第11.5話 それぞれの過ごし方
はぁ……眠い、疲れたぁ〜。
わたし、恵海は慣れない長距離運転にやられてゴロゴロしていた。
それよりも…
『昨日までワイワイ楽しんだ後の1人って辛いわ! 寂しい……』
いつも一緒に寝ているくまのぬいぐるみを抱きしめながらゴロゴロする。
この瞬間が幸せなのよね。モフモフ〜
……。
はぁ…お腹空いたわ。
とりあえず冷蔵庫を覗くと前に作ってくれたカレーが入っていた。
それを電子レンジで温めながらスマホを眺めていた。
画面にはメルマガとアプリの通知が出ていた。
「誰からも連絡来ないんですけどぉ」
思わず独り言を言ってしまった。
一人暮らしのあるあるらしい。
それと同時に電子レンジの温めが終わったのでテーブルへ持っていった。
「理稀…いただきます」
作っていただいた方への感謝の気持ちを込めただけよ?それ以外の意味はないんだからっ。
手を合わせて食べる。
カレーを口に含むとお肉の旨味、玉ねぎの甘さ、スパイスの香りが口いっぱいに広がった。
「美味しい…美味しいわ!」
また声に出してしまった…
ま、誰も居ないから平気なんだけどね。
……。
寂しくなんてない!!
その後テレビを見ながらカレーを食べ続ける。
普段少食のわたしが2杯目を食べるほど美味しい。
え? 前に大きなハンバーガー食べてたって?
フフッ…それは気のせいよ?
ということで特に何もすることなく1日が過ぎていった。
しかーーし。こういう時って何かしらイベントが起きるものよ。
……。
……。
本当に何も起きませんでした(´・ω・`)
翌日。
休み明けまでに終わらせなくてはならない仕事のために学校へ向かった。
すると職員室で隣の机である、松岸礼奈〈まつぎし れな〉先生以外誰も居なかった。
年齢は27歳で髪型は焦げ茶色のミディアムヘアーで体型はスマートなのに胸がデカい。
彼女はありのままに見せているのでデカく見えてるだけよ。わたしだって脱げばすごいんだからっ……ドヤッ。
見渡す限り礼奈っち以外の姿が見えないのでラッキー。
今日は楽しく過ごせるわ。
「おはー。休日出勤おつかれー」
「出たなー! めぐみん 」
わたしは机にバッグを置いて椅子に座るとペットボトルのミルクティーが置いてあった。
休み前に持ち帰るのを忘れたんだっけ?
不思議そうに眺めていると隣から話しかけられた。
「それ。ホットコーヒーと間違えて買っちゃったのよ。あげるー」
わたしが出勤するってよくわかったわね。
とりあえず貰えるものは貰います。
「ありがとう〜いただきます!」
「フフッ…高いわよ? それを飲んだってことはうちの話に付き合ってもらうわ」
……。
「えぇー。嫌よ」
露骨に嫌そうな顔をしてみたが、彼女には効果なし…
「いいじゃん! 愚痴を聞いてっ。あのね…」
「フラれたか?」
「なんでわかったん? うちの心を読んだんか? そうなんか?」
そう言ってわたしの肩を揺さぶる。
礼奈っちの愚痴を言えばフラれたか金欠のどっちか。
まれに仕事の相談もある。
本当にごく稀ね。
「で。今度はどうした?」
「あっ、今回はちょっと違うのよ」
「何が違うのか教えてもらおうか」
あんなこと言ってどうせ大した違いはないのよね。
「今回はあたしからフったのよっ。あいつ…『ママ〜』とか言ってて……あーーマジキモい」
礼奈っちは身をよじった。
「またダメだったか。本当にハズレ引くわね」
ほぼ毎回ハズレている。
逆にそこまで外すのもすごいと思う。
「もう…こうなったら生徒に手を出すしか…ヘヘッ」
「それはダメだと思う」
この子なら本当にやりかねないから怖い。
「そのくらいわかっているわ。今すぐじゃなくて温めておいて食べ時になったら食べるのよ」
……。
返す言葉が思いつかなかったのでスルーした。
「そういえば神崎くん……」
「え? よし……じゃなかった神崎くんがどうしたって?」
危ないわ。理稀だなんて言ったら変な噂が学校中に広がってしまうわ…
「今日一番の食いつきね…ちょっと驚いたわ」
「それはわたしの教え子だもの! 当たり前よ」
そうよ。彼はわたしの大切な教え子よ。
「そっか…あっ、その前に日向〈ひゅうが〉君からも伝言があってね……」
「彼はどうでもいいわ。早く神崎くんからの用事を教えてちょうだい」
てか、日向くんって誰だっけ?
