《雑誌用短編と弟子(初稿版)》その①
<前置き>
この話は今は亡き「電撃文庫MAGAZINE」という雑誌にて掲載された短編……の、初稿版です。
何がちゃうねんオイって話ですが、細かい部分や終盤の展開が雑誌掲載版と異なります。
と言ってもまあ、読んだことのない人の方が遥かに多いと思うので、特に気にせずお読み下さい><
※二巻発売前に掲載された短編です
*
「今日はよく来たな、凡作共よ」
白衣を纏ったキノコヘアーのメガネ男が、尊大な態度を隠そうともせずに言った。
「ふむ。《アーデルモーデル》くんの家に呼ばれて来てみたはいいものの、この物語の主人公にして賢勇者と呼ばれている僕こと《シコルスキ・ジーライフ》、僕の弟子こと貧乳ヒロインの《サヨナ》くん、人間みたいなゴリラである我々の幼馴染の《ユージン》くんを相手にその不遜な発言……今回は二度目の雑誌用短編にも関わらず制作時間があまり取れないからさっさと書けそうなアーデルモーデル回をやろう、という事実をお分かりですか?」
「分かんないですよ!!」
「エキサイト翻訳を下回る精度で喋るな!」
「キサマらを呼んだのは他でもない。小生の野望成就の為に手を貸せ」
本筋をさっさと進めたいのか、アーデルモーデルはシコルスキの発言を気にせず続けた。野望成就、という大仰な単語にユージンは顔をしかめる。
「あえて言うけどさぁ……お前ニートだろ」
「野望とか言う前にやることあるんじゃ……」
「フン。どうせロクでもないことを考え付いた――とでも思っているのであろう、愚かなり凡作共は」
「エロビ撮るわ(※一巻参照)ストーカーなるわ(※ウェブ掲載短編参照)風俗行こうとするわ(※二巻収録予定)、てめえの絡む回は総じてロクでもねえんだよ!」
「しかし、今のアーデルモーデルくんの瞳の輝きはいつもと違います。話を聞いてみましょう」
「時間の無駄だと思いますけど……」
「聞いて驚け。小生は遂に、手に職をつけるッ!!」
今までクソニートとして確固たる地位を築いていたアーデルモーデルが、はっきりとそう断言した。
「………………え?」
サヨナとユージンは思わずそんな声を出し、シコルスキも「ほう」と驚いている。
「ま、まま、待て待て。夢かこれは?」
「いわんや現実である」
「そっか……じゃあ殴らせろ」
「何で!? キサマ自身を殴れや!!」
「サヨナくん。確認のため、僕の股間にある1954年に創立されたアレに一度触れてくれませんか」
「それKADOKAWAのことですよね!? そして普通にイヤですよ!!」
あのアーデルモーデルが働く意志を見せている。これはもう惑星直列並に珍しいと言えるだろう。
何だかんだでユージンとシコルスキは、アーデルモーデルの幼馴染として、彼の社会復帰を応援していた。
まあ全然上手くいってなかったその社会復帰なのだが、まさか自発的に解決するとは。
「ダメだ、涙が……」
感極まってユージンは泣き出してしまった。その肩をシコルスキがそっと抱く。
基本アーデルモーデルに興味が無いサヨナだけが訝しがって訊ねた。
「それで、どんな職なんです? 発明家?」
アーデルモーデルは発明を趣味としている。
ファンタジックなあれこれと一線を画するその才能は、ニートが有するには勿体ないものである。
が、アーデルモーデルは首を横に振った。
「いや小説家」
「は?」
「小生小説家になるから手伝えキサマら」
「は?」
三人の身体が硬直した。
感動していたユージンに至っては、反動で目が血走りつつあった。
「おい……アデル。もっかい言ってみろ」
「だーかーらー、小説家って言ってんだろが! 小生そんな変なこと言ったか? ああ?」
「確かに、近年は印刷技術の向上により、都市部では薄い魔術書と共に小説のような娯楽本は流行しています。憧れの職としては悪くありませんねえ」
「いやでも先生、これって……」
「……アデル……」
「さっきから何であるか、ライエンド!」
「一時間だけ呼吸を止めてくれ……もうそれでいい」
「良くね―よ!! 遠回しかつ念入りに死ねって言うなやキサマ!!」
ユージンは両手で顔を覆い、別の意味で泣いていた。
どうして親友が泣いているのか、アーデルモーデルだけが気付いていないようだ。
「ニートの息子が働きたいって言うから詳細を訊いてみたらラノベ作家になるとか言い出したのを正面から受け止められない母親になった気分だ」
「あまりにもそのまんま過ぎる比喩!?」
