第12話 亜梨栖vs湿気・料理
充実した?長い休みが終わり学校が始まった。
それと同時に気温も上がっていき日中は半袖で過ごせる気候になっていた。
季節は春から夏へと変わりつつあり、寒さに震えることが無くなり、暖かさに嬉しさを覚える。
しかし…
気温と同時に湿度も上がっていた…
ジメジメする…
どんよりとした曇り空の中、学校から帰宅してリビングへ向かうと何故かヒンヤリとしていた。
カラッとした涼しさがとても心地よいが、その理由を確かめるべく部屋中を見渡した。
するとエアコンの電源が入れられていた。
リモコンの画面を見ると『ドライ −2.0』と表示されていた。
なっ……
これは除湿をして部屋を基準温度より冷たくしてもらえる機能だった気がする。
ちなみに『−2.0』は除湿で一番涼しくする設定なのでそれと比例するように電気を使うと思われる。
説明書を読まない人間なので間違っているかも。
エアコンの電源を入れたであろう人物は部屋に居らず制服が脱ぎ捨てられており、バッグがテーブル横に投げ捨てられていた。
「はぁ…まったく…」
思わず口に出してしまった。
脱ぎ捨てられた制服を近くのハンガーにかけてバッグを壁に立てかける。
俺は晩飯の支度をすべくキッチンに向かい食材の解凍と米とぎを済ませた。
するとドアが開いた。
「はぁ〜気持ちよかった〜。あら、おかえり」
案の定下着姿で肩にバスタオルをかけて姉さんが入ってきた。
「電気代かかるからエアコン消して良い?」
「ダメよっ。部屋中の湿度が上がりすぎてカタツムリになっちゃうわ」
……?
「ドライって一番電気代かかるんだよ…どうにかなりませ…」
「ならないわ! 家ぐらい快適に過ごさせなさいよねっ」
そう言って姉さんはベッドにダイブしてスマホを弄り始めた。
「いつか…追い出してやるっ」
「なんだってー? あ、夜ご飯なに?」
「おたのしみにっ!!」
あれ…今イライラしてるのにこれだと『楽しみにして待っててね〜♡』的な感じにならないか?
「うん。理稀の美味しい料理を待ってるね」
姉さんは顔をこっちに向けてニコッと微笑んだ。
微笑まれると…
な、なんでもない!
キッチン越しに姉の姿をチラ見すると楽しそうに足をバタバタさせてスマホをいじっている。
「たまには…姉さんが飯作って欲しいんだけど」
「別に良いけど2人とも寝込むわよ?」
「やっぱりいいや…。てか、たまには料理の練習とかやったら?」
俺は炊飯器の電源を入れてリビングにあるテーブルに座った。
「えー。面倒だよぉ」
姉さんはそう言って足をバタバタさせている。
「将来結婚したら大変じゃない? 旦那さんに美味しいご飯食べさせたいと思わない?」
俺は頬杖をつきながら姉に問う。
「思わないわよ。あたしは旦那が家事全般を完璧に熟〈こな〉せるってのが採用基準ね」
採用って…企業かっ!
「てか、そんな人居るの?」
「居るわよ? 目の前に」
俺は自分に人差し指を向けると姉さんは『うんうん』と頷いた。
ヤバっ…反応に困る。
「あたしぃ〜理稀割といいと思うんだよねぇ〜?」
姉さんは人差し指を頬に当てて言った。
「ど、どういう意味でしょう?」
そう答えると姉さんは軽くため息をついた。
「はぁ……結婚相手に決まってるでしょ♡」
姉さん面白い冗談を言うようになったし、たまには冗談につきあってあげますか。
「俺も姉さんいいと思うよ?」
満面の作り笑みでそう答えた。
ルックスだけなら割と良いとは思うけど内面がマイナス過ぎて正直結婚相手として選考対象外だ。
そもそも身内だし選考しちゃマズイんだけどね。
すると俺の向かいに姉さんが座ってきた。
「そ、そ、それって…本当?」
えっ……。
姉さんの目は真剣だった。
その迫力に椅子ごと後退りをした。
どうしよ…今更冗談だって言えない…。
「ま、まぁ、いいんじゃないかな。あくまでも弟の感想です」
テレビの下の方によく出る米印のテロップ風に伝えてみた。
「ねねっ。あたしのどこが良い?」
うわっ…難問だ…。
数学の方程式より難しい。
てか、下着姿で前のめりにならないでくださいな。
突起が見えますよ?
