第14話 冒険者同士の抗争



 食事会はお開きとなり、外は星明りだけの真っ暗な中、ヒナは『ごちそうさまでした~』と呑気に帰っていった。危なくないのかと聞くと、



「ここで魔女様に危害を加えられる奴がいる訳ないだろ」



 …確かに、子供に見えるからそうは思いづらいが、ヒナはれっきとした魔女だ。そこらの奴が束になってかかった所で勝てる訳がない。魔女というのは、それくらい規格外の存在なのだから。




     □ ■ □




 翌朝、明日にでもこの村を出発しようと思っている事をダグに伝える。珈琲を出しながら『もっといてもいいぞ?』なんて言ってくる。



「それもいいんだが、クエストの報告しないとな。今日で終わりなら商業都市ギルドのアイツらも戻るだろ?そしたら王都の方が近いのに戻ってこない俺にお叱りが来そうでね」


「はは、違いねえ」



 そんな、ゆったりした中、派手な音がして入口の扉が開いた。何の騒ぎかと振り返れば、そこには土と埃まみれになった3人組。



「てめえ、やりやがったな!」

「数が足りないからってなんて事しやがるんだ!こんな嫌がらせしやがって冒険者の風上にもおけやしねえ!」

「どんな魔法を使ったのか知りませんが、恥を知りなさい!」



 俺もダグもポカーンとしていた。いったいこいつらは何を言っているんだ?採取できるのは今日までじゃないのか?日が昇って来ているし、急がないと採取できなくなるんじゃ…



「お前達何を言ってるんだ?そもそも採取は終わったのか?」


「妨害しやがった癖に何を言ってんだ!」


「は?妨害?したのはお前らで俺じゃないだろ」



 何を言ってるのかわからない。奴らは皆頭に血が上っていて、全くこちらの話を聞こうともしない。どうするんだこれ。

 すると、パーティの中の頭脳派ブレインなのか、魔法使いらしい男が2人を制して話し始める。



「・・・あなたに聞きたい事があります。私達の『マーキング』した薬草にどんな仕掛けをしたんです」


「仕掛け?何もしてないぞ」


「嘘だ!」

「とんだ野郎だ!」

「落ち着きなさい2人共。・・・あなたは何もしていないと言う。その証拠はありますか?」


「随分呆れた質問をするもんだ。なら聞くが、何故アンタらに妨害なんてするんだ?俺がしたというなら、その証拠を出してみろよ」



 水掛け論だ、わかってる。やった、やってないなんて証拠が出てくる訳がないのだから。



「あなたが私達とライバル関係だったことは事実です。王都ギルドから採取依頼を受けてここへ来たのでしょうから。そして全ての採取エリアにあった薬草は、私達が先に見つけて『マーキング』をしました」


「まあそこからお前らの違反なんだがな。お前らが知っているのかいないのかわからんが、この採取クエストは採取制限のあるものなんだ。それはどこのギルドでも暗黙の了解として伝わっている」


「私達には伝えられていません。そちらの勘違いでは?」


「商業都市ギルドでは、ギルド長が最近変わったそうだな。その人が伝えなかったんだろう。この採取クエストの素材は稀少価値が高い。採れるだけ採ってこい、が依頼内容だろ?」



 そう言うと口を閉ざし、考え込んだ。俺の言った事が本当なら、違反者は自分達の方だと気づいただろうか。しかし、後ろの2人には通じていない様子。



「うるさい!お前が何らかの方法で薬草を詰めなくしたんだろう!」

「そこにあるのに触れられないんだぞ!せっかく苦労して確保したのにどうしてくれるんだ!損した分はお前に支払ってもらうぞ!」


「・・・だから言ってるだろ、採取制限があるって。それを超えると採取できなくなるんだよ。バカかお前ら」



 そこまで言ってようやく事態を飲み込めた様子。後ろの2人は顔を見合わせ、ひそひそ話し始めた。手前の魔法使いはまだ考え込んでいた。こいつの方が説得できそうだな。そう思っていると、魔法使いの方は笑顔を見せた。



「ならば、貴方から奪えばいいですね」


「は?」


「私達の採取分と、貴方の分。採取出来ないのなら、すでに採取したものを持って帰ればいい。これなら制限にはかからない」


「なるほど!」

「そういうことか!」



 いやどういう事だ。こいつ、本当にバカなのか。頭が残念過ぎるだろ。なんで俺に勝つ前提でいるんだよ。おかしいだろ。


 と、思っている間に3人組は戦闘態勢に。魔法使いが下がり、前衛職の2人が前に出てきた。

 おい、店の中で戦る気だってのか?どこまで自分本位なんだこいつらは!腹立つな!



「おい、俺の店を壊してくれるなよ?」



 やれやれ、というようなダグ。力の差は歴然としているのがわかるらしく、俺にそう言ってきた。やれやれとりあえずこいつらを外に出す事からしなくちゃなんないのか。



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