくれぐれもハメを外さないように。高校生としてしっかりするのよ!」
おぉ。珍しくハキハキと言い切った。
そしてこちらをみて『どう?凄くない?』と言わんばかりのキメ顔をしてきた。
「メグちゃん。すごーい」
愛依奈が褒める。
俺も拍手してみるとVサインをしてきた。
ノリいいな。
てか、やっぱり変わったよな…
そういえば花火大会近いのか。
昔から花火好きだったから行きたいんだけど、人混みが嫌なんだよなぁ…
家から見ることが出来るらしいので、ベランダでグラス片手に眺めるかな。
ヤバっ…想像したら楽しみになってきた。
「それじゃ、かいさーん。みんな良い夏休みを過ごしてねー」
そう言い終えると、チャイムが鳴り一斉に椅子が動く音がした。
友達の席に向かったり、真っ先に帰宅したり、メグちゃんの周りに集まったりと各々散っていった。
相変わらずメグちゃんは人気らしく何人ものクラス女子から『この日空いてる?』『一緒に勉強しよう』と言われていた。
あれ、メグちゃんって本当に先生だっけ?
俺たちはいつも通りにあの教室に向かうことになった。
3人は立ち上がり準備完了なのだが……
カバンに色々押し込んでいる涼夜待ちだ。
「くそっ…昨日あと一冊持ち帰っていれば……」
「そろそろチャック壊れるんじゃない?」
「大丈夫だ…こ、こいつは中学の頃から使ってる丈夫なやつだ」
「それフラグだから」
愛依奈が笑いながら言った瞬間カバンから鈍い音がした。
「ほらね。わたしの忠告を無視したから」
「お、お前がフラグとか言うから回収しちまったじゃねーーか!」
「フラグ回収おめでとー、パチパチ〜」
「お前な……」
愕然とする涼夜とケラケラしてる愛依奈。
「明日以降また取りに来れば良いじゃん? どうせ何日も学校に来るんでしょ」
「いや、俺は残すのが嫌いだ」
「何言ってんの?」
愛依奈が呆れてた。
それにしてもどうするかな。
チャック全開で中身晒しながら帰るのは辛いだろうし、紙袋とかエコバッグとか持っているかも。
「メグ……神田先生に聞いてみるか」
K教室のあの散らかり具合からして、何かしら持っていそうだし。
「だねーー。理稀聞いてきてー」
「あいよ!」
何か持っていそうなので聞いてみることにした。
俺が教壇へ向かうとちょうどクラスの女子達との会話が終わった…いや、終わらせていた気がする。
「ちょうど良かった。わたしについて来てっ」
有無を言わさず俺の右腕を引っ張られて教室を出た。
えぇ!?
流石に廊下では恥ずかしいので俺の右腕を解放してもらったがいつもより距離が近い気がする。
教室から少し歩き階段を上がって左に曲がったところで止まった。
そこは生徒会室。
普通の学生って色々なところに呼び出されるのか?
