《クソガキッズメモリアル ~転校生編~ と弟子》その②


「ねえちょっと、あの転校生ヤバいっぽいんだけど」

「変わった人だよお~」


 昼休み。ナカニダスは一人でさっさと教室外へ出ていってしまった。

 それを見た女生徒二人が、弁当を食べようとしているシコルスキ達に近寄ってくる。


「《キュール》さんに《シュガー》さんではないですか。一体どうされたのです?」


 ハキハキとした口調で喋る短髪栗毛の生徒はキュール。

 間延びした喋り方をする、桃色のウェーブした髪型の生徒はシュガーと言う。

 初等部一年の頃よりずっとシコルスキ達とは同じクラスであり、友達と言ってもいい間柄であろう。


「コルよりやべーヤツとかいんのかよ」

「それはちょっと答えらんないけど……あんた達が来る前の挨拶、すごかったんだから」

「何言ってるかシュガー全然分かんなかったあ~」


 キュールとシュガーは、シコルスキ達の側に座って持ってきた弁当を開いている。

 アーデルモーデルは己の全存在を消して、空気に徹した。

 生まれついての生涯童貞を定められたこの少年は、この時分から女子との会話が一切出来ないのである。


「転校生あるあるですねえ。最初の挨拶で一発キメてやる的な。ズボンを下ろしたのですかね?」

「それやってもお前の劣化にしかならねーから」

「ま、発言の中身については触れないけど。シコルもユーも、あの転校生と仲良くするなら気を付けなさいよね。ついでにキノコも」

「あヒィ!」

「お前……女子と仲良くしろとは言わねーけど、四年間同じクラスのヤツとは喋ろうぜ……」


「キノコくんは恥ずかしがり屋さんだねえ~。ジーくんとライくんみたいに、もっとみんなの前でイチャイチャしてもいいんだよお~?」

「シュガはオレらを何だと思ってんだ」

「穴兄弟~!」

「ぶっ飛ばすぞ!! オレとコルは兄弟じゃねーよ!! 他人だよ!!」


「……アタシらぐらいの歳だと女子の方がマセてるってお母さんが言ってたけど、事実ね」

「僕はユージンくんの年相応にピュアな部分が大好きですよ」

「逆にあんたは気持ち悪いが過ぎるからなんとかしてくれない?」

「あー、話戻すけど。よく分かんね―が、とにかく転校生は一度シメりゃいいってこったろ」


 エルグランドより這い出たガキ大将であるユージンが、キュールとシュガーの話を聞いて、転校生であるナカニダスに敵意を出す。

 が、一方でシコルスキは首を傾げた。


「彼からは昔のアーデルモーデルくんのような感じがしました。優しくすべきではないかと」

「ぼ、ぼく? え……? 孤高ってこと……?」

「自己評価高いわねこのキノコ」

「孤独の間違いだよねえ~」

「フォローしないからな、アデル」

「ひどいや……」

「ともかく、せっかくの転校生なのです。仲良くしないと損ですよ!」


 この歳で既に奇人・変人の烙印を押されているシコルスキであるが、では学園内で嫌われているかというと、決してそうではない。

 誰にでも優しく平等で善良な性格は、むしろ万人から愛されている。

 ただ、そういう面を見せる時に限って全裸であったり、発言が意味不明でドン引きされているだけである。


「シコルの好きにしたら?」

「いや~、ジーくんはプレイボーイだなあ~。いいよいいよお~」

「なので、僕ら三人でナカニダスくんと仲良しになろうぜ作戦を決行しましょう!」

「オレもかよ。まあいいけどよ」

「い、いいのかな……? 何か彼、ちょっと怖くない……?」

「大丈夫ですよ。楽しみになってきましたねえ!」


 やると決めれば、後はもう行動するだけである。

 昼休みが終わり、放課後――ナカニダスはやはりさっさと教室を出ようとしたので、シコルスキは急いで呼び止めた。


「ナカニダスくん!」

(……今日はさっさと帰って改めて方針を固めようと思ったのに。そっちから来るのか)


