第7話 子供の手伝い
着替えを済まし、階下へ降りる。すでに朝食の時間は過ぎている。ランチにも早いか。起きる時間も遅かったし、それから手紙を読むのに集中しちまったからな。
調理場の向こうから、カウンター越しにダグが挨拶をしてきた。
「おう、兄ちゃん。今日は随分と遅い目覚めだな」
「あー、すまん。寝過ごした」
「まぁいいってことよ。悪いが朝飯は終わっちまったよ。珈琲でも飲むか?」
「もらうよ」
指定席になった場所に腰掛ける。香り高い珈琲の匂いが満ちて、少し頭が冴えてきた感じがしてくる。デカいマグカップになみなみと注がれた珈琲が置かれた。
「ほらよ」
「おう、サンキュー・・・」
ちらりと調理場を見ると、コーヒーミルがある。豆から挽いてんのか、この珈琲。さすがに旨い。マジで店出せるぞこりゃ。
「なぁ、ダグはなんでこの村にいるんだ?あんたの腕なら王都でもどこでも腕を振るえるだろう」
「まぁそうだな、そう思っていた時もあったな」
「・・・ワケありか」
「そういうこった」
元冒険者、のニオイがするダグ。こんな辺境に引っ込んでいる事と関係があるのだろう。料理は趣味で覚えたと話してくれたから、料理云々でこちらへ来た理由てはなさそうだ。
ポツリポツリと互いに話をしていると、またもあのガキが入ってきた。
「たのもーう!」
「お、来たな?珈琲飲むか」
「のむのむー!」
「おいガキに珈琲はもったいないだろ」
「レディーにガキよばわりはしつれいすぎ!」
「った!何しやがる!」
べちーん!と脛を思い切り引っぱたいた。くそ、小さいのを逆手に取りやがって!いえーい、と言いながら椅子によじ登る。そこへダグが可愛らしいカップに珈琲と、ミルクピッチャーを付けて出した。
「あいよ、ヒナちゃん」
「ありがとー!・・・んー、きょうもいいにおい!あじもひなのすきなかんじ!ダグさいこー!」
ふうふう息を吹きかけて冷やし、じゅるじゅる、とひと口。ふはー!とオヤジのような息を付いてこのセリフ。わかるのか、お前にこの珈琲の味が。しかしダグは満足そうにうんうんと頷いている。好きすぎだろ、ダグ。
少し珈琲を飲んで、背負っていた小さなリュックからノートとペンを取り出した。そこに何やら一生懸命メモを取り始める。
「んー、ダグのところはたりないおくすりある?」
「ウチか?そうだな頭痛薬はまだあるし、胃薬頼むわ。後は切り傷に効く軟膏だな」
「おっけー、まかしといてー」
「・・・なんだ薬でも届けに来てるのか?」
このガキは雑貨屋でもやってんのか?チラッとメモの内容を見ると『○○にしっぷ、ダグになんこうといぐすり』など、どうやらこの村の数人の所から薬の注文を取っているようだ。
「シグはひまなの?ひなのおてつだいでもする?」
「誰が」
「おおいいじゃねえか、手伝ってやれば」
「おいおい待ってくれ」
「ちゃんと礼はしてくれるぞ?なあヒナちゃん」
「しますよ!おれいは!」
がってん!と頷くガキ。マジかよ。確かに暇っちゃ暇だが、こんな小さいガキの手伝いすんのか?何させられるんだよ…
「シグはぼうけんしゃさん?そしたらきずぐすりとかがいいかな?」
「ヒナちゃんの薬は効くぞ?俺の古傷も治ったからなあ」
「あのときはなおるかヒヤヒヤしたよね!」
「わーった、わかったよ。手伝ってやるよ」
1人でいりゃあ考えこんでしまいそうな事を思うと、子供の手伝いとはいえ体を動かしていた方が楽だ。俺は先に宿屋を出て待つことにした。
□ ■ □
少し待つと、
「なんだよ」
「ひな」
「は?」
「ひなのおなまえ。ガキじゃなくて、ひな、ね」
「・・・ヒナ」
「はいな」
「で?何手伝えってんだ」
「あんね、こむぎこをかってかえるの。おもいからシグもってー」
「・・・荷物係かよ」
「たすかるぅー」
こっちこっちー!と雑貨屋へ。『どれくらいもてる?』と聞かれたので、欲しいだけ持ってやるよと言ったらヒナは小麦粉を10キロ欲しいと言い出した。
…お前な、確かに持ってやると言ったがそれはないだろ。しかし男に二言はない。俺は10キロもの小麦粉を
ったく、これが使えてなかったらどうなってたんだか。
「すごいすごーい!シグちからもちー!」
「お前な、俺が魔法使えなかったらどうするつもりだったんだよ」
「そしたらざんねんですがりょうをかるくします」
「だったら最初から遠慮しろよ・・・」
「えー、だってクッキーつくるのにたくさんこむぎこひつよう」
「絶対いらねえだろこんなに!」
まーまーカリカリしないでー、と言いながらヒナはずんずん歩いていく。いったいどこまで行くんだ?
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