第24話 村での買い物



 ヒナが調理場の入口でカレー鍋を受け取っている。どうやって持って帰るのかと思っていれば、ヒナが受け取った途端、鍋が消えた。…どうやら亜空間倉庫インベントリらしい。


 カウンターの方へ回ってくると、猫に気づいたようで声をかけていた。



「あれ、にゃもさん、ここにいたんだ」


「ぶにゃ」


「ひな、かえるけどどうする?」


「ぶにゃーぉ」


「じゃあいっしょにかえろっか」



 会話が成立している…だと…!?俺には単なる猫の鳴き声にしか聞こえないぞ?魔女だからか?この猫は魔女の使い魔なのか?デブ猫が?


 俺が見ているのに気づき、ヒナは足元まで寄ってくる。見上げたまま、首を傾げて俺に質問してきた。



「シグはひなになにかききたいの?」


「・・・ああ、ちょっとな」


「しかたないなぁ、なんでしょか」



 よっこいせ、と椅子によじ登る。カウンターの端にいた猫は、ぴょいと飛び降りて店の窓辺へ。どうやら日向に移動したらしい。



「シグのごようじはなーに?またハーブティーかいにきた?」


「あー、そうじゃないがあれば買って帰るぞ」


「ほいほい、りょうかい。シグどのくらいここにいるの?つくるのにいちにちはほしいんですけど」


「これから話す要件によるな」


「ん?これだけじゃなくて?」


「実はな、見てもらいたい物が」



 ヒナに説明をするべく、亜空間倉庫インベントリから黒い羽根が入った保存容器を出そうとする。その瞬間、空気が弾けるような音と共に手が弾かれた。



「って、何だ!?」


「シグ、それはここでだしちゃダメ」


「は!? まさか、今のお前か?」


「ここでだしちゃダメ。はなしはきくから、ひなのおうちでね。シグはきょうはひなのおうちにおとまりけってい!」



 そう言うと、ぴょいと椅子から降りる。俺のズボンをくいくいと引っ張って『いくよー』と呼ぶ。おい待て、ズボンが下がる。



「待て、行くから引っ張るな」


「だって、かえるまえにパンやさんにもよらなきゃ。シグのぶんもやいてもらわなきゃいけないし」


「パン?」


「カレーにはナンでしょ」


「・・・夜の話か?俺さっきカレー食ったが」


「それはライスだったからちがいます」


「つまりそれ以外の選択はないんだな」


「ひな、ごはんつくれないもん」



 『めだまやきくらいはやけますけど』と言う。それは果たして料理と言えるのか。俺はダグとジーナに礼を言いつつ昼飯代を払い、ヒナに付いていった。




     □ ■ □




 村のパン屋でナンという平べったいパンを焼いてもらい、それを受け取ったら次は牛乳を貰いに行くと言う。やれやれお使いだな。



「くださいなー!」


「おやヒナちゃん待ってたよ。いつも通り2瓶でいいかい」


「あのね、きょうはよんほんほしい」


「おや珍しい」


「おきゃくさまのぶんです」


「おいいくらなんでもそんなに飲まねえぞ」



 どれだけ飲むと思ってるんだ。瓶を見てもこれ2リットルはあるだろ。飲み干せるかっていうんだ。

 しかしヒナは俺の言い分を無視し、4本貰っている。支払いはもちろん物々交換だ。



「あとにほんぶんはどうしよう」


「じゃあ今度来る時に、湿布を多めに貰えるかい?」


「うん、わかったー!またくるね」



 どうやら俺の分として買った2本分の支払いの話らしい。ヒナに出させるのも何だ、俺は店主に金を支払う事にする。



「俺の分なんだろ?俺が出すから幾らだ?」


「だいじょうぶ、シグにはそのぶんおてつだいしてもらうから」


「体で払えってか・・・」


「ちょうどやってほしいことあるから、ちょうどいい」



 ヒナがそう言うなら仕方がない。店主に出そうとしても遠慮して受け取ろうとしないからな。ヒナがお金を出すならともかくこの場では俺は『ヒナの客人』だから、勝手に金をもらう訳にもいかないらしい。


 他にも卵を買ったり、ベーコンを買ったりと食料を買い込むが、全てさらっと亜空間倉庫インベントリへとしまっていた。…前に小麦粉を運ばされたのはなんだったんだ?



亜空間倉庫インベントリあるんなら、俺に小麦粉運ばせたの何だったんだよ」


「だってあのときは、ひなじぶんのことシグにいってなかったし。いきなりつかったらおどろくでしょ?」


「・・・そりゃそうだな」


「いまはべつにいいけどねぇ」



 ヒナ専用の木戸を開き、『魔女の庭』へと帰る。ふと見るとさっきのデブ猫がヒナの横をストトトト、と小走りしていた。何も言わなくてもついてくるんだな。



「・・・その猫、お前の使い魔か」


「シグ、ダグのむかしのおはなしきいた?ここにくることになったやつ」


「ああ、聞いたが」


「にゃもさんはそのときのれいじゅうさんですよ」


「っ、はあ!? これが!?」


「ぶにゃ~」

「あ、ひどいんだ~にゃもさんはつよいんだよ?シグだってペリっとやられちゃうよ」



 『ねー?』と猫に話しかければ『ぶにゃにゃ』と返すデブ猫。ウソだろ、これが…ダグを戦闘不能にしたってか。仮の姿、って奴にしてもなぁ…

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