第26話 ルジェ―ロ視点――吐息
何やってるんだろうな、オレ。
彼とスピアリング先生がこっそり手を繋いで歩いているのを偶然見かけてしまった。それ以来何も手に着かず店のカウンターに頬杖突きながらぼーっとしていた。
この間のことが悔やまれる。
彼に『大事な人の一人だ』と言ってもらえて、それが意外過ぎて嬉し過ぎて彼の言っていることが碌に耳に入らなかった上に、照れ隠しにそっけない態度を取ってしまった。
あれはいけなかった。彼が不安そうにしながらも話をしてくれたのは分かっていた筈なのに。あの時彼に優しくしていれば今頃は彼と手を繋いでいるのはオレだったのだろうか。
……いや、ないな。
相手はスピアリング先生だ。一緒に過ごした年月が違う。
いやいや例えオレが彼らと同年代だったとしても彼はスピアリング先生を選んだだろう。それくらい彼らが連れ添って歩く姿はお似合いだった。
さっさと気持ちを切り替えて次の恋をすべきかもしれない。
「はぁー……」
思いっ切り溜息を吐いたその時だった。
「はぁー……」
同じく深い溜息を吐きながら入ってきた客がいた。
瞬間、思わず見惚れてしまった。
黒曜石のように光を反射して輝く黒髪。どんな芸術家もこんなに美しい彫像は彫れないに違いないと思わせられるほどの繊細な顔の作り。青褪めて見えるほどの真っ白な肌。
そしてなにより――――その男は極めて若く見えるにも関わらず、オレの年上センサーがビンビンに反応していた。
その容姿から察するに美青年で有名なトゥールムーシュ先生だろう。
オレは古代魔術科の授業は受けたことがないし、古代魔術科の教師が道具屋を訪れることもないので今まで会ったことがなかったのだ。
「失恋ですかい?」
思わず反射的に尋ねていた。
「む……ええ、そのようなものです。すみませんいきなり溜息なんて吐いて」
彼は繕うかのように優雅な微笑を浮かべた。
最初の不機嫌そうな顔の方が好みだったのに。
「奇遇すね。オレも実は失恋したばかりなんすよ」
カウンターから立ち上がり、美しい彼へと歩み寄る。
そして彼の腰へ手を回し、そっと抱き寄せる。
「幸運にもお互いフリーなことだし。試してみないか?」
低い声で彼に囁きかける。
「な、なな、な、この我に気安く……じゃない、そんなこと言われても困りますのですが!」
「ふうん、困ると言う割には可愛い照れ顔じゃないすか」
本気で抵抗すれば簡単に抜け出せる程度の力でしか抱擁していないのに、彼はこの腕から抜け出そうとする素振りを見せなかった。
彼の顎に手を添え自分を見上げさせると、ゆっくりと顔を近づけていって――――
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