第2話 始まった同居生活…そして新たな出会い

俺は一瞬幻を見ているのかと思った。

今まで距離を置いていた姉がそこにいるのだから。しかも、一人暮らしの件は姉に一切話していないし。

人間って思いがけない事が起きると意外と何もできないのだ。だから、呆然ぼうぜんと立ち尽くしている状態。

「いくつか質問しても良いですか?」

落ち着いてきたのでとりあえず質問責めだっ。

「えぇ。何でも聞いてっ」

俺の発した言葉にビクッとなり、その後ニコッとこっちを見る。

「1つ。イメチェンした?」

「えぇ。朝陽乃へ通うためには前のままではマズイでしょ? だからこうしたのっ」

ドヤ顔で髪をなびかせる。

反応に困るわ…はぁ…

そこにいた姉は今までのギャルっぽさは皆無で黒髪ロングのストレート。

以前の姉とはまるで別人。

「それに…」

ん? 他に何か理由があるのか。

「理稀の部屋にある棚の奥の方から見つかった雑誌とDVDに映ってた人たちが皆黒髪ロングだったからそれに合わせてみたっ♡ 理稀ってあーいう子好きなのね」

……は?

「え。棚の奥漁ったの?」

じ、冗談だと言ってくれ…

「ちょーっとマンガを借りたかったから棚を漁ってたら奥に何か見つかったからヘソクリかと思ったら……ねぇ?」

何勝手に漁ったんだよ。

てか、スルーしそうになったけど人のヘソクリ漁って持ち出そうとしたよこの人。

もう何なんだよ…

「そういえば、その物たち持ってきたよっ」

……。

何も言えない。

そういうと小さいダンボールを開けると俺の秘蔵コレクションが…

ギャー隠す場所間違えたー。

「ねぇ、この子可愛いよね。つい観ちゃったっ」

そういうと同い年の男子ならほぼ持っているであろうDVDを片手にニコニコしてる。

これ観てる姉マジで想像したくない。

「質問2つ目…姉さん転校したの?」

「そうよ。よし……じゃなかった自分のためにね。あんな底辺学校行ってられないし」

この人めっちゃ楽しそうに通学してたのに底辺とか言っちゃったよ。

「3つ目…どうやってここを特定した?」

「うーんと……勘よっ」

「うそつけっ」

「バレたかー、本当は両親に聞いたのよ」

……なるほど。

まぁ、そんなところだろうと思ってたわ。

そんなこんなしてると日付が変わっていた。

まぁ、終電行っちゃったしとりあえず泊るかな。

俺が借りた部屋は1LDKなので、一応2部屋あるし姉が寝るには十分だろう。

まぁ、アニメグッズとか入ってるダンボールが大量にあるけどあの姉にはそれで十分。

「とりあえず遅くなったし泊まっていきなよ。あの部屋空いてるから。あ、布団無いからダンボールで寝てね」

「嫌よっ!」

はい? それは泊まるのが嫌なのかダンボールが嫌なのか。

恐らく後者だろう。

「うちは泊まらないし、ダンボールでも寝ないし」

おっ、これはどっかに行ってくれるパターンか。ラッキー!

「じゃ、お気をつけてー」

「は?」

「いやいや、こっちがは?だわ」

うわー、姉弟していなのに話が噛み合ってない。

昔はこんなことなかったのにな…

色々変わってしまって…時の流れは恐ろしいものだ。

「いやいや、何でさよならーって雰囲気なワケ?」

「だって、泊まらないんでしょ?」

「泊まらないよ。だってここうちの家だし。あと、ダンボールも必要ないのよ。そこに布団あるし」

おいこら。それ俺の布団。

薄々そんな事を言うんではないかと思ったが、本当に言うとは…姉さんあなどれん…

「フッ、悪いなぁ。この家1人しか寝られないんだよ」

猫型ロボットが出てくる某国民的アニメの金持ちキャラの真似をしてみた。

「いやいや2部屋あるっしょ。何言ってるん?」

少しだけネタを混ぜたんだけど気づいてくれてない感じ?