クラスの中に居た気がするわ。
「お、おう…それは担任としてどうかと思うよ」
まぁそうかもしれないけど、わたしが興味ないものはどうでもいいのよ。
わたしはしっぽを振る犬のように目をキラキラさせながら礼奈っちを見つめる。
「何か聞きたいことがあるって電話してきたわよ? 折り返し電話しようかって言ったら休み明けで良いって。それだけ」
なになにーー?
気になるわ!!
教えてほしいものって…わたしの電話番号かしら。
そういえば教えていなかったわね。今度理稀に返すプリントに書いてあげますか。
「おーーい。顔がにやけてるぞ。何考えてるんだよー」
いけない、いけない。色々と妄想してしまったわ。
コホン…。
「べ、別に…昨日見たテレビを思い出してしまっただけよ?」
「ふーーん。ま、いいけど」
礼奈っちは疑いの表情をしていたが、机に向き直り仕事を始めた。
それからはお互い仕事に取り組んだので業務的な話をする以外特に会話なく時が流れた。
ま、学年主任の先生を筆頭にそれ以降、各部活の顧問になっている先生が入ってきて雑談が出来なくなったから仕事に取り組んだんだけどね。
そして、理稀がどんな用事があったのかとても気になるわ。
わたしは気になると色々想像してしまう人なので眠れなくなるのよ。
そんな感じで連休最終日は終わりつつあった。
夜ご飯は理稀お手製のカレー。
今晩が最後になりそう…
必死に鍋に付いたカレーをかき集めるも限界が…
ま、また作って貰えばいいのよ。
その後シャワーを浴びてベッドに潜り込んだら24時を回っていた。
家に帰ってからって何もしてないのに時間が経つの早いわね。
明かりを消してベッドの中へ入ったものの考え事をしてしまいふと時計を見ると25時を回ってしまった。
寝坊しちゃうから早く寝よっ…。
寝返りをうって、くまのぬいぐるみを抱きしめて改めて目を瞑った。
こうして充実していない薄っぺらな連休後半が終了……。
「理稀のやつ遅い!」
涼夜は駅前の本屋前で理稀と待ち合わせをしていた。
約束の時間は10時。
現在10時5分。
5分の遅刻!!
スマホでミュージックビデオを見たり、辺りを見渡したりして到着を待つ。
遅い!
するとスマホに『どこにいる?』とメッセージが届いた。
どこじゃねーよ。本屋だよ。
と思いながら『本屋前』と送ると『え? 改札前じゃないの?』と秒で返信が来た。
……。
恐る恐る…昨晩のやり取りを見てみると『改札前に9:50。10:10の快速に乗るから! 遅れるなよー』と俺が送っていた……。
……。
やっちまったーー!!
階段を駆け上がり改札前に向かうと
「悪い…場所勘違いしてたわ」
顔の前で手を合わせて俺は謝罪した。
「おっ…別にいいよー。俺も少し前に着いたし」
「ごめーん。待ったー?」
そういうと理稀はキョトンとして『なにいってんだこいつ?』みたいな顔をしている。
少し経つと状況を理解したらしい。
「いや、今来たばかりだっ」
「よかったー」
そして顔を見合わせてお互い笑う。
「これは男同士でやるもんじゃないだろ」
「確かにな。一度やってみたかったんだよ」
こういうわけわからん事をやるほど今の俺はテンションが上がっている。
「涼夜なら何回かやったことあるんじゃないか?」
「いやいやーないから」
俺ってそんなに何人もの女の子と付き合ってる奴に見えるのか?