 振り返ったナカニダスは無表情であり、じっとシコルスキを見ている。

 「ガン付けてんのかコラァ」と、ゴリラの大将が唸るが、シコルスキもナカニダスもそれを無視した。


「君はおっぱい派ですか? おしり派ですか?」

「…………は?」

「仲良くする気ねーのかお前!! ドン引きされるだけだろ!!」

「ぼ、ぼぼ、僕はおっぱいで……うひひ」


「質問の意図が分からないな。おれに用事があるのかい」

「まあフツーは答えねーよな……」

「――おしりが好きかな」

「応じんのかよ!! ちょっと見直すじゃねーかお前のこと!!」


 尻派であるナカニダス。

 シコルスキはむふふと笑い、自分はおっぱい派である旨を告げる。


「でも僕はおしりも好きですよ。つまり、これで我々は仲間です!」

「強引だね。じゃあおしりの良いところを一つ言ってみるといい」

「揉みたい、ですかね」

「どっちにも言えることじゃねーのそれ!?」


「……出来るね。いい回答だ。おれもいい形をしたおしりを揉んでみたい」

「僕も大きなおっぱいを揉んでみたい」

「この転校生……!! コルと似たようなタイプだわ……!!」

「じゃあライエンドくんとも仲良くなれるんじゃないかな?」

「黙れやキノコ 泣かすぞ」

「なんで!?」


 ナカニダスの心境としては、まず敵を知ることから始めたに過ぎない。

 が、それでもどこかシコルスキと彼に通じる部分はある。

 もっとも、その感情を自覚することはまだ出来なかった。


 対するシコルスキは、ユージンやアーデルモーデルと同じようなモノを、ナカニダスより感じ取った。

 この転校生とは仲良くなれる。このやり取りだけで、それを確信する。


「ほーら、もう放課後なんだから、四人ともあんまり居残りしちゃいけませんよ」


 少しだけ咎める風に、四人のやり取りを眺めていたスプライトが声を掛けてくる。

 もっとも、その顔付きは柔和であり、人付き合いの苦手な転校生に対し問題児達が優しく接していることを喜んでいるようだ。


「そういう先生こそ、最近溜め息が多いですよ。お疲れ気味なのでは?」

「はああ……。シコルスキくん、一応言っておきますけど、先生の溜め息理由の九割はあなた」

「くっ……! あと一割頑張りたかった……!」

「十割狙わないでちょうだい!! 先生今週末から宿直だから、あんまり疲れさせないで!」

「ふーん。そーいや先生、初等部の図書室って――出るらしいぜ」


 ニヤニヤとイタズラじみた笑みを浮かべながら、ユージンがスプライトに仕掛ける。

 因みに、アーデルモーデルは教師に対しても超弱いので、まともな雑談が出来ない。


「で、出るって……もうっ! ユージンくん、そういう話はやめなさい!」

「何色の液体が出るのですかね?」

「液体の話じゃねーから!! ユーレイだよ、ユーレイ! 知ってるだろお前も!!」

「それは当然。噂によると、真夜中に真っ赤な目をした――」

「あー! あー! 聞こえません! 聞こえませんからね!! じゃあ先生は先に職員室へ戻りますから、教室の戸締まりをして鍵を返しに来ること!! いいですか!?」


 見るからに焦った様子で、スプライトはシコルスキに押し付けるようにして教室の鍵を渡し、そのまま走り去っていった。

 冷ややかな目で、その姿をナカニダスは追う。


「……肝が小さい教師だ。よくあれで物を教えられるね」

「いやいや、スプライト先生はとても良い先生です。きみもそのうち、それが分かりますよ」


「にしても――大体情報通りだな。先生にはちょっと悪いことしちまったけど」

「で、でも、これで作戦の決行日は決まったんじゃない?」

「ええ。遂にこの日が来ましたか……」


 教室内には四人を除いて誰も居なくなっている。

 それでも、ナカニダスを除く三人は、露骨に声のトーンを落とした。

 見るからに密談をする構えであった。


「おれには関係のない話をするみたいだね。じゃあ、おれはこれで」

「おっと、待って下さい。せっかくですので、きみにも計画に参加してもらいましょう」

「い、いいの? そんな急に一人増やして……?」

「足引っ張んじゃねーのか?」

「……話が見えないな」


 足を引っ張る、と言われたことが少し頭にきたらしい。

 ナカニダスは帰る足を止めて、シコルスキに説明を求めた。

 ニヤリとシコルスキは口角を持ち上げる。


「転校生のきみは知らないと思いますが――実はこのヌイタート学園初等部、その図書室の書庫には、封印されし蔵書があるのです!」

「……! 詳しく聞かせてくれないか」


 偶然にも、その話はナカニダスに課せられた任務のそれと一致している。

 シコルスキの暗殺は別として、『封印の書』を手に入れる必要もあるナカニダスは、まだそれについて情報を持っていない。

 なので、予想外の食い付きを見せたのだが、それをシコルスキは単純に喜んだ。


「ふふふ……きみも見込みがありますねえ。そう、僕の調べたところによると、封印された蔵書の中には異界のドスケベ本があるらしいのですよ!」

「そ、それをね! 夜にこっそり忍び込んで、ぼくらで見てやろうって作戦なんだ……!」

「あ、オレは別にドスケベ本には興味ねーからな? 単に、夜中に潜入するってすげー面白そうじゃん。だからこいつらに協力するってわけだ。分かったか? おうコラ?」


「僕らは今年で初等部を卒業します。中等部に上がると、もう初等部に来る用事などほとんどありませんからね。そうなる前に、こっちから仕掛けにいく――というわけなのです!」


 ヌイタート学園は十年制であり、初等部四年、中等部三年、高等部三年となっている。

 現在初等部四年であるシコルスキ達は、来年から中等部に進級する。

 初等部と中等部は校舎の敷地がかなり離れて別になっているので、書庫に忍び込むには今年しかないのである。


(ドスケベ本はともかく――シコルスキを殺す前に、『封印の書』の件は片付けておくか)

「既に潜入作戦の内容も決めていますからね。単純に頭数が増えると喜ばしいです」

「なるほど。じゃあ、おれも参加させて欲しい」

「決まりですねえ。では、今から詳細な計画をきみにもお伝えしますよ――」





<あとがき>


Q.サヨナが出ないのにサブタイに弟子ってつくのはおかしくないですか?


A.出番はあったのです カットしただけで(書籍版と同じ内容だった為)

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