こういう些細ささいなボケにツッコミを入れてくれる月羽ってやっぱりいい奴だ。

「じゃ、うち寝るねっ。おやすみー」

そういうと私服のまま俺の布団にダイブしてしまった。

「姉さん。風呂入らないの?てか着替えなよ」

「面倒だから明日の朝入るねー。ねー服着替えさせ……」

「嫌です」

言い切る前に断って俺は姉が寝てる布団の隅に寝転がる。

「むー。ケチッ。いいもーん。自分で脱ぐから」

そういうと俺の背後でゴソゴソやっている。

最初から自分でやれし。

掛布団を自分側に引っ張ると、姉に思いっきり奪われたので仕方なくダウンジャケットを上に掛けて寝るがとにかく寒い…

ここ俺の家なのに…なんでこうなるんだよ。

まぁいいや、とりあえず寝よう。

そう思うと引っ越し疲れか次第に瞼が重くなり夢の世界へ吸い込まれていった。


時は流れ入学式の朝になった。

姉の突撃訪問後、何度か追い返そうとこころみたが俺には出来なかったので仕方なく趣味部屋にする予定の部屋を姉の部屋にすることにしてリビングを俺の部屋にすることにした。

だかしかし、リビングにある俺用のソファーベッドの隣にもう1つベットがある。

それは言うまでもなく姉の物だ。

姉がここに寝てる理由は自分の部屋に物を置き過ぎてベット置けなくなったからここで寝るらしい。

しかもまあまあ広いリビングの端に隣り合って置いてある。

「うちって寝相悪いじゃん? だから落ちないようにしてるの」

そんなことを言いながら俺のベットの横に設置していた。

寝相悪いんだったら柵でも設置しろや。

しかも、ベットの高さが一緒なので遠くから見るとダブルベット…

そのため俺の方へいつも寄ってきて、『抱き枕ー』とか言われて抱きつかれている。

これ本当に苦しくて眠れないからやめてほしいんだよなぁ…

話は入学式の朝に戻る。

確か月羽と一緒に行く約束をしていたから気持ち早く目覚ましをかけて寝たはず。

しかし、インターホンが鳴る。

恐らく月羽だろう。けど、あったかいベットから出られない。

ピンポーン、ピンポーン…鳴り続けるインターホン。そして起きない俺と姉。

やがてガチャって音がして、廊下を歩いてくる音がする。

これは夢かな?

