《クソガキッズメモリアル ~転校生編~ と弟子》その①
<前置き>
書き下ろしではなく二巻の初稿でボツになった分です。
でも対外的には初公開なので実質書き下ろしになるのでしょうか?
もうわかんないですね・・普通にお楽しみください(行数の無駄)
※製本版と設定が異なる部分が割とあります(ナカニダスの名前とか)
*
「はい、みなさんおはようございます!」
「先生、おはようございまーす!」
教壇に立っている若い女性が、教室内を見渡しながら大きな声で挨拶をした。
その挨拶を聞いて、合唱のように少年少女達の声が返される。
ありふれた朝の挨拶、その一幕である。
――ここは《教育都市フォレストフレンヅ》内にある、《ヌイタート学園初等部》だ。
四年オーク組の担任であるスプライトは、今日も生徒達は元気たっぷりであることを確認し、一人一人の顔を見ながら生徒名簿にチェックを付けていく。
「遅刻者はいつもの三人ね……はああ。おっと、いけない。みなさん? 急な話ですが、今日は授業に入る前に、転校生の紹介をしたいと思います!」
スプライトがそう言った途端、教室内でざわめきが起こる。
転校生がやって来るという話など、誰一人として聞いていなかったのだ。
そんな噂すらなかったのだから、驚くのも無理はない。
が、同時に転校生とは凝り固まった学校生活における、一種の非日常である。
生徒達の瞳は、一様に期待の光に満ちていた。
「さあ、入ってきていいですよ!」
廊下の方へスプライトは声を掛ける。すると、
教室の扉が開き、『転校生』が現れた。
「じゃあ自己紹介をしてね? あ、大きな声で、元気良くね!」
「…………」
『転校生』は、実った麦穂のような金色のくせ毛を持った、中性的な少年であった。
ともすれば少女にも見える整った容姿だが、格好は少年のそれであることからして、性別は男性で間違いないだろう。
事実、「えー」と小さく声を発した彼の声は変声期に入っており、やや低めであった。
「――おれの名前は《ナカニダス・ハラムナント》。魔界に住んでいた。育ての親は魔族のニンヒ師匠。おれはその師匠からある任務を与えられて、この学園に転校してきた。任務は隠密にやれって師匠には言われたけど、面倒だから今ここでお前達全員を殺す。ここまで言えばもう分かると思うけど、おれは人間でありながら魔族に与する人類の裏切り者だ。従って、お前達を皆殺しにすることに何ら躊躇はないよ。ただ、お前達が抵抗するのなら、出来うる限り惨たらしく殺すから、そのつもりで大人しくしていて欲しい」
自己紹介にしてはあまりにも長く、そして流暢な語り口だった。
だが、担任のスプライト含め、ナカニダスと名乗った少年の言っていることを、正しく理解出来たものは居ない。
それはあまりに突飛過ぎた発言だった。一部の生徒はウケ狙いと思った程だ。
だが、この少年が言っていることは全て事実である。
ここで嘘や冗談を飛ばす程、ナカニダス少年は人間に対して愛着を持っていない。
彼は魔力を集中させ、まずはこのクラスの全員を肉塊に変えてやろうとし――
「おはようございまーす! すいません先生、遅れました! 色々あったので!」
――突如として教室の扉が勢い良く開け放たれると同時に、全裸の少年が飛び込んできた。
少年は少し長めの銀髪を頭の後ろで纏めて括っているが、髪の長さが足りないのでさながらネズミの尻尾のようになっている。
生命力に溢れるしなやかな身体は一点の汚れもなく、まだ下の毛は生えていない。
少年の体動と同時に、少年の微少年もぷるんと揺れた。
「あー……遅れてすんません」
「ご、ごめんなさい先生……遅れました」
と、その全裸少年の後を追うようにして、二人の少年も教室へと入ってくる。
一方の少年は襟足だけを伸ばしており、両耳にピアスを付けている。
さながらエルグランドから降りてくるようなクソガキのようである。
また、目付きや態度はあまりよろしくない。見ただけで生意気そうなクソガキ感に満ち満ちている。
もう一方の少年はキノコのような髪型をしており、真っ赤な蝶ネクタイをしていた。
