18話 恵海とひと夏の思い出

ふと、目が覚めた。

枕元のスマホを手に取り時間を確認すると4時半を過ぎたところ。

外は明るくなってきているが起きるには早すぎるため、二度寝することにした。

不思議なことに二度寝ってすぅーっと夢の世界へいけるのホント不思議。

しばらくすると枕元から通知音がした。

とりあえず煩いので×を押し再び瞼を閉じる。

こんな早くに目覚ましを設定した記憶ないし電話かメッセが来たかもしれない。

ま、いいや。

おやすみ…。

……。

……。

♪〜♪

再びスマホに通知。

……。

ん?

着信?

無理やり瞼を開けて確認する。

知らない番号から電話がかかってきた。

普段知らない番号は出ないようにしてるが、この番号は出たほうが良さそうな気がしたので通話を押す。

「もしもし」

知らない番号からの着信は絶対名乗らない!

昔ばあちゃんからそう教わった。

『理稀くん?』

ん、この場合はどうすれば良いんだ?

違いますとは言えないけど肯定すれば神崎理稀だと知られてしまう。

俺はどうすれば良いんだ?

そんなことを考えているとまさかの相手の方から名乗り出た。

「おはよっ。メグちゃんこと君の担任だぞっ」

……。

この声は間違いなくメグちゃん。

モーニングコールにしては早過ぎるし何故電話をしてきたのか。

「どうしたんですか」

とりあえず要件を聞くことにした。

相手から"メグちゃん"と言ってたが半分寝ぼけている状態の俺にはそこにツッコミは入れることが出来ない。

「自分のことをメグちゃん呼びしてるテンションアゲアゲなわたしをスルーしないでよねっ。んで、そんなことはどうでも良くて…」

「ん、そうですか」

「対応が冷たい! さては眠いんでしょ?」

「当たり前です」

まだ始発も走ってない時間。

この時間に眠くない人は居るのだろうか。

「ごめんねー。んで、お電話したのは玄関に忘れ物したからなの。イタ電じゃないわよ?」

忘れ物なんてあったかな?

「ちょっと見てきますね」

いつもより数倍強い重力に押されているような体を起こして玄関へ向かう。

「よろしくねー、中身はぜーったい見ちゃダメよ?」

そう言われると何が入ってるのかとても気になる。

学校関係の資料だったらマズイのでとりあえず家で保管するしかないか。

中身がとても気になるけど見てはいけないと自分に言い聞かせる。

そんなことを考えながら玄関へ向かうと茶色い紙袋が置いてあった。

紙袋の大きさはアニメや映画の設定資料集がちょうど入るぐらい。

オタクなものでこんなものでしか伝えられず、すみません……

「紙袋ありましたよ」

「よかったー。今マンションの前に居るから持ってきて」

……え?

勝手に『そのうち取りに行くね!』だと思ってた…

家の外に待機してるとかちょっと怖い。

まぁ、それだけ大切なものなんだろうし届けるべきだな。

一応年上だしな。

「ねー、今失礼なこと考えなかった?」

「いえ、そんなことないです」

「怪しっ」

「準備完了!持っていきます」

そう言って終話した。

エレベーターに乗って一階まで降りてエントランスを出ると見覚えのある車が路駐してた。

助手席側から車を覗くと俺の存在に気づきロックを解除してくれた。

「おはよー」

「…おはようございます」

眠気Maxな俺とは反対に割とテンション高めなメグちゃん。

「ありがとうねー。まぁまぁ、助手席に乗りなさいな」

「いや、家帰って寝ます」

「いいから、いいから〜」

断ったにも関わらずニコニコしながら手招きされた。

「眠いので今日は…」

「はやくー乗ってー」

「…さすがに」

「のぉーるぅーーのぉーー」

駄々こねる子供みたい…

その時足がアクセルに当たったらしく、とても静寂に包まれているマンション周辺にエンジン音が響き渡る。

近所迷惑になるからおれが犠牲になろう…

「わかりました。乗ります…」

不本意ながら助手席に座る。

「よし! シートベルトしてー。レッツゴーーー」

その声とともに動き出す車。

シートに押し付けられる力と急ハンドルによる横向きの力に耐えながら咄嗟にシートベルトを着用した。

それからしばらく爆睡してしまったらしく、目を覚ますと自然豊かな田舎道を走っていた。

時刻は7時を過ぎたところ。

日差しが強くなりつつあり軽く窓を開けると外からモワっとした熱気が入り込んできた。

さすが真夏だな…

「おはよっ」

「おはようございます…ここどこですか?」

「朝ごはんどうする?」

「そうですね…コンビニで良いんじゃないですか。ってか、ここどこですか?」

「コンビニあったら寄るね」

「ありがとうございます…」

聞くよりも先に風景や標識で所在地を知れば良い事に気付いたが、現在地は大自然豊かなところ。

周りを見ても木々と田んぼに埋め尽くされている。

「絶対コンビニ無いですよね…」

「だね!」

そんな…(´・ω・`)