そしてドアが開く。

そういえば一番信頼できる月羽に一応うちのガキ渡しておいたんだっけ。

「ヨシくーん。グモーニン。入学式行くよぉ?え?」

そう言って布団をめくられると絶句した月羽と目があった。

まぁ…姉に抱きつかれている俺の姿があったら誰でもそうなるよな。

「ちょ、あたしという存在がいながらどういうこと? ねぇ、ねぇ?」

「月羽早くね? あぁ…これ姉です」

瞼をこすりながら背伸びする。

時計を見ると7時前だった。入学式は学校に9時半に来てくれと書いてあったので明らかに早い。

「ふぅーん。まぁいいや。入学式行くよっ」

そう言われたのでとりあえず起きるとベットの方から手を引っ張られて再びベットに叩きつけられる。

「おい、逃げるな抱き枕」

「誰が抱き枕じゃ」

そう言って布団から起き上がると姉が月羽をガン見していた。

「この子誰?」

「あぁ、大門月羽。小学校からの幼馴染だな」

「初めまして。大門月羽です。中学校3年間同じクラスで仲良くさせてもらってました。これからも仲良くしますのでよろしくお願いします」

珍しく月羽が挑発的な言い方をしている。

「ささっ、ヨシくん行くよ。早く着替えて」

そう言われたので着替えるために洗面所へ向かう。いくら幼馴染とはいえ、月羽の前で着替えるのは……ちょっとね。

そう思いながら着替えていると洗面所のドアが思いっきり開く。

「うぉあ!?」

なんか変な声出たし…

「ねえ、あの子と一緒に登校するの?」

「そうだな。約束してたし」

「うち、聞いてないんですけど。だから、その約束は無効だからっ」

そう言うと姉はくるっとリビングの方を向いた。

「というわけで…浮輪ちゃんだっけ? 残念でしたー。理稀はうちと一緒に学校に行きますので」

浮輪ちゃんってヒドイな。

「浮輪じゃないし。つ・き・は!!で、先に約束してたあたしがヨシくんと行くべき相手なので。いくらポンコツなお姉さんでもその発言は認めませんから」

「はぁ?誰がポンコツじゃ」

「あなたしか居ませんけど?」

……。

普段は比較的大人しい2人の荒れたバトルが繰り広げられてるので一瞬夢かと思ったが、リビングに戻る途中に棚の角に足の小指ぶつけて激痛が走ったのでこれは現実でした。

やばい…小指超痛い…

とりあえず着替え終わったので朝飯を食べるためにリビングへ戻ると、俺のカバンを持った月羽に腕を掴まれ玄関へ連れて行かれる。

「あのぉ…朝飯食べたいんですが」

「そんなのあとで良いでしょ。とりあえず早く行くよっ。朝ごはんはあたしが奢るから」

そして俺は姉を置いて月羽と朝陽乃学院に向かったのである。

そして、途中にあったファミレスで2人で朝飯を食べたのだが本当に月羽が奢ってくれた。

しかもドリンクバー、デザート付き。

やっぱり俺が払うと言ったのだが『あたしが無理やり連れ出したんだし気にしないのっ』と言って払わせてくれなかったのでご馳走になりました。


そして2人で並んで学校に向かうと人集ひとだかりが出来ていた。

そこには、クラス発表が張り出されていた。

「あのさ…何となくなんだけど…あたし達離れ離れになる気がする」

月羽は遠くから張り紙を見てそんなことを言った。

文字が見えないほど離れている正門前でそんな事を言っているので、よく当たる勘なのかもしれない。

「へ?それはどゆこと?」

「ううん、何でもない。もし、クラス別になっても今まで通りの関係だよね?」

「何言ってるんだ。当たり前だろ」

そう言うとニコッとして歩き出したのであれも付いていく。

そして大きな張り紙の前で俺と月羽の名前を探す。

すると、月羽の名前はBクラスにあったが、そのクラスに俺の名前はなかった。

嘘だろ…

その瞬間『ぼっち』という単語が浮かんだ。

……。

そのまま探していくとEクラスに俺の名前があった。

BとEって一緒になる可能性が少なすぎる。

例えば体育など2クラス合同だとAB.CD.EFで分けられる。

何かの行事で半分ずつ行動するとなると…

ABC.DEFもしくはACE.BDFの組み合わせだろう。

よって一番関わりがなくなるクラスになる可能性高すぎる。

さよなら…月羽。

あーこれ絶対ぼっちだよ。

そんな事を考えながら月羽を見ると目をウルウルさせてこっちを見てる。

「例え離れててもヨシくんの事…好きだから」

「月羽…俺もだ。幼馴染の絆はそう簡単には無くならないよな」

すると月羽は『それちょっと違うかな』的な表情をしていた。

え?なんでだ?

そして2人は別々のクラスへ向かった。


俺のEクラスは校舎の端にあった。

Fクラス無くね?と思ったがどうやら2階らしい。

Fだけ離れ小島じゃん。

そしてやけに静かな教室のドアを開ける。

すると誰も話していない静寂せいじゃくに包まれた教室が広がっていた。それはまるでお通夜状態…

俺の席は廊下側から2列目の一番後ろの席。そこに座ると左側にはダルそうにスマホを弄る男子生徒。前は忘れ物をしたのかソワソワしてる女子生徒、右側はお嬢様って感じの話かけるなオーラ全開の女子生徒がいた。

どうしよう話しかけられそうな人いない…

そういえば月羽のクラスどんな感じなのか気になったのでトイレに行くついでにBのクラスをのぞいて見ることにした。

するとそこにはまさかの光景が…

それはまだ出会って間もないだろうクラスメイトと仲良く喋っている月羽。

この裏切り者。知るかっ。

その瞬間自分の中で謎のスイッチが入ったらしく『月羽より友達作ってやる』という思いが湧き上がってきた。

しかし、クラスに戻るとそのスイッチは切れたらしく大人しく席に座る俺。

(´・ω・`)←今の俺こんな感じだわ……

少しすると左の男子生徒がカバンを漁ったり

入学のしおりを見たりしている。

気になったのでそっちの方を見ると目が合ってしまった。

あっ…これ何見てんだよ的な感じで絡まれるやつ?

「あのさ…」

はい。絡まれましたー。最悪ひたすら謝るか。

「……どうした?」

恐る恐る返事する。

同級生だしタメ口でいいよね?

「入学式って体育館用上履きを履いていくのかな。ここに書いてないんだよね」

あー。そういえば体育館用シューズ持ってきてたな。けど、校舎用上履きで可と昇降口に書いてあった気がする。

「確か、昇降口のところに校舎用上履きで大丈夫って書いてあったよ」

そう伝えると「ありがとう」と言って再びスマホをいじり始めた。

これは話しかけるチャンスだと思いとりあえず挨拶だっ。

「あの…隣になった神崎理稀って言うんだ。これからよろしく……」

するとスマホを机に置いてこちらを向いた。

「悪い…聞くだけ聞いて自己紹介してなかったな。俺は佐屋涼夜さやりょうやだ。これからよろしくな」

さっきとは打って変わってニコッとして手を差し出してきた。

佐屋君はパーマのかかった茶髪だから絶対ヤバいやつだと思ったがめっちゃ良いやつだ。

人は見た目じゃない!