「とにかく中に入って! 話はそれからよ」
よっぽど急ぎなのか、ガチでなにかやらかしたか。
初めて入る生徒会室。
まず目に入ったのが学校や会議室とかによくある茶色の長机が4つ向かい合わせになっており、パソコン室にある背もたれが少し動く椅子が4つ置いてあった。
あの椅子に寄りかかって落ちかけたことあったっけ。
恥ずかしかった…
そんなどうでもいいことを思い出しながら生徒会室を見渡す。
教室内に生徒はおらず静寂に包まれていた。
予想以上に狭いが、よく見ると奥にもう一部屋あった。
てか、誰もいないのね。
「あの奥にある部屋に入ってちょうだい」
「わかりました」
これは完璧なお説教なのでは…
躊躇しててもなにも始まらないので指示された部屋に入る。
一応ノックすると『どうぞー』という声が聞こえたので誰かいるらしい。
ノックして良かった。
恐る恐る部屋に入ると木製の大きな机があり両端にはファイルや書類などといった学校関係の資料がばっちり並んでいた。
イメージ通りの生徒会長室だった。
「七海ちゃん連れて来たわよ」
メグちゃんがそういうと俺を一歩前に出した。
「ど、どうもー」
恐らく生徒会長だろう。
入学式の時にステージ上で話してた気がする。
「やっほー。元気かい?」
「え、えぇ。まぁ…」
「そんな堅苦しくしないで! 生徒会長なのにわたし真面目じゃないし」
言葉には出さないけど真面目な人では無さそう…
髪の長さはセミロングって言うのかな?肩にかかるぐらいのストレートで、星のヘアピンで前髪を止めている。
髪はやや茶色気味。
姉さんと愛依奈と足して2で割ったというのが俺の第一印象だわ。
「さぁ…わたしの名前は何でしょう?」
「いきなり難問だ!!」
「いいツッコミだねー。いいよいいよー」
この人に会うの入学式以来だし、あの時基本的に愛依奈と話してたから名前とか聞いてなかったしなー。
「ヒントは七海〈〈ななみ〉〉って名前。あと苗字を当てよ! もぅ…簡単よね。わかっちゃうよねー。当てられないと帰れないよねー。」
「えぇ!?帰宅難民確定じゃん。名前…わからん!」
「だよね。これでわかっちゃ面白くない。当たるまで帰さないよー」
生徒会長様は豪華そうな椅子をリクライニングさせて俺の答えを待ってる。
「うーん、山田さん? 田中さん?」
「どっちもちがーう。そんな普通の苗字じゃありませーん」
こんなんわかるかーー!!!
とりあえず…存在する苗字片っ端から言うか。
「そういえば『新崎さんへ』って書かれた書類落ちてたわよ。あと、頼まれていた書類持って来たわ……あっ」
……!?
「わかった! 新崎さんだ」
「でしょうね。あーー、ネタバレだよぉ!」
生徒会長様……新崎さんは椅子から立ち上がりメグちゃんの前に立った。
「ご、ごめんね…?」
「もぅ、これだからメグちゃんなんだよ!」
「こ、こらっ。先生をメグちゃんって呼んじゃダメよっ!」
「でもぉ〜、この前わたしとの賭け事に負けて、わたしに助けられて、わたしに追いつかない仕事を手伝ってもらって…」
弱み握られ過ぎでしょ。
「そ、それは……」
「あの時言ったよね。この仕事手伝ってくれるなら好きにしてって」
出た!限界ギリギリの追い詰められメグちゃん。
2人のやり取りを見てるとちょくちょくメグちゃんから助けてを言わんばかりの視線を感じる。
何も出来そうもないのでそーっと視線を逸らす。
ごめんねっ。
「まぁ、生徒会長様。メ……じゃなかった神田先生も立場があるし先生って呼んであげてはどうでしょう? 一応先生だし」
やっぱり見過ごせなかったので助け舟を出してみた。
救助出来るかわからんけど。
あと、余計なことは言わないつもりがつい『一応』なんて言ってしまった。
まぁ原因があるから結果がある。
因果関係ってやつ?
「フォローありがとうね。一応って言ったこと忘れないからっ!」
満面の笑みでそう答えるメグちゃん。
怖っ…
でも、どこか嬉しそうな気がする。
「はいはい。んで神崎君も暇じゃなさそうだし用件を伝えるわ。そこに座って」
これ、メグちゃん救助出来たんじゃね?
それから新崎生徒会長はさっきと別人のように俺たちを応接室にありそうなフカフカそうなソファーに案内した。
向かいにメグちゃんと新崎生徒会長が座ってその向かいに俺が座ってる。
「神崎君には2つお願いしたいことがあって呼び出したんだよ」
そう言って資料を出してきた。
「お説教じゃなくてよかった…」
「違うよー。思う節があるってことは最近なにかやらかしたのかなぁ?」
「やらかしたわね。わたしの心を奪ったわ」
……。
……は?
