第22話 死に至る呪い



 転移門ゲートを通り、王都グロウケテルへと急ぐ。ギルドへ入ると、何やら雰囲気が妙に慌ただしい。まさか、と思いつつもギルド長の部屋へと急いだ。



「ワイズマン、いるか」


「っ!? シグムント!無事か!」


「何があった」



 ギルド長の部屋、そこには青ざめて震える聖女アリーシャと、ザックス達パーティメンバーが全員揃っていた。俺は彼等の顔をざっと見渡し、部屋のドアを閉める。するとワイズマンの魔法だろう、遮音の結界が貼られる。



「おい、何がわかった」


「ああ・・・アリーシャ、話せるか?」

「は、はい」



 答えたのは、ザックス。小さく震えているアリーシャの背を支えながら、優しく気遣う。だがアリーシャにかける言葉には、答えることを強制するような有無を言わさぬ物を感じた。


 聖女アリーシャは、青ざめた顔を俺に向け、震えてはいるもののしっかりした口調で話し出した。




     □ ■ □




「私達は、ワイズマンさんに頼まれて、ロロナさん達のパーティが向かった遺跡へと向かいました」


「ロロナ達が向かったのは遺跡だったのか」


「はい、古い遺跡です。とはいえ、各地に点在する遺跡とそこまで変わりはありません。中には多少魔物も居ましたが、クラスBのパーティでもなんら探索には影響しない程度でした」

「それは俺も保証する。手間取る程のものじゃなかったはずだ」



 アリーシャの言葉にザックスが、そして仲間達が頷く。彼等はクラスAとはいえ、数人は個人レベルはBだ。だからこそ感じ取れるのだろう。


 遺跡の中は、所々崩れてはいたが、石版があったり壁画があったりと、特に異変を感じる物は無かったそうだ。…最深部の祭壇の間に行くまでは。



「最深部までは順調だったんだ。最奥の祭壇の間にも特に守護者がいたりとかそういう事もなかった。だが、その台座にアリーシャが触れた途端・・・アリーシャが動揺し始めた」



 ザックスの説明にその時の事を思い出したのか、アリーシャが震え出す。しかし、ギュッと唇を噛み締めると話を続けた。



「その台座には何もありませんでした。けれど、触れて浄化を試みようとした時です。そこにあったのかを知る事ができました。あれは、あれは・・・」


「おい、アリーシャ!」


「・・・わかった、もういい。口に出さなくていいぞ、アリーシャ」



 アリーシャは恐らく、あの黒い羽根の正体を直に感じ取ったのだろう。『死の呪い』の呪物という事を。


 俺は、言葉を引き継ぐように『無銘の賢者』から聞いた話をした。ワイズマンだけでなく、ザックス達全員が息を飲む。アリーシャは気丈にも立ってはいたものの、震えが止まらない様子だった。無理もないだろう。



「『死の呪い』だと!?くそ、どうすりゃいいってんだ、おいシグムント、お前それ持っていて大丈夫か」


「爺さんが言うには保存容器から出さなければ問題ないだろうという事だ。直に触れるのがまずいらしい。これはこのまま亜空間倉庫インベントリで預かるさ」


「すまん、お前に世話をかける」


「俺が気にしてるのはそれだけじゃない。ロロナ達の様子はどうだ?石化は徐々に進行するんだが」


「一応確認させてはいるが、まだその兆候はないはずだ。だがこうしちゃいられんな、見張りを増やした方がいいかもしれん。感染はしないんだな?」


「ああ、それはないそうだ。薬は爺さんが知り合いに当たってみると言ってはくれたが・・・それがどうなるか、間に合うかはわからん」



 沈黙が落ちる。誰もが歯痒く思うのだろうが、相手が『氷の魔女』ではどうしようもない。


 ザックス達にはワイズマンが口止めをして休暇を取らせるそうだ。一番ダメージが大きいのはアリーシャか。聖女であるが故に精神的なダメージは多そうだ。



「大変な事になった。被害が出ているのが小規模だと喜ぶべきなんだろうが・・・もしもあの羽根がギルドでなく、商会に持ち込まれたら相当な規模になっていただろう」


「確かにな。そう考えるときちんとギルドを通したロロナの采配には頭が下がる」



 冒険者によっては、遺跡から発掘した物をギルドを通さずに直接商会へ買い取りに出す者もいる。何らかの魔法の痕跡があったりするとギルドへの提出義務があるのだが、そうでないものに関してはそこまで厳しく制限をかけていないからだ。



「俺は他に手立てがないか、学者や薬師に当たって見ることにする。お前はどうする」


「・・・少し、伝手を辿ってみる。あまり期待はしないでくれると助かる」


「わかった、気をつけてくれ。何かあったら緊急連絡を飛ばすから」


「頼んだ」



 ワイズマンは慌ただしく部屋を出ていった。


 俺の伝手。爺さんの所から戻りながら、俺は一人の魔女の事を考えていた。助けてくれ、というのはあまりにも身勝手かもしれないが、助言くらいはしてくれるかもしれない。

 

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