いずれ老いる、だから生きろ

主軸に穿たれたテーマは【老いとどう向き合うか】。この難解でお堅いテーマを、ファンタジーという世界観と、魅力的なキャラクターや巧みに伏線を組み込んだストーリー展開で見事にエンターテインメントとして成立させている。

魅力的なキャラクターと言っても、露骨に媚を売るような萌え萌え美少女はいない。メインヒロインは過去に闇を抱えて、それでも前を向く強固な芯を持っている。そういう、人間としての魅力を持ったキャラクターがたくさん登場する。

また、伏線が複雑に絡み合い、中盤から後半にかけてそれが徐々に回収されていくのだが、回収されてはまたそれにより伏線が張られると言ったように、読み手を飽きさせない工夫がされている。

たくさんのキャラクターが登場し、伏線もまた複雑……これだけを聞くと難しい小説だと思われるかも知れない。だが、実際は驚くほどに解り易い。なぜか。
すべての事象はテーマに収束していくからだ。逆説的に言えば、テーマありきの物語なのだ。
まずテーマがあり、そのテーマからストーリーが生まれ、そのストーリーに関わるキャラクターと伏線が配置されていく。それゆえ、一切の無駄がない。
だから、キャラクター同士が意味のない討論を繰り返すことも、脱線したエピソードが挿入されることも無い。
意味のある本題しかない。
本当に極めてストレートな作品である。
ここまで無駄なくストレートな作品だからこそ、魅力あるキャラクターを多数置いても処理しきれるし、複雑な伏線もすべて回収できるのだ。

先程からテーマテーマと連呼しているから「説教臭い作品なのか?」と眉をひそめている人もいるだろう。だが実際にはこの作品には一切説教臭さが無い。であるのに伝わるのだ。
これは本当に凄いことだ。
書き手側の人なら解るだろう。
伝えようとせずに伝えることの難しさを。

だから読み手の方には「説教臭くないストレートな作品なので読んでほしい」
そして書き手の方には「説明せずに伝える能力とストーリー構成の勉強のために読んでほしい」
と、そう願う。


……まあでも、あれだ。
色々言ってみたところで結局、終盤には読み手も書き手も口を揃えてこう言うだろう。

「くぅううう! 熱い! 熱い熱い熱い! なんだこの胸熱展開は!! もう構成だとか魅力だとかそんなのどうでもいい! とにかくこの小説を楽しみたい! 頑張れセイル! 頑張れみんな!」

そんなエールを胸に抱けたのなら、あなたも立派な『魔王の棲家』の従業員だ。
そしてこちらが、従業員になったあなたの教育係のライカさんだ。

「いいか、新入り。『死ぬな』そして、『殺すな』」

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