メグちゃんのよくわからないギャグ。
「今のはツッコミを入れた方がよかったのかなー?」
生徒会長が困惑してる。
「な、なーんてね。これでお説教じゃないことがわかったでしょ? さ、さぁ、続けて」
両手で顔を扇いでいる。
恥ずかしかったんだな。
やっぱり様子がおかしい…。
心配を通り越して少し不気味。
「こ、こほん。続けてもいいかね?」
生徒会長のわざとらしい咳払いで雰囲気をリセットした。
「神崎君。君にはまずボランティア活動に協力……いや、参加してっ!」
手元に置かれた資料に目を通すと『花火大会の片付けボランティア募集!!』と書いてあった。
概要を見ると花火大会の会場となる河川敷のゴミ拾いを行うらしい。
朝4時半集合で2〜3時間ゴミ拾いをして解散らしい。
うわぁ、朝早っ…
この時間に起床とか無理難題だよ。
「ご覧の通りこのようなボランティア活動をしてほしいわけだ。メンバーは君とメグちゃん」
少なっ!てか、会長不参加なのかい。
「あー。ちなみにぃ、わたしは高校最後の夏休みをリア充させるために不参加だから〜。友達と屋台のたこ焼き食べて〜花火見て〜、そのままパジャマパーティーして〜」
「お、おぅ…」
それしか言葉に出せなかった。
「と、言うことで! わたしとボランティア活動するわよ。生徒会長様命令だもの。逆らえないわ」
「少し……」
「考える暇はないわよ」
拒否権なし!?
「てか、生徒会長より教師の方が上では?」
「フフッ、わたしはメグちゃんの色んなことを握っているので生徒会長の方が上なんだなぁ」
ふとメグちゃんを見ると俯いた。
この2人の関係気になる。
「ま! あとは2人に任せた。他に人を誘っても良いよ」
なるほど。涼夜とか愛依奈辺り聞いてみるか。
でも愛依奈は『タダでは働かんよ〜』とか言いそう。
「んで。2つ目なんだけどね」
そういうと生徒会長は辺りをキョロキョロした。
周りをとても警戒しているようだった。
「これから話すことは絶対に誰にも言わないで欲しい」
その一言で空気が変わった。
俺は無言で頷いた。
「休み明けから1人転校生が来る」
……。
え、普通じゃね?
そう言おうとした時に再び資料を渡された。
それを手に取り一通り読むことにした。
……!!
これは誰にも言えない内容だ……。
生徒会長から解放されてメグちゃんと2人でK教室へと向かうべく廊下を歩いている。
「ねぇ。理稀くん」
しばらくお互い会話が無かったが階段を降りたところでふと声をかけられた。
「どうしました?」
「わたしは貴方が好きよ?」
……!!!!?
え、告られた?
その割には視線は正面を向いていた。
「俺告られました?」
「そうね。でも返事は要らないわ。前に約束したものね。少しあの約束を破ってしまったかもしれないけど見逃して」
そういえば軽井沢へ行った時『あの場所で同じ状況になったらお互いの気持ちを伝える』と約束をした。
今日は午前授業で太陽がほぼ真上にあり、全くもって黄昏時ではないので俺の気持ちは伝えなくてよいよね?
さっき返事は要らないって言ってたし。
けどなんでそんな事を伝えたのか気になる。
そこからは特に会話もなくK教室に到着した。
気まずかった…。
扉を開けるといつものメンバーが揃っていた。
全員扉で全員がこちらを向き、ジョーカが立ち上がってこちらへ走ってきた。
「理稀くんこの人から逃げて!」
そう言われるのと同時に右腕をがっしり掴まれて引っ張られた。
その後俺の前にジョーカと月羽、それに姉さんが立ちメグちゃんとの壁になっている。
涼夜は不思議そうな顔をして愛依奈は頭に?を浮かべたような顔をしてから何かを思い出したらしく『ほぉ!』と呟いた。
「理稀くんを守る!」
「ヨシくん…何もされてない? 平気?」
「弟を守るのは姉の仕事!」
何かドッキリでも始まるのかと思い辺りを見渡すも特に何もなし。
「ちょっと…貴女たち何してるのよ」
「これはこっちのセリフよ。このピュアピュアな弟に手出しはさせないわ!」
ヒーローごっこ?