疑いの眼差しを向けられた。
ま、今日でそのイメージが消えるから良いけどな。
俺と理稀はアイドルグループ『sweet sugar memory』のミニライブ、CDお渡し会に参加するのだ。
説明しよう。
sweet sugar memoryとは3年前にデビューした14人のアイドルグループ。
たまたま見ていた音楽番組で特集されていて、何気なく見ていたのだがその中に1人だけ輝いて見えるメンバーがいた。
それから俺の中にあるスイッチが入ってしまった。
それからはスイシュガの虜になってしまい、中学時代は部活をサボってイベントに行くことも多々あった。
今日は中学の時の友達と行く予定だったが、体調を崩してしまったらしく、1枚無駄にするのを防ぐために昨晩連絡して、半ば無理矢理に理稀を連れていたのだ。
理稀は『涼夜のためなら良いよ』と来てくれたのだ。
本当に良い奴だな。
飯ぐらい奢ってやるか。
無事乗れた快速の2人席で雑談をしていると、スマホの写真を見せてきた。
「昨日の夜にこんなの買っちゃったんだよ」
画面にはカップ麺が映っており、蓋に『醤油、味噌、豚骨、塩全部混ぜちゃいました。ドヤッ味』という文字があった。
これ美味しくなさそう。
「面白くね? スーパーで66円で売ってたからつい買ってしまった。美味しいのか不味いのか…」
遊園地に着いた子供みたいにウキウキしているので『これ絶対不味いやつ』と水を差すような事は言わないことにした。
「感想よろ。どんな味か気になるし」
「おうよ」
それから2回乗り換えをしてイベント会場に到着した。
辺りにはグッズを身につけた"如何にも"な人が数人集まっていた。
入場開始時刻まで少し時間があったので物販を見てみることにした。
俺は予め事前通販で購入しているので買うものは特にない……はずだった。
「う、嘘だろ…」
そこには前回のイベントで買いそびれた『会場限定で発売したメンバー考案のアクセサリー』が僅かに入荷したらしい。
しかも今のところ完売の文字はない。
俺が絶句している隣で理稀が興味津々に物販一覧を見ていた。
「なぁ…理稀」
「どうした…涼夜」
お互いに顔を見合わせた。
そして…
「「並ぶぞ!!」」
そして物販に並ぶ2人。
…あれ?
一緒に来たやつハマってない?
やけに楽しそうに物販のグッズを選んでいる。
真剣に悩む俺に対して『これは絶対買った方が良い!』『買い物は縁だから。次はないよ』など良いアドバイスをしてくれた。
出費はデカかったが買いそびれた限定グッズも買えたし、いい買い物が出来た。
理稀が何を買ったのか気になる。
物販でグッズを買い終えるのとほぼ同時に開場したので2人で建物の中に入った。
席は1階のステージから6列目と『うーん』って感じだが、周りを見渡すと2階3階席があったので当たりだと思えた。
理稀は記念にブレードを買っていたらしく席に座るとガサガサと袋を漁っている。
ちなみにブレードとはライブ必須の光る棒のこと。
説明下手ですみません…
割と良い値段するのによく買うわ(笑)
俺は紙袋2枚分のグッズを買ったので奇跡的に空いていたコインロッカーに入れてきた。
公演開始時刻が近づいていたのでショルダーバッグの中からブレードを出そうと思ったのだが。
「あれ? 無い……あっ…」
さっき買った袋から取り出すの忘れてたー。
どうする…取りに戻るか。
しかし、まもなく開演時間。あのロッカーまで往復したら間違いなくスタートを見逃す。
うーん…どうしたものか。
すると俺の異変に気付いた理稀が肩を叩いてきた。
「ほれ。これ使えよ」
「いやいやー。流石に悪い」
お人好しにも程があるだろ。
だか、無理矢理俺に渡してきたので受け取る事にした。
「サンキュー。今日のお礼は絶対するから!」
「お礼とか別にいいよ。もう1つあるし」
ここはお礼をしなければ俺の気が済まない。
…?
