同居してきた姉のことを好きになれますか?

ましろゆーき

第1話 一人暮らしと2人の距離。

昔からどうしてもやりたい事があった。

それはゲームや読書、旅行など趣味や娯楽ではなく、生きていく上で今後必要になると昔ある人から教わった事だ。

それは一人暮らし。

自分の好きな家具や家電を置いたりアニメのポスターやタペストリーを堂々と飾ったり…

楽しいこともあるが、光熱費や食費を計算してやり繰りしたり、料理、洗濯など家事を一通り行わなければならない。

人生においてもそうだが、楽しいことばかりでは無いし、嫌なことがあるから良いことが良いになると俺は思う。

俺の名前は神崎理稀かんざきよしき

中学を卒業して来月からは念願の高校生活が始まる。

そして今、一人暮らしの舞台ぶたいとなるマンションのロビーにいるのだ。

「こ、ここが新しい俺の家…」

ようやく……ようやく始められる一人暮らし。楽しみもあるが若干の不安もある。

けど、明らかに楽しみの方が上だ。

だって…1つの願いが叶ったのだから。

ここまで色んなことがあった…思い出すだけで自分にお疲れと声を掛けたくなるほどに。

引っ越し業者の慣れた手さばきを見ながら俺はロビーにあるソファに座って、今日までの出来事を振り返る。


それは、中学3年の夏休みのこと。

「ねぇ、俺一人暮らししたいんだけど」

俺は夕食のミートソーススパゲティを食べながら両親に話しかける。

「何言ってるの。あんたまだ中学生でしょ。そんなこと出来るわけないじゃない」

「その通りだね。一人暮らしは良い勉強にはなるがまだ早いと思う。大学生になったら考えよう」

予想はしてたがやはり両親共反対だった。

いつもはここで食い下がってしまう。しかし、俺は

「お願いだ!どうにか高校生から一人暮らしさせて欲しい」

食い下がらない俺に対して両親は顔を見合わせる。

いつもの俺はここで引き下がっていたからだ。

「1つ聞かせて欲しいんだけど、なんで一人暮らししたいんだい?」

父親が珍しく興味を持って尋ねてきた。

「自分のことを自分でやりたいんだ。家事や洗濯、部屋のレイアウトも自分で決めたい」

もう1つ理由あるが今は伏せておく。

「なるほどね…」

父親は少し考えてから再び食事を始める。母親は俺と父親の顔を交互に見ながら首を傾げている。

恐らくだか、父親には俺のもう1つの理由がわかるんだろう。何となくそんな気がする。

「なぁ、理稀。どうしても一人暮らしをしたいか?」

俺はうなずく。

「正直俺と母さんは理稀の一人暮らしについては反対だ」

キッパリ反対と言われると覚悟はしてたが精神的ダメージが大きい…

「けど、理稀がそこまで本気になる理由があるんだろう。だから、1つだけ条件を出すからそれをクリアすれば認めるよ」

え? 認めるって言った?言ったよね?

思わず父親の方を見ると真剣な眼差しでこちらを見ている。

「それは…」

朝陽乃あさひの高校に入学すること」

朝陽乃高校とは俺の住む街から電車で1時間ぐらいの場所にある進学校である。

そこに入学するには入試で各教科8割は出来ないと難しいと言われている。

いわば、勉強が出来る人向けの高校だ。

ちなみに今の俺の成績は各教科50点ぐらいの超平凡人間。

あっ、これ無理ゲーだわ。

こうしてこの日の家族会議?は幕を閉じた。


翌日学校に登校すると俺の席で寝ている女子生徒がいた。

いつもの事だから何とも思わないけど、何で俺の机なんだよ。

「おはよっ」

挨拶をしながら丸めたプリントでその女子生徒の頭を引っ叩く。

パシーンという良い音と共に目を覚ます女子生徒。

「ふぁぁ…ん…誰?」

「誰じゃねーよ。人の机で寝るなし」

目をこすりながらこっちを見ているが俺を誰だかわかってないのか?