俺も手を出して軽く握手する。

「よろしく。涼夜って呼んでいいかい?」

「もちろんだ。俺も理稀って呼ばせてもらうぞ」

そんな感じで出身校や趣味など色々は雑談をした。

俺たちが話すと他のクラスメイトもちらほら話し出してさっきのお通夜状態から一転して程よくザワザワしている教室になった。

「ねねっ、お願いがあるんだけどっ、鉛筆と消しゴム貸してくれない?」

俺の前に座っている女子生徒が俺と涼夜の方を見て話しかけてきた。

まさかさっきソワソワしていたのは筆箱を忘れたからなのか。

「良いよ。これ使ってくれっ」

そう言うと俺は消しゴム付きシャーペンを貸した。

「サンキュー。あたしの神栖愛依奈かみすあいなだからっ。よろしくね 」

座ってた椅子をくるっと回して俺の机に頬杖をつきながら自己紹介してくれた。


「あっ、あたしのことは愛依奈って呼んでね。苗字で呼ばれるの好きじゃないし。あたしも2人のこと下の名前で呼ぶから」

「オッケー。よろしくな愛依奈」

涼夜は躊躇ちゅうちょなく名前で呼んでいる。中学の時女子友多かったんだろうな。

まだ出会ってまもない女子を下の名前で呼ぶことなんて俺には出来ん…

月羽以外苗字で呼んでたしなぁ。

まぁ、とりあえず呼んでみよう。

「よ、よろしくな。あ、愛依にゃ…」

うおー。噛んでしまった。あーやっちまったー……。

その瞬間2人が吹き出した。

「あ、あいにゃって……ウケるー」

「まさかそこで噛むとは……やってくれるな。面白いやつだ…フフッ」

2人に爆笑されたが何故か嫌な気分にはならなかった。姉さんに爆笑された時はマジでイラッとしたのに不思議だ。

爆笑されているとき右側から視線を感じたのでそっちを見ると話しかけるなオーラ全開女子生徒がこっちを見ていた。

俺と目が合うと目を逸らされた。

この子にも声をかければ涼夜や愛依にゃ…じゃなかった愛依奈みたいに仲良くなれる。そんな気がした。

声をかけようすると涼夜から話しかけられたのでまた後にすることにした。

その瞬間『えぇ?声かけてくれないの?』みたいな少しシュンとした表情になっていた気がした。


そして入学式が始まった。

愛依奈のやつ仲良くなったらめっちゃ話しかけてくる。

式が始まっても後ろを振り返って「話長くね?」とか「あの人知り合いだと思ったら人違いだった。紛らわしいなぁ」、「あの人ぜったいズラだよ」など……

まぁ、そんなおかげで退屈することなく入学式を終えることができた。

驚いた事に新入生代表がまさかの月羽だった。


入学式を終えて教室に戻ると担任の先生が入ってきた。

「みなさん。初めましてっ。今日から担任になりました……神田恵海かんだめぐみと言います。あたしも今日からこの学校に配属?されたばかりなので分からないこと多いですが…よ、よろしくお願いしゅましゅ…」