えっ…?
「もう1つ?」
「おう。なんか…購入用紙の記入ミスったらしく2つになってたんだよなぁ。あははー」
「いやいやー。キャンセルしろよ。2つってなかなかの値段しないか?」
「色々やらかしている姉さんの罰金があるから少しお金に余裕があったんだよ。しかも、これ停電時使えるし」
そう言いながら、理稀は取り出したブレードの色を変えて遊んでいた。
こいつ…姉から金巻き上げているのか…恐ろしい…。
それについて詳しく聞かせてもらおうとすると、開場の明かりが消えた。
それとともに客席から歓声が上がった。
よし。楽しむぞーー!!
その後1時間弱のミニライブを楽しんだ後、お待ちかねのCDお渡し会だ。
時間毎に限られているのでそれまで席に座って待つ事にした。
「誰のブースに行くべきかね?」
ライブの中で良いと思った子のブースに行くと言ってた理稀だが、未だに迷っているらしい。
俺はこのグループ2番人気の佐倉
この子を画面越しに見たときの衝撃を忘れない。
とても可愛いのだ。
ロエリー好きだーー!
という話を隣の男にしたら許しがたい発言をしたのだ。
「この子かー。……愛依奈に似てね?」
「んなわけあるか! 全然似てなく……あれ?」
この前行った軽井沢での集合写真を見てみると意外と似てる気が……
「似てるかも……」
目元と口が割と似ている事に気付いた。
「けど……俺は愛依奈じゃなくて……ロエリー、一筋!!」
「俺は船形
まーちゃんか。
彼女はなかなかの塩対応らしい。
前に一緒にイベントに行った奴が『今回も塩対応でした。だか……それがいい』なんてことを言っていた。
確かに見た目ではスイシュガの中で1、2番と言われているけど1番はロエリーだと思っている!
時間になったので別れてブースに並ぶ事にした。
列に並んでから5分もしないうちに俺の番が来た。
何回来ても緊張するなぁ。
だか、これが良い!
いざ、出陣じゃー。
「ロエリー久しぶり〜」
「あ〜。リョウ君じゃん。やっぱり来てくれたんだねぇ」
「当たり前だよっ。このために生きてるから」
「またまた〜。これっCDね。あたしのサイン入りだから大切にしてね」
「えっ。今回ってサイン入りだっけ?」
「リョウ君だけ…トクベツ♡」
その瞬間、生きていて良かったと心の底から思えた。
「う、嘘でしょ??。マジで俺だけ!?」
「うんうん。前の人と少し時間空いたでしょ?その瞬間に書いたの」
「ホント? 超嬉しい…」
「今日はもう一回来てくれるの?」
「いやぁ。券を友達に1枚あげちゃってね。今日は1回だけなんだよね」
「そうなんだぁ〜残念だけど。そういう優しいところ好きだよ」
「俺も好きっす」
言ってしまった〜(//∇//)
「ありがとう。じゃあまたね!」
「バイバイ〜」
こうして幸せなひと時が終わった。
俺が会場を出るとすぐに理稀が来た。
ハイテンションの俺は理稀にダル絡みした。
「理稀君。どうだったかね?」
俺は肩を叩きながら尋ねていた。何故ならとてつもなく気分がいいからだ。
「面白かったかなっ。割と話せたし。そういう涼夜は……って聞かなくてもわかるわ」
「そこは聞いてくれよ〜」
それから会場と駅の間にあったファミレスに入って今日のことについて語ったのであった。
そして理稀の口から思いがけない言葉を聞いた。
「そういえば…最後に『今度会いに行くから』って言われたんだよね」
……。
そんなこと俺言われたことないんですけど…
てか、あの塩対応のまーちゃんからそんなことって…。
ま、理稀の聞き間違いだろう。きっとそうだ。
……。
そして1つ思ったことがあった。
"次のイベント絶対連れて行く!!"