「そうよ! ヨシくんは渡さないわ!」
「こ、このわたしもお、怒るんだからね! こ、この…ま、ま、魔女!」
口元に手を当ててメガホンみたいにして必死に言ってるジョーカ可愛い。
「ちょっと意味わからないんですけど」
呆れているメグちゃん。
それに構わず必死に俺をガードする3人。
何故か心強い気がする。
「おいおい。担任と駆け落ちしたあとはこれかい」
涼夜が呆れ気味に声をかけてきた。
「駆け落ちって…」
「親友が困ってるって時に…2人してどっか言っちゃうんだもんなー」
忘れてたけど涼夜のために袋を探しに行ったんだっけ。その後誘拐されたんだった。
「悪かった…」
「君は友情よりそっちを大切にするんだな」
マジでご立腹かと思い様子を見るもそうはみえない。
「なーんてな。大変だったな。気にするな! 袋はジョーカがくれた」
涼夜は俺の肩をバンバン叩きニコニコしていた。
割と本気で申し訳なくなったのにこれかよと思ったがまぁいいだろう。
「そろそろお腹空いたからこれでわたしとみんなのお昼ご飯を何か買ってきて。高いものはダメよ?」
俺と涼夜が話を終えるとそんな声が聞こえた。
そう言ってお財布から5000円札を取り出した。
「「おぉ!」」
「アス姉。行きましょう! あと涼夜も」
「行こっー」
「お、俺も行くのかよー。ゆっくりした……わ、わかったから襟を掴むな。伸びるって!!」
愛依奈と姉さん、涼夜の3人で買い出しに行ってしまった。
「あっ、忘れ物してた…危なかった。 ちょっと教室行ってきます」
月羽はふと何かを思い出したらしく少し慌てながら教室を出て行った。
残るは俺とジョーカとメグちゃん。
……。
……。
寡黙な時間が過ぎていく。
「さぁ、どうするの楓ちゃん。貴女1人で彼を守れるかしらねぇ〜」
「うっ…そ、それは…」
「さぁ、そこを退きなさい!」
なんか子供と遊んでるお姉さんみたい。
親戚のおば……じゃなくてお姉さんと1人娘みたいな?
「でも! ここを動かない!」
「おぉ。ジョーカ……」
普段見せない勢いのある発言。思わず声が出てしまった。
俺の声に反応してこちらに振り向きドヤ顔をしてきた。
うん、可愛いね。
「……ひゃっ」
それが仇となりメグちゃんに横腹を鷲掴みされて固まった。
そのまま倒れ込む。
その瞬間を見ていたらスカートの内側が見えた…
ピンクでした。
それにしてもめっちゃ弱い防御壁(笑)
「さぁ。これで誰もいなくなったわ。ここから2人っきりの時間よー」
「ダ、ダメーー」
ジョーカの叫びも届かず2人っきり?で何かをするのかと思えばさっきの資料を広げた。
集合時間とかボランティア活動の予定などを決めようとした。
それを俺の隣に座り見ていたジョーカはとても参加したそうな素振りをしていたがその日は別荘に行くので参加はできないとのこと。
とても残念そうだったので『どこか出掛ける?』と声をかけた。
すると『うん!行くっ!』と言ってくれた。
よかったと思いふとメグちゃんの方を見ると無表情でガン見されていた。
怖っ……
「ご、ごめん、寝不足で……ささっ続きよ」
絶対嘘でしょ。
こうして打合せが続き、しばらくして外出組が戻るとみんなでお昼を食べた。
そういえば、さっきの3人がメグちゃんを警戒していた理由ってなんなんだろ?
