第34話 解呪の薬
「あらあらあら♡まあまあまあ♡」
「これで全部、だな」
「わーすごい、ひなのどれ?」
「お前のはこれだ」
「うふふふふ、頼んだ甲斐がありましたわ!」
テーブルに積まれた菓子の山。うっぷ、吐き気がする。しかし『氷の魔女』は喜んでいる様子。どうやって持ち帰る…と思うと一瞬にして消えた。
珠翠が紅茶を運んできたので、雛も『氷の魔女』も俺が持ってきた菓子をお茶請けに食べ始めた。
「おい、薬はどうした?」
「あー、幸せですわぁ・・・ああ、薬ならもう貴方の
「いつの間に!?」
慌てて確認すれば、大量の菓子は消えたが、代わりに四本の小瓶があった。これが『氷の魔女』謹製の解呪薬なんだろう。
しかし他人の
「薬を入れたのは雛様ですわよ」
「さっきひらきっぱなしだったからちょうどいいかなって」
「犯人はお前か!」
「まあお座りなさい。ワタクシ達とお茶を一杯飲むくらいの時間はありますでしょう?また王都手前へ飛ばして差し上げてよ」
「
「便利でしょう?でも魔力の消費もバカになりませんからあんまり使わないのですけれど。今回は特別サービスですわ。これだけ揃えて来てくださると思いませんでしたもの」
「全部、という約束だったろうが」
「半分集められたら御の字、という所でしたの。さすがはクラスSですのね、雛様が気に入るのもわかりますわ」
クラスSとは名乗っちゃいないが、名前を教えたのだから彼女等にとって身元を調べるくらいは訳ないのだろう。彼女の弟子は『無銘の賢者』なのだし、俺の話を少しくらい耳にする事もあるだろう。
俺も席に着くと、紅茶とケーキが出された。…ケーキは俺が買ってきたもの。相伴に預かるか。
「・・・旨いな」
「でしょう?色んな街のスイーツを食べましたけど、やっぱり王都はいいものが多いですわ。頻繁に買いに行きたくても、永久凍土からは遠くって。今の弟子もあんまり行ってくれないから困っていましたの」
「今の弟子?」
「ええ、数年前にワタクシの所まで来ましたのよ。『偉大な魔法使いになりたい』って。いい小間使いが来たものだと思いましたわねえ」
「・・・爺さんとは違うのか?」
そいつは『魔女』なのか?と言外に含ませれば、『氷の魔女』は妖艶に微笑む。ぱくり、とケーキを形のいい真紅の唇へと運ぶ仕草も艶がある。…隣でパクついてる雛はケーキの欠片を頬に付けてるがな。
「彼も『魔法使い』でしてよ」
「『魔女』の弟子は取らないのか」
そう聞くと、『氷の魔女』は雛を見た。どうします?と伺いを立てているかのよう。
「シグはどんどんつっこんでくるねえ」
「し、仕方ないだろ、性分だ」
「後戻りできなくなる、とは思いませんの?貴方の目の前にいるのが『何』であるか知らないはずはありませんのに」
確かに。今後『普通の冒険者』として生きていくのであれば、必要のない知識だろう。だが俺は、『きっと』今後もこの小さな魔女に関わっていかざるを得ない。そういう勘が働いていた。
「・・・まぁいいけど。どっちみちだれかにはなせるないようでもないしね」
「確かにそうですわね、このご時世でそんな事ペラペラ喋ってたら人間の世界では生きていけませんわね、社会的に」
痛い所を付く。確かに『魔女狩り』は収束はしたものの、未だに『
「『まじょ』ってのは、じぶんからなるもので、ひなたちがどうこうってわけじゃないのね」
「は?確か爺さんは師匠・・・『氷の魔女』が許してくれなかったと」
「ワタクシはこう言ったんですわ。『魔女になりたいと心の底から願うのならば、一度『黒』の魔女に会いにお行きなさい』と。それをどう解釈したのかは知りませんわよ」
確かに爺さんも似た事を言ってはいた。『黒』の魔女を探し認めてもらわないと…というような。
「『黒の系譜』は他と少し違いますの。『魔女』となるには人外と契約を成すのはご存知ね?その契約相手をどの種族とするかは雛様に選んでもらうのですわ。『白の系譜』と『緋の系譜』は選べる種族が決まっているようですけれど」
「だから雛に会え、って事か」
「ひなのところにくるまで、いどころをさがすとかそういうのもぜんぶひっくるめて、しれんのひとつなんだけどね。こんなじだいで『まじょ』になるっていうのはかくごがないとね」
重要な事を言っているようだが、頬にケーキの欠片をつけたままだと本当に説得力ねえな…。
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