こうして男2人の休日が終わったのであった。
お風呂から上がって部屋に戻ると通知が来ていた。
『楓です。 旅行楽しかったですね(*^^*)
愛依奈ちゃん。よろしければ明日一緒にお出かけしませんか?』
あたしは頬をつねったり、スマホを再起動させたりしたがそこには同じ文章があった。
そしてベットに横たわり返信した。
『もちろんよ! お出かけしましょう(・∀・)』
文面だけ見ると普通の返信だが、内心はテストの総合点クラス1位になった並み、いやそれ以上に嬉しい。
ヤバい…寝られないわ!
髪を乾かし、明日着て行く服をチョイスしたのでベッドへダイブ。
あたしがテンション上がるとベッドにダイブし始めるのである。
ボフッと反発する感覚が好きなのよね。
お母さんからは壊れるから止めろと言われているけどあたしの体重なら平気よ。
体重はヒミツ!
もう一回ダーイブー。
すると今回はボフッと弾まずゴキッという鈍い音がした。
……。
ま、まさか。
恐る恐るマットレスを捲〈めく〉るとそこにはVの字まではいかないも残念に折れた木の板があった。
……。
やっちまった…
正直に言って直してもらおう…
そう決意しリビングへ降りるとお母さんがテレビを見ていた。
「あの…」
「壊したわね?」
バ、バレた。
「申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げて謝罪した。
ここまで本気に謝ったの久しぶりだわ。
「全く…。1番古いし仕方ないわね。新しいの買ってあげるからそれまでは布団で寝なさい」
「はい。お母様。このご恩は忘れません」
き、奇跡が起きたわ。
絶対キレられると思ったもん。これもジョーカが誘ってくれたおかげ。
ありがとう!
その後階段を上がるとトイレから出てきた妹と目があった。
妹の名前は麻依奈〈まいな〉。
神栖三姉妹の三女で中学2年生。
「どーしたの? ねーちゃん」
「ベッドを壊してしまったんよ〜」
「ふーん。ま、頑張れ」
そう言ってあたしの目の前をスルーしようとしたので肩を掴んだ。
「今夜は紫依奈〈しいな〉姉さんと寝るから無理だって」
紫依奈姉さん(あたしは普通にお姉ちゃんと言ってるけど)は今年高校3年で今年大学受験。
本人は就職したいって言ってるみたいだけど両親が大学進学を望んでいるのでちょっとしたバトルが日々繰り広げられている。
「じゃあ…あたしもお姉ちゃんと寝るわ」
「えー。冗談でしょ? いくら紫依奈姉さんのベッドが広くても3人は無理だって」
「いや、いける! とりあえずお姉ちゃんの部屋へGO!」
という事で、無理矢理お姉ちゃんの部屋へ突入したのであった。
「へ? いいわよ」
机で課題を終えたお姉ちゃんは背伸びをするとあたしを迎えてくれた。
お姉ちゃんの返答は2人からすると意外なものであった。
あたしはオッケーだと思ったけど断られるんじゃないかと思っていたし、麻依奈の方はあたしが追い出されると思っていたと思う。
「やったー! お姉ちゃんありがとう」
「紫依奈姉さん…3人だと狭くなるし。無理しないで断った方がいいと思う」
「大丈夫よ! 1人が床で寝れば良いもの」
そういってお姉ちゃんは布団を取りに行こうとした。
「えー。たまには3人一緒に寝たいー。ね? 麻依奈?」
「狭いのはイヤ!」
「とりあえず3人で寝てみよ?」
あたしはベッドにダイブすると横をポンポンと叩き麻依奈を呼び寄せた。
お姉ちゃんのベッド…あたしのやつよりフカフカしてる…。
すると麻依奈が渋々横になり、それに続きお姉ちゃんもベッドに入ってきた。
「意外とイケるわね〜」
「ちょっ、真ん中にいる麻依奈のことを考えてよね…。狭いし圧迫感があるし」
