《クソガキッズメモリアル ~転校生編~ と弟子》その⑤
守護者である龍の背後には、封印の間へと繋がる扉があった。
特に施錠もされておらず、四人はとうとう目的地である場所へと辿り着いたらしい。
封印の間は行き止まりとなっており、出入り口となる扉以外には扉も窓も存在しない。
また、部屋の中央には青白く光る魔法陣が敷かれており、その中央に二冊の本が浮遊している。
「ふむ。どうやらここは魔力スポットとなっているようですねえ」
「龍を飼い慣らせる程の地脈……『龍脈』のもっとも奥深い場所がこの部屋のようだね」
「何だそりゃ」
「確かにちょっとだけ、空気が冷たいような気はするけど……?」
ユージンもアーデルモーデルも、魔法を不得手としている。
封印の間に入ったところで、特に変わったものは感じないようだった。
「簡単に言うならば、この部屋は魔力が満ちているので、ここでならばどれだけ難しい魔法でも難なく限りなくこなせるでしょう。それを利用して、本を封印しているようです」
「と言うよりも――逆だったみたいだね。学園に本を封じたんじゃない。そもそも何かを封じる為の『龍脈』に、後付けで学園を建てたんだ。理由は分からないけどね」
「学園は人間の管理がしやすいですからねえ。まあ、どうでもいいことでしょう」
「よくわからないんだけど……結局どうやってあのドスケベ本を見るの?」
「どうせあの青白いトコ踏んだら、踏んだやつがダメージ喰らうとかそんなんだろ?」
「恐らくは」
ゆっくり頷きながら、シコルスキはユージンの背中を突き飛ばした。
が、薄っすらとその不意打ちを予見していたのか、突き飛ばされた直後でユージンは振り返り、シコルスキの手首を引っ掴む。
結果、二人同時に魔法陣へと踏み入り――
「あばばばばばばばばばばばばばっばばば」
「ほげゃああああああああああああああ!!」
「何で二人して踏みに行っちゃうの!?」
「…………」
何やら痺れている二人を横見しつつ、ナカニダスも魔法陣をくぐる。
このグループはマゾしか居ねえのか、とアーデルモーデルは思ったが、ナカニダスが魔法陣を踏んだ瞬間、青白いそれは掻き消えてしまった。
「な、ナイスフォローです、ナカニダスくん……」
「よく言うね。自分一人で魔法陣を打ち消そうとしていたくせに」
「きみが手伝ってくれたので、手早く終わりましたがぉブッ」
「テメーの鼻骨と鎖骨は最低でも折るからな……」
ユージンの鉄拳がシコルスキの顔面を正確に捉える。
二人がドッタンバッタン大騒ぎする中で、ゴキブリじみたシャカシャカした動きで、アーデルモーデルが地面に落ちた二冊の本を拾い上げて持ってくる。
いいとこ取りであった。
「ジーライフくん! こ、これ!」
「おお、このコケティッシュでどこか情緒的な、到底ドスケベ本とは思えない表紙……! これこそまさに、異界の尖ったドスケベ本が一つ、コミックLO……!!」
「フツーの漫画雑誌っぽいな」
封印されている書物は二冊。
その中の一冊が、羊の皮を被った幼き狼のような雑誌、コミックLO。
そしてもう一冊、興味が無いのでアーデルモーデルが投げ捨てたそれこそ、ナカニダスが手に入れろと指令を受けた封印の書――『禁忌の書』であった。
「…………」
「ぼ、ぼくはこう何ていうか、やっぱり乳も尻も乱れ飛ぶような汁爛漫と言わざるを得ない激しいドスケベ本が好みなんだよね。そういう意味では貧相な身体をした女体に対してそう興奮出来ないというか、興奮より先に学術的興味が湧いて来る……ああっ! 今のページもっと!」
「クッソ気持ち悪いなお前」
「僕も同じくですねえ。やはりこの世はおっぱいですから……しかしLOの中にたまにあるロリ巨乳モノについては背徳的興奮を覚えます。この号にもあると嬉しいのですが」
「ふーん……。オレは結構好きだけどな、こういうの」
「えっ?」
「ほう?」
「あ? 何だよ。何かオレ変なこと言ったか?」
「いえ――別に。なるほどユージンくんはそういう……」
「ライエンドくんにとっては初等部こそパラダイスだったんだね……」
「いやだってそうだろ!? この本オレらぐらいの年齢の女が何かやってるじゃねーか!! 自分と同じ歳ぐらいの女を好きって言って何がおかしいってんだ!?」
「コミックLOを少年が読んだらどう反応すれば正しいのか――哲学的な問題だったとは」
「でもこの18って数字に斜線が引いてあるのはどういう意味なんだろうね……?」
ユージンの性的嗜好が露わになりつつあった。
三人はきゃいきゃいと楽しんでいる。
一方でナカニダスは、『禁忌の書』を開けずにいた。
仲間達とはしゃぐシコルスキは、この上なく隙だらけである。
今ならば確実に殺れる。
シコルスキさえ始末すれば残る二人は問題にならず、全員殺して本を奪い去れば完璧に任務をこなせるだろう。
しかし――
