譲る命に想いを託し、老傑たちよ集え! 未来の光を絶やさぬために。

天才を自負する魔術師の青年が派遣された【魔王の棲家】。
どれほどの強敵が待ち構えているのかと心躍らせる彼だったが、そこで待ち受けていたのは、老いた英雄たちを介護し暴走を食い止めるという、予想外の毎日でした。

冒頭から始まる主人公セイルの苦悩は、高齢化が進む社会ではありふれたものかもしれません。才能に恵まれ、未来を夢見る若者が、意思疎通も困難な(しかし能力は魔王級な)年配者たちに振り回される様は、ままならない現実を想起させます。
しかしどんな境遇に置かれたとしても、心のありようで状況は変わってくる……ということを、セイルは少しずつ知っていくのです。

今は年老いて、何もかも「わからなく」なっているとしても。
過去の栄光を忘れられず、頑なになってしまっているとしても。
家族と過ごすことをあきらめ、閉ざされた施設を終の家として受け入れているとしても。

彼らはやはり、英傑たちなのでした。

小さな事件が波紋のように、大きな事件へとつながってゆく。丁寧に編まれた伏線を回収しながら盛り上がるクライマックスは、序盤の物悲しさを忘れさせてくれるほど躍動的です。
そして、往年のファンタジー好きなら判るであろう「格好いい演出」が至る所に織り込まれているのも、熱い。

全体で7万文字ちょっとという、サラッと読み切れる長さの長編です。
読み終えたあとにはきっと、胸が温かくなる感動が待っていることでしょう。
ファンタジーにあまり触れたことがない方も、往年のファンタジーにどっぷり浸かって育った方も、楽しめる作品です。ぜひお読みください。

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