「両隣に美人な姉2人を置いて寝れるなんて麻依奈は幸せものだなぁ。羨ましいぞ」
するとそっぽを向いて返答が無かった。
意外と満更でもないのかなっ。
それから布団を持ってくることが億劫〈おっくう〉になったので結局1つのベッドに3人でで寝ることになった。
3人で寝るなんてあたしが小学生の時以来だと思う。
3人で思い出話をしたり長い夜を過ごすのかと思ったらみんな速攻で寝落ちしました。
ま、ベッドを失ったあたしはしばらくお姉ちゃんの部屋に居候するわ。
翌朝。
あたしは準備を済ませて待ち合わせ場所である近所の公園に向かった。
すると、噴水の前にベージュのカーディガンにライトブラウンのロングスカートをコーデした今日のデート相手がいた。
可愛いぞっ。
「お待たせしました〜」
「あっ、愛依奈ちゃん。来てくれてありがとう」
あたしの存在に気づくと手を小さく降ってきた。
「いやいやー。こちらこそ誘ってくれてありがとう。ジョーカとデートとか幸せだなぁ」
「デートだなんて…もぅ」
ジョーカは頬に手を当てて照れている。その仕草可愛すぎるぞー。
あたしが男だったら100%告ってる。
「で、今日はどこ行きたいん?」
「うーん…ごめんね。特に決まってないんだよね」
「そ、そうなんだ。どうするかなぁ」
「愛依奈ちゃんに会いたくなったというか、この前一緒にいて楽しかったから…えへへ」
この子…あたしを落としにかかっているのか。
この仕草が意図的でないのであればこの子は相当ヤバい…
「とりあえず…カフェでも入りますか。朝ごはん食べてないんだよね」
「いいよ。愛依奈ちゃんオススメのお店行こう」
そういって歩き始めたのだが…
ジョーカとの距離が近すぎる。
お互いの肩が少し触れるぐらいの近さなので時々手が触れる。
時々ジョーカの方を見ると「ん? なに?」と微笑む。
可愛いぞー。
こうしてデート一軒目のカフェに入った。
窓際の席に座るとお互いにメニューを見る。
小腹空いたから軽く何か食べようと思い、メニューを見ると『カップルに最適! シェアするピザトースト』なるものがあった。
これを注文するのは恥ずかしい…
けど凄く美味しそう…
溢れんばかりのチーズにハート型に切り取ららた大量のサラミ。
朝から重そうだけど気にしない!
しかし…1人で食べるには多すぎる。
「愛依奈ちゃん決まった?」
メニュー越しにチョコンと顔を出してこっちを見る。
「う、うーん。これかなぁ。ピザトースト少し食べる?」
「わぁ。食べる食べる〜」
「オッケー。じゃ、決まったよ」
その後お互い注文をした。
「えーっと…カフェモカのホット1つとミニパンケーキでお願いします」
組み合わせがザ・女子って感じ。
それに比べてあたしって…
「愛依奈ちゃんどうぞ」
「抹茶ラテのホット1つと……」
いざ、注文するとなると恥ずかしい。
チラッとジョーカの方を見ると「どーしたの?」と微笑む。
「カ、カップルピザトーストを1つ…」
うぉー恥ずかしい。
オーダーを終えてメニューを戻すと微笑んでいたジョーカ。
「愛依奈ちゃん大胆なもの頼むねー。どんなものか気になるっ!」
「メニュー名はともかくとても美味しそうだったよ」
そう言って深い意味はないことをアピール。
その後10分ちょっとで注文品が届いた。
「わぁ。チーズの量がすごいね! ハート型のサラミも可愛い」
ジョーカは目をキラキラさせながら覗き込むようにピザトーストを見ていた。
「1人じゃ食べきれないし半分あげるね」
「わぁ。ありがとう〜。そしたらこのパンケーキ半分あげるね」
そう言ってパンケーキを4当分に切り分けてその1つをあたしの方へ持ってきた。
「はい。あーんしてっ」
……!!