そんな事を考えながらその日は終わった。
終業式から約1週間ちょっと経った金曜日。
まもなく8月になろうして、外気温は35℃に達する日が当たり前になりつつあった。
猛暑日が続いて外出するのが躊躇われる日々。
あのメンバーで夏休みをどうするかを決めたのだが、結論として暇な時はK教室に集まることになった。
最初は月、水、金で集まろうなんて言っていたが『面倒』『早起き嫌だ』『予定ある』『仕事でほぼ居るから関係ないわ…』など意見がまとまりそうもなかったので、暇な時や誰かから誘いが来た時に参加する感じになった。
ちなみに俺は火曜、木曜の2日間しか行ってない。
めっちゃ暑いしやっぱり外出って面倒じゃん?
姉さんは木曜日のみ参加。
火曜日は前日夜更かし過ぎたらしく起こしても全く起きなかったので置いていきました。
なぜか、終業式の帰り以降、俺がKへ向かう時は姉さんか月羽、愛依奈の誰かがいることが条件らしい。
メグちゃんが警戒されている(笑)
ボディガード付きとか有名人じゃん!なんて思ったけど女性に守られる男って……
そんな感じでダラダラ過ごしているのでこの日も結局家で過ごすことになった。
最近はクーラーの設定温度で姉さんとよくバトルを繰り広げている。
「姉さん!設定温度20℃って…電気代かかるからやめてよー」
「えー、暑いし。良いじゃん〜」
「ダメだよ。もったいない」
「理稀が働いて電気代出しているわけじゃないんだからいいじゃん。やっぱり快適にすごそーよ?」
エアコンの風が当たるところにマットを敷き横になってる姉さん。
タンクトップにショートパンツという極めて露出が高い格好をしている。
「その浮いたお金が俺たちのお小遣いなんだから節約しなきゃ! てか、そこ体に悪いよ?」
「そーなんだけど。やっぱり目先の快適からは逃れられないのだー」
はぁ……
思わずため息。
まぁ、少しぐらい変わらないのかな?
そんなことを思いスマホをいじる。
「てかさ!」
急に姉さんが声をかけてきた。
「ん?」
「理稀あたしの心配してくれるんだ」
「えっ?」
スマホから目を離し姉さんの方を見るとうつ伏せの状態から顔を上げた姉さんがこっちを見ていた。
タンクトップでその体勢だと……
「エアコンの設定温度上げる?」
なんと!人を心配すると反応も変わるのか!
これは使える!!
「いいの?」
「いいよ?」
そう言われたのでエアコンのリモコンに手を伸ばした瞬間にふと姉さんの方を見るとタンクトップに手をかけていた。
「ちょ!なにしてるんだよ!」
「脱ぐの」
「そうなんだ……はぁ?」
エアコンのリモコンを床に置き姉さんの方へ向かいタンクトップにかけた手を押さえる。
「ちょっ…この上に着てるやつ脱がせたいのぉ? この変態さん♡」
イラッ…
「んなわけあるかい! 逆だよ」
「えぇ!? 下を脱がせたいのぉ…それはお姉ちゃん恥ずかしいわぁ♡」
「なんでそうなる…」
シカトするつもりがついツッコミを入れてしまった…
「だってぇ…上の反対って下じゃん。どーしても脱がせたいなら一緒に水風呂入ろうよ〜」
「いやいや、入らないし!」
「ケチー!」
「いやいや、普通だから」
「あたしはこんなに好きなのにぃ。誰にでもこんな事言うわけじゃないよ?」
でしょうね。さすがに色んな人にこんな事言ってたら嫌だよ。
「好きかぁ…」
思わず出た一言。
俺には好きな人っているのかぁ。
この人と付き合いたい、結婚したい。そんなことを思えるような人か……
脳裏に思い浮かぶ数人の女性達。
月羽、ジョーカ、メグちゃん、愛依奈、紫依奈さん…………そして姉さん。
もし、それらの人から告白されたらどうするか。逆に俺がしたらOKしてくれるのだろうか。
またはそれ以外の今はまだ知らない人から告白されたらどうなるのか……
優柔不断な性格だから心配だ。俺の一言で傷つけたくない。
そんなことを考えてしまった。
「おーーい。理稀くーーん起きてるかい?」
気づくと姉さんが声をかけていた。
「ご、ごめん。少し考え事してた…」
「あたしの告白にそんな考えなくても…」
「いや…」
「ねえ。もしさ、好きな人との恋が許されないものだったらどうする?」
「それって…」
姉さんの恋バナを聞くことになるのか。相談される嬉しさみたいなものもあるけど心のどこかにモヤっとしたものがあった。
「いやいやー。もしもの話! 聞いてみたくて」
「俺は……」
アドバイスを考えるつもりが姉さんの好きな人について考えてしまう。
同級生?先輩?前の学校の人?
