二度目の人生はロリ女神とともに
楽観的な落花生
第1章 女神様はロリ巨乳
プロローグ 『溺れる水の中で』
——少年は、一目見てここが『この世』ではないことを理解した。
薄気味悪い場所だ。
禍々しい雰囲気が其処彼処に充満し、仄暗い闇が視界を覆っている。
どこかから響いてくるのは、聞けば聞くほど気分が悪くなる呻き声。
肌に感じるのは、触れれば触れるほど鳥肌が立つ瘴気。
鼻孔をかすめるのは、何かが腐敗したようなただならぬ異臭。
極めつけは————
「……これは、骸骨、か……?」
呟く少年、その眼前には髑髏があった。
教科書などで見たことのある、人の頭部の形をした骨。
それも、一つや二つではない。
見渡す限り一面が人の頭蓋骨で埋められており、所々には山すらできていた。
よもや、この惨状を見てここが『この世』だと思う人間など一人もおるまい。
そして、そんな常軌を逸した狂気の世界に一人取り残された少年はというと———
「ああ、そうか———やっぱり死んだんだ、僕」
努めて冷静に、そう今の自分の状況を分析したのだった。
* * * * *
人の一生とは実にあっけないものだ。
いつまでも続くと思っていた人生が、ふとしたきっかけで急に終わりを迎えることなどザラにある。
それは、少年———
その日、智悠はいつも通りの下校時間を謳歌していた。
片道約三十分かかる道のりを、自転車を漕ぎながら軽快に進んでいく。
皆が部活動や放課後の交流に勤しむ中、一人こうして田舎の田園風景を眺めながら自転車を走らせる時間が、智悠はそれなりに好きだった。
家に帰ったら何をしよう、妹と遊ぼうか、などと益体のないことを考え、頰を緩ませていたその時。
智悠の数メートル前を歩いていた、犬を散歩する少女の手からリードが離された。
「あっ!」
慌てた少女は必死に捕まえようとしたが、飼い主の束縛から解放された犬はそれをするりと躱し、勢いよく走り出す。
「待って!」
少女の悲痛な呼びかけは届かず、犬はなおも駆け回り続ける。
——嫌な予感がした。
そしてその予感は、無情にも現実となる。
本能のままに暴れる犬は、勢いそのままに横の道路に飛び出した。
ちょうどそのタイミングで、法定速度ぎりぎりのスピードの大型トラックが———
「———ッ!」
——何故体が動いたのか、よく理解できない。
全ては一瞬の出来事だった。
しかし事実として、智悠は自転車を乗り捨て、路上で立ち尽くす犬に向かって同じように飛び出した。
そして—————
「きゃぁぁぁぁぁあああああ!?」
後に残されたのは、少女の甲高い悲鳴と、耳を劈くトラックの急ブレーキ音。
こうして小日向智悠の人生は、約十六年という短い期間で、あっけなく幕を下ろしたのである。
* * * * *
「死んだなら、そりゃあこんな場所にも来るかもな」
居るだけで息苦しくなる闇の世界の中、智悠は確信を込めた呟きを漏らした。
あくまで推測に過ぎないが———多分ここは、『死後の世界』というやつなのだろう。
ここが死後の世界だとするなら、この嫌な空気にも、そこら中に転がっている髑髏にも一応の納得がいく。
オカルト極まりないが、今までに亡くなった人々の霊魂だとか怨念だとか、おそらくそんな類。
トラックに跳ねられる前、のんびりと日常を謳歌していた頃、こんな話を耳にしたことがある。
曰く、生前に善行の限りを尽くしたものは天国に行き。曰く、生前に悪行の限りを尽くしたものは地獄へ落とされるのだと。
「……さしずめ、ここは地獄ってところか」
実際に見たわけではないので定かではないが、眼前の光景は明らかに『天国』と聞いてイメージするものとは異なる。
どちらかと言うと、言うまでもなくここは『地獄』と呼ぶに相応しい光景だった。
「でも、地獄のイメージともちょっと違うんだよな……」
智悠が抱いていた地獄は閻魔のイメージが強く、炎が燃え盛る赤々とした場所だったのだが。
まあ、天国だろうが地獄だろうが所詮は絵空事。深く考えても仕方ない。
そういうものだと割り切る楽観性も生きる上では必要だろう。
「いやまあ、死んでるんだけれど」
一人でボケて一人でツッコむ。
何とも虚しい作業だ———と。
「………?」
ふと、足元に違和感を感じた。
見れば、つい先程までただの地面(髑髏付き)だった足元が、いつのまにか水浸しになっている。
ただの水ではない。
妙に生温かく、ともすれば気持ち悪ささえ感じるような汚水だ。
「何だこれ………って、うわっ!」
怪訝に思ったのも束の間、足首辺りまでしかなかった水かさはみるみるうちに上昇し、やがて腰、肩を越え、ついには頭まで覆い尽くした。
全ては数秒間の出来事で、一体何がどうなっているのか、智悠の頭は処理しきれない。
わけがわからぬままに、智悠は急な浮遊感に襲われ、足が地面から引き離された。
「い、一体、何がッ——……!」
必死の思いで水面に顔を出すが、急に支えがなくなってパニックになった体は言うことを聞いてくれない。
「ぼふッ——……ばはッ——……!」
何とか肺に酸素を取り込もうとするけれど、もがけばもがくほど体力が奪われ、徐々に体が沈んでいく。
「ぶはッ——……あぅ………」
ついに体力が限界を迎え、智悠はそのまま水中へと呑み込まれていった。
必死に手を伸ばすも、揺らめく水面はゆっくりと離れていく。
ああ———また死ぬのか、僕は。
現実世界ではトラックに轢かれ。
死後の世界では大水に溺れ。
ぶっ続けで死に直面し、もはや死後の世界ですら生きながらえようとする自分の姿に、やや滑稽じみたものを感じてくる。
そのまま智悠の意識は、ゆっくりと——
「小日向智悠さん。———あなたを助けます」
——そんな声が、聞こえた気がした。
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