《雑誌用短編と弟子(初稿版)》その②

<前置き>

汚いのでご注意下さい(今更か……)






 ともかくこのタイトルはボツとのことで、次はユージンが打つことになった。

「変なモン出るなよ……っと」

 レバーを叩いて、またリールを止めると――


[SEX]

[SEX]

[SEX]


 ――図柄が揃った。


「何の捻りもない図柄!!」

「ただただ気持ち悪いわ!!」

「おめでとうございます、ユージンくん。どうやら大当たりのようですよ」

「恐らく今し方ジーライフが引いたレア子役によるSEX図柄揃いのビッグボーナス当選であるな」

「半端に作り込んでんじゃねえよ!!」

「意味あるんですかその機能!?」


 現在、《バズ・スロットル》は虹色に発光しており、さも当たってますよ感を演出している。更には小粋なBGMまで流れ始めていた。


「本来ならばメダルを払い出すべきなのであろうが、生憎と小生はそのような目的でこの《バズ・スロットル》を作ってはおらん。払い出されるのは――」


 引き続きユージンがリールを止めると、ベロベロベロベロ……と筐体下部にある排出口から、小さい型紙が何枚か出てきた。


[リトライ][ユニークスキル][RPG][測定不能]

[ステータスカンスト][レベルアップ][Sランク]

[極振り][おっさん][奴隷少女][パーティー追放]


「――このように大量のワードカードである」

「ゴミを吐くな!!」

「どれもこれも、何かこう……どこかでお会いしました? みたいなワードがズラリと……」


「しかし今後のライトノベル業界を生き抜くには、これらのワードカードから可能性を見出すセンスが必要になるでしょう」

「今このワードカードに可能性を見出すヤツは多分もう自分が死んでることに気付いてねえぜ?」


 それでも払い出しは止まらず、結局200枚近くカードが排出された。

 不快そうな表情を隠さないまま、ユージンが引き続きレバーを叩く。

 すると――


『Uh~♪ 朝焼けに輝く谷間ゥ~♪』


 ――謎の楽曲が筐体から流れ始めた。


「何だこの〆られたニワトリみてえな声は!?」

「これは小生オリジナルソングだ」

「俺の鼓膜が震えとるわ!! 怒りと悲しみでな!!」


「曲が流れ始める――ということはアレですかね?」

「ああ。1G連である」※もっかい当たる的な意味だよ

「あなたもう小説書く前に積み重ねた努力で家建ちますよ!! 廃屋ですけどね!!」


 どうやらアーデルモーデル作詞作曲編曲歌唱のオリジナルソングが流れ出すと激アツらしい。

 己の発明品に手は抜かないのか、アーデルモーデルは有り余っている時間をどうやらこの《バズ・スロットル》に注ぎ込んだようだ。

 そうしてまた図柄が揃い――


[ま●●]

[●ん●]

[●●こ]


「悪意しかない並び順!!」

「検定通らねえよこんなもん!! 出版検定!!」

「一つ一つは限りなく伏せられた図柄ですが、それらが横に三連結することによって新たな意味を持つという、知恵と工夫が現れた図柄と言えるでしょう」

「そんなAAは文字列が偶然キャラクターに見えるだけだからセーフみたいな理屈……!?」


「言うなれば騙し絵みたいなものですねえ」

「騙す気無さすぎてむしろ素直さが溢れてるわ!」


「因みに●●●図柄揃いはスーパービッグボーナス扱いだから、ワードカードが400枚出るのである」

「それ全部テメェのケツに詰めるからな?」

「おい!! 切れ痔になるからやめろ!!」

「切れ痔で済んだら大容量過ぎません!?」

「にしても、よくもまあこれだけのワードカードを作ったものですねえ」


 未だに排出され続けるワードカードを、シコルスキは拾い上げる。

 一枚一枚がアーデルモーデルの手作りであり、結構な時間を掛けたのだろう。


[最終ステージ直前の村][陰キャ][Fランク]

[規格外][テイマー][迷宮攻略][冒険者][蹂躙]

[魔力スポット][レベルカンスト][好きに生きる]


「ふふっ」

「な、謎の微笑み……!!」

「何か言えよ」


 シコルスキは黙して語らなかった――


「次は小娘! キサマが打て!」

「はあ、まあいいですけど」

「結局俺はボーナス当てただけかよ」


 これ以上はランキングを見ても使えそうなワードに乏しい気がするのだが、それはともかくとしてサヨナも同様にレバーを叩いてリールを回した。

 猿でも出来そうな行為だな……と彼女は思った。


「じゃあ止めますよ。ぽちぽちぽちっと」


[史上最強球児の俺!]

