そこを描くか!と驚いたお話です。
ファンタジー世界の英雄たちの最期というのは皆いい感じに格好良く語られているけれど、人間なんだから確かにこういうのも有り得るんだよなぁと気付かされました。
主人公はどちらかというと鼻持ちならない性格で、けれど相手は曲者揃いな上に意外と元気な老人たちですから、当たり前ですが一筋縄ではいきません。
序盤は色々と規格外な老人たちを相手に、自信家の主人公が自信をへし折られたり、振り回されたりしながら過ごす日々が描かれています。
だから心温まる触れ合いのお話……と思いきやそれだけでは終わらない。
これ以上は流石にネタバレなので控えますが、異世界ファンタジーならではのワクワク感もしっかりと味わえます。
ファンタジーだけど、ただのファンタジーじゃない。
誰もに訪れうる人間のリアルを描いた、本当の英雄の最期を是非ご覧ください。
奇をてらった着想というのは色々な物語にあるが、「人が目をつけておらず、その上で本質的かつ非常に重要なテーマ」となれば、これはもう滅多にお目にかかれないと言っていい。
本作はまさにそういった、最高のテーマ性を持った小説である。読み初めてしばらくで、あまりの着眼点の素晴らしさに震えが来た。
そして、そのテーマを希望の残るエンターテイメントとして書ききった筆力も見事。
読んだ多くの人が「やられた!」となるであろう、素晴らしい作品です!!
この作者さんは、他にもファンタジー世界に一石を投じるような作品ーーーー勇者の概念を揺るがす短編や、言葉すら通じないある意味真の異世界を書いた長編、を書いているので、気になった方は要チェック🐸
『魔王の棲家〜天才魔術師と老いた英雄達の物語〜』
この題名に全てが入っていた。
読み進めると魔王は出て来ないし、天才魔術師と言われている主人公も、いわゆるチートという訳ではない。
でも、描かれる世界観は今まで読んだことのない程、面白い物だった。
チートだった過去を持つ老いた英雄達はたくさん出て来る。
彼らはそれぞれに歴史を持ち、生きてきた英雄達だった。
ただ、彼らは介護を受けるまでに老いていた。
その事実にまず驚くのだが、出て来る元英雄であるじいちゃんもばあちゃんも意外と元気なのだ。
車椅子に乗りながら、介助者に文字通り介護を受けながら、認知症を患いながら、でも彼等は施設内で幸せに生きている。
そこに派遣される天才魔術師の主人公。
なぜ彼はここに派遣されたのか……
これ以上は言わない方がいいと思うのでネタバレはしないけれど、幾重にもある伏線はきれいに回収されていきます。
あなたはどのくらいの伏線に気付く事ができるのか……
一部が終わり二部に入ると、これまた素敵な話で……正直、泣きました。
この面白さをどう伝えればいいんでしょう。
これは最高に面白い物語なのです。
たくさんの人に読んでもらいたいです!!!
どんなに優れた能力を持っていようと、生きていれば必ず肉体は老いていく。たとえ肉体は衰えても実力は健在。時には意図せずに人を傷つけてしまうこともある。
「魔王の棲家」は老いた英雄たちが暮らす場所。
万が一にも一般人に危害を加えないように、ここで老後を過ごすのだ。
セイルはそのような施設とは知らずにそこに派遣された。
やって来た当初は不満げに仕事をこなすものの、施設の人々と交流するうちにセイルの心に変化が表れる。
魔法と老人ホームと介護、という組み合わせが新鮮だ。この発想自体がすでに面白い。しかも著者の巧みな文章も相まって面白さは倍増。
一気読み間違いなしである。
王道ファンタジーは読み飽きてしまったという方に是非読んでほしい。
――英雄も、いずれは老いる。
