第3話 森の捜索、1回目



 そこは驚く程に静かな森だった。


 村に隣接する深緑の森。入って数十分程は数多くの普通の森であったのに、ある境目を越えるとそこは太古から広がるという深い深い森の中だった。

 樹齢数百年と思える巨木。見上げても上が見えない。だが視界がクリアに見える程の木漏れ日が差している。時折鳥の声が聞こえ、それ以外の不必要な音は聞こえない。



「これは、また・・・凄いな」



 呟く俺の声しか響かない深い森。方向感覚もおかしくなりそうだ。ギルドから貸与されたコンパスを確認しながら先を進む。


 この森は知らずに踏み入ると方向感覚を狂わされるのだという。奥へ奥へと入っているはずが、ひょいと街道に出てしまう。奥へ進むには、ある境目を越えるには、特殊なコンパスが必要になる。それがギルドから貸与されたこのコンパスだ。

 聞けば、このコンパスは特別製で、どのギルドにもあるという訳ではないらしい。ある程度の実績がある大きな街のギルド以外にはないのだとか。王都のギルド長が知る所、この大陸には5つしかないそうだ。複製は不可。以前他のギルドで複製を作れないか試したが、全くの無駄骨だったそうだ。


 見た目は同じように作れていても、森の奥へ持ち込むと針がグルグルと回って使い物にならなかったらしい。



「マジかよ・・・」



 遠くに馬鹿デカい猪がのっしのっしと歩いている。嘘だろあんなモン突っ込んで来られたらいくら俺でも厳しいぞ?通常の猪の何倍、いや十倍?ここから見えててアレなら近くに行ったらどれだけだってんだ・・・

 しかし、そのオバケ猪はこちらに目もくれず、のっしのっしと歩いて行った。匂いで気付かれていなかったのか、眼中になかったのは不明だ。


 採取クエスト、しかも森の中という事で、今回俺の装備はいつもと少し違う。長剣は森の中では使い物にならないので、少し短い片手剣を持ってきた。後は折り畳み式のクロスボウ。矢は魔力矢を使う為、荷物にならず便利ではある。亜空間倉庫インベントリもあるので、いつもの装備はそこにしまってある。



「さて、近場の採取エリアを見ておくか」



 地図を広げ、位置を確認。コンパスを使って現在位置を割り出し、地図と照合して自分がどの位置にいるかを確かめる。

 先に森へ入っている商業都市ギルドのパーティもいるし、もしかしたら一番近い採取エリアはすでにマーキングされているかもな。


 この魔女の香草ハーブ、採取にも一癖ある。採取可能な時期になると、鈴蘭の様に小さな花を多くつける。その花が採取可能な時期を迎えると、淡く光を宿すのだ。その状態で採取し、特定の保存瓶へひと房ずつ入れないとならない。非常に繊細な薬草なのだ。

 なので、採取エリアを見つけたとしても、花に光が集まっていないと採取できない。なので『マーキング』をして、このエリアは先にいただきます、と印を付けるのだ。『マーキング』もギルド毎に決まっていて、間違う事もない。



「さてさて、どうかなっと・・・ありゃ、ダメか」



 採取エリアを見つけ、薬草を発見。だがそこに生えている魔女の香草ハーブにはすでにマーキングがされていた。このエリアにある薬草は5つ。その全てに印が付けられていた。



「ま、しゃーないわな。のんびり構えてたのは俺だし。次のエリアに行きますかー」



 この薬草が採れるのは、1年でも2回のチャンスしかない。採取できる量も決められているし、森の入り口から近い採取エリアを選ぶのは当たり前の事だ。

 今回俺は期限もかなり長期で受けているし、そこまでがっついて探す事もない。持ち帰れる量が決まっているからこその余裕だが、他の採取クエストならばこうはいかないだろう。根こそぎ持っていくような奴らもいるのだから。


 しかし、今回は簡単にはいかなかった。何しろ、他の採取エリアの薬草もほとんどが商業都市ギルドの『マーキング』がされていたのだから。



「おいおい、マジかよ?アイツらどれだけ印付けてんだ?採取可能な数超えてるだろうよ」



 俺が回った採取エリアは5ヶ所。その全ての薬草に印が付けられている。採取可能な数を大幅に超えた『マーキング』。確実に嫌がらせとしか思えないんだが。

 しかし、ギルド長自ら選んだ冒険者のはずだろ?こんなセコい事するような奴らを選ぶのか?商業都市ギルドはどうなってるんだよ。


 こりゃ、直接奴らと交渉するしかないか?王都ギルドで確認できてる採取エリアはあと1つ。今から回って確認するにはちと遠い。明日に回さないといけないが、奥地になるから危険も伴うだろう。


 商業都市ギルドの奴らと交渉するか、王都ギルド長を通すか…どうするかな?

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