「おいジーライフ! 何でライエンド泣いてんだ?」
「ニートの親友が働きたいって言うから詳細を訊いてみたらラノベ作家になるとか言い出したのを正面から受け止められない母親になった気分だからでしょうねえ」
「それ以上的確な心境が見当たらないんですか!?」
「せめて父親の気分って言うのである!!」
「しかし――どうして小説家になりたいのか、その理由を伺っても良いですかね?」
シコルスキが水を向けると、アーデルモーデルは「フン」と鼻を鳴らした。
「小生にも一応だが働かねばならんという意識はある。が、そんじょそこらのブラックな職など願い下げだ。なので小生が望む条件を全て満たす職を考えた結果、小説家になろう! という結論へ至った」
「何で『なろう』の後に『!』を付けたんだ」
「文脈に他意がありますね……」
「それで、君が望む条件とは?」
「まず第一に楽そう、第二に家から出なくて良さそう、第三に儲かりそう、第四に自己顕示欲を満たせそう――即ち小説家しかあるまい!」
「クソみたいな労働意識!!」
「第三までは千歩譲って許すとしても、第四の条件を職探しに入れ込むな!!」
「いや自己顕示欲を満たせない職とか存在する意味無くね?」
「あなたの存在意義よりかは充分ありますよ!!」
「マイナビの検索フォームに自己顕示欲って項目あると思ってんのかテメェは!?」
「しかし自己顕示欲以外で小説を書く理由など一切無いと僕も思いますけどねえ」
「よりにもよって多くの作家の目に触れる雑誌用短編で全方位に中指を立てないでください!!」
「献本のこと考えろや!!」
「やはりジーライフは分かっているのである」
小説に対するとんだ偏見を、どうやらシコルスキとアーデルモーデルは持っているらしい。
因みにこの物語はフィクションであり、実際の人物やら団体やら何やらとは一切無関係であることを念の為ここで述べておくぞ!
実際の小説家の方々はもっと崇高な存在だぞ!(本作を除く)
「そもそもの話、小説家になろう! というスローガンからして、もう自己顕示欲が前に出ているではありませんか。それはある種の原動力、アーデルモーデルくんにとっては大事な要素なのです。認めてあげましょう――自己顕示欲の発露以外で小説家になろう! を使うことは無いのですから」
「途中から別の話してねえか?」
「今回の話の方向性が見えてきましたよ……」
「そういうわけで小生の野望とは即ち、世界一の小説家になることに他ならん。キサマらにはそんな未来の大作家である小生の手伝いをさせてやる」
「一応訊いておきますけど……アーデルモーデルさんって、小説書いたことあるんですか?」
「あるわけ無いであろう」
「バカなのかコイツは……?」
「挑む前が一番増長する時期ですからねえ」
「てか小説とか誰にでも書けるはずである」
鼻をほじりながら、アーデルモーデルが簡単にそう結論付けた。物議を醸す発言かもしれない。
「まあ書くだけならハードルは低いですけど……」
「そのハードルの低さに騙されるニートが後を絶たねえんだよなぁ……」
「書けるのと売れるのは全くの別物ですよ、アーデルモーデルくん。落ち着いて考えて下さい」
「あーあー、そんな有象とかいうカス作家の例は聞く価値すら無いわ! アレと同じ轍を踏む気など小生には毛頭ない! その為のキサマらだ!」
「
「妙に自信ありげですね……気持ち悪っ」
「何か秘策があるのでしょうねえ」
「当然だ、凡作共よ。これを見るがいいのである!」
アーデルモーデルが見せびらかすように、己の発明品を両手に抱えた。
角張った小型の筐体に、レバーとリールと複数の停止ボタンが付いている。
「これ……スロットマシンか? ちょい小さいけど」
「異界の金食い虫ではありませんか」
「金食い虫を連想する人はごく一部なのでは……」
「小生が開発した、その名も《バズ・スロットル》である。小生独自の研究により、コイツには『売れる』タイトルが無数にインプットされていてな――」
「ふむ。つまりこのパチスロを我々がブン回し、何かいい感じの売れ線タイトルを作り出して欲しい……というわけですかね?」
「おいパチスロ言うな!! 《バズ・スロットル》って言ってんだろが!!」
「ンなもん自分で回せばいいだろ」
(こういう妙なの作れるのなら、どう考えても他に道はたくさんあると思うんだけどなぁ……)
サヨナがド正論を心中で呟く。
全くもってその通りなのだが、そういう方向性で動けないからこそ、アーデルモーデルは童貞引き篭もりニートなのだ。
