第35話 呪いの果て
茶を飲み終わり『氷の魔女』に促される。王都に戻ってこの薬を届けないとな。まだ猶予はあるだろうが、早い事に越したことはない。まだ夕方だから王都の門もまだ閉まってないだろう。
前回はダイニングテーブルに座ったままだったが、今回はきちんと送ってくれるつもりのようだ。霊樹の家の外に出て、広場へ。俺が振り向くと、雛は来ておらず『氷の魔女』だけがそこに立っていた。
「雛様のお見送りも欲しかったかしら?」
「いや、構わない。いずれまた礼に来るさ」
「律儀ですのね」
クスリと笑う『氷の魔女』。こうして見ると割と背の高い
「そんなに熱心に見つめられると困りましてよ」
「あ、ああ、すまない。俺が見た事のある『魔女』はどこか精神がおかしい奴等ばっかりだったからな。雛とあった時も驚いたんだ」
「・・・貴方が出会った魔女は『緋の系譜』ですの?」
「ああ」
冒険者ギルドに寄せられる魔女絡みのクエストは、基本的に討伐クエストだ。そしてその相手は『緋の系譜』である事が殆どだ。あの『魔女狩り』以降、各地で暴れる魔女は『緋の系譜』が多い。
『氷の魔女』は目を伏せてひとつため息を付く。彼女も同じ魔女として思うところがあるのだろう。
「先程、人外と契約を交わす、という話をしましたわね。『緋の系譜』の魔女が契約するのは悪魔や魔神が多いのですわ。そしてその強大な力故に『力の暴走』を引き起こす事が多いのです」
「暴走、だって?」
おい、なんだかすごく重要な事を話されてないか?俺が聞いていいものなのか。
『氷の魔女』の話はこうだ。『緋の系譜』の魔女は、悪魔や魔神との契約をする者が多く、その大きな力に振り回されて『暴走』してしまう魔女が多いのだとか。
「『緋』の
「おい、その話」
「ワタクシとした事が喋りすぎましたわね。詳しく知りたければ雛様に聞いてくださいな。メルキオールにもたまには顔を出しなさいと伝えてちょうだいね」
「ちょっと、待・・・」
俺が言い終わらないうちにまた、視界が光の乱舞に染まる。あーくそ、何だって『氷の魔女』は話を聞かないんだよ!
次の瞬間、俺はまた王都手前の街道にいた。また…このパターン…
□ ■ □
王都についたのは夕方、日が暮れる手前。ギルドに到着すると、ワイズマンの部屋に直行。そこからロロナ達のいる宿へ向かった。
部屋には症状の出ているロロナ達パーティメンバーと、ギルド職員だろう女性がいた。症状はロロナが一番進んでいて、かなりの部分が石化していた。
「アリーシャ、薬だ。ロロナ達に飲ませてやれ」
「は、はい!」
ワイズマンは部屋に入るなり、献身的に看病していた聖女アリーシャに薬を渡した。他に数名いたギルドの人間に渡し、各自飲ませにかかる。
薬を飲ませ終えると、石化した部分はゆっくりと元の肌色を取り戻してきた。
「・・・本当に、効くんだな」
「ああ、実際に見ていても信じられん」
「ああ、神の御加護です・・・」
アリーシャは神に祈りを捧げるが、俺としては微妙な気持ちだった。これを治したのは『魔女』なのだから。
彼等の世話を他の人に任せ、俺とワイズマンはギルドに戻った。ワイズマンは自室に戻るなりソファに沈みこんだ。
「やれやれ、終わったか」
「ああ、これで解決だな」
「本当にお疲れさん、シグ。お前がいなかったらあの四人は死を待つだけだったろう。ギルド長として、礼を言う」
「いや、持ちつ持たれつだろ?俺に何かあったらまたギルドが手助けしてくれるんだから、そこはあいこだ」
「しかし・・・助けてくれたのが『魔女』とはな。確かに昔は各地に『良き魔女』ってのがいたらしいな。『魔女狩り』があってからは隠棲する魔女が増えたと聞く」
「ああ、『氷の魔女』もそう言ってたよ。だから昔はこういう事があっても『良き魔女』がいたから大事にならずに済んでいたってな。この状態は俺達『人間』が作り上げたものだってな」
『黒い羽根』の事も報告してある。ワイズマンはダンジョンコアのようなものだな、と言っていた。頻発するものではないので、これまで話題にならなかったのだろうとも。
ロロナ達は三日後には目を覚ました。ワイズマンから色々と注意を受け、今回の薬の支払いもある程度させたそうだ。
俺にも謝罪に来た。それでも冒険者を辞めることはないようだ。ロロナ達のような気概のある冒険者には、是非とも長く続けてもらいたいもんだ。
『無銘の賢者』の爺さんにも報告に訪ねた。『氷の魔女』の事に言われたことも全て。
「・・・そうか、師匠はそう言っておったか」
「爺さん、まだ『魔女』になりたいか?」
「いや、儂は『魔法使い』のままでいい。『魔女』となる為に捨てる物が今はもう多すぎてな」
『魔女となる為に捨てる物』という表現に違和感を覚えたが、その場で聞けるような雰囲気ではなかった。また今度機会があったら話してみるとしよう。…俺にはまだ時間は山のようにあるのだから。
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