《すごい!と弟子》
「えー、本日は皆様お集まり頂き、まことにありがとうございます。お日柄もよく、何か催し物を行うには絶好の一日であり、そのような日にこうして皆様と共に祝の盃を交わせるということに、言葉には出来ない不思議な縁というものを感じずにはいられません」
祝賀会場で、ワインで満たされたグラスを持ったシコルスキが、壇上に立ってスピーチをしている。
「お集まりって……」
「お前入れて三人じゃねえか」
だが、この場に居るのはシコルスキとその弟子サヨナ、そしてシコルスキの友人であるユージンのみであった。パーティーと呼ぶには些か人数不足であることは否めないだろう。
しかし、サヨナとユージンには他に気がかりなことがもう一つある。
「そもそも、これって何の集まりなんですか? 特に何も聞かされてないんですけど」
「何かを祝えるようなイベントが全く思い当たらん」
「フフフ……。聞いて驚かないで下さいよ。最初の単語は『重』です」
「「!!!???」」
出版関係において、最初に重がつく単語と言えば一つしかあるまい。全ての作家が欲してやまない、甘美なる響きを持つアレな単語――もう言わずともお分かりだろう。
「祝! このライトノベルがすごい2020、賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求落選記念パーティーの開催です!!!!」
「重罪の方だった!!!!」
「思わせぶりですらねえわもう!」
パァン! ボォン! と、祝砲のクラッカーが会場いっぱいに鳴り響く。これほどまでに虚しい祝砲が他にあっただろうか。いやない(反語)
「と、前フリはこのくらいにして――本題はこちら!」
「前フリ……」
「意味あんのかこの前フリ」
「祝! このライトノベルがすごい2020、賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求入選記念パーティーの開催です!!!!」
ドォン! ホァン! と、再び祝砲が鳴り響く。
しかし言われた側であるサヨナとユージンはぽかんとしていた。
「え……えっと。どういうことです?」
「何かよく分かんねえから分かりやすく教えてくれ」
「このライトノベルがすごい2020において、本作が新作部門12位、総合24位にランクインしたのですよ! (作風の割に)快挙です!」
「……。す、すごいじゃないですか!」
「あれだけ無理無理言ってたくせに何だかんだでランクインしたのか……。っと、悲観的なことを言うべきじゃねえな。こりゃめでたいぜ!」
思わずサヨナとユージンもグラスをカチンと鳴らして乾杯している。
そうして各々手に持った飲み物をぐいっと飲んで、シコルスキは晴れやかな笑顔で告げた。
「じゃあ反省会をしますので着席して下さい」
「……反省会!?!? なぜ!?!?」
「祝いの場で何を省みるんだよ!!」
「それも含めてお話しますので……」
一転してシコルスキは葬式みたいな表情を見せた。
「まずは本作に投票して下さった方へ、この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。本件について僕の方から全て説明をさせて頂きますので、質問がございましたら挙手にてお願い申し上げます」
「語り口が謝罪会見!!」
「何ぞ悪いことでもしたのか俺達は!?」
とは言いながらも、サヨナもユージンも黙って着席した。
質問は挙手にてということで、まずはサヨナが手を挙げる。
「ではそこの胸板にやる気のない方」
「やる気の問題で語らないでくれませんかね!? そもそもの話、ランクインしたのは喜ぶべきことだと思うので、こんな謝罪会見形式でやること自体がおかしいと思うんですけど」
「確かに、様々な方の応援のお陰で、本作はまさかのランクインを果たしました。しかし――あまりにも順位が中途半端過ぎて、電撃文庫編集部側は本作を相変わらず不遇に処すことを決めたのです」
「……質問いいか」
「ではそこの人じみたゴリラの方」
「ヒト科であることすら否定すんな!! これはあれか? お決まりの電撃文庫に対する恨み言ってわけか?」
質問に対して、シコルスキは用意されていた水差しより飲み水を一口含んで、目を伏せた。
やがて絞り出すような声で、一言だけ返す。
「……はい……」
「そんなもったりした動作で肯定しないでいいですよ!!」
「素直に喜んだらいいだろうが!! 何で電撃文庫編集部を殴らないと気が済まねえんだ!?」
「それは質疑と判断してもよろしいですか」
「面倒臭え……!! ならいいよそれで」
「回答は控えさせて頂きます」
「殺すぞ!!!」
「凶行に理由は無いと言わんばかり……!!」
「普通に喜んだらそんなの……普通の小説ではありませんか」
「普通の小説であろうぜそこは!?」
「無理に尖ろうとしないでください!! 鉛筆じゃないんだから!!」
「丸みを帯びてしまったらそこで終わってしまうので……」
「追い込まれたYouTuberみたいなこと言うな!!」
本来は小躍りした小粋な小咄でも書いて喜びを表現すべきだろう。
だが本作は悲しい定めを背負って生まれた、ライトノベル業界における悪性腫瘍(転移性)である。
だから……殴る……!! 電撃文庫編集部を……っ!!