それより…姉さんの魅力か。
腕を組み少し考えてみる。
……。
……。
やかましい…じゃなかった、明るい?
そうだ。それでいこう。
「明るいところかな?」
「うんうん。後は?」
2つ目!?
……。
「優しいところ…かな」
「うんうん!他にも!!」
とりあえず言われて嬉しいであろう言葉を伝える。
本当にそう思っているかって?
聞かないでおくれ。
「か、可愛いところ…」
「わーー。本当に? ねねっ、本当にあたしって可愛い?」
姉さんは立ち上がり俺の座る椅子に無理矢理座り込んできた。
コンディショナーとボディソープのいい香りが鼻をくすぐる。
「ビジンデスヨ。カワイイ、カワイイ…」
思ってもないことを感情的に伝えるのは難しい…
俺は役者には不向きだなと思った。
「ウフフ…今日はなんていい日なんでしょう! テンション上がってきたー! 湿気なんて何それ?美味しいの?状態よー」
ちょっと何言ってるかわからん。
けど、適当な棒読み感想だけど姉さんの機嫌が良くなったみたい。
結果オーライ?
「よーしよーし。上機嫌な亜梨栖ちゃんは理稀君のお手伝いをしたいと思いますっ」
そういって頭を撫でてくる。
本当は嫌なはずなのに気持ち良さが上回っている。
く、くそっ…。
俺の頭から姉さんの手が離れると少しシュンとなった気がした。
「夜ご飯作るの手伝うわ。何をすればいい?」
あら珍しい。
相当ご機嫌なようで。
「そしたらニラとキャベツを切ってくれる?」
晩飯は餃子にする予定だ。
「ガッテン! その前にパジャマ着るわね。流石に肌寒くなってきた…」
でしょうね。普通に半袖を着ている俺でも寒く感じるし。
その後洗濯物を干すべく洗面所に向かい、洗濯物を回収してリビングにある簡易物干し竿にかける。
ハンガーに普段着のTシャツ、学校指定のシャツをかける。その後俺と姉さんの下着やズボン、スカートなどを干す。
姉さんはとりあえず洗ってあれば何でも良いということで一緒に洗っている。
寧ろ前に分けて洗ったら『ちょっ…なんで分けるの?』と言われました。
意味わからん。
しかも気づかぬうちに洗濯機NGの服も平気で洗濯機にブチ込んでいる。
少しは家事をこなせるようになって欲しいものだ。
「やん♡ あたしの下着どうするつもりぃ?」
人が姉の事で頭を抱えている時に、後方からイラッとする声が聞こえたので、干そうとして持ってきた黒色のブラジャーをポイ捨てした。
「なー、ちょっとあたしの下着捨てないでよー」
後方でアタフタしているのをチラ見して物干しを続ける。
「おーい。あたしの干してよぉ」
「嫌だ」
「ごめん! あたしの下着自由に使っていいから〜。ちょっとアレなことに使っても見て見ぬ振りするから〜」
「はぁ? そんな風に使うわけないだろ!」
まったくもう…
一瞬……ほんの一瞬だけ変なことを考えてしまったので首をブンブン振り邪心を振り払っ
た。
仕方ないじゃん。だって…男の子だもん。
……。
仕方なく姉さんのブラも干して洗濯終了。
それから少ししてからキッチンに行くと目も当てられない状態になっていた。
2〜3㎝にざく切りされたニラと500円玉サイズのキャベツがボールに入っていた。
その周りにはまな板から溢れたであろう野菜がゴロゴロと転がっていた。