一方でユージンの言った正論に対し、アーデルモーデルはチッチッチッと指を振る。
「コイツには『人間設定』を搭載した。即ち、使用者によって如何様にも結果が変動するのである」
「スロッカスの僻みと負け惜しみでよく使われる単語じゃねえか……」
簡単に説明すると、アーデルモーデルの『人間設定』では、偏った単語しか出ないらしい。
そこで、それぞれ思想や思考が異なるシコルスキ達三人にこの台を打たせて、違う結果を求めたいとのことだ。
が、当然の疑問をサヨナが呈した。
「あの……タイトル候補がランダムに出るのは分かったんですけど、そもそも小説を書くのに何でまずタイトルを求める必要が……?」
「はあ? 暗愚だな小娘。今の時代、小説というのは売れそうなタイトルから逆算して中身を作るのが常識であろう? よもやまさか、プロットとか言う何の役にも立たないハナクソの如き存在を書き起こし、そこから中身を執筆しろとでも? かぁーッ、何たる前時代的! 化石的! 電撃!」
「おいキノコ型スプリンクラー!! 韻踏んで全周囲へ喧嘩売ってんじゃねえぞ!!」
「あと罵倒語に含まれませんよ電撃って単語は!!」
「本作もタイトルから内容を起草すれば、もうちょっとマシな売上になったのかもしれませんねえ……」
「っつーか今の時代に異世界転生もラブコメ要素も無しにラノベ書くとかアホとしか思えんのである」
「次回作は絶対にそういうのにしましょう」
「いやー、アイツの才能じゃ厳しくね?」
「どこの誰について語ってんだお前らは!?」
「もうさっさとこの変な道具使いましょうよ……」
小説の作り方は人それぞれであり、言うなれば千差万別なのだが、少なくともアーデルモーデルはタイトルから逆算するタイプらしい。
「まずは小生が試打を見せてやろう」
そう言ってアーデルモーデルがレバーをパコンと叩くと、ギュルルル……とリールが回転する。
特に何かを狙うわけでもなく、アーデルモーデルはパチパチとボタンを押してリールを停止させた。
[スライムに転生した俺]
[外れスキル『ヒモ』で]
[異世界を余裕で生き抜く]
「どういうわけか既視感がすごい!!」
「ふむ。悪くないのである。メモっとこ」
「良くもねえだろこれは!! 何か本屋で見かけたことある感じのタイトルになってんぞ!!」
「ググっても同名タイトルは完全一致では出て来なかったので大丈夫です」
「逆に不完全一致で何かが出たんですよね!?」
「多少の被りは仕方あるまい。『そういうもの』だ。何より肝心なのは中身である」
「お前今最初にガンプラの箱から作るみたいな真似してんだぜ?」
こんな感じで、アーデルモーデルがスロットを回しても、既製品(意味深)のようなものばかりが出て来てしまうらしい。
それはそれで構わないのだが、もうちょっと多様性が欲しいので、アーデルモーデルは次にシコルスキへ使用を促す。
「少々気になったのですが、第一停止の目押しにビタ押しとかは必要あるのですかね?」
「第三停止までフリー打ちで構わんぞ」
「なるほど――純増は?」
「ボナ込みで2.0枚である」
「ではまずはCZを目指しましょうかね」
「早く打ってくれませんか!?」
「分かる奴にしか分かんねえ用語で会話すんな!! そっち方面のネタまでやる余裕は今回ねえから!!」
シコルスキとアーデルモーデルの会話は、生きていく上で何ら必要のない知識に基づいている。なので良い子の読者のみんなは気にしないでおこうね!
というわけでシコルスキがレバーを叩く。
「これが僕の――魂のレバーオン!!」
「静かに打て!!」
何がどう魂なのかは謎だが、シコルスキがレバーを叩いた瞬間、リールがガクンと一度動き、そこから回転を始めた。
続けてボタンを押すと――
[人妻蜜楽園Ⅱ]
[ダメ、隣の部屋に旦那と息子がいるのよ?]
[~親友の母をガチNTR調教~]
「これは……前作の存在が気になるところです」
「使用者の心を映す鏡なんですかこの機械は!?」
「18禁系のワードはレア役対応だが、それにしたってふざけんなキサマ!!」
「このワードを台に入れたお前もお前だよ」
「じゃあこれで一作書いて下さいね」
「書かねーわ!!」
「書けないの間違いなのでは……」
アーデルモーデルは母系のエロに対して不寛容である。
シコルスキが特殊なだけとも言える。
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