たとえ歴史に名を刻むほどの者であっても、老いを避けることはできない。
そして、老いは判断力を曖昧にする。
想像して欲しい。
「強大な力を持つ英雄が、老いて判断力を失い、なにかの拍子に力を暴走させてしまったらどうなるか」ということを。
恐ろしい暴走を防ぐため、老いた英雄たちは一か所に集められ、人里離れた場所でひっそりと余生を送っている。
それが、この作品の設定だ。
設定だけを見ると「ファンタジー世界版・老人ホームの話かな」と思うかもしれない。確かにそれを連想させる雰囲気はある。
しかし、この作品に登場する施設は、決して穏やかな場所とは言い難い。
彼らの暮らす場所は、『魔王の棲家』と呼ばれる。
かつて世界を救った英雄が『魔王』と呼ばれるだなんて、なんとも皮肉めいた話だ。
その呼称には『老いた英雄たちへの畏怖』を感じる。
そして、「かつての英雄たち」の老後の姿は、私が想像するような生易しいものではなかった。
過去のしがらみ。
容赦なく進行する老い。
老人たちの暴走を警戒する緊張感。
それぞれが抱える事情。
何が起きても外部へ助けを求めることができないという壮絶な制約。
そして、襲いかかる最悪の事態。
その現状は、これでもかというくらいシビアである。
作品の面白さは保証する。
もし少しでも興味を持ったなら、このレビューを読むのをやめて、今すぐ作品を読み始めてほしい。
【※作品情報では「連載中」になっているが、本編(第一部)は完結済み。
番外編や後日談を追加する予定があるために「連載中」となっているとのこと。
第二部も、現時点で掲載されている部分については完結しているため、区切り良く読むことができる。(2020.05.21現在)】
さて。作品の紹介はこれくらいにして、以下は個人的な感想を書こうと思う。
作品を読み終えて最初に思ったことは「これ、本当に無料で読ませてもらっていいやつなんだろうか……」という途方もない不安だった。
この作品が無料で読めるなら、「読まない」という選択肢なんてない。あり得ない。
ファンタジーには興味がない、という人でも、
老人介護には興味がない、という人でも、
ましてや、小説を書いている人はなおさら。
この作品だけは、ぜひ読んでほしい。
とても面白い作品である。
しかも、話が進むにつれて面白さが増してゆく。
一話読むごとに面白さに震え、読み進めてはまた震える。
この作品には「退屈な部分」がまったくない。
多くの小説は、多かれ少なかれ退屈な部分を内包している。説明だとか、見せ場と見せ場のつなぎとか、どうでもいい日常シーンとか。
でも、この作品にはそんな部分がまったくない。
すべてのシーンが興味深い。
特に、第一章でさらりと全体を書いておいて、第二章でそれぞれの要素を掘り下げる構成がすごいと思った。
この作品における第二章は、「起承転結」の「承」の部分にあたる。「承」は比較的ダレやすい部分だと思っていたが、これは良い意味で裏切られた。
「えっ、小説ってこんなふうに書けるんだ!?」と衝撃を受けた。
伏線の回収もすさまじい。
作中にはかなり多くの伏線が張り巡らされているが、どれも記憶に残りやすいように工夫されている。キャラの名前はあまり覚えなくても大丈夫。
「ああ、そういえばそんなことがあったな」と思い出せるようになっている。
伏線を回収するタイミングも絶妙。
伏線が回収されるたびに「おおっ! ここで回収か!」といちいち熱くなってしまう。
そして、はたと気付く。
そういえばこの作品の作者、プロットを書かないという噂を聞いたことがあるぞ……。
え? これだけの構成を? プロットなしで? いや、普通は無理だよね?
