第22話 死霊魔術
「喜んでよ父さん、父さんの魂だけ蘇らせる方法が見つかったんだ!」
昼頃、そう言って息子が部屋に飛び込んできた。
オレは相変わらず彼の魔術によってベッドに縛り付けられていた。
「なあ、その手に持っているナイフは何だ……?」
恐る恐る尋ねてみる。
息子の手には鈍く光る刃物が握られていた。
「これは聖銀製のナイフだよ。今から行う儀式に必要だからね」
そう言って息子は指を鳴らす。
するとオレを拘束していた光の輪が動き出す。
オレを横に寝かせた体勢のまま、オレの身体がふわふわと浮く。
そして息子の後についていくように動き出した。
無詠唱で魔術を操ることさえ可能なのか息子は。
どうやらオレは地下室に運ばれていくようだ。
地下室にはオレとケインの実験室がある。
そこで儀式とやらを行うのだろう。
だが何をする気だ? オレはこのまま除霊(?)されてしまうのか?
ふわふわと運ばれながら地下室に入ると、床に大きく魔法陣が描かれているのが見えた。魔法陣の上にオレは寝かせられる。
そして息子は白銀のナイフを煌めかせながら言った。
「これから父さんには一回死んでもらう」
「へ?」
死んでもらうと言ったか?
オレの聞き間違いか?
「これは
息子は不敵に微笑んだ。
いつから息子はこんなに悪役顔が似合うようになってしまったのだろう。
小さい頃はあんなに可愛らしかったのに。
……なんて悲しんでる場合じゃない!
「待て待て待て、それってアンデッドになるってことだよな!? お前はそれでいいのか!?」
「よくないけど、仕方ないよ。今のままでは父さんは死んだままと変わらないんだから」
息子の目は本気だった。
不味い不味い不味い。
それで本当にケンジ―にこの身体を返せるならまだしも、失敗したら誰にとっても悲劇にしかならない。
息子は思い詰めて早まってるんだ。何とかして思い留まらせないと……!
「待て、オレはケンジ―としての記憶もあるんだ。ケンジ―が死んでいるのとはちょっと違う」
「僕の仕込んだ睡眠薬にも気づけなかった癖に。父さんは魔法薬学科の教師なんだ。父さんだったら絶対に気づいていた。それでどうやってお前と父さんとの同一性を見出せっていうのさ」
駄目だ、息子は手強かった。
手加減して知力パラメーターは少し低めに育てておいた方が良かったかもしれない。
「取り敢えずお願いだ、そのナイフは一旦置いてくれないか」
「偽物の癖に父さんみたいに喋るなっ!」
ビュッ。
ナイフが空気を引き裂き、オレの顔のすぐ傍を掠めた。
ハラリと何本かの髪が切れる。
「安心して。せめて痛みは無いように即死させてあげるから」
ナイフがオレの首に充てがわれる。
首に当たる金属の冷たさだけであまりの恐ろしさに失神するかと思った。
クソ、彼の凶行を止めることはできないのか……!
「そこまでだ」
突如として地下室に響き渡る声。
「誰だッ!」
首を捻ると、地下室の扉を開け放って現れた人物が見えた。
「ヴラディ、アベル!」
黒髪の麗しい
助けに来てくれたのか。アベルはともかくヴラディは物凄く意外だった。
「助けに来てやったぞ、ケンジよ」
「僕の父さんを奪いに来たのか!」
オレに向かって微笑みかけるヴラディに、ケインがナイフを振り上げて切りかかる。
それと同時に無詠唱で操られた光の輪がヴラディの身体を捕らえようとする。
「危ないッ!」
ケインのナイフがヴラディの身体を貫いたかのように見えた。
「ふっ、
だがナイフが貫いたのは残像だった。
瞬間移動したヴラディがケインの手からナイフをもぎ取る。
「く……っ!」
逆に首元に奪われたナイフを突き付けられ、ケインは悔しそうに動きを止めた。
「先生、大丈夫ですか」
アベルが駆け寄ってくれて助け起こしてくれる。
「ありがとう。それにしてもどうやってここが?」
「その……オレの使い魔が察知してくれたんです」
「使い魔! 凄いな!」
この窮地を助けてくれたアベルの使い魔とやらに心から感謝した。
「愚かなものよな。実の父を手にかけようとするなどと」
「それは僕の父さんじゃないんだ……」
息子の言葉にヴラディが片眉を上げる。
「ほう、それは本当にそうか?」
「何……?」
項垂れていたケインがヴラディの言葉に顔を上げた。
「では話してやろうか。我がケンジから聞いた話を。貴様を拾って養子にした選択をしたのはそこのケンジの方なのだということをな」
そしてヴラディはまどアリィの話を息子やアベルたちに語って聞かせ出したのだった。
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