"許さないもの"ってことは……社会人、それとも小中学生?
色々考えるもまとまらない。
「なーにそんなに真剣に考えてんのよ」
そう言って肩をバシバシ叩かれた。
「だって…」
「忘れて! トイレ行ってきまーす」
そう言って姉さんは部屋を後にした。
その後はいつもと変わらない時間を過ごした。
お互いにゲームしたりスマホを見たり。
気づくと時刻は22時を過ぎていた。
俺がシャワーを浴び終えてリビングへ戻るとベッドに横になっている姉さんに手招きされた。
近づいてみると昔のアルバムを見ていた。
「みてみてー。引越しの時に持ってきたアルバム。懐かしいよー」
こんなもの持ってきていたのか。
クマのキャラクターが描かれた赤色のアルバム。
これは初めて見るかも。
ページをめくると恐らく小学2〜3年生の頃と思われる俺と姉さんが写っていた。
2人はニコニコしてアスレチックで遊んでいたり、庭のビニールプールで遊んでいたり、俺が姉さんを撫でていたり……なにこれ。
ページをめくるとケンカしたあとなのかお互いにムスッとしている写真もあった。
そして田舎の祖父母の家に遊びに行った写真もあった。
お、俺がクワガタを捕まえている…(°_°)
「懐かしいね」
「そうだね。楽しかったなぁ…この頃」
ページをめくりながら呟いた。
間違いなく今とは違う関係だった。
お互いのことなんて何も考えないで遊んでばかりだった。
あの頃の関係が続いてたら今の俺たちはどうなっていたのだろうか。
そんなことを考えていた。
それよりも虫触ること出来たんだな…俺。
そっと手のひらを見る…
うん。今は無理!!
それからも2人してアルバムを眺めながらあの頃を思い出して笑ったりした。
そして最後のページになり写っていた写真を見て絶句した。
「え………、なにこれ」
そこには姉さんの頬に付いた生クリームを舐める俺の写真。
2人ともニコニコしてる……。
俺は姉さんをチラ見すると、同じくチラ見した姉さんと目が合う。
「エッチ♡」
照れながら姉さんが呟いた。
「こ、これは…そ、その…違うんだ。わからないけど!」
昔の俺ーーー、何してるんじゃい!!
こうなった経緯を肩を揺さぶって尋問したい。
「こんな大胆に舐めちゃってーーもぅ」
姉さんは頬に手を当ててクネクネしてる。
何かの間違いだと言いたいけどここに写ってるし。
「これは嘘だ! コラ画像でしょ?」
「んなわけないでしょ。『写す真実』と描いて写真と読む。ざんねーーん」
その後写真を何度も見てみるもコラ画像…てか、コラ写真?である証拠がない。
「ねねっ。今度はあたしが舐めて良い?」
「はぁ!? いや無理無理〜」
この姉酔っ払っているのか?