ここで無理やり車を降りても行き場を失い詰む未来しか見えないので黙って車に揺られることにした。

まぁ運転手よく知ってる人だし危険では無いだろう。


それから20分ぐらい比較的交通量が多い道路を走ると初見じゃ通過してしまうであろう細い道に入った。

某神隠し映画の序盤に出てくるような道。

『この車は四駆だぞ』って言いそうな運転手を横目に木々が生い茂る山道を登る。

これから異世界に行って神様御用達の湯屋で働くことになるのか。

なんて妄想をしながら左上にある取手にしがみつきながら前を見る。

もうどうにでもなれ…。

道路状態が悪いため体を上下左右に揺らされて数分…

辺りに生い茂っていた木々がなくなり少し先に古民家風の建物が見えてそこに停車した。

「到着ー」

エンジンを切って車から降りるメグちゃん。

俺もとりあえず降りることにした。

メグちゃんは車の後部座席から荷物を取り玄関に向かって、俺に手招きしてきたので大人しくその方へ向かう。

コテージでも借りたのかと思ったが、畑を耕す道具や機械がビニールハウスの中にしまわれているので誰か住んでいる民家だろう。

玄関に入ると少し冷んやりしていてどこか懐かしい匂いがした。

もしかして別荘? 

それとも引っ越したのか。

「ささっ。上がってー」

「メグちゃん引っ越したんですか?」

「んな訳ないよー。こんな田舎から通勤できんし」

「確かにそうですよね。じゃ、ここは…」

俺がキョロキョロしながら玄関に立ち止まっていると腕を引っ張られた。

「いーから、上がんなさいな」

こうしてメグちゃんに腕を掴まれながら客間に通された。

メグちゃんはそこに荷物を下ろすと「疲れたーー」と言って大の字に寝転がった。

「自由ですね…」

「まぁねー。ばあちゃん家だし」

「そうなんですか!?」

「そっ。今はあたしの実家に行ってるから誰もいないってわけ。さー我が家のようにくつろぐが良い。ワハハー」

「そういや、前に姉さん達が来たってのもここですか?」

「あー。そうね、あの時は家に押しかけて来ようとしたから避難場所として使わせてもらったわ。あたしの家にあのメンバー入れたら近所迷惑よ…」

「そうだったんですね。ここ、一度来てみたかったんです」

それはそれは楽しそうに姉さんがここの場所での出来事を話して来た。

みんなで買い出しをして、食べて、寝て…

とりあえずワイワイ楽しんだらしい。

そういうの楽しそうだしやってみたいけどクラスにそこまで親しい奴があまり居ない…

放課後に関わりがあるのがあのメンバーぐらいだし。

まぁ普通に楽しいから良いんだけどね。

クーラーが無くてもそこまで暑く無く蝉の鳴き声があらゆる方向からするザ・田舎な感じだがそれが良い。

「朝早くて眠いから寝るわ。お腹空いたら適当に食べて良いから〜」

そう言うとメグちゃんは寝息を立てた。

こうして大自然の中にある家に拐われて1人暇するのであった。

お家に帰りたい…。




やけに静かなリビングで目を覚ました。

時計を見ると午前10時過ぎ。

隣で寝ていたはずの弟はベットから居なくなっていた。

それはいつも通りなのだが家の至る所を探しても弟の姿は見つからない。

玄関、トイレ、クローゼットの中などどこを探しても最愛の弟くんがいない。

お出かけしたのかなと思ったけど何かおかしい気がする。

姉としての勘がそう言っている。

これが杞憂だったら良いのだけど、こういう時って悪い方に物事が進むのよね…

とりあえず電話しよう。

そう思いスマホから着信を入れるが近くで理稀のスマホが鳴ってる。

……。

しばらく腕を組んで考える。

あ、月羽のところね!!