「おー、これはヨシくんじゃあーりませんかー。グモーニン」

「あのな月羽。いい加減俺の机で寝るのやめろって」

この女子生徒の名前は大門月羽だいもんつきは中学3年間同じクラスという、俺の友達だ。

寝癖と思われる飛び跳ねた髪を手でいじりながらセミロングの髪をなびかせる。

「寝癖ぐらい直してこいよ。一応女子なんだし」

「あー。今酷いこと言ったねー。一応じゃありません。女子です!ほらっ胸もあるっしょ?」

そう言って胸を張るが、なにせ膨らみが小さいもので微かに山が見える程度むしろ、平野だ…

「そうですねー。へい…いや、何でもない。山見えるわ」

危なっ。平野だと思ってたら平野って言いかけてしまった。

「むぅ…貧しくて悪かったわね。乳がデカいからって何だってんだ。そうか、ヨシくんもデカイのが好きなのか。そうなんだな」

そう言って俺の頬をつねる。

これ地味に痛いわ。

「そういや、理稀。悩みあるっしょ?」

「痛たた……え?」

月羽からの思いがけない質問に動揺する。

「これだけ長い付き合いだとわかるんよ。何となくいつもと表情と言うか雰囲気違うなーって」

月羽は人に対する勘がいい。

隠し事をしてもすぐに見抜いてしまう。

そのことを知っている俺は昨日の出来事を話した。

途中人の悩みを聞きながらウトウトし始めたので額を定規で叩いたりした。

俺と月羽はいつもこんな感じだ。

「なるほどね。よしっ、私と一緒に朝陽乃目指そっ。ねっ?」

前に進路希望で『誰がこんなところ行くかー。あたしはのほほんと普通な高校生活を送りたいんじゃい!』などと言っていた月羽からこんな言葉を耳にすることが出来るとは。

嬉しくて泣きそう(笑)

ちなみに月羽の成績は俺より遥かに上でクラスの中で常に1、2位を争う程のレベル。

その月羽に教えてもらえれば朝陽乃に進学して一人暮らしも夢じゃないかもしれない。

「なぁ…月羽」

「ん?なーに?」

「付き合って欲しい」

「……」

その瞬間クラスが白ける。

あっ、『俺の入試対策』という言葉を入れ忘れた。

何でこう言うときだけ普段喧やかましい無口になるんだ?

そして、クラスがざわつき始める。

「はわわ……」

赤面した月羽はうつむいて口をもごもごさせている。

「ば、ばかぁこんなみんなの前で…」

「へ?何だって?」

「良いわ。付き合ってあげる。感謝しなさい!」

その瞬間、クラス中が騒つく。

男友達から質問責めにあったり、女子からおめでとうと言われたり…

まだ、試験というか入試対策も始まってないのに皆早いなー。

よし、みんなの期待に応えられるよう頑張るっ!

まぁ、とりあえず朝陽乃に通える可能性が見えてきただけで大きく夢に近づいた気がする。


それから3ヶ月が経ち、家から見える山が紅葉で彩り豊かになり始めた土曜日の朝。

俺は週末のイベントになりつつある月羽との勉強会をするために準備をしていた。

勉強会は負担を軽減するため、交互の家で行ったり近所の図書館を利用したりしている。

月羽の教え方はとても上手くて自分でもわかるぐらい成績が良くなっている。

月羽が来るのは大体お昼過ぎなので家であるもので適当に昼飯を作る。

昼飯を作っているとリビングの扉が開いて、ジャージに寝癖で髪が爆発している姉が入ってきた。

「んー。おはよ……ご飯あるぅ?」

彼女の名前は神崎亜梨栖かんざきありす俺の1つ上で現在高校生。

茶髪で、腰ぐらいまで髪を伸ばしている。

苦しいという理由でジャージのファスナーは胸元まで開けている。

そこから割と大きな山が二つ見えるが自分の中では日常の出来事なのでなんとも思わない。

家ではこんな感じだが、友達の前では化粧、香水をバリバリ使用し、今時のギャルって感じだ。

友達と夜遅くまで遊んだり、家に連れ込んでどんちゃん騒ぎしたり…

昔は優等生って感じの真面目な誇れる姉だったのに何があったのか…こんな感じになってしまった。

どこかで全く知らない人と入れ替わったのか?