……。
「フッフーン。切ってあげたわ。これで楽になったでしょ? 褒めて褒めて〜」
内心ボロクソに言ってやりたいけど、俺も高校生。大人な対応をしよう。
「あ、ありがとうー。凄く助かりました…」
「でっしょー? 後はよろしくねっ」
そう言って姉さんは亜梨栖部屋に入っていた。
俺が元々趣味部屋にしようとした部屋を亜梨栖部屋と勝手に呼んでいます。
荒れ果てたキッチンを見てため息をついて晩飯を作った。
流石にこの大きさの野菜は皮で包めないので微塵切りにして解凍したひき肉と混ぜて下味をつけて皮に包む。
普段より多くなった片付けと並行しながら餃子を完成させたので普段より疲れた…
亜梨栖部屋から姉さんを呼び出して夜ご飯を食べる。
「「いただきます」」
「あれ? 具材をこんなに小さく切れたかしら」
1つ目に食べた餃子の具材の小ささに違和感を感じたらしい。
「あー。理稀ったらあたしの切った野菜を細かくしたでしょー。あの大きさがよかったのにー」
そう言ってくると思い、2つほど亜梨栖切りの大きさのまま皮に詰めた餃子を作った。
俺が間違って食べないように餃子の表面に包丁で薄く切っておいた。
無言で2つの餃子を差し出す。
「あら。いただきます」
姉さんはニヤリとしてその餃子を食べる。
きっと『野菜の美味しさを味わえてこっちの方が良いわね。理稀君にはあげないわよ』なんて言おうと思ったんだろう。
こうして餃子を口に含むとゴリッという咀嚼音が聞こえてきた。
一瞬硬直してから手元にあったオレンジジュースを口に流し込んでいた。
「お味は?」
「お、おいしかったわ……」
「もう1つあるよ?」
「こ、これは理稀が食べなよ…お、美味しいわよぉ…」
10人中10人が不味い物を食べたとわかる表情をされて言われてもねぇ。
「要らないよ…」
「野菜の食感から味まで味わえるわよ。こんなに美味しいのに……そうだ」
姉さんはポンと手を叩いた。
「お姉ちゃんが食べさせてあげるわ!」
うわー。要らないやつ…
すると姉さんは亜梨栖餃子を箸で取り、俺の口へ近づけてきた。
「はい。あーんして」
「嫌です」
「もう…照れちゃって。誰も見てないのよ? 今しか出来ないのよ? あの教室じゃ出来ないのよ?」
そうじゃねーよ!
内心ツッコミを入れながら俺が作った餃子を食べる。
「あー。理稀の作ったやつ食べたね。これを食べな…さい!」
俺はアニメの小動物のようにプイッと横を向き食べませんアピールをする。
「もー。お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
そう言うと俺の横に座り左手で俺のアゴを抑えた。
「な、なにしゅるんだよぉ」
「さーさぁ。これを食べなさい。美味しいわよぉ〜」
「い、いやで……グフッ」
無理矢理俺の口に亜梨栖餃子を入れてきた。
……。
味の感想。
ここまで美味しくない餃子は初めてです…以上。
中身ほぼ生野菜。キャベツ、ニラの食感が直に感じられてこの2つの野菜好きなら幸せなのだろう。
しかし俺はそこまで好きでもないし、視覚情報は餃子だが、味覚情報が生野菜という混乱を招く…まぁ酷い餃子。
そして1つ気づいたことがある。
あれっ…これ豚ひき肉入れたよね?