未成年なのに。
顔を見ると少し赤い気がする。
気になったので額を触ってみた。
「ちょっ……なにするん?」
驚いて動きが止まった。
とりあえず一安心。
「少し赤いから熱でもあるのかと」
「ないわ。健康よ! もー、照明邪魔よっ」
そう言って立ち上がり部屋の明かりを消した。
八つ当たりされた照明可哀想…
いつも照らしてくれているのに。
今日は満月らしく良い感じに月明かりが入ってくる。
最初は真っ暗だったが徐々に暗闇に慣れてきて視界が開けた。
「良いムードね。さっ、舐めさせて」
「……」
姉さんへの検温が逆効果になった…
雰囲気とかその場のムードって大切だとわかった。
さっきまで嫌だったのにそうでもない自分がいた。
「少しだけなら…」
発言後に理性が戻ったらしく何言ってるんだってなった。
「じゃ、遠慮なくー」
そう言って姉さんは近づいてきた。
俺はとりあえず目を瞑る。
(>人<;)←今の俺こんな感じだわ。
すると頬にほんのり暖かい感触があった。
目を開けると隣には満足そうな姉さん。
はぁ…終わった。
変に緊張したわ…
「ねぇ」
「ん、なに?」
姉さんは俺の頬を人差し指で突いた。
「あの……」
珍しく姉さんがモジモジしてる。
いつもビシッと行動するので珍しい。
初見かもしれん。
「お願い……あるんだけど」
「なに?」
「絶対笑ったり、引いたり、逃げたりしない?」
「場合によるかな」
この人は何を俺に願おうとしているのか。
最後の『逃げない?』が引っかかる。
この状況でのお願いか…
嫌な予感しかしないんだが。
……。
……。
よくない内容を思いついたので首を振って邪念を追い払う。
「なにしてんのよ」
「別に」
納得いかなそうな表情をしている。
「眠くなってきたから早く伝えてくれない?」
いつもはそんなことないのに今日はめっちゃ眠い…
目を瞑ったらそのまま寝れる自信ある!
「わ、わかったわ」
『スーハー、スーハー』と深呼吸している。
『あたしと付き合いなさい』とか言われたらどうしよう。
そんなことあるわけないけど。
「コホン…あのね」
下を向いていた姉さんが正面を向き目が合う。
「あたしと……」
「うん」
「キスして」
「うん……はぁ?」
この人は何を言っているんだ。
酔っ払っているのか?
今日の晩飯アルコール入ってないよな…間違って酎ハイとか買ってきてないよな。
「早くしなさいよ!」
そう言って俺の両肩を鷲掴みした。
こ、怖っ…
てか、地味に痛いんだけど。
「無理だよー」
俺は必死に首を横に振る。
姉さんをチラ見すると何故かいつもの神崎亜梨栖には見えなかった。
頭の変なスイッチが入ってしまったのか。
「じゃあさ。あたしが知らないヤツとチューしてもいいわけ? 初めてのチューだぞ?」
「そ、それは…」
なんでだろ。別に『お姉ちゃん大好き!!』ってわけでもないので、そんなこと知ったこっちゃないと思う。
その筈なのに…
『それはイヤだ』
俺が脳裏によぎった言葉。
『そんなヤツいるわけないじゃん』
なんて言ってみようと思ったけどそれは流石に言えない。
「いいよ……」
数十秒間に色々考えた答えだった。
正直イヤではない。
ここは我が家だし誰も見てないし、姉さんもこのことを言いふらす人ではない。
経験の一つとしていいんじゃないかと言うのが最終的な結論だった。
というのは表向きの考えだろう。
正直に結論を出すとやっぱり姉さんが知らないヤツとすることがイヤだった。
多分あのアルバムのせいだな。
こんな言葉絶対に口に出来ない。
「じ、じゃあするよ?」
「う、うん」
めっちゃ近い…
こ、こんなに近くで姉さんを見たのはいつぶりだろう…
あ、さっき見たわ。
……。
緊張をほぐすためにこんな冗談を考えてみたがまったく変わらなかった…
眠くなってきたし早く終わらせちゃおう。
俺は姉さんを抱き寄せた。
「ひやっ……」
一気に口づけを交わした。
