第三章 情
第36話 魔女の散歩
王都グロウケテルで開催される建国祭。
王都中が花飾りで飾られ、バザーや出店が並んで一際騒がしくなる。
そんな時、冒険者ギルドは暇になるだろうと思われがちだが、こういう時は大体王都内の色んな所から用心棒に立ってほしい、など要請があったりするものだ。
俺が毎年駆り出されるのは、王都内の見廻りだ。これだけ人が集まると、やはり喧嘩になったりだとか揉め事は起きてしまう。
そこで、腕の立つ冒険者が単独で見廻りに立ち、大事にならないように未然に防ぐのだが…
「何をしてるんだ、お前は」
「ラーメンならんでます!」
「うにゃ」
こ、こいつは…何だってこんなところに!
□ ■ □
「うまし」
「ぶにゃー」
ちゅるるるる、とドンブリを抱える子供。その横で猫がドンブリに頭を突っ込んでラーメンを食っている。嘘だろ、熱くないのか?猫だろ?猫舌じゃないのか。
「はふー、さすがにんまいね!」
「ぶにゃにゃ」
「お前、どうやって来たんだ?あの村からじゃかなりあるだろ?」
深緑の森の村からは、俺でも二日はかかる。雛の足だと歩くにも遅いだろうし…まさか三日ぐらいかけて来たってのか?
しかし雛は驚く事を言った。上を指差し、こともなげに。
「そんなことないよ?にじかんくらいだよ」
「は?んなわけ・・・」
「ちょくせんきょりで、にゃもさんにのってきた」
「直線・・・距離?」
にゃもさんに乗って…ってまさか、
俺の考えた事を読んだのか、雛はにこーっと笑って頷いた。マジかよ、よく見つからなかったな?
『阿呆が、見つかるような真似はせんわ』
「はっ!?あ?お前、か?」
『他に誰がいるというのだ、無能め。思念波によって話しかけている。言葉を発すると痛い人間に見えるぞ』
「悪かったな、っと・・・」
「にゃもさん、つぎはなにたべよっかー」
「うにゃ」
ラーメンを汁まで残さず平らげた雛は、使い捨ての容器をゴミ箱に捨てながら、そんな事を言って
待て待て、『黒』の魔女を王都内に放置しておく訳にも行かないだろ!俺は雛たちの後をついて行く事にした。
「ついてこなくてもいいよー?」
「んな訳に行かないだろ?仮にも・・・を、王都に放置する訳にはいかない」
「いまのひなをみて、まじょだっておもうひとなんていないよ?」
「それはそうかもしれないが・・・」
「シグはなにしてるの?」
「俺は王都内の見廻りだよ、仕事だ仕事」
「なんだ、ひなのいらいクエストひきうけてきてくれたんじゃないの?」
「は?依頼クエスト?」
こっちこっち、と冒険者ギルドへと入る。うんしょ、とドアを開けて入ってきた子供に、ギルドの中にいた冒険者達も珍しそうに見ていた。
「あ、ほらほらこれ」
「・・・」
そこには確かにクエスト依頼が。しかしこれを受領するってどうなってるんだよ?普通おかしいと却下するだろ?そこには、雛の書いたひらがなで『おうとけんぶつ。みちあんないもとむ!シグムントさんしてい ひな』と書かれていた。
ね?とドヤ顔をした雛。ったく、と依頼ボードからクエスト依頼の紙を取り去り、カウンターへと行けば、いつもの受付嬢がカウンターに乗っかった
おいやめろ、それはここにいる全員もひと薙ぎで全滅させることのできる
『この娘、撫で方が上手いな』
「にゃもさんもごまんえつー」
「あら、この猫にゃもさんって言うの?丸々しちゃってかーわいいー」
「でしょでしょー?おなかのとことかふっかふかなの」
「あらほんとだわー」
『フフフフフもっと撫でろ』
…なんだかヒヤヒヤする。いつ逆鱗に触れてしまうかと思うと。いやいや今はそれじゃなくて、このクエストを受けてることへの説明をだな!
「おい、ナターシャ。これはなんだ」
「え?・・・あら、私も初めて見たわ?道案内?随分初歩的なクエストを指名されたものね、シグムント」
「お前が知らないなんて、じゃあ誰があそこに依頼を載せてるんだよ」
「私じゃなければ、ギルドマスターでしょ?」
「はぁ?ワイズマン?」
「あんね、あたまつるつるのおじさんが『まかしとけ!』ってはってくれたよ」
「ワイズマンね」
「ワイズマンだな・・・」
ワイズマンはスキンヘッドだ。本人『ハゲてはいない、俺は隠さないだけだ』と訳の分からない事を言っていたが。
道案内、ってのはあれか。建国祭の間、美味い飯屋を教えろとかそんな所か…?しかし雛は金を持っているのか?あの村ではほとんど物々交換だったから気にしていなかったが。
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