[戦友の引退試合で]

[村田に逆転スリーランを浴びる]


「エピソード系タイトル!?」

「これ矢野燿大選手の引退試合じゃねえか!!」

「球児の俺っていうか……俺の名は球児ですよ!!」

「分かる人にしか分からないツッコミですねえ。気になる方は『行くな 超えるな』辺りで検索してみましょうね」


「何かスポーツ系のラノベって少ないから、とりあえず野球系のワードを詰めといたのである」

「他に詰めるもんあっただろ!!」

「無くはないが……」


 メモリアルなものを破壊するという意味では、とてもインパクトのあるワードかもしれない。

 そう好意的解釈をシコルスキは行ったが、残りの二人は不満そうだった。


「だが野球系ワードは出現率を低くしている。それを容易く引くとは……小娘、もう一回打つのである」

「サヨナくんは引き強だった……?」

「ギャンブラーの方って他人を褒める時に独特な表現しますよね……主に失礼な方向で」


 何ら嬉しくないサヨナだった。

 が、アーデルモーデルに言われた通り、続けて打つ。

 ぽち、とリールを一つ止める。そうして停止したワードは――


[ジャイアンツの四番が]


「引きの……! 引きの癖が強い……!!」

「また出したのかキサマ! 豪運め!」

「これは素晴らしいタイトルが生まれる気配がします! 流石はサヨナくんでしょう!」

「枕詞がこれだと何を引こうが以降は闘魂を込めるパターンのタイトルしか浮かばないですよ!!」

「今回ネタの方向性に節操がなさすぎるな……」


 タイトルの主語がジャイアンツの四番になってしまった以上、サヨナの危惧は正しいだろう。

 二つ目のボタンをサヨナは押した。


[二度転生して得た完全無欠チートスキルで]


「おせち料理並の詰め込み具合……!!」

「見ただけで満腹中枢が吐き気を覚えるわ」

「ここから何を成すのでしょうかね?」

「さっさと全部止めろ小娘!」


 うるせえなこのキノコ――と内心で毒づきつつ、サヨナは最後のボタンを押す。

 恐らくはよくあるワードが停止するのだろう。


[も優勝に導けない某球団]


「何も成せてなかった!!」

「二文目と接続されてんのかよ!!」

「どのオリックスの話なのか気になるところです」

「具体的な球団名を出すな!!」


「恐らくは主人公のカズマかハヤトが異世界転生後にFAした後のストーリーになるのであろう。中々に創作意欲が刺激されるワードである――メモろ」

「主人公名はマギーかもしれませんよ」

「もう退団してますよ!?」

「次行くぞ次!! コルが打て!!」


 チートスキルを以てしても、個人の力ではどうしようもない球団が実在するかどうかはさておき、早いところアーデルモーデルが納得するタイトルを排出したいユージン。

 彼に促されて、シコルスキは慣れた手付きでレバーを叩いてリールを停めた。


[召喚士は通す]

[ガードも通す]

[じゃあ通さないのはだ~れだ?]


「ガガゼト山で訊いてこいや!!」

「これはタネ大砲の使い手で決まりっ! ですね」

「正解である」


「真面目に何でこんなワード入れたんですか? 最後かもしれないからですか?」

「小生も世界一ピュアなキスを描きたくてな……」

「うるせえよ世界一薄汚れた童貞!」


 罵倒と共に、次はユージンが打つ。


[熱っぽくて目が霞んで息苦しくて]

[まるでJ-POPの歌詞のように]

[震える……]