そうであることを願いながらショートパンツにタンクトップという人様に見せられない格好であることを忘れてお隣さんへ突撃。

インターホンを連打する。

すると走ってこちらに向かってくる音がしてドアが思いっきり開いた。

「うっさいわーーー」

元気よく出てきた月羽に対して驚くこともなく、肩を鷲掴みにする。

「ねぇ、ねぇー」

「な、なんです?」

「理稀がいないのぉー」

……。

……。

「えぇっ!?」

少しの沈黙のあと月羽が叫ぶ。

2人で最愛の弟くんを探すも見つからず、ベッドに座り込んだ。

「また喧嘩しました?」

「してない! 寧ろ仲良くなったかな?」

「へ、へぇー。まぁ? その? 仲が良い姉弟は良いことだと思いますけど」

「なんか口調強くない?」

「気のせいですっ! そんなことはどうでもよくて…理稀が友達や周りの人とやり取りしたとかないです?」

"そんなこと"ってひどい…。

ひとまず昨日、一昨日などの出来事を振り返る…

……。

「あっ!」

「なにかありました!?」

一目散にスマホを取り『神田七海』に着信を入れる。

呼び出し音が3回鳴った後『はいはーい』という聞き慣れた落ち着く声がした。

落ち着いている場合じゃないんだけどね。

『七海ー』

『はーい、七海でーす』

『でしょうね。そんなのわかってるわ』

『おいぃ!名前呼ばれたから"七海でーす"って返事したのにひどいじゃないかー』

『ごめん…』

『いいのー、んで何のやう?』

珍しく七海が噛んだ。

ちょっと面白い。

『そうだった…理稀が居ないのー』

『ありゃま〜。てか、過保護な姉だねぇ…どっか遊びにでも行ってるんじゃないの?』

そう言われて過保護過ぎるかなと思ったけど大切人を想って何が悪い!

過保護過ぎるぐらいの方が良いんだよ。だって理稀の周りには危険(多くの女性たち)があるのだから。

『もしもーし。聞こえてる?』

七海の声で我に帰る。

『ごめん』

『あー、聞こえてるならいいや。そういや、私の姉が居ないんだけどそっち行ってない?』

……。

……あっ!

1人我が弟を拐っていく可能性がある人物が。

『もしかしてだけど…メグちゃんが理稀を拐ったととか…』

『それはないよと言いたいところだけど…うちの姉ならあり得るんだよね。ちょっと電話してみるから一回切るね』

こうして終話した。

それからなかなか着信が来ない…

月羽に「遅くない?」って聞いたら「まだ5分も経ってませんよ」と言われてしまった。

こういう時の時間の流れ遅すぎっ。

それから暇と好奇心の2つにより理稀のスマホを覗こうとしたがロックがかかっていて何も出来ず。

それからしばらく経ってたから着信が来た。

『もしもーし』

『亜梨栖?』

『だよ。で、どうだった?』

『それがね…』

『うんうん』

『メーちゃんのスマホにかけたら、理稀君が出たよ?』

なんで。なんでよーー。

うちの可愛い弟は女性にフラフラとついて行くようなおバカさんじゃないはずなのに。

とりあえずお迎えに行かなくては!

『んで、場所は?』

『それがねー』

……。

……。

場所を聞き終話する。

そっとスマホを置き月羽の方を見る。

「どうでした?」

「どうやら…拉致されたみたいね」

「えぇ!? それって海外ですか!?」

「ううん。国内の山奥ね」

「えぇ!それはヤバいです。誰に攫われたんですか?」

「メグちゃん」

「なら安心…出来ませんっ。取り返しに行きましょう!!」

「そうね。取り返そう!」

とは言っても、これからどうするか。

一刻も早く家に連れ帰りたい気持ちはあり過ぎるんだけど手段を考えなきゃ。

あの場所の近くに公共交通機関はなさそうね。

電車はまず走ってない。バスは…1日1度くる?

コホン…

とりあえず車が必要ね。

免許を持っている人…

……。

……。

思いつかない!