震えを通り越して血の気が引いた。
正直、作者の才能が恐ろしい。
そして、私はこの作品と出会って「老い」に対する考え方が変わった。
今までは「老いとは恐ろしいものだ」と考えていた。
体の自由は利かなくなるし、あちこちが痛むようになるし、目は見えづらくなり、耳は聞こえづらくなり、骨は弱くなり、足腰も弱くなり……。
咄嗟の判断力は失せ、世間からは邪魔者扱いされ、記憶もあいまいになり、しまいには大切な人もわからなくなってしまう。
しかし、この作品を読んで、ふと思った。
「老いとは人生の集大成なのではないか」と。
作中には数々の名言が散りばめられている。
登場する老人たちが、それぞれの人生から得た教訓を主人公に話す。そのひとつひとつに重みがある。
この作品は「老いた者」の見え方や感じ方がしっかり描かれている。
老いるということは、どういうことか。
この作品の中には、その答えがある気がする。
老いた者の心情を想像し、それを小説という形に仕上げる作者の力量には感嘆するばかりだ。
また、この作品のリアルさには驚かされる。
まるで、作者が見たことをそのまま小説にしたかのようだ。
この施設も、このキャラたちも、まるで本当に存在しているかのように錯覚する。リアルというよりは「自然」と言ったほうがいいかもしれない。
情景描写も自然だ。
緻密というわけではないが、必要最低限のツボを押さえていて、映像を思い浮かべるには充分事足りる。
あっさりした説明は、物語を読み進めるうえで邪魔にならない。とても絶妙な加減だ。
ぜひ、あなたにもこの世界を体感してほしい。
世間には知られていない、秘密の場所。
年老いた英雄たちが暮らす家。
「ようこそ、魔王の棲家へ」
ついつい一気読みしちゃいました。一気読みしない理由なんてありませんでした。
物語最初から、引き込まれる“設定”。
(自称)天才魔術師セイルは、『魔王の棲家』と呼ばれる場所へ任務に向かう。
どんな場所なのか、と読み進めて行くと、年老いた英雄たちの介護施設だということが判明。
まずそこで、嘘ぉ、と言いたくなるが、これでもまだ序盤なんです。物語はむしろこれからです。
破茶滅茶な生活の中で、確かに芽生える絆と英雄たちの気持ち。
そこが丁寧に描かれていて、感情移入がしやすかったです。
物語の構成の仕方が唸りたくなるほど上手くて、読者を絶対に離させない工夫がありました。
バトルシーンも迫力があるので、日常シーンやそれぞれ“思い”を話すシーンとの緩急のつけ方が絶妙なので、疲れないです。
タグにあるように、チートもハーレムもないです。
これは、人間が生きている、それだけの物語です。だからこそ、心が動かされました。
どんな作品であれ、登場人物が有限の寿命を持つ物語であれば、描かれない登場人物のラストには「老い」が待っているはず。それがたとえ一騎当千の英雄であったとしても。
私たち現代の日本人にとっても多くの人が意識せざるを得ない「老人ホーム」というインパクトのある舞台とファンタジーの融合であり、個性的だけど共感を得られる作品ではないでしょうか。
ただ、老人ホームが題材ではあっても無闇に重い世界観ではなくそこで生きる人たちが前向きに描かれているので、全体的な雰囲気も明るく暗い気持ちにはなりません。
初めは言動が鼻につく天才を自称する主人公も、かつての英雄たちの前では「それなりに、よくできる」良好なパワーバランスに収まっているのもちょうどよく、楽しめました。
登場人物やその活躍するポイント、全体的な構成も綺麗にまとまっていて、消化不良がありません。
また、平易な文章で読みやすく、話はテンポよく進み、読むスピードが普通なら全体的なボリュームも丁度いいくらいです。
他のファンタジー作品を読んだ後でも「あいつもいつかはあんな風になるのかな」とこの作品が思い返されるのではないでしょうか。
主軸に穿たれたテーマは【老いとどう向き合うか】。この難解でお堅いテーマを、ファンタジーという世界観と、魅力的なキャラクターや巧みに伏線を組み込んだストーリー展開で見事にエンターテインメントとして成立させている。
魅力的なキャラクターと言っても、露骨に媚を売るような萌え萌え美少女はいない。メインヒロインは過去に闇を抱えて、それでも前を向く強固な芯を持っている。そういう、人間としての魅力を持ったキャラクターがたくさん登場する。
また、伏線が複雑に絡み合い、中盤から後半にかけてそれが徐々に回収されていくのだが、回収されてはまたそれにより伏線が張られると言ったように、読み手を飽きさせない工夫がされている。
