第14話 ケイン視点――渇愛

 僕に手を差し伸べてくれたのはその人だった。


「お前の才能は埋もれさせておくには惜しい。どうだ、オレの養子にならないか」


 その手を取った時の気持ちは上手く言い表せない。

 ただ、これから僕の運命は大きく変わるんだという予感がした。

 僕が十歳の時のことだ。

 その日から僕は大魔術師ランドルフの息子となった。


 僕は孤児だった。

 きっとこの白い髪が原因で生みの親に気味悪がられ捨てられたのだろう。

 けど父さんはこの白い髪も、褐色の肌もカッコいいと言ってくれた。


 最初は上手く父さんに心を開くことができなかった。

 いや、正確には心を開くとはどういうことか知らなかった。

 父さんの顔を見ても何も言えず、黙り込んで俯いてしまうのだ。

 その頃は父さんに酷く苦労をかけたと思う。

 でも父さんは目を逸らさず僕を見つめてくれた。

 辛抱強く待ってくれたのだ、上手く甘えられない僕を。


 僕が初めて父さんのことを「父さん」と呼べた時には、それはそれは喜んでくれたっけ。


 父さん。


 僕は父さんのことが大好きだ。

 父さんだけが特別だ。

 父さんだけが僕のすべてだ。


 やがて成長すると、僕の方が父さんのことを世話するようになった。

 僕が父さんの食事を作り、父さんの風呂を入れ、掃除し、僕が整えたベッドで父さんは眠る。

 そうしていると、僕が父さんのすべてになったようで満たされた気持ちになった。


 でも僕は知っている。

 僕から父さんを奪おうとする敵がたくさんいると。


 「一人で何でも完璧にこなす」とよく言われる。

 でも父さんがいなかったら、僕はどう生きていいか分からないのだ。

 何の為に生きたらいいかも分からない。

 一人じゃ全然平気なんかじゃない。


 だから僕から父さんを奪おうとする奴は絶対に許さない。


 これほど狂おしい感情を僕は知らない。

 これを恋と言わずして何を恋と呼ぶのだろう。


 今はまだ上手く打ち明けられないけれど、いずれは父さんにこの恋心を伝えたい。

 こんなに醜い想いも、父さんならきっと受け入れてくれる筈だから。

 父さんにだけは本当の僕を知って欲しいのだ。


 父さん、愛してるよ。

 きっと二人で幸せになろうね。


 だからお願いだよ父さん。

 ずっと僕だけを見ててくれ。

 僕は怖くて怖くて堪らないんだ。

 この幸福が壊されてしまいそうで。

 父さんの息子になれた事実が幻のように消え去ってしまいそうで。


 僕を見てくれ。

 この手を取ってくれ。

 どうかずっと傍にいてくれ。


 そうでなかったら……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る