さ、さすがに焦げ目付いていたし、熱通ってるよね。
その割には加熱されたひき肉には無いネチョっという歯応えがあるんだけど。
まぁ…大丈夫だよね。
……普通に加熱不足でした。
その夜…俺と姉さんはトイレの争奪戦になったのである……。
やっちまったーーー…
お肉(特に豚、鶏肉)はよく加熱して食べましょう。
翌朝。
今日の授業が3時間目かららしいので少しゆっくり出来る。
理由は3年生の先輩方が模試で各教室を使うことらしい。
なので10時半頃までゆっくり出来るのである。
しかし…
2年生は通常通りらしく姉さんが朝からブツブツ文句を言っていた。
各教室を使うんだから姉さんも一緒の時間だと思うんだけど。
そんな姉さんは朝からメデューサ状態。
都心から各方面に伸びる鉄道や高速道路のように髪の毛が各方面に向かっている。
あれが○○線で、あれが○○高速だろうとか思いながら見てたら笑えてきた。
「なによっ! あたしの苦労も知らずに…」
「悪い…」
昨晩ドライヤーをサボって寝癖がつき、それに追い討ちをかけるように湿度が高い。
湿度計を見ると80%を超えていた。
窓の外は曇天。いつ雨が降ってもおかしくないような天気である。
ちなみに神崎家は窓を開けて扇風機を回している。
気温はそこまで高くないのでこれで充分だと思う。
「あーもう。髪の毛が暴走してるー。なんで跳ねるのよ…もぅ!」
洗面所の方から会話してるかのような大声の独り言が聞こえる。
「遅刻しちゃうわ。いいわね。1年生はゆっくりでっ」
「今日模試なんだから2年も3時間目からなんじゃない? 各教室を使うって言ってたし」
教室を使わなくても模試を受けやすい環境にするため他学年の登校をズラすと思う。
しかも3年の教室からやや距離のある1年が時差登校だし。
「あたし聞いてないもん。もうこのまま行ってきます」
そういって慌ただしく出て行った。
姉さんの髪の毛は暴走しているが何とか無理矢理抑えていた。
姉さんと入れ替わるようにお隣さんの月羽が来た。
「ずいぶん慌ただしかったけどどうしたの?」
「朝から迷惑かけて悪かった…。姉さんが時間勘違いして出て行ったんだよ」
「あらまぁ…ヨシくん止めてあげなきゃ」
「止めたよ? けど聞いてないと言って出て行った」
「あぁ…そうなんだ…」
月羽は察しましたという表情をしていた。
そこから特に何かをするわけでもなく俺はベッドに寝っ転がりスマホをいじる。
月羽はニュース番組を見ている。
それから30分ぐらい経ち時刻は9時過ぎ。
玄関が開く音がした。
そして部屋の扉が開かれる。
「学校…誰もいなかった…」
扉の方を見ると(´・ω・`)←こんな顔をした姉さんが扉の前に立っていた。
「って! なんで月羽ちゃんが居るのよ!」
「おはようございます。亜梨栖さん洗面所に来てください」
「えぇ…ちょっと?」
姉さんは月羽に押されて強制退場。
…15分後。
先程とはまるで別人の姉さんが入ってきた。
荒れ果てた髪型は無くなり肩甲骨〈けんこうこつ〉辺りまで見事にストレートでその先が少しカールがかかっている。
「おぉ…」
思わず声に出る。
「ふっふーん。どう? 湿気に打ち勝ったわ」
姉さんよりあの髪の毛を操った月羽に感動している。
「はぁ…疲れた。」
ぐったりしながら月羽が入ってきた。
「お疲れっ。大変だったな」
「まぁね。ありがとう」
すると外からジメっとしたやや強い風が部屋へ入ってきて、不意に姉さんの髪をさらった。
それと同時に髪が乱れ、月羽の動きが止まる。
……。
「また跳ねちゃった。月羽ちゃんヨロ!」
「い、嫌です!」
月羽は姉さんから逃げるように距離を置いた。
亜梨栖vs湿気…勝者は湿気。
その日の午後。
亜梨栖はホワイトボードに書かれた『調理実習』という文字に愕然としていた。
そして今は各班に分かれて何を作るか、誰がどの食材を持ってくるかの最終的な話し合いをしている。
あたしが愕然としているのには理由があるのよ。