体躯は側に居る二人の少年よりも華奢であり、丸メガネの奥に覗く瞳はビクついている。遅刻して叱られるかもしれないのが怖いのだろう。
声も小さく、完全に萎縮している。
「はああ……。もうっ! シコルスキくん、ユージンくん、アーデルモーデルくん! 今月何回目の遅刻か分かっているの!? もう遅刻はしませんって、この前言ってたでしょう!」
「仕方ねーだろ、先生。オレらの村は山の向こうなんだぞ。毎朝歩くの大変なんだっつの。大体、初等部に寮がないのが全部悪ィんだよ」
「寮さえあれば、僕らは遅刻せずそこから通うというのに……。全ては学園の責任なのでは?」
「言い訳をしない! 遅刻は遅刻です!」
「そうですよユージンくん。きみには反省が足りない」
「突如寝返ってんじゃねーよ!! 大体テメーがいきなり服脱ぐから遅れたんだろうが!!」
「しかもジーライフくん、何で脱いだのかって理由は絶対に言わないし……」
銀髪の全裸少年の名はシコルスキ。
襟足クソガキの名はユージン。
キノコの名はアーデルモーデル。
このヌイタート学園初等部内では知らぬ者の居ない、問題児三人組である。
そして、その問題児三人を就学の時からずっと担任しているのがスプライトだった。
(何だこいつ――なぜ服を着ていない? そこにどういう理由がある?)
皆殺し寸前で突然注意を逸らされたナカニダスが、呆気に取られたように全裸のシコルスキの方を観察する。
服を脱いで教室に入る意味が全く分からなかったのである。
が、教師も他の生徒も、そのシコルスキを見て何ら動揺していない。
完全に慣れているようだった。
「後で三人には反省文を書いてもらうのと、シコルスキくんは脱いだ服を今すぐ着なさい!」
「着たいのは山々なのですが、手元に脱いだ服がないので着れません!」
「どうしてなの!? 自分で脱いだってユージンくんが言ってたでしょう!? 捨てたの!?」
「実は追い剥ぎに遭いまして……」
そう言って、ちらりとシコルスキはユージンの方を見た。
スプライトの表情が渋くなる。
「いやオレが服剥ぎ取ったみてーな流れにすんなや!! つーか仮にオレが追い剥ぎだとして、じゃあ何でテメーはその追い剥ぎと仲良く登校してんだよ!! ストックホルム症候群か!?」
「先生。彼もこう言っていることですし、これ以上僕の親友を責めないであげて下さい」
「ちんこ引っこ抜くぞテメー!!」
苛烈なツッコミに対し、関係ないアーデルモーデルが股間を反射的に押さえた。
一方でスプライトは眉間を指で押さえている。
(……まあいいか。手始めにこの全裸を殺すことにしよう)
ナカニダスは極小の魔力塊を指先に作り出す。
傍から見ても全く形の見えないそれは、しかし高速で撃ち出すことにより、人体を軽く貫く威力を持つ。
急所さえ貫けば、それで人は死ぬ。
クラス中の注目を浴びながらも、ヘラヘラと笑っているシコルスキに対し、ナカニダスは躊躇いなく魔力塊――否、魔力弾を放った。
「ところで先生、そこの見慣れない……は、は、は……セクシャルッ!」
全裸なので身体が冷えたのか、シコルスキは喋っている最中にくしゃみをする。
「そんなくしゃみがあるか
「アルカディア? 異界の雑誌名ですかね?」
「言ってねーよンなこと! おい、誰だ今オレに小石投げたヤツは!? 泣かすぞ!!」
(防いだ……!? おれの魔力弾を……!? そんな馬鹿な、有り得ない……!!)
シコルスキのくしゃみにより、ナカニダスが人知れず放った魔力弾は軌道が逸れて、近くに居たユージンに流れ弾として直撃する。
本来は強風が吹いても一切軌道がブレない攻撃を、単なる同い年の少年が放ったくしゃみが逸した。その事実にナカニダスは動揺を隠せない。
流れ弾を普通に耐えた頑丈少年チンパンの方には、全く気が回らない程に。
「彼は今日転校してきたばかりのナカニダス・ハラムナントくんよ。三人とも、挨拶しなさい」
「は、はじめまして。ぼくはアーデルモーデルって言います……よろしくね」
「おう、オレはユージンだ。この学園でアタマ張ってっからよ、ナマ言ったらシメんぞ」
(偶然なのか……? いや、偶然で防がれるような、そんな甘い手心など加えていない……!)