冗談でそう思ったけど、なんかそう思えてきた…

俺の性格と今の姉は相性が最悪なので最近は関わりがない。

前に1ヶ月近く顔を合わせないこともあった。

そんな姉が珍しくリビングに降りてきた。

「おはよ。今飯作ってるけど?」

「あー。食べるわ…」

亜梨栖はスマホをいじりながらダルそうに答える。

その後特に会話は無く俺は飯を作り、姉はひたすらスマホをいじる。

すると、不意に姉の口が開く。

「あんた、朝陽乃受けるんだって?」

えー。何で知ってるの。

まぁ両親のどっちかが言ったんだろう。

「まぁね。受ける予定」

「ふーん…まぁ頑張りなよ」

思いがけない言葉に俺は姉の方を見るがテレビを見ているためこちらに背を向けている。

少しだけ…ほんのちょっとだけ、嬉しかった。

「はい。飯出来たよ」

そう言ってテーブルにご飯、即席味噌汁、豚肉の生姜焼きを載せる。

「ありがと……わぁっ」

姉の驚きに驚いた俺は味噌汁をこぼしそうになった…

いきなり叫ぶなよ。

七海ななみとの約束忘れてたー。これ後で食べるからラップして冷蔵庫入れといて……」

「まさか、またあの人家に来るの?」

今夜も眠れぬ夜が来るのか…

「あー。泊めてって連絡来てるから、今夜もやかましくなるけどよろしく」

よろしくじゃねーよ。

もう…こんな生活嫌だ…

こんな姉なんて嫌いだ。


そんなブルーな気分になりながら月羽との勉強会は始まる。

「おーい。聞いてるかい?もしもーし」

今夜の事を考えるとぼーっとしてしまう。リビングで寝るのも手だけど平日休みの両親に朝6時半頃強制的に起こされる。

どうしましょう…

「人の話を無視するなーー」

月羽は手元にあった定規で俺の額を叩く。

突然パチンという音と共に額に痛みが。

我に返ると目の前で月羽がプンスカ怒っていた。

「教師の指導を無視するなんてダメな子ですねぇ。あたしに見惚れたん?」

「どうしてそうなるんだよ。確かに可愛いとは思うけどね」

とりあえず褒めておけば大丈夫。そう教わった。

今は今夜の事で頭がいっぱいだ…

「ファー。あ、あたしを褒めても何も出ないよ?」

そうだ。ここに一人の友達がいる。

相談しよう、そうしよう。

まぁ、ろくな答え返ってこないだろうけど。

「質問なんだけど、自分の部屋の隣から騒音が発生したらどうする?しかも夜中」

「ほぇっ? 唐突な質問だねぇ…ん……」

腕を組みながら見た目真剣に考えている月羽を見ながらおれも考える。

「夜中ねー。あたし睡眠を邪魔されることがこの上なく嫌いだから、その原因を撲滅ぼくめつするね♡」

満面の笑みで『撲滅』という言葉を強調して俺に案を出してくれた。

撲滅は完全に退治するという意味…つまり……

月羽先輩…怖いっす。

「まぁ、いくら自分を防衛ぼうえいしてもその元となるものを無くさなきゃ解決せんよ?」

そうだよな…どうしましょう…

「あっ、そうだ」

何かを思い出したらしく拳をポンと手のひらに当てた。

「朝陽乃の事をね。両親に言ったのよ」

進学したいってことかな。それ逆に言わなきゃだめなやつじゃね?

とりあえず次の言葉を待つ。

「んでね。常にやる気のないあたしが何でそうなったかって言われたから理稀の事を話したのよ。そしたら理稀を是非ともうちに呼んでくれって」

ほう。どんな奴がやる気の元になったのか確かめたいって事かな。

月羽には世話になってるし、ご両親に挨拶するかな。

意外にも月羽の両親には一度も会ったことがない。

「……んでね。来週末うちに来てはどうかと言ってたお」

来週末か…予定の確認をせねば……

んんん?

あれ今の言葉に違和感を覚えたんだが気のせいか?

「ちょっといいかい?」

「ん?」

「来週から?」

「ん。そだよ」

月羽は『何かおかしなこと言いました?』的な表情をしてこちらを見ている。

「あー。来週末からしばらく大門家に寝泊まりして勉学に励んで欲しいってこと。ちなみにお互いの両親からの許可は得てます♡」

こ、これは一度に悩みが2つも解決する。神さま、月羽ーありがとうーー!

「是非。お願いします」

思わず身を乗り出して月羽の手を握る。

その後『なんて大体な…』って思ったけど月羽はニコッと微笑むだけ。

ドン引きされてないよね?