(おれがもし一人でここへ忍び込んだ場合……あの龍を単身でどうにか出来ただろうか)
考えて、そしてすぐに答えが出た。
どうにも出来ない。
何とか逃げ帰ることぐらいしか出来ず、この部屋に来ることは叶わなかっただろう。
龍を引き付ける囮が居て、そしてシコルスキが居たからこそ、ここまで来ることが出来たのだ。
そんな自分に、この本を手に入れる資格は。
しばし黙考したナカニダスは、『禁忌の書』を床へと放り投げてしまった。
「……おや? どうしました、ナカニダスくん。そんなつまらない本を投げ捨てて」
気付いたシコルスキが、ナカニダスの方へと寄ってくる。
ユージンとアーデルモーデルは、何だかんだでコミックLOに釘付けであった。
ナカニダスが、シコルスキの目を見て語る。
「シコルスキ。おれはさ、お前を殺したいんだ。前からも、これからも。今日だってそうだ」
「ほう、そうですか。それは困りましたねえ」
「……おれなど取るに足らない、とでも言いたいのかな」
「いやいや、違いますよ。僕だって殺されたくないですが――」
「じゃあどうする? 今ここで、おれを殺し返すかい? そうでもしないと、おれはいつか絶対にお前を殺す。どういう手を使ってでもね」
「――いえ、何もしません。きみがそうしたいのなら、そうすればいい」
「…………意味が分からないな。お得意の自己犠牲?」
「それも違いますよ。単に、僕はきみが何をやろうとも、それを正面から受け止めるだけです」
「なぜだ? 何が言いたいんだ、お前は?」
「だって、僕ときみはもう友達じゃないですか。友達のやることを、避けるわけにはいきませんからね! 何でもどんとこいです!」
何の臆面もなく、シコルスキはそう断言した。
ここまで一緒に来た仲間であり、友達。
シコルスキにとっては、ナカニダスとはそういう風にしか見えていない。
いや、そう見えるからこそ、ここまで――光り輝いて見えるのだろう。
ナカニダスの考えはやはり間違っていない。
この少年は、絶対に人類の希望になる。
この輝きが、答えのようなものだ。
くは、とナカニダスは思わず笑い声を漏らした。
「ははははははははっ! そうか、そうなんだね! お前の強さが今ようやく分かった!」
「……? とりあえずきみも、一緒にコミックLOを見ましょう!」
「ああ、そうだね。気になってしょうがないからね。そうさせてもらおう」
パン、とナカニダスはシコルスキの背中を叩く。
それだけで、シコルスキの背中の傷は癒えてしまった。
「――借りは返すよ。さっきはありがとう、シコルスキ」
「おお、これで集中して読めます! こちらこそありがとう、ナカニダスくん!」
こうして四人は、揃ってコミックLOを読もうとしたのだが――
「こらぁぁぁぁーッ!! そこの四人、何をしているのですか!!」
――気絶から目覚め、四人に追いついてきたスプライトと、彼女から呼び出された複数の教師が封印の間に現れ、あえなくお縄になってしまった。
「ひええええええええ! ぼ、ぼくはライエンドくんにそそのかされたんです!!」
「このタイミングで仲間を売るんじゃねーよクズかテメーは!! じゃあオレもアデルにそそのかされたってことにしとくっつーの!!」
「僕は当然、ナカニダスくんにそそのかされました」
「おれは――――シコルスキに言われたから、かな」
「言い訳禁止!! すぐ保護者の方を呼びますからね!?」
ヌイタート学園初等部史上、最大最長の説教がこの後行われたと言うが、詳しいことは何一つとして分かっていない。
ただ、一つだけハッキリしているのは――
(すみません、師匠。任務の達成は、かなり長引きそうです。おれは、このシコルスキ・ジーライフという同級生に――――どうやら心を奪われたみたいですから)
――すげえアレな男が一人生まれた、ということである。
<おしまい>
<あとがき>
更新を忘れていましたねえ(正直)
商業版ならL●をそのまま出せたかどうかは分かりませんが、こっちでは気にせず出しています。
こんな出会いを経て、三巻での虫捕りエピソードなどがあり、それでもってガチっぽいナカニダスが完成するのですが、果たしてラノベにおいて男×男をやっていいのか!? という命題に引っかかるのは言うまでもないでしょう……。
(私は全くそのへん気にしません)
ここまでお読み頂きありがとうございました。
ボツネタのストックはまだありますが、晒すかどうかは未定なので、次の更新はとんでもなく先となります。。。
週感★賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求 ~愛弟子サヨナの無許可ランド~ 有象利路 @toshmichi_uzo
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