第25話 呪物の処理



 森の小道を歩くこと10分足らず。視界が開けると、そこには霊威ある大樹の家。周りは『魔女の庭』と称されるだけの広さが開けており、そこには立派な角を持つ鹿や、一本角を持つウサギがいたりする。


 ヒナの横を小走りしていた猫は、霊樹の根元で丸くなる。もしかしたら気に入りの場所なのか?


 ヒナに続いて家の中へ。マントはそっちね、と入口横のフックに掛けさせられる。この間と同じように、奥のソファへと向かって座れば、お茶の用意をして出てきた。



「おまちどおさま~」


「悪いな」


「おきゃくさまだもんね!」



 こぽこぽ、とお茶を注いで渡される。ハーブティーだが、前に飲んだものとは少し味が違う。



「おいしい?」


「味が変わったな」


「そうなの、ちょっとべつのくだものをかんそうさせていれてみた。たまにはあじもかえないとね」


「旨いな、これも」


「ふっふっふ、じょうしゅうせいあります」


「何てものを作ってるんだお前は」



 ひと息入れた所で、さっそく用件を切り出す事にした。しかし、亜空間倉庫インベントリが開けない。まさか、ヒナが開かないようにしてるのか?そんな事も可能なのか、魔女は。



「あ、ごめんごめん、とじたまんまだっけ」


「・・・おい、魔女ってのは皆が亜空間倉庫インベントリに干渉できるのか」


「みんなはむりじゃない?ひなのほかは、ファーとエヴァだけだとおもうよ」


「誰だよそれは」


「そっか、しらないんだっけ」



 ヒナはこっちが息ができなくなる様なことをあっさりと言った。つまり、あと二人の『古の魔女』の名前を。



「うんとね、ファーっていうのは『しろ』のまじょのことね。んで、エヴァってのは『ひ』のまじょだよ」



 『白』の魔女、ファータ・モルガーナ。

 『緋』の魔女、エルヴァリータ・クリムゾン。

 そして『黒』の魔女、ラゼンシア・ローズ。


 つまり、ヒナが呼んだのは二人の魔女達の愛称だ。いやだからと言って、名前を呼ぶような愚行は犯さない。



「・・・お前、本当に『古の魔女』なんだな」


「そうなんです」


「眠りについてるんじゃねえのか?」


「みんなおきてますけど?」


「・・・?」


「みんな」



 こっくり、と頷くヒナ。まさか『古の魔女』ってのは全員起きてんのか。…考えるのはやめよう、世界が滅ぶ。俺の前にいるのも『黒』の魔女と考えるよりも単なる魔女だと思わないとやっていけない。


 ヒナはぱちり、と指を鳴らす。すると俺の亜空間倉庫インベントリが開く感覚がした。俺は皮のケースに包まれた保存容器を取り出して机に置く。


 皮のケースを取り、保存容器の中身が見えると、ヒナは目つきがスっと変わった。興味津々というような子供の瞳から、理知的な魔女の瞳。



「これが、今回お前に見てもらいたい物だ」


「・・・これ、だれかにみせた?」


「ああ。と言ってもこの容器からは出してない・・・って、おい!待て!」



 目の前で起こった事を信じられるだろうか。目の前の保存容器が開き、黒い羽根がヒナの掌の上へとフワリと移動する。


 ヒナはそれを冷ややかに見ると、掌の上で金色の焔を出現させて燃やし尽くした。後には何も残らない。



「・・・お、おい」


「これでおしまい。ごくろうさま、シグ」


「大丈夫なのか?直に接すると呪いが発動すると」


「そんなのひなにきくわけないでしょ?シグもおなじだよ。ひなのいえでそんなあぶないことおきるわけないでしょ」



 それまでの表情が嘘のようなヒナ。さっきまでは本当に『古の魔女』と呼ぶのが相応しい表情だった。しかし今は俺が接してきた子供相応の表情。


 ごく、とお茶を飲みながらクッキーを摘むヒナ。俺にこれを持ってきた経緯を教えて、と言う。俺は包み隠さず話をした。

 王都ギルドに専属冒険者が黒い羽根を持ち込んだ事、その結果本人達は眠りから覚めない事、知り合いの賢者に教えてもらった事など。ヒナは静かに俺の話を聞いていた。いつの間にか日は落ちて、辺りは暗くなっていた。…しかし勝手に灯りついてないか?



「うーんと、とりあえずじょうきょうはわかった」


「そうか、なら済まないが何か助言をくれないか」


「それはシグしだいかなあ」


「俺?」


「うん、えっとねあしたおてつだいしてほしいことがいろいろと」


「お前な、何言ってるんだ、時間が無いんだよ」


「あるある、あととおかはかたいから」


「何だって!? 10日!?」



 今までの話がどこをどうすると『あと10日は固い』んだよ!?こいつの頭の中はどうなってるんだ!俺は苛立ちを隠さずヒナに食ってかかる。人の命がかかってるんだぞ!?


 ヒナは意に返さず夜ご飯の支度~とキッチンへと歩いていく。俺はその後を追いかけた。くそ、茶を飲んだ片付けもしないでなんで夜飯の支度に行くんだよ!俺はこういうの気になるんだ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る