「よーし。来週末から大門理稀だね。楽しみにしてるよー」

「意味わかんないっす」

婿入りした訳ではないので冷静にツッコミを入れる。

そんなこんなで約3ヶ月ちょっとの間俺は大門家にお世話になってた。

そして…無事朝陽乃学院に受かることが出来たのである。


「おーい。ヨシくんいつまで寝てるんじゃい」

月羽の声と頭を叩かれた衝撃で目を覚ます。

どうやらロビーで寝落ちしてしまったらしい。昨日の夜は楽しみで寝付けなかった。

気づいたら東の空が明るかったしな。

「あー。悪い思いっきり寝てたわ」

ふと、時計を見ると午後3時半。大体1時間ぐらい寝てたみたいだ。

「もー。こんなところで寝ないでよねっ。ささっ、あたしがいるうちに荷物整理しよっ」

そう言って俺の腕を引っ張りエレベーターに乗り込む。

「あれ?部屋何号室だっけ?」

鍵は昨日受け取ったけど部屋番号書いてないからわからない。

「えっとね。501号室だよ。なんであたしが知ってるのよ…」

月羽は溜息ためいき混じりにあきれてる。

「いやー。頼りになるわ。これからもよろしくな……その…朝陽乃では唯一の顔見知りになるんだし」

そう言ってみたが返答なし。

けど、若干顔が赤くなっている気がした。エレベーターの中若干暑いからかな。

「し、仕方ないわね。これからもあたしを頼りなさい。けど、ずっと一緒にいるとお互い友達出来なくなるから程よくね」

月羽はエレベーターのボタンをガン見しながらつぶやくように言った。

そして部屋に到着したので、鍵を開ける。

カチッという音と共にロックが解除される。

「あ、空きましたー」

寝起きドッキリのようにコソコソやると月羽から『寝起きドッキリかっ!』というツッコミをいただけました。

「ささっ、空きましたのでどうぞっ!」

「何で住人より先にあたしが入るのよ。普通今日からの住人が一番乗りするべきよ」

「ん?お世話になった人を先に通すべきかなって」

そんなやりとりをしているとスマホが震えた。

誰かからの着信だろうけど、後で折り返せば良いと思いそのまま放置。

そこから月羽と2人で荷ほどきをしたり、注文してた家電を設置したりした。

気がつくと辺りは真っ暗で時刻は夜の7時をまわっていた。

俺は月羽とファミレスでご飯を食べて最寄駅まで送ることにした。

今日一日手伝ってもらったお礼に飯を奢ろうとしたら引っ越し祝いと言って逆に奢ってもらった。

ホント…色んな面でお世話になりすぎる。

『これからも友達でいたい』

心からそう思った。

「今日は助かった。本当にありがとう」

「ん?別にいいよ。その代わり今度あたしが困ってたら助けてよねっ」

月羽はそう言うと微笑んだ。

「当たり前だろっ。何があっても助ける。約束する」

そう言うと月羽に抱きしめられた。

「え……えぇ?」

「少しこのままで居たい…」

その声は今までの明るい彼女からは想像出来ないような弱々しくも抱きしめる力は強い。

少しだけ苦しい…

けどこんな月羽を今まで見たことがない。

「ちょっと…改札前で人通りあるし恥ずかしいんだけど…月羽さん?」

「少しの間だけど、離れるのやっぱり、寂しい…ずっと一緒に居たからかな…」

ちょうど特急列車が通過したため月羽がなんて言ったか聞き取れなかった。

「なんだって?」

「ううん。何でもない。電車もうすぐ来るから行くねっ。また、入学式の朝会おうね」

そう言うと俺の返事を待たずに走り去っていった。

しかし、ICカードの残高が無かったらしく改札のドアが閉まった。

おいおい…(笑)

こっちを振り向くと頭をかいて『やっちゃったー。お金貸してっ』そう言って戻ってきた。

「そう言うところやっぱ月羽らしいな」

そう呟くと券売機の方へ向かい、月羽に帰りの電車賃を渡した。


駅から新居までは徒歩5分。

実家の頃は徒歩20分以上かかってたので大分近くなった。

ふと、マンションを見ると俺の部屋の明かりが点いていた。

点けっぱなしにしてしまったか。

『出るとき月羽が消してくれたはず』そう思いながら部屋に戻る。

すると、やはり電気が点いていた。

廊下とリビング両方点けっぱなしとか電気代が…

そう思いながらリビングに向かうと何やら物音がする。

「……」

え? もしかして空き巣ってやつか? 引っ越しの初日から?