な、なんですとぉ!
周囲をチラ見して知り合いが居ないことを確認。そして口を開けて食べる。
口いっぱいに広がるハチミツの甘さとジョーカに食べされてもらったということが幸せを運んでくる。
はぁ…幸せ。
「美味しい?」
「もちろん! 楓に食べさせてもらったから美味しいに決まってる」
「もぅ…愛依奈ちゃんたらっ…フフッ」
これ夢オチとか無いよね?
それを疑うぐらい幸せな時間。
「ピザトーストも食べて。はい、あーん」
切り分けたピザトーストをジョーカの前に持っていく。
少し小さく切りすぎたかな?
するとジョーカはあたしの指をパクッと咥えた。
……へっ?
「ご、ごめん。つ、つい…」
ってことはワザとなのかい?
あわわと慌てるジョーカ。
それを眺めて心身ともに幸福感に浸るあたし。
初めて会った時、こんなに可愛くて一緒にいたいと思える人だとは思わなかった。
あたしと涼夜、理稀の3人でワイワイ騒いでいた時は、本人に言えないけど存在に気づかなかった。
女神以外の何者でもない楓様に気づかなかった過去のあたしに往復ビンタしたい。
ま、今こうしてデート出来てるし結果オーライねっ。そして人生って何があるかわからない!
うん…わからない。
幸せに浸ったカフェも人が増えてきたので移動することにした。
「次どこ行きたい?」
「色々お買い物したいかなっ」
きましたー。お買い物。
あたしは女子にしては珍しく買い物というものに興味がないのだ。
毎日のように放課後買い物へ向かう女子達の気持ちが理解出来ん。
選ぶの面倒だし、何を買えば良いかわからないし、お金使うし……
ということで姉妹で買い物に行こうと言われてもあたしは基本お留守番。たまにお店近くまで一緒に行ってカフェでゆっくりするのである。
しかーーし!
ジョーカからのお誘いであれば断るわけにはいかん!
ということで嫌悪感を殺して、偽りの愛依奈ちゃんを演じますわ。
「あのね…わたしお洋服とかわからないから雑貨屋巡りが良いんだけど良い?」
てっきりお洋服探しの旅かと思ったら雑貨屋巡りですかい。
それは少し楽しそう。
「あたしも雑貨見てみたかったわ。ささっ…行きますわよ」
「愛依奈ちゃん…口調おかしいよ?」
いかん…変に演じようとして口調まで変えてしまった。
雑貨屋巡り旅の始まりー。
その中には家庭用プラネタリウムやお花のついた芳香剤、お洒落な壁掛け時計などあたしが気になるものが多かったが、お互い購入するほど魅力的なものは無かった。
3軒目の小さなお店に入ると目の前に水色のお弁当箱があった。
水色に雲や虹が描かれたシンプルなデザインだが心惹かれるものがあった。
「このお弁当箱可愛いね」
偶然にもジョーカも同じお弁当箱を見ていたようだ。
「あたしもそれ見てたんだよね〜。良いよね。これ」
他にも良い物がありそうだったので店の奥へと進んだ。
そして、一通り見て回り入口へと戻ってきた。
するとジョーカがあたしの肩をチョンチョンと叩いた。
「わたしこれ買ってくるからちょっと待っててっ」
そう言ってさっきのお弁当箱を2つ持ってレジへ向かった。
誰かにプレゼントするのだろうか?