あっ、噛んだ。

その瞬間涼夜と愛依奈にチラ見された。

こっち見るなー。

「……神田が噛んだっ?」

愛依奈がつまらないダジャレを言うと涼夜がツボったらしく伏せて震えている。

今の全然面白くなかったんだが…

ちなみに神田先生は年齢24〜26ぐらいで髪は肩までかかるぐらいの長さ。髪色は焦げ茶色だ。

スマートな体型で身体も160無いぐらいかな。

あと残念なことに胸元の出っ張りはあまり無い。まぁ月羽といい勝負だろう。

あくまでも推測です。

愛依奈の胸って制服の上からでもわかるから結構な大きさだろう。こっち向かれた時つい見てしまう。

視界に入って来る方が悪いっ。

そして、教材の配布や校則の説明などを行い、生徒の自己紹介をして今日は終わりらしい。

ちなみにこの自己紹介では噛まなかったぜ。

ドヤっ。

ちなみに俺の右隣の女子生徒の名前は小木ノ城楓おぎのじょうかえでというらしい。


そんなこんなで放課後を迎えた。

帰る支度したくをしていると愛依奈がこっちを向いた。

「ねねっ、2人ともお昼ご飯食べに行かない?」

俺はスマホを見て月羽から連絡が無いことを確認すると愛依奈に大丈夫と伝えた。

涼夜も行けるとのことだったので3人でお昼を食べる方になった。

まさか、入学式の日に知り合った人と昼飯を食べることになるとは思わなかった。

中学1年の自分からしたら考えられない。あの頃の自分は基本1人でいるか月羽といるかのどっちかだったから。

クラス分けを見た瞬間は絶望感しかなかったけど、もしかしたらこれで良かったのではと思い始めていた。

そして朝月羽と行ったファミレスに入ることになった。


涼夜と愛依奈と別れたのは夕日が眩しい時刻だった。

2人とは方面が逆なのでファミレスで別れて俺は家路についていた。

今朝はとても不安だったけどそんなものは無くなっていてとても楽しかった。

このまま楽しい気分のまま1日が終わる……そんなわけがない。

なぜなら家に帰ると……あれが居るのだから…

なんか家が近づくにつれて萎えてきた。あー、マジで実家戻ってくれないかな。

家に帰るとやけに静かだった。

留守かと思ったが靴があったので家にいる…

とりあえず気にしないでカバンを置きシャワーを浴びて着替えた。

すると、姉さんが物置き(姉の部屋)から出てきたがやけに静かだった。

俺からしたらその方が助かる。

その後晩飯を食べている時も今日のことを軽く話すぐらいで後は特に会話なし。

あれ?今朝のことがあったからねてる感じですか?

毎日こんな感じだったら居ても良いかななんて思ってしまった。

しかし、それをくつがえす出来事が起きた。

俺は観たいアニメがあったので放送開始5分前にテレビを点けてスタンバイしていた。

そしてオープニングが始まる。今日から話の展開がガラッと変わると噂されていたので先週からずっと気になっていた。

すると、物置きから姉が出てきた。

「ねね、チャンネル変えたいんだけど?」

「は? 無理」

何を言うかと思ったらチャンネル変えるだと?

絶対許さん。

「えー5分でいいからっ。どうしても観たいのがあるのよ」

そう言うと俺の許可なくチャンネルを変えた。

おいっ。俺は許可してないぞ。

そんなことお構いなく姉さんはチャンネルを変えると、そこには男性アイドルグループが映っていた。

「間に合ったー。あっ、七海に電話しなきゃ」

まぁ、5分ぐらいなら何とか本編に間に合うだろう。

しかし、そんな考えは甘かった。

テレビでは男性アイドルグループのライブを中継していてテレビでは1曲だけ放送されると思ったが、まさかの今までの活躍とか放送し始めた。

もちろんチャンネルを変えさせてくれる訳もなく15分が過ぎた。

その間何度か姉さんに交渉したが『無理』としか返ってこなかった。

マジくたばれ。

心折れた俺は寝ることにしたが、その時スマホに月羽からのメッセージが通知されていた。


つきは『やっほ。月羽ちゃんだぞっ!別のクラスになってしまったヨシくん今日どうだった?^o^』

よしき『なんと…友達が出来てしまいました(〃ω〃)』

つきは『マジか∑(゚Д゚)』

つきは『おめでとう(ノД`) あたし嬉しいよ』

よしき『ありがとうー。 そういや、月羽も友達出来たでしょ?』

つきは『え?うーん…あれ友達なのかね…軽く話しただけよ(。-∀-)』

よしき『月羽なら大丈夫だ(`・ω・´)』

つきは『えへ、そう言ってくれると嬉しいな。好きよ…ヨシくん(//∇//)』

よしき『ありがとう!』

つきは『(´-ω-`)』

え?俺なんかマズイこと書いたんかな?