たくさんのキャラクターが登場し、伏線もまた複雑……これだけを聞くと難しい小説だと思われるかも知れない。だが、実際は驚くほどに解り易い。なぜか。
すべての事象はテーマに収束していくからだ。逆説的に言えば、テーマありきの物語なのだ。
まずテーマがあり、そのテーマからストーリーが生まれ、そのストーリーに関わるキャラクターと伏線が配置されていく。それゆえ、一切の無駄がない。
だから、キャラクター同士が意味のない討論を繰り返すことも、脱線したエピソードが挿入されることも無い。
意味のある本題しかない。
本当に極めてストレートな作品である。
ここまで無駄なくストレートな作品だからこそ、魅力あるキャラクターを多数置いても処理しきれるし、複雑な伏線もすべて回収できるのだ。
先程からテーマテーマと連呼しているから「説教臭い作品なのか?」と眉をひそめている人もいるだろう。だが実際にはこの作品には一切説教臭さが無い。であるのに伝わるのだ。
これは本当に凄いことだ。
書き手側の人なら解るだろう。
伝えようとせずに伝えることの難しさを。
だから読み手の方には「説教臭くないストレートな作品なので読んでほしい」
そして書き手の方には「説明せずに伝える能力とストーリー構成の勉強のために読んでほしい」
と、そう願う。
……まあでも、あれだ。
色々言ってみたところで結局、終盤には読み手も書き手も口を揃えてこう言うだろう。
「くぅううう! 熱い! 熱い熱い熱い! なんだこの胸熱展開は!! もう構成だとか魅力だとかそんなのどうでもいい! とにかくこの小説を楽しみたい! 頑張れセイル! 頑張れみんな!」
そんなエールを胸に抱けたのなら、あなたも立派な『魔王の棲家』の従業員だ。
そしてこちらが、従業員になったあなたの教育係のライカさんだ。
「いいか、新入り。『死ぬな』そして、『殺すな』」
冒頭は異世界ファンタジーの鉄板のような設定。
ところが、読み進める内にじわじわと仕込まれた独自の世界観にはまり込んでいく…まさに計算され尽くした物語構成です。
上手に伏線を張る、魅力的なキャラクターを作る。
この点に気を使ってらっしゃる作者の方も多いでしょう。
本作の魅力的な点は、伏線やキャラクターといった点だけでなく、「明確なメッセージ性が込められていて、それがシンプルに読者の胸を打ってくる」点だと思います。
しかも、このメッセージ…現代に生きる私たちに通じるものがありながら、まるで説教臭くない。
読み終えた後、素直に「主人公みたいになりたいなぁ」「おじいちゃんやおばあちゃんと話してみようかなぁ」と思わせてくれる…この点が本当に上手い。そう思います。
英雄と聞くと、現役ばりばりで活躍している姿ばかり注目されますが、どんな人間であれ、最終的には老いる。
そうなった時に、私たちは彼らとどう向き合うべきなのか。私たちは彼らの姿から何を学べるのか。
物語の最後の一文を読み終えた時に、この点まで思いを馳せてもらえればなぁと思います。
天才を自負する魔術師の青年が派遣された【魔王の棲家】。
どれほどの強敵が待ち構えているのかと心躍らせる彼だったが、そこで待ち受けていたのは、老いた英雄たちを介護し暴走を食い止めるという、予想外の毎日でした。
冒頭から始まる主人公セイルの苦悩は、高齢化が進む社会ではありふれたものかもしれません。才能に恵まれ、未来を夢見る若者が、意思疎通も困難な(しかし能力は魔王級な)年配者たちに振り回される様は、ままならない現実を想起させます。
しかしどんな境遇に置かれたとしても、心のありようで状況は変わってくる……ということを、セイルは少しずつ知っていくのです。
今は年老いて、何もかも「わからなく」なっているとしても。
過去の栄光を忘れられず、頑なになってしまっているとしても。
家族と過ごすことをあきらめ、閉ざされた施設を終の家として受け入れているとしても。
彼らはやはり、英傑たちなのでした。
小さな事件が波紋のように、大きな事件へとつながってゆく。丁寧に編まれた伏線を回収しながら盛り上がるクライマックスは、序盤の物悲しさを忘れさせてくれるほど躍動的です。
そして、往年のファンタジー好きなら判るであろう「格好いい演出」が至る所に織り込まれているのも、熱い。
全体で7万文字ちょっとという、サラッと読み切れる長さの長編です。
読み終えたあとにはきっと、胸が温かくなる感動が待っていることでしょう。
ファンタジーにあまり触れたことがない方も、往年のファンタジーにどっぷり浸かって育った方も、楽しめる作品です。ぜひお読みください。