お昼に食べている理稀お手製のお弁当をあたしが作ったと言ってしまい、それを聞いた陽夏、紗姫奈が調理実習で腕を振るってもらおうとお楽しみにしているらしい。
はぁ…あの時『あたしの弟が作ってるのよ? ドヤッ』と言っておけばこうはならなかった…
けど万が一『その弟に会わせて〜』なんて言われたら大変なのでこの判断は間違っていないわ。
2人とも結構可愛いし理稀が好きになってしまったら……
そんなことあってはならないわ。
ということで男女合わせて6人で話し合っている。
もちろんグループはあたし、紗姫奈、陽夏の3人。
男子は知らないわ。モブA.B.Cとでもしておきましょう。
興味全くないし。
あたしは理稀とその友達の涼夜くん以外の男子はどうでもいいし名前も覚える気もないのよ。
「神崎さんって普段料理するの?」
「ま、まぁ少しね」
「へぇ! 料理出来るんだ。すごい」
「ありがとう」
全力の作り笑いで答えてあげたわ。感謝しなさいモブB。
てか、気安く話しかけてこないでよね!
知らんモブ男子から話しかけられるし、調理実習のことを考えると頭痛くなるし早く終われっ!
その後何となく話を流しながら聞いていたらいつの間にか下ごしらえ、焼き担当になった。
料理ってこれ以外に他にやることある?
そんなこんなでご飯とピーマンの肉詰め、あさりの味噌汁、サラダを作ることになった。
この中で火を使う前者2つの担当になりました…。
休み終わり2日目にしてもう疲れた。
調理実習まであと3日。とりあえず帰宅したら何をするか決めていた。
あたしは帰宅後ソワソワしながら理稀の帰宅を待っていた。
しかし、いつもの時間に帰宅しない。それどころか辺りが暗くなっても帰ってくる気配なし。
全く…夜遊びなんてお姉ちゃんが許さないんだからねっ。
結局理稀が帰宅したのは19時前。
「ただいま。遅くなった」
「おっそーい。何してたの? 夜遊びはダメよ!」
「そればかりしてた姉さんに言われたくないんだけど」
うっ…。
確かに今のあたしって説得力皆無だわ。
逆の立場なら100%反抗するだろう。
そして理稀は右手にビニール袋を持っていた。
その袋をガン見していると理稀があたしの視線に気付いた。
「ん? たまにはハンバーガーなんて良いかなって思って。姉さんはテリヤキのセットでいいよね?」
あたしの大好物を知ってるなんて流石ね。
そういう小さな事を知っててくれるところがポイント高いのよね。
はぁ…好きだわ。
「ニヤけるけどそんなにテリヤキバーガーが嬉しい?」
「うん。嬉しい!」
理稀の腕を掴んで椅子に座らせて2人で食べ始める。
「これは奢りかしら?」
理稀がハンバーガーを買って帰ってくるなんて珍しすぎる。
そのためやや警戒モードに。
「そうだよ。たまにはいいかなぁって思ってね」
「そ、そう」
とりあえずいただきます。
はぁー。やっぱりテリヤキ美味しいわ。
こうしてその日は終えた。
しまった…理稀にお願いするの忘れてた…。
翌日はあたしが紗姫奈と一緒に夜ご飯を食べてしまったので出来なかった。
なのでこの日の夜、理稀に明日は直帰するようにお願いした。
理稀は不思議そうにしていたが、約束をしてくれた。
そして迎えた調理実習前日の夕方。
「理稀様!」
「は、はい。なんでしょう?」
そして深々と頭を下げた。
「あたしに料理を教えてくださいっ」
……。
……。
「急にどうしたの?」
「明日。調理実習なの。そして……」
あたしはこうなった経緯を説明した。
「なるほど。姉さんがお弁当作ったことになっており、班の人たちに料理を振る舞うことになったと…」
「その通りです」
……。
少しの沈黙があった。
理稀はその後軽くため息をついてからあたしの頭を上げた。
「今どれだけ作れるか見るから作ってみて」
「了解!」
こうして理稀先生によるお料理教室が始まった。
1回目は理稀が一切口出ししないで、あたしの実力を見ることになった。
あたしがスーパーに行った時ちょうどピーマンが売り切れていたので代わりに赤いピーマンを買ってきたわ。
パプリカってこんなに小さかったかしら?