……。
……。
その後しばらくそのままの状態が続いた。
不思議なことに体が動かなくなってしまった。
こんな感覚初めて…これはヤバい。
テレビか雑誌か忘れたけどキスをすると幸福感に溢れるなんて言ってたっけ。
『馬鹿馬鹿しい』なんて頬付けつきながら見てたけどあれは嘘じゃなかった。
幸せかも…。
そしてお互いの唇が離れる。
その瞬間心のどこかで名残惜しさがあった気がする。
「……」
「……」
お互いに相手の顔が見られない状態。
は、恥ずかしい〜
姉さんは薄暗い部屋にいてもわかる程真っ赤になっていた。
「ど、どうだった?」
最初に口を開いたのは姉さんだった。
どうだった?って聞かれても…
『最高でした!!』
なんて言えない…
「ふ、不思議な感覚だった」
そうとしか言いようがない。
「そっか」
「うん」
「またしたい?」
「うん」
「えっ?」
ここで初めてお互いの目線が合った。
恥ずかしさで再び視線を逸らす二人。
「こ、これであたしの初めては君のものだ〜」
俺の顔に人差し指を向けた。
「俺の初めても姉さんのものだから…」
言い返してやった。
「はわわわわぁ〜」
姉さんから聞いたことない声がした。
恐らく超照れてる。
そんな姉さんも可愛い。
今の俺って……狂ってるな(笑)
そして再び見つめ合う。
また唇を重ねる。
自然な流れだった。
「セカンドキスだね」
「そんなものあるの?」
「知らん!!」
2回目のキス以降お互い平常心を取り戻してきた。
「この先も…やっちゃう?」
こ、この人は何を言ってんだ。
「そうだね!」
満面の笑みでそう言った。
調子に乗り始めたので少しカツを入れなきゃ。
……。
でも、ほんのちょっと…しても良いかななんて思ったりした。
この気持ちは忘れよう。
間違いなく日常生活に支障をきたす。
「わわわぁ。えぇ…こ、心の準備させてぇー」
予想通りの反応。
冗談半分で言ったのが肯定されて焦ってる。
「じょーだん。そろそろ寝ようよ。ねむい…」
時計を見ると日付変わっていた。
「そ、そうねぇ」
姉さんはタオルケットを被って横になった。
めっちゃ焦っているし照れてる。
その姿が微笑ましかった。
俺も寝るために隣のベッドに移動した。
「ねぇ」
俺も横になろうとしたら姉さんの方から声がした。
「なに?」
「一緒に寝たい」
「いいよ」
今の俺に否定する理由がなかった。
それに少しだけ姉さんの温もりを感じたかった。
もしもこのままお互い就寝するのであれば姉さんのベッドへ忍び込もうなんて思ったりもした。
やっぱり今の俺おかしいな。
寝て起きたらリセットされてますように……。
程なくして姉さんが俺のベッドに入ってきた。
今更だけどなかなか露出の多いルームウェアですこと…
ホワイトのレースパジャマで半袖とハーフパンツだ。
俺は部屋着にしてるアニメキャラが描かれたTシャツに中学のジャージ。
学校のジャージを有効活用してます。
てか、中一の頃買ったジャージが何不自由なく身につけられるって成長してないってことだよね…
話がそれてしまったけどお互いに肌の露出が多いわけでいろんな部分が触れる。
ね、寝れないんだけど…
「どうしよ…寝れないわ」
姉さんも同じ事を思っていたらしい。
少し前まで『抱き枕』とか言ってたくせに。
俺が仰向けで姉さんが壁と反対側を向いて横になっている状態。
俺が壁の方は寝返りを打つと姉さんはぐるっと同じく壁側を向いたらしい。
背後から微かな息遣いが聞こえる。
そして密着してきた。
「本当にこの後の事やっちゃいそう♡」
「じょーだんでしょ」
「うん。大好きだよ。おやすみ」
「俺も……、おやすみ」
は、恥ずかしくて大好きなんて言えるかーー!!!
こうして忘れられない夏休みの思い出が出来た。
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