それか予備品か。
後者は無いな(笑)
店を出ると夕陽が辺りを照らし茜色に染まっていた。
このお店は坂の途中にあるので坂の下に夕陽に染まった町が見えた。
それを眺めているとジョーカがお店から出てきた。
「おまたせしました〜。少し遠回りして帰ろっか」
「大丈夫だよ。どこから帰る?」
「うーんと…あの海辺公園を歩いて帰りたいかなっ。夕陽が綺麗そうだし」
「良いよー。じゃ、行きましょー」
あたし達が行こうとしている海辺公園は歩いて5分程度。
公園に到着するとジョギングする人やボールで遊ぶ子供達。遊具で遊んでいる高校生と思われる集団など意外と賑わっていた。
気にしないで波打ち際を2人で歩いていた。
「愛依奈ちゃんには感謝しなきゃいけないんです」
なんの前触れもなくいきなりそんなことを言い出したのであたしの脳内は???って感じになっています。
「えっ、どうしたの? 急に」
「入学してまだそんなに経っていない頃に本屋で声をかけてくれたことを覚えていますか? その後一緒にアイスを食べたことも…」
そんなこともあったなぁ。あれ麻依奈にパシられたんだった。
じゃんけんで負けてあの日発売の漫画を買いに行かされたんだっけ。
そういえばその漫画未だに貸してもらってないじゃん!
そういや、あの時理稀を呼び出してくれとかお願いされたっけ。
ってことはさっきのお弁当箱は理稀へのプレゼント…ぐぬぬ羨ましいぞっ。
「もちろん覚えてるよ。あまり話したことないのにいきなり声をかけちゃって…ごめんね」
あたしが逆の立場だったら驚いて避けてしまったかもしれない。
「いやいやー。そんな…あの時声をかけてくれて……本当にありがとう」
上手く伝えられないけど、その感謝は心からされていることや、嬉しかったんだろうということが伝わってきた。
「確か、理稀を呼び出してくれってお願いされたんだよね。あの時はびっくりしたよ」
「そ、そうだったね…」
理稀という単語を出すと頬が赤くなったような気がした。
それは沈みかけの夕陽のせいかもしれない。
「理稀くんと仲良くなれてから愛依奈ちゃんを、涼夜くんと仲良くなれたんだよ。今までこんなに仲良くなれた人いなかったから……嬉しいんだ」
「そっか。ま、これからも困ったことがあったらいつでも頼ってくださいなっ」
「うん。頼るから…よろしくねっ。 でも…涼夜くんはまだ少し苦手かな……こ、このことは言わないでね?」
あいつチャラ男だから、ピュアピュアな女の子からしたら近づきづらいよね。
面白いことを聞いちゃった。
するとジョーカは立ち止まった。
「なのでっ。これあの時のお礼。受け取ってく…くだしゃい!」
あっ、噛んだ(笑)
そう言って水色の紙袋を渡してきた。
中にはさっき行った雑貨屋で見つけた水色のお弁当箱が入っていた。
「ありがとう! これ…あたしがもらって良いの?」
「もちろん! 愛依奈ちゃんのために買ったんだからっ」
その後ジョーカの袋から同じお弁当箱をちょこっと見せていた。
「お揃いだよっ。これで一緒にお昼ご飯食べよ? ちょっと…恥ずかしいけどっ」
感激。
「もちろん。絶対に学校へ持って行くから」
「約束だよっ」
そう言ってジョーカが微笑むと太陽が沈み徐々に黄昏時となった。
それから15分ぐらい歩いたところで分かれ道になった。
「わたしは右だからここでお別れだね」
「そうだね。また学校で会いましょ!」
「うん。じゃあまたね! わたしの大切な友達の愛依奈ちゃん」
「そう言われると照れるなぁ…またね!あたしの大好きな楓ちゃん」
そう伝えるとジョーカらペコっとお辞儀をして家路についた。
……。
ちょっ……
な、なんであたしったら『大好きな』とか言ってんの?
意識しないで出てきた単語なのでそう思ってるんだろう。
〈〈友達として〉〉大好きな人だと。
少しモヤモヤしながら家路についた。
「学校で普通に話せるかなぁ」
そう独り言を言いながら頬を触るといつもより暖かい気がした。
こうしてそれぞれの休みが終わっていった。
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