年齢的にあたし、月羽、七海はあり得ないでしょ…

年上…

あ、1人したことを思い出し連絡をしてみる。

奇跡的にその人と連絡が取れて車を出してくれることに。

偶然にも最近免許を取得したらしく車に乗りたくてしょうがないとか。

色んな面で不安が多いけど最愛の弟のためにお姉ちゃん頑張っちゃう♡

助けに行くから待っててね。

インターホンが鳴ると同時に月羽と部屋を出た。



俺がこの家に着いてから数時間。

久しぶりのスマホ、インターネットからかけ離れた空間。

……。

とても暇ですね。

とりあえずテレビを観てるけど飽きた…

癖でスマホを探してしまうがここにはない。

スマホ依存症であることを改めて気づいた瞬間でもあった。

テレビの音、セミの鳴き声、扇風機の回る音の空間で俺は暇している。

周りを散策しても良いけど毒を持った虫に襲われたりするかもしれないので家の中で大人しくしている。

家の中を散策することも考えたけど一応他人の家だしやめておこう。

あまりにも暇なので隣で寝息をたてているメグちゃんの頬を突っつく。

「んっ」

もう一度突く。

「んっ、んー」

人の頬を突くなんて普段しないので少しテンションが上がる。しかも、学校の担任教師だし特別感あって良き。

「ほれほれー」

「や、やめっ…」

もう一度突こうとした時にメグちゃんがガバッと起き上がり俺を押し倒す。

「あらあら〜いけない生徒ね〜。これはお仕置き…じゃなかった…特別指導をする必要があるわね」

どこか楽しそうにそう言うメグちゃん。

「勉強は嫌ですよ?」

「ふふっ。お勉強より大切な事教えてあ・げ・るっ♡」

「お願いします?」

こうして特別指導が始まるのであった。


……。

…。

「良い? この単語の意味を知らないとこの問題と3問目は解けないわよ? さ、これはどういう意味でしょう?」

……。

大切な事とはテスト結果を踏まえた上で、今後のテスト対策であった。

つきっきりで教えてくれているのである特別授業ですね(涙目)

少しピンクな事を想像してしまった自分を殴りたい。

「これって…さっき習ったこの意味でいいんですか?」

「そうね。その意味を入れて読んでみると回答が分かってくるはずよ」

「ありがとうございます。そうなると3問目は"ウ"が正解ですね」

「お見事よ。さすが神崎くんね」

「えへへ。そうですかね〜」

「じゃ、次はこの問題よ」

こんな感じで開始から2時間が経とうとしていた。

少し…いや、だいぶ疲れてきた…。

「まだやるんですか…」

「もちろんよ」

メグちゃんは"d( ̄  ̄)"こんな感じでグッと親指を立てていた。

「良い?神崎くんは補修常連になりつつあるの。だからこの短時間でビッチリ叩き込むわよ!」

「ひぃ…」

まだまだ続くらしい。

「人生何があるかわからないわ。さっきテレビで言ってたけど有名アイドルが引退するみたいなんだけどアイドルだって引退すれば一般人よ。その時に勉強が出来ると色々な選択肢が出来るわ。まぁ、おバカキャラで売れる人も居るけどそれは置いておいて…さ、始めましょ」

勉強再開。

それから2時間半ぐらい勉強をすることになった。

「これで終わりよ。お疲れ様」

「お疲れ様でしたー。終わったー」

計4時間超えのお勉強。

メグちゃん持参の過去テストを使用したのでこれだけ勉強しても宿題の進捗はゼロ!

どうして…。

でも、学力は上がったからヨシ!