恐る恐る…リビングへのドアを開けるとそこにはキャリーバッグから荷物を取り出している見覚えある1人の女性がいた。

少しすると、目があった。

「……」

「……理稀久しぶりっ!」

状況が理解出来ない。出来るはずがない。

そこには一番距離を置きたい人物が居たのだから。

そこに居たのは神崎亜梨栖。俺の姉だ…



「嘘でしょ? そんな…」

うちは思わず声に出してしまった。まさか、最愛の弟である理稀よしき朝陽乃あさひの学院を受けるなんて。

そして、この家を出て行くなんて…

神崎亜梨栖かんざきありすは両親と夜ご飯を食べているとき、母から言われた一言に絶句していた。

「この前、朝陽乃を受けるって言ってたわ。あれ、冗談だと思ってたんですけど…」

「わたしもね。冗談だと思ったのよ。だけど、あの日から部屋にこもってひたすら勉強するわ、お友達と勉強会に行くって家を出るわ…信じられないわ」

理稀に何があったのか。

問い詰めたいけど、最近はあまり口を聞いてくれないのよね。

下手にからむともっと2人の距離が開きそうだし…うーん、うちは一体どうすればー。

今の高校に通っているのも、昔理稀が通ってもいいかなって言ってた高校だったから志望したんですけど。

来年の春からは弟と仲良く通学するのが何よりも夢だったのに、それが叶わなくなるかもしれない。

そんなの嫌だ。そんな結末誰も望んでない。

……多分ね?

うちの中でのトゥルーエンドへ向かうにはどうするのが賢明か。

答えは1つしかない。

「ねぇ。1つ聞いていい…いや、2つかな」

両親がうなずいたので、質問する。

「理稀が朝陽乃に受かる可能性は高いと思う?」

両親は顔を見合わせた後に父が口を開いた。

「あの子はやる時はやる男だからね。だから受かると思うよ。まぁ親としてもそこは信じてやりたいところかな」

無理だと思っても応援するってさすがだなって思う。

「もう1つの質問は何かな?」

父はニッコリしながらそういうと再びご飯を食べ始めた。

この質問…いや、相談をするのは少し勇気がいるですけど。トゥルーエンドへ行くために避けては通れない道?だと思うし、頑張るっ。

「もし、理稀が朝陽乃に通うことになったら……うちもそこに通いたいんだけど、ダメっかな…?」

言っちゃったー。もう後には戻れないし、どんな答えが返っててこようともめげないんだからっ。

「えっ?それって…転校するってことよね?」

母は困惑しながら質問をしてきた。

これ絶対反対されるやつだよね。うーん、今のうちに反撃できるよう考えとかなきゃ。

「そう、かなっ。えへへ…」

「亜梨栖……あなたね…」

どうしよう。何言われるんだろう、緊張してきたんですけど、助けてー理稀。

「素晴らしいじゃない! 是非、転校するべきよ」

意外な答えに亜梨栖は絶句する。

えぇ…。いまの母は最近見た中でも一番嬉しそうな表情してる気がする。

「転入試験は通常の入試より難しいらしいから、頑張るんだよ。父さん、母さんに協力出来ることがあれば言ってね」

「……ありがとう。うち……頑張るね」

この日から亜梨栖にとって地獄の日々が始まったのである。

うちが通ってる高校は正直言ってレベルが低い。

そんなレベルのうちがトップレベルの高校の転入試験を受けるなんて容易よういなことじゃない。学校終われば毎日のように友達から誘いを受けるし、授業内容のレベルは低いし。

しかし、最愛の弟と同じ学校に仲良く通うという理想のためにうち…頑張る。

友達と出かけるのは3日にするって決めて後の日はすべて勉強に当てる。

友達にはバイトと言って断っている。もし、勉強のためとか言ったらバカにされるし家に来ちゃうから…こういうのちょっと面倒なのよね。

そういえば、最近理稀見ないのよね。

ま、まさか家出しちゃったの??

まぁ、そんなことより転入試験の事を考えるのよ!!