「ああ!? 無視かテメーゴラァ!」
「落ち着いて下さい、ユージンくん。彼も転校してきたばかりで緊張しているのでしょう。特にきみのような、エルグランドの中で生まれ落ちた見た目の男を見たらビビりますから」
「うっせーな!! フルチンの同級生が馴染んでるこの教室がオレは一番怖いけど!?」
ギャーギャー騒ぐユージンをよそに、シコルスキは笑顔のままナカニダスに一歩踏み出す。
そして、握手を求めて手を差し出した。
「どうも、初めまして。僕の名前はシコルスキ・ジーライフ。気軽にシコっちとでもお呼び下さい――ナカニダスくん」
(……直接触れて殺そう。何かの間違いだ、あれは)
差し伸べられた手を、ナカニダスが無言で握り返す。
相手に直接触れているのならば、殺す手段など無数にある。
ナカニダスは死の呪文を、シコルスキへ直に送り込む。
これならば、偶然の発生する余地などない。
すぐにでもこの全裸の少年は死亡する――はずだった。
「な……!?」
「どうしました?」
「なぜ……生きているんだ……!?」
「……? そうですねえ。様々な女体を見たいから――ですかね」
「いきなり人生の目標聞くとか、コミュニケーションの取り方知らねーのか? この転校生」
「はい! 握手はそこまでにして、シコルスキくんはこれを着なさい! で、ナカニダスくんの席はシコルスキくんの隣ね! ついでに彼へ色々教えてあげること! いいですか!?」
シコルスキがたまに全裸になるのはいつものことなので、スプライトは教室にシコルスキ用の予備の服を常備していた。
それをシコルスキに着るよう指示しつつ、遅刻したユージンとアーデルモーデルを席に戻らせる。
一方、いそいそと服を着るシコルスキを、ナカニダスは愕然とした表情で見つめていた。
(このシコルスキとかいうやつは、無自覚のまま、おれの呪文を無効化したのか……!? 信じられない――おれと同年代で、おれに並ぶような力の持ち主が居るなんて……!!)
ナカニダスは、自身を特別な存在だと認識していた。
生まれはともかく、育ちは特殊だ。人に仇をなす存在により鍛えられ育てられたその力量は、並の使い手を遥かに凌ぐ。
そしてそれはそのまま、同年代の少年少女が居るこの学園の生徒など、一纏めで殺せるということである。
だが、実際は違った。服も着ていない全裸の少年が、自分の攻撃を二度も防いだのだ。
――ナカニダス。君は人間を少し甘く見ている。君にとって、この任務は実に簡単なもののように映るだろうけどね。果たして本当にそうか、身を以て確かめてみるといいよ――
(そういうことですか、師匠。おれは人間なのに、同じ人間のことをまるで知らないのですね)
この学園へ来るまでに言われた師匠の言葉を、脳裏でナカニダスは思い出していた。
同時に、この任務における己の役割を、改めて再認識する。
(こいつは……やがて人類の希望になり得る存在かもしれない。おれがやるべきは、師匠から言われた通り、この学園に眠る『封印の書』の入手と――)
「ふう。お待たせしました。僕の席はあそこなので、一緒に行きましょうか」
(――希望の芽を、この手で摘み取ることだ)
他の有象無象はもうどうでもいい。いつだって殺すことが出来る。
しかし、ナカニダスの殺意を二度も……それもほぼ無自覚に凌いだ、このシコルスキは別である。
将来的に人類へ光を齎すかもしれない同級生を、己の手で確実に殺す。
ナカニダス少年のこの誓いは、年月によってその形を少しずつ変えていくものの、彼にとって終生の目的となることを――――今はまだ、誰も知らない。
<補足>
Q.設定を文庫版基準で直してから投稿すべきなのでは?
A.めんどい(円満解決)
あ、まだまだ続きますがサヨナの出番はありません(※ボツ理由)
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