よしき『そういや、今姉が房総して…へるぷみー』

とりあえず話をそらす。

よしき『房総→暴走ね』

打ち間違えたー。

つきは『まさかの千葉県(笑)そうなのね! それは救助が必要だね(゚o゚;;』

よしき『つらい…』

つきは『よしよし( T_T)\(^-^ )』

よしき『( ;∀;)』

つきは『one moment pleaseだから安心して、じゃおやすみっ♡』

よしき『どゆいみ???とりあえずおやすみzzz』

英語苦手…今から和訳するの面倒だから明日にしよう。

真夜中にライブ映像見てはしゃいでいる姉さんをとても不快に思いながら目覚ましをセットして眠りについた。



やっほ。あたしは大門月羽。ヨシくんの友達以上の存在。

……だと思ってる。

進学しても絶対ヨシくんと3年間同じクラスになるように何度か神頼みしたんだけどダメだったみたい。

神さま……どうしてあたしの願いを叶えてくれないの。

そう思いながらあたしはBクラスに入った。

教室に入った瞬間すでにいくつかのグループが出来ており、席の周りでも数人で話していた。

恐らく同じ中学とか同じ塾に通ってたとかだろう。

暇なのでスマホで調べ物をしていると前の席から声をかけられた。

「初めましてっ。園部花梨そのべかりんって言います。よろしくね」

「こちらこそっ。大門月羽です。よろしくね」

お互いニコッとしながら挨拶をして『持ち物これでよかったっけ?』とか出身地など色々な事を話していると左の席のグループから声かけられて何人かで雑談をした。

ふと、廊下の方から視線を感じたので見てみたが誰もいなかった。

「理稀大丈夫かな…」

ふいに理稀の事が心配になったのでトイレに行くついでにEクラスを覗いてみようと思ったが園部さんが付いてきたのでまた今度にした。

あたしの特徴?として本気になると勝手に名前呼びに変わるらしい。

これ最近知ったやつ。


少しすると校舎から体育館へ移動し入学式が始まろうとしていた。

あたしは新入生代表に選ばれてしまったのでみんなと離れた役員席のところにいる。

今までこんな大勢の前で話した事ないから流石に緊張してきた。

新入生代表挨拶は入学式のプログラムで最後から3番目。

早く終わってくれー。

おかしいな。昨晩は緊張しなかったのに、凄く緊張してきた。

『えーと。俺が教わったのは…緊張したらまず、深呼吸。そして大勢の前では人を見ないで正面を見る!これで大丈夫だっ』

今朝学校へ向かうときヨシくんが教えてくれた緊張ほぐし術。

実施するよ。ヨシくん。

そして新入生代表挨拶が始まったので壇上だんじょうに上がる。

うわー。みんなあたしを見てる……

み、み、見るなー。

深呼吸…深呼吸。

「新入生代表。大門月羽……」

あたしは目線を正面にして話し始めた。

そして無事終えることが出来た。

ありがとう。ヨシくんのおかげだよっ。

壇上から1-Eの方を見るとヨシくんらしき人を発見!

しかし、そのヨシくん(仮)は前の女子生徒と仲良く話してるように見えた。

……じゃ、人違いね。

そうだよね。あのヨシくんが入学式から話せる人が出来るわけがない。まして女子生徒だし。

失礼だと思うかもだけど事実なんだなー。

中学の時あたし以外の女子とほぼ話してないし。

これって……あたしにしか興味なかったったこと?

キャー照れるわ。

下校時に確認したいんだけど色々忙しくて一緒に帰れなそうだから夜に連絡してみよう。

そう思いながら入学式の日を終えた。

そしてあたしは入学式が行われた水曜日から金曜日まで放課後授業が終わると直帰していた。

その間ヨシくんから『一緒に帰ろ』って連絡来なかったのは少し寂しかった…


そして迎えた土曜日。

あたしは見覚えのあるマンションの5階にいた。

時刻は13時過ぎ。

この時間なら起きているだろう。

そしてお馴染みの501号室のインターホンを鳴らす。

少しすると中からヨシくんが出てきた。

「おっ、月羽じゃん。なんか久しぶりな感じするな。どうした?」

あたしはドキドキしていた。

次に放つ言葉からどんな反応が返ってくるのか楽しみでもあるし、心配でもあったから。

「どした? 月羽?」

あたしが少し黙っているとヨシくんは心配そうにのぞき込んでくる。

いつまでも黙っているわけにはいかないし、言おう。

そう決めて少し深呼吸をする。

「あのねっ。今日は伝えたいことがあって来たのっ」

「なになに?」

「あのっ…」

そして再び深呼吸。

「隣に引っ越して来た大門月羽です。よろしくねっ」

やっと言えた…

「……はぇ?」

キョトンとしているヨシくんとやりきった感に浸るあたし。


あたし今日からこのマンションの住人そして、ヨシくんのお隣さんになりましたっ。
















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