そんな日々を過ごすこと、約3ヶ月。

とうとう、転入試験の日がやってきた。

てっきり、うち1人かと思ったら他に2人ほどいた。

もしかしてこの中での合格者って1人だけだったりするのかな?

ううん…余計なことは考えちゃダメよっ。

そして、試験が始まった。

常に理稀の事を考えながら試験に挑む。

こんな自分に引きながらもそれが最善を尽くす方法だと思い、試験問題を解いていく。


そして5科目の試験が終わると同時に絶望感に浸る。

だって…全然出来なかったんだもん…

だって…聞いてよ。試験勉強したところほぼ出なかったんだよ? 受かるわけないよね。

こうなったら理稀を無理矢理うちの学校に招き入れるか。まぁ無理よね。

はぁ。萎えるわ。

マイナスオーラ全開で帰宅し、ベットにダイブする。

リビングのテーブルに『試験出来なかった…今日は寝るね(´・ω・`)』と書き置きして、制服を脱ぎ捨てて瞳を閉じた。


時は流れ、迎えた合格発表の日。

試験日から大分時間が空いたため試験のことをすっかり忘れてた。

まぁ、ダメだろうけどとりあえず見てみるか。そう思ってポストを開けると大きな封筒が入っていた。

「不合格者にこんな大きな封筒必要なくね?」

そんな事を呟きながら封筒を部屋に持ち込む。

いや、大きく『不合格』と書いてあって終わりな気もする…

それ嫌だな…

封筒が大きいからって合格とは限らない的な事を聞いたことがあったっけ。

とりあえず、内容を見なきゃ始まらない。慎重にハサミで切り、中の用紙を取り出す。

思わずつぶってしまった瞳を開けるとそこには『合格』の文字が。

「えっ……ええええ?」

二度、いや三度見たが『不』の文字は見当たらない。

うち…受かったんだ。受かったんだー。

その後帰宅してきた両親にこの事を報告すると、理稀も無事朝陽乃に受かったという報告を受けた。

これで、引っ越し先を特定すれば最愛の弟とのラブラブ生活が待っている。

やめてよー。ラブラブなんてー、照れるし。

その後、理稀の新居の場所と入居日はすぐに特定出来たので、引っ越し準備開始っ。

特定方法は……ヒミツ♡


そして、理稀の引っ越し当日。

理稀はバタバタしながら準備をして両親に挨拶をして家を出て行った。

うちが家にいるにも関わらず挨拶しないなんて…

フフッ…後でお仕置きするしかないじゃない。

そしてひっそりと送った荷物以外をキャリーバッグに詰め込んで、両親に挨拶して夕方に家を出た。

「一応電話しておいた方がいいわね」

スマホを取り出して理稀の電話番号に電話をかける。

さぁ、久しぶりのお姉ちゃんからの電話。

どんな反応するかな。わくわく。

しかし…電話にでんわ…

あれ?…自分で言っておいて悲しくなってきた。

こうなったら無理矢理押しかけてやるんだから。

母から貰ったスペアキーを確認するとマンションの501号室へ。

インターホンを鳴らしても出てこないので居留守?

フフッ、こっちには鍵があるのよっ。

鍵を開けるとそこには理稀の姿はなかった。

買い物にでも行ったのかな。とりあえず電気をつけて、荷ほどきを始めよう。

荷ほどきを始めてから10分ぐらい経った時、玄関の鍵空いた。

きたーー!久しぶりに理稀に会えるわ。どんな反応をするのか楽しみね。

すると恐る恐るリビングのドアを開ける理稀と目が合った。

さぁ、感動の再会。お姉ちゃーんと抱きついてきてもいいわよ?その時は受け止めてあげるんだから。

しかし何も話さない。

感動どころか、場違いな人を見るような目線でこっちをガン見してきてる…

とりあえず…何か話さなきゃ。

「……理稀久しぶりっ!」

「……」

あれれ?あれれ?反応無いんですけど…

最愛の弟とお姉ちゃんの感動の再会はどこに行ったのかしら。

「あのね。理稀」

「ん?なに?」

うー、相変わらず冷たい態度…けど、お姉ちゃん負けないんだからっ。

「うちね。今日からここに住むから、よろしくねっ」

すると理稀は嬉しいのか嫌がっているのかわからないけど、呆然と立ち尽くしている。


この日から、距離を置きたい弟と距離を縮めたい姉の同居生活が始まるのであった。

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