そう思うことにした。

辺りを見ると陽が傾いてきて外はオレンジ色になっていた。

メグちゃんは勉強が終わると"疲れたわ〜休日手当欲しい"なとど叫びながら再び床に大の字になって寝転んでいる。

生徒とはいえ男が近くにいるのにこの人はだいぶ大胆だよなぁ。

しかも膝上ぐらいまでのスカートを履いているため下手すれば中が見えてしまう。

そんなことを思いながらメグちゃんを眺めているとこっちを向いた。

「理稀くん。頑張ったご褒美あげるわね」

藪から棒過ぎる。

そう言って起き上がると俺の近くに寄ってきた。

そしてメグちゃんは唇を重ねてきた。

予想外過ぎる行動に俺は抵抗することなく身を委ねた。それから少しの間その状態が続きお互い顔を離す。

俺の頭は思考停止…いや、パニック状態。

「スペシャルなご褒美はどうかしら? どんな生徒にもあげることのない特別なご褒美よ。満足してもらえたかしら」

「う、うん」

「フフッ。それはよかったわ」

照れと嬉しさが半々なメグちゃん。

ふとテレビを見ると花火大会特集をやっていた。

「そういえば、花火のボランティアってこの前の花火大会じゃなかったんだね」

「そうよ。隣町の姉妹校と一緒にやるからもっと先ね。ちゃんと概要見たかしら?」

「後から見たよ…。あの日早起きして待機しちゃった」

「フフッ。おっちょこちょいね」

「生徒会室で説明してよー」

そう言ってメグちゃんを頬を突く。

側から見たらイチャつくカップルのような状態。

「確認しないキミが悪いわ」

「くそーー。お仕置きだー」

そう言ってメグちゃんに抱きつく。

今の俺にはこれが限界。

「あらあら、これから理稀くんからの特別授業?」

「ん。しよ?」

そして再びイチャつく俺とメグちゃん。

これからの出来事はあまり覚えていないが幸せな時を過ごしたという幸福感だけは鮮明に残っていた。




それから1〜2時間が経った。

「んー、良いリフレッシュになったしそろそろ帰ろっ」

「そうですね。姉さんが100%心配してますし」

「あー。少しだけアリスちゃんに悪い事をしちゃったわね。絶対さっきの出来事言っちゃダメよ?」

「言わないよ」

そう言って散らかしたものを片付けして、鍵を閉めた。

辺りはすでに真っ暗。

見上げると満点の星空。

教科書や本意外で天の川を見るのはこれが初めて。

思わず立ち止まり空を眺めているとメグちゃんが隣に来た。

「ここの星空は最高よ。これを理稀くんに見せられてよかったわ」

「メグちゃん……言葉が見つからないぐらい綺麗です」

「あらっ、嬉しいわ♡」

「なんだかんだで楽しかったです。ありがとうございました」

「え? えぇ。よかったわ」

感謝を伝えたのにも関わらず微妙な反応。

それから少しの間眺めていると遠くから車の音が聞こえた。

メグちゃんの祖父母が帰宅したのかと思いどう挨拶するか考えていると車が隣に来た。

「ん、誰かしら?」

「メグちゃんのおじいさん、おばあさんでは?」

「車が違うわ」

来客か、不審者か?