とりあえずパプリカ?を半分に切って…種を取るのよね。
ふっふーん。これくらい知っているわ。
その後玉ねぎを入れるらしいんだけどあれ目が痛くなるからパス。
ひき肉の味付けね。
えーっと、お塩に砂糖、蜂蜜にタバスコ!
これ良さそうだわ。
「ちょっとトイレに行ってくる」
そう言って理稀はキッチンを後にした。
味付けしたひき肉をパプリカ?に詰めた。
その後フライパンに油を入れて温まったらひき肉を入れたパプリカ?を並べる。
こっそりカンニングしてスマホを見ると蓋をして3分ぐらい焼くのね。
……3分後。
いい感じに焼き色が付いたので皿に取り出す。
ソース作るの忘れていたわ……。
トンカツにかけるソースがあるじゃない!
冷蔵庫から取り出してかける。
かんせーい。
それと同時に理稀が戻ってきた。
「ねねっ。完成したわ。早速食べましょ食べましょ〜」
こうして理稀と向かい合わせに座る。
「「いただきます!!」」
まずは理稀の感想を待ちましょう。
ちょうど一口サイズのいい大きさのパプリカ?があったのでよかったわ。
理稀はそれを一口でパクリと食べた。
「うっ…何これ…ゲホッ、ゲホッ…」
理稀は足早に洗面台に向かった。
少しすると顔色悪くして戻ってきた。
バタッ。
……?
理稀が机に突っ伏した。
その後ピクリともしない。
えぇ…ど、どうしたの?
とりあえずあたしも食べてみよ。
もしかして美味しさのあまり感動してるのかもしれないわ。
いただきます!
一口で食べると…
……!!!
まず口の中に広がったのが物凄い辛味。その後蜂蜜、砂糖の甘さ、入れすぎたかもしれない塩のしょっぱさ、密かにいる酸味が口の中で喧嘩している。
噛めば噛む程不味い…
バタッ。
こ、これは食べれない…てか、食べてはいけない物だわ。
さっきまであった食欲は一気にゼロになり、お互い無口になった。
「「ちょっとトイレ」」
急激な腹痛に襲われた。
お互いを見つめ合う。
理稀からすると『俺が先だ』と言いたんでしょう。
あたしは見つめられて恥ずかしい(//∇//)
って、今はそんな事思ってる場合じゃない…
急激な腹痛に襲われてく、苦しいわ。
「さ、先に行かせてくれ…た、たの…む」
「ここは…お、姉さん…にゆず…りなさい」
喋るのも苦しい…。
「そうだ。2人で一緒に入れば良いのよ…」
「な、何言ってんの? 姉さんは月羽邸のトイレを貸してもらってくれ」
そう言うとトイレへと向かった。
仕方ないわね。
頭の中でトイレなんて行きたくないと念じながら502号室のインターホンを押す。
お、お願いだから出て…
「あら。亜梨栖さんどうしたの?」
「お、お願いします。月羽様。トイレを貸してください…」
「へ? 別に良いわよ」
許可をもらうと早足でトイレに駆け込む。
……5分後。
イマイチすっきりしないお腹をさすりながらトイレを出て洗面所で手を洗い、リビングへ向かった。
「月羽ちゃん。助かったわ」
「いえいえ。自宅のトイレ壊れたんですか?」
「壊れてないわよ。色々ありまして…」
その後帰宅してから今に至るまでの出来事を話した。
「なるほど…料理が苦手な亜梨栖さんが作った料理に2人がヤられたと言うわけですね」
