第38話 王都の宝石屋
王都の大通りに面した宝石店。ここは買い取りもしてくれる数少ない宝石店だ。冒険者がクエストで拾ってきた宝石類は、基本的にギルド経由で売りに出されるものなのだが、こちらに直接買い取りをしてもらう冒険者もいる。
とはいえ、一見の冒険者は断られる。どんな曰く付きの物を持ってこられるかわからないからな。なので顔を知られた人間でないと買い取りは難しい。
「これはシグムント様。本日はどのようなご要件で」
「宝石の買い取りを頼みたい」
「そうですか、シグムント様ならば歓迎します。ではこちらの部屋へどうぞ」
「ああ。おい雛、こっちだ」
店内のディスプレイに張り付くようにして見ていた雛は、すとととと、とこちらに走ってきた。デブ猫は外で昼寝。基本的にくっついて来るというよりは好きに行動するものらしい。
個室に入り、雛はごそごそと袋を取り出そうとしている。なんでこういう時だけ
「おい、なんでそこから出してんだ」
「え、なんで」
「俺の
「あれけっこうめんどくさい」
「今まで散々やってただろうが」
「まあまあそのときのきぶんですよ」
店の人間が来る前に俺に渡そうとしているんだろうが、上手く出てこないようだ。そうこうしているうちに、この店の店長が出てきた。
「久しぶりですな、シグムント様。本日は買い取りをさせていただけるそうで」
「あんたが見てくれるのか?」
「ええ、私では不足ですか?」
「そんな訳ないさ、あんたの目利きは信用できる」
しかし売り主は俺でなく隣でうんうん唸ってる子供だと見て、驚いたように目を見開く。
「あの、シグムント様。もしかして売り主はこちらのお嬢様で?」
「・・・ああ、俺は付き添いだ。変な輩に絡まれないようにな。事情があってこの子が売りに来ているが、その辺りは俺の顔を立てて聞かないでくれるか」
「・・・かしこまりました」
ワケありですね、と目が言っている。魔女です、などと紹介できるはずもないので、このくらいの誤魔化しが精々だ。雛はようやく袋を出し切ったようで、顔を上げた。
「ふー、でてきた」
「あのな、詰め込み過ぎなんだよ」
「だっておうとにでてくることもないし、ここでうらないとまたそうこにつんどくしかないもん」
「こんにちはお嬢さん、見せて頂いてもいいですか?」
「うん、はい、これ」
差し出したビロードの台に、雛が袋をひっくり返す。途端に中からゴロゴロと原石の山が。こぼれ落ちそうになっている。
「これはこれは」
「おいおい、出しすぎだろ!」
「なんかけっこうはいってた」
20、30はあるだろうか?大人の握り拳ほどあるものから、小さなものまで。
その中でも雛はひとつ、ふたつ手に取って引っ込めた。売るつもりじゃなかったものまで出てきたのか?
「どうすんだよ、それ」
「これは、ほかのひとにみせるやつ。シグにあげるぶんのやつはとってあるよ?」
「俺に渡すやつ?」
「うん、いらいりょうはそれにするね。さっきにゃもさんとはなしてたでしょ?」
…まさか、
鑑定している店長は、ひとつひとつ丁寧に見ているが、ほう、とため息をついた。
「これはまた・・・素晴らしいものばかりですね。イエローダイヤにブルーダイヤ。翡翠に瑪瑙、瑠璃までも。申し分のない原石です。いやはやいい取引になりそうだ」
「・・・そんなに、なのか?」
「ええ、これは一級品揃いですよ?よくこんなものを見つけて来ましたね?・・・っと、詮索は無用でしたね」
どうやらかなりの値打ちもののようだ。火山の辺りを散歩、と言っていたがどこなのやら。おそらく人間が入ることなど不可能な場所だと思うが。
といっても、魔女の財産と考えるとそこまで大層な額にもならないのか?こんなのゴロゴロ持っていそうだからな。
宝石店の店主は出した原石を全て買い取ってくれて、白金貨で払ってくれた。その総額に目玉が飛び出そうになるが、雛はぽかーんと聞いているだけだった。
「支払いは白金貨でよろしいですか?」
「えとね、たべあるきしたいから、すこしぎんかとかほしいの!ごうゆうするの!」
「はっはっは、そうか建国祭ですからね!では少し銀貨でのご用意を致しましょう。残りは金貨と白金貨でお支払い致します。いやぁあのイエローダイヤモンドをどう細工しようか腕がなりますなぁ」
「おじさんがさいくするの?ひなみたーい!」
「ん?そうかそうか気になるかな?三日もあればカットも仕上がるから、見に来るかい?」
「みるみるー!ねぇシグ、ひなはおとまりするのにやどやさがす!てつだって!」
「まだ宿は取っていないのですか?では私が懇意にしている所をご紹介しましょう。ちょっとお待ちなさい」
たくさんの宝石を買い取り、ホクホクな店主は上機嫌で雛に宿屋の紹介をしてくれた。…ガキ一人で泊まれるんだろうな?俺も一緒はイヤだぞ…?
魔女の記憶を巡る旅 あろまりん @aroma0617
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