「風邪だよ!!」

「もうタイトルじゃなくてちょっと上手いこと言ってバズろうとしたクソツイ感ありますよ!!」

「製薬会社のキャッチフレーズ候補として、ある意味各所に売り込めるかもしれません」

「その際の営業はジーライフに任せる」

「医者行けで終わるわこのタイトル!!」


 果たして今回の話はどこに向かおうとしているのか。

 そんな危うさすら漂い始めた中で、アーデルモーデルの部屋の扉が突如開いた。


「あーくん、みんな? クッキーとお紅茶持ってきたから食べてね~?」

「ノックッ!! ババアしろやッ!!」

「逆だ逆」

「ノックバックみたいな語感になってますよ」


 現れたのは、アーデルモーデル回とは切っても切り離せない、アーデルモーデル母である。

 その手にはトレイを持っており、そこにクッキーと人数分のティーカップが載っている。

 シコルスキは率先して彼女へ近付き、トレイを自然な動作で受け取った。


「ところでおばさま。報告があるのですが」

「そう……。あーくんがとうとう、働く気になったのね? ああ、お母さん嬉しくて涙が出ちゃう……」

「まさに良い母の鑑ですねえ」

「世の中こんな母だらけだったら作家志望者が公務員志望者並に増えんぞ」

「アーデルモーデルさんが親不孝者過ぎるから……」


 よよよ……と、アーデルモーデル母は泣き崩れている。

 かなり嬉しかったのだろう。バツが悪そうな顔をして、アーデルモーデルが鼻を鳴らした。


「別にババアのことを思ったわけではないのである」

「じゃあ、お母さんもこのおもちゃで遊ぶわね~? あーくんが世界一の小説家になるために~!」

「是非にどうぞ」

「は、話が疾すぎる……!!」

「おばさんマジで魔女か何かなんすか?」


 ずっと監視してたんじゃねえのとユージンは思ったが、あくまでアーデルモーデル母は察しが化け物レベルに良いだけである。

 既に涙は乾いたのか、いつものニコニコ顔でアーデルモーデル母が《バズ・スロットル》に触れた。


「ババアッ! 勝手に触んな!」

「え~い♪」


[通常攻撃][特殊攻撃][連携攻撃]

[必殺攻撃][全体攻撃][範囲攻撃]

[連続攻撃][限定攻撃][二回攻撃]


「めちゃめちゃ出たぞ!! 意味深なのが!!」

「9分の3で当たりを引け的なアレですか!?」

「斜め揃いしていますねえ。アツいのでは?」

「ファンタジアボーナス確定目であるな」

「作品の死因がネーミングセンスになるからやめろ」

「やだ、嬉しいわぁ~」


 よく分かってないみたいだが、何となくアーデルモーデル母が喜んでいる。

 しかし、ここで彼女は首を横に傾げた。


「でも、あーくんが小説家になりたいのは分かったんだけど~……。そもそも小説家って、どうやったらなれるものなのかしら~?」

「それは……」


 サヨナとユージンが押し黙る。

 小説を書くのは構わないが、果たしてその先はどうすれば良いのか。

 全員が一斉にアーデルモーデルの方を見た。


「ああ? コネじゃねえの? ババアちょっと編集部の偉い連中のアレしゃぶってこい」

「あまりにも杜撰で最低な回答!!」

「誤解を招きたがるような発言は慎め!!」


「ユーくんとサヨナちゃんは知らないのね? でも、きっとシコルくんなら知ってるわよね~?」

「おばさまが僕のをしゃブふォ」

「真面目に答えろ……!!」


 言い切る前に、ユージンの拳がシコルスキの顔面を捉えていた。

 これ以上踏み込むと様々な意味で即死しかねないので、シコルスキは懐から一枚のビラを取り出す。


「実はここに来る前、このようなものを貰いまして」

「ええっと……『ブリッツ文庫 出張編集部のお知らせ』……何ですかこれ?」

「ブリッツ文庫とは、王都で最も勢いのある出版社ですよ。そこが未来の売れっ子作家を探す為に、出張編集部という形で作品の持ち込みを募るそうです。まさに電撃的な催しと言えるでしょう」


「ナロ村とカクヨ村でよくやっているアレであるな」

「お前らが何かを言いたいのは分かるけど、もう触れたくないからスルーしておくわ」

「じゃあ、そこにあーくんが作品を持っていけば、あーくんは小説家になれるわけね~?」

「結果が伴えばそうなりますねえ。まあ実際は固定読者を得る為にPV数の多い作品を青田買いするわけなのですが、怒られたくないので黙っておきます」

「それで黙ったつもりならお前もう舌引っこ抜くしか黙る方法ねえよ!!」


「まあ小生は天才だし合否については問題あるまい。良いタイトルもさっき何となく浮かんだから、今より早速作品の執筆に取り掛かるのである」

「どこからこの自信が湧くんだろう……」


 誰しも公募に送る前は、自分が一次選考で落ちるとは思っていないものである。

 アーデルモーデルもその類の自信過剰なのだろう。

 というわけで、アーデルモーデルは真面目に小説を書くのであった――





<余談>

雑誌掲載時は三連図柄の頭文字が「ま」→「ち」に変更になりました。

単に一文字ずつ横に並んでるだけなのに不思議な変更ですね……。

”電”の者はスケベなことしか考えないのか?(挑発)


あ、あと一回だけ続きます。

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