「そうね。戻ったら理稀に何を言われるか…」
お説教は確定ね…あとは追い出されるか…。
「元々料理が苦手とわかっていて作られたんですからヨシくんにお説教する権利はないと思います。あたしが一緒に行きます」
まぁ…心強いわ。
こうして2人で501号室に向かった。
玄関を開けてリビングに入ると、ベットに横たわる理稀がいた。
「理稀…ごめんね。あたしが変なの作ったから」
何かあっても大丈夫なように月羽ちゃんが身構える。
「姉さん……」
千鳥足であたしの方へ近づいてきた。
「ヨシくん…亜梨栖さんはワザとじゃなくてね。ピーマンとハバネロを間違えただけなのよ。だからお説教は最低限にしてあげて…ね?」
月羽ちゃん必死のフォロー。
ありがとう(;ω;)
「いや、その悪かった…」
……?
あたし謝られてる?
「へ? あのデスフードを作ったあたしが謝られてる?」
「姉さんって味音痴だし料理なんてしたことないのに無理矢理作られてしまって…あぁなるのは当たり前だよなぁ」
お説教は免れたけどディスられてる!?
とりあえず説教と追い出しが無かったので結果オーライだわ。
「ってことで…」
ん、何かしら?
「俺には教える才能がないみたいなので月羽にバトンタッチ」
理稀と月羽ちゃんがハイタッチして理稀はベッドに倒れ込んだ。
月羽ちゃんはハイタッチした手を見て少し頬が赤くなっていた。
な、な、なんですって!!
と言うことで…月羽ちゃんと買い出しに行き、お料理教室月羽ver.が始まった。
ってか、明日調理実習ってこと忘れてた…
危うく食材を持っていかず、周りから責められるところだったわ…。
買い出しの際あたしに買い物カゴを持たせてくれなかった…
今日の試作分と明日の材料を購入し、月羽先生によるお料理教室の始まり〜。
相変わらず理稀はぐったりしている。
ごめんね…
キッチンで月羽ちゃんに一つ一つ教わる。
ピーマンを半分に切り、ヘタと種を取り
出し中にひき肉を詰める。
その際に軽く小麦粉を振りかけるらしいわ。
肉側に下にしてフライパンで4.5分焼く。
その後串を刺してみて火が通っているかを確認したら、容器に移してソース作り。
ケチャップ、中濃ソース、少量のニンニクを軽く煮詰める。
さっきのハバネロの肉詰めとは全く別物が完成したわ。
月羽ちゃんと試食ターイム。
「「美味しい〜」」
月羽ちゃんとハイタッチ。
早速、理稀にも食べさせようとしたが寝息を立てていた。
月羽ちゃんにお礼を言って理稀にタオルケットをかけた。
そして明日持っていく食材を念入りに確認してシャワーを浴びる。
何回もイメージトレーニングを繰り返して万全の状態で明日、紗姫奈と陽夏にお料理を振る舞うんだから。
そして調理実習当日。
食材を持っていくのを忘れかけた…。
エレベーター乗る前に気付いて良かった〜
ちゃんと気づけたあたし偉いぞっ。
そして家庭科室にやってきた。
「あたしはピーマンの肉詰め作るから。みんな他の料理をよろしくね」
これには裏話がありまして…
お味噌汁の練習するの忘れていたのよ(°_°)
とりあえず味噌と水…いやお湯?で煮込めば完成よね?