「元を正せば、『このラノにランクインしなかったぜ短編』を9月の段階で仕上げていたのですが、ちょっと前にランクインするという連絡を担当より伝えられたので、大慌てでこの短編を書いています――が、執筆時間が無さすぎてもうどうすればいいか分からず、ひとまず電撃文庫編集部を攻撃するに至りました」
「ランクインの通達と同時にいばみがでも使われたのか!?」
「一応味方ですからね電撃文庫編集部って!?」
「敵の敵は味方理論で言うならば味方かもしれません」
「これ以上仮想敵を作るなや!!!」
「真っ当に考えると、作者も担当二人も誰もランクインはしないだろうと思っていたので、存外健闘したことに驚きは隠せないのですが、本作特有の何かイマイチ及ばないアレがありますので、悪い言い方をすると『クラスの陰キャが運動会で思ったより動けるヤツだった』という評価は否定できないでしょう。端的に言うとキモがられるやつです」
「動かないとキレられるし動いたら怒られるし動けたらキモがられる全方位地獄!!」
「仮想敵は運動会か?」
あんなものは存在しなくていい(結論)
それはともかく、シコルスキはもう一度居住まいを正した。
「どれだけ頑張っても……認めてくれないことがあります。本作は電撃文庫編集部にとって忌み子に近い存在なので、きっと水面下の努力や世間の評判など無価値とされるでしょう」
「……悲しい……」
「今からでも遅くねえからもう適当に結婚発表して誤魔化せ!」
「なのでそんな巨悪……ゴホン、悪辣である電撃文庫編集部を見返すには一つしかありません」
「咳払いでより酷い単語を引き出すパターンは稀ですよ!!」
「無許可でこれ書いてるからまたメールで怒られるんだろうなぁ……」
席から立ち上がって、シコルスキは深く頭を下げた。
その姿はまさに悲壮そのものであり、一種の覚悟すら漂っている――
「本屋さんに残っている本作一巻を見かけたら保護してあげて下さい……! 現在賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求は絶滅危惧種としてレッドリストに登録されており、一刻も早い重版がなければ二巻で早々に種の根絶が予見されていますので……!!」
「いつものやつ!!!」
「こういう話を何回繰り返したら重版掛かるのかっていう社会実験とすら思えてきたわ」
「そういうわけで会見はここで打ち切らせてもらいます あっ! 本作打ち切りと掛けた洒落ではありませんので悪しからず」
「自虐がこなれすぎてて恐怖すらありますよもう!!」
「ここまで読んだ人がどう思うかをちゃんと考えて話を書けや!」
《終》
<作者注>
こんなことを書いていますが実際はとても喜んでいます
これを励みにより一層精進しますので、電撃文庫編集部の方にもっと賢勇者を厚遇してやれっていうお便りは定期的に送り付けてあげて下さい(煽動)
投票して下さった方、いつも応援して下さる方、全ての方にこの場を借りてもう一度感謝の言葉を述べたいと思います。
ありがとうございました!
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