万が一のために少し身構えた。

そして扉が開いた。

「よーーーしーーーきーーぃぃ」

山奥にとても聞き慣れた声が響いた。

その声が徐々に大きくなり俺に抱きついた。

「グヘッ」

「大丈夫?怪我してない?会いたかったよね?」

顔と顔の距離が大体拳一つ分ぐらいに近づいてきた姉さんが言った。

「大丈夫だよ。ち、近い…」

「そっかー、よかったよぉ」

「もう心配性だなぁ」

そんなやりとりをしていると後から3人来た。

「ヨ…ヨシくん…無事でよかったよ……」

口元を押さえてそう言う月羽。

船酔いした人が降りてきたのかと思うぐらいにフラフラしてる。

「よ! 理稀くん。七海ちゃんだぞっ」

「こんばんは〜、柴依奈でぇ〜す」

七海さん、柴依奈さんも乗っていた。

運転席から降りてきたという事は柴依奈さんが運転してきたのだろうか…。

あの人の運転ヤバそう。

『あらぁ。信号機何色だったかしら』

『速度の標識ないから何キロ出してもいいのよねぇ』

とかこんな感じで運転してそうだけど

偏見は良くない。

でも、あり得そうなんだよなぁ。

そんな事を考えているとメグちゃんVSその他の女性陣が繰り広げられていた。

「うちの弟を拉致して許さないんだから〜」

「う、うちの姉がすみません。亜梨栖様お許しを〜」

「ご、ごめんって。ほんの少しの出来心で、ね?」

「ゆるさーーん」

「ひえぇ」

「お、お水をください…うぅっ」

「みんな元気で良いわねぇ」

こんな感じで静寂な山奥に楽しげな?声が響き渡る。

それから再度家に上がり込んだ。

姉さん達がスーパーでお惣菜を買ってきてくれたのでご飯を炊きみんなで食べた。

そして時刻は21時を過ぎ。

家主は居なくても長居するのもあれなので帰宅することになった。

ここで2台ある車のうち誰がどこに乗るかを決めるため一悶着。


・結果

メグちゃん車…メグちゃん、俺、姉さん、七海さん

紫依奈さん車…紫依奈さん、月羽


こういう振り分けになった。

月羽が「勘弁してぇ〜」と膝から崩れ落ちたが紫依奈さんが「ダメよ♡一緒に帰りましょ」と無理やり月羽を乗せてルートを話し合うこともなく先行してしまった。

慌てて俺たちも車に乗り込み後を追うがなかなか追い付かず結果数キロ先まで追い付かなかった。

自宅に着く頃には24時を過ぎており運転疲れなのかメグちゃんがダウンしてしまったのでうちに泊まってもらうことにした。

「残念だけどうちベッド2つしかないからソファーか地面で寝てもらうことになるんだけど」

姉さんがクローゼットからタオルケットとクッションを取り出しメグちゃんに伝えるも「ん。ふぁーい」と眠過ぎてそれどころじゃないような返事をした。

今日ネットでお布団を買おうと思ったけどそれどころじゃなかったし、こんな急に必要になるとは思わなかった。

明日絶対に買おう…

そんな事を考えてると七海さんが横に来た。

「ねねっ。ナナと一緒に寝よっ♡」

そう耳元で囁かれた。

少し前まで「あたし」と呼んでいたのに急にこれは反則。

「あたしと理稀くん一緒に寝るから! 亜梨栖は1人でベッド使って、メーちゃんは床っ」

「えっ、そうする?」

姉さんが「絶対ダメよ」と断ると思ったが意外とそうでもない事に驚き。

「それがよい。 亜梨栖すぐ隣だからあたしが理稀くんに手を出す事出来ないし」

「そうね。わかったわ」

え?これ本当に姉さんか?

こんなにあっさりと肯定するとは思わなかった。

「やったーー。亜梨栖〜お風呂はーいろ」

「わかった、わかった」

「シャツ貸してー」

そんなやり取りをしながら廊下へ向かっていった。

さすがにメグちゃん床は可哀想なので近くのソファーへ移動させた。近くにあったタオルケットをかけて床に投げ置きされていたバッグを壁際に寄せる。

それから姉さん達がお風呂から出てその後に俺が軽くシャワーを浴びた。

時刻は午前2時をまわっていた。

本当に七海さんが俺のベッドで寝ることになった。

シングルベッドなのでこれに2人は割とキツい。なるべく端により七海さんを優先した。

「理稀くんもっと広く使っていいよ。君のベッドなんだからっ」

「いえ、これで大丈夫です」

「ううん。ダーーメ、こっちにくるのっ」

そう言って肩を引っ張られたので寝返りを打つ感じでぐるっと回った。すると目の前に七海さんが居た。

「近いね」

「ですね」

「わたし、男の人と寝るの初めてなの」

「でしょうね」

ダメだ。こんなに近いと緊張してたまらない受け答えしか出来ん。

「ね、みんな寝てるからさ、色々なことやってみない?」

エアコンの音でかき消されそうな声で囁く。

「ななーーみー聞こえてるよ!手を出したらダメって!」

姉さんがこっちを向いて注意する。

「ジョーダン。寝よ。おやすみ」

「おやすみ」

……。

……。

俺も寝落ちして少し経った時だった。

「ねね。理稀くん……おーーい」

そう言って頬をペチペチされた。

「どうしました?」

「あのね。トイレ行きたいの」

「あーそれなら部屋出て……」

「や、一緒に来て」

へ?どゆこと?

「へ?」

「あのね…夜中のトイレ1人じゃイヤなの。恥ずかしいけど」

これは夢なのではないかと思いながら再び瞼を閉じる。

「ねねっ。理稀くーーん。あの…漏れそう…かも」

夢じゃねーー!

ここでやられら俺のベッドが使えなくなる。

「わかりました。ご案内します」

「やった」

こうして七海さんをトイレまで送ることにした。

「ありがとうね。一緒に入る?」

「入りませんよ。ここに居ますから」

「入ってくれても良いのに。あの…音聞こえないようにしてくれると嬉しい…かな」

それは耳を塞げということか。まぁその辺は男として聞かないようにしよう。

それから1〜2分すると七海さんが出てきた。

「へへっ。ありがとうねっ」

「いえ。気にしないでください」

こうして同じベッドに戻った。

「ねねっ。1人でトイレに行けないナナに失望した?」

ベッドに潜り込んでから少し経ってから聞いてきた。

「別に。誰にでも苦手な事、周りからしたら笑われるような事ありますよ」

「そうかな」

「そういうものです。そういうギャップみたいなものの1つや2つあった方が俺は好きですよ」

「え?」

「まぁ…独り言です。寝ますね…」

好きと言ってしまったけどLOVEじゃなくてLIKEって意味だけどその辺誤解ないと良いな。

不思議と夜中に一度起きても再びベッドに入るとすぐ寝られるよね。

「こ、告られた!?」

なんていう独り言聞こえた気がするけど受け答えする気力もなく俺は眠りについた。

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同居してきた姉のことを好きになれますか? ましろゆーき @ryo236

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