自信ないのでパス。
「なら。わたしが作るわ」
紗姫奈がわかめと豆腐を切り始めた。
「陽夏はあたしの手伝いをお願い。男子達はお米とサラダをお願い」
「「了解」」
「おうよ」
「亜梨栖ちゃん任せて!」
誰かに指示するなんてほぼ初めてだわ。
家では指示される側なので…だがそれで良いのよ。
ピーマンを切って、種とヘタを取る。
小麦粉…あれ? どこで使うんだっけ…
必死に思い出そうとしても思い出せない…
とりあえずひき肉を取り出そうとするとビニール袋の下に紙が入っていた。
そこには月羽ちゃんが作ってくれたレシピが入っていた。
その中には『亜梨栖さんはプライドが高いので見ないかもしれませんが、何かしらの理由をつけてこのメモ通りに作ってください。そうすればみんなで美味しいピーマンの肉詰めが食べれます。 ファイトです! 月羽
目分量をやめて、調味料を次から次へと入れない事。美味しく作れた自慢話待ってるよ 理稀』と書いてあった。
「なんていい子達なの…」
ヤバイ…少しうるっとしてきた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。美味しいの作ろう」
こうして料理再開。
案の定メモのこと聞かれたけどお隣さんから教えてもらった秘伝のレシピと言ったらみんな納得して楽しみと言ってくれた。
嘘ではないわ。
紗姫奈と陽夏は知ってたけどモブ男子達も意外と理解あるのね。
こうしてレシピを見ながらピーマンの肉詰め、紗姫奈のお味噌汁、男子が炊いたご飯、陽夏がカットしたサラダが完成。
料理開始から1時間弱。
他のグループとほぼ同じ時間に完成させることが出来たし、見た目も悪くないのでとりあえず一安心。
いただきます。
6人で実食。
……。
……。
周りの反応が気になる。
「美味しいわ。さすが亜梨栖ね」
「うん。美味し〜」
紗姫奈と陽夏は満足してくれたみたい。
はぁ…よかったわ。
「おぉ。これは美味しいぞ。さすが神崎だ。家でも作って欲しいわー」
向かいに座っているモブ男子がそんなことを言っていたわ。
『はぁ? 誰が貴方になんて作りますか。何言ってんの? ボケッ』と内心思いながら愛想笑いで誤魔化した。
早速昼休みに理稀、月羽ちゃんにお礼を伝えに行こうとしたけど片付けに時間がかかり行けなかったので帰宅してから伝えましょう。
帰宅してから大体5分ぐらい経つと理稀が帰宅。その後自宅に荷物を置いた月羽ちゃんがうちに来た。
あたしが部屋に荷物等を置いてリビングへ戻る。ベッドに座る2人の前に仁王立ちする。
「おほん。2人に伝えたいことがあります」
……。
え? 何か言ってよ…
まぁ、良いわ。
「2人ともありがとうーーー」
そう言ってあたしが2人に抱きつくようにベッドへダイブ。
「キャッ。えぇ?」
「グハッ…」
月羽ちゃんは良い感じに包むように出来たんだけど理稀に関しては思いっきりラリアットを決めてしまった…(笑)
「ごめーん。理稀大丈夫?」
「亜梨栖さん…理稀に恨みでもあるんですか?」
「違うのよ。盛大にハグしてあげようとしたら…これは事故なのよ!」
「そ、そうか。失敗したのか…ね、姉さん。八つ当たりはよくない……ぞ…」
えぇ…さっきありがとうって伝えたし。八つ当たりでお礼を言う人なんて居ないわよ?
「ヨシくーん。しっかりしてー」
「起きなさい理稀。ハバネロの肉詰め食べささせるわよ」
すると理稀の顔色がより悪くなった気がする。
「冗談よー。起きなさーい。いや、起きてくださいお願いしまーす」
こうして亜梨栖の調理実習は理稀を除いて被害者を出さずに終えたのである。
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