三戸ってどこ? 1-6
善兵衛はまた三戸城に引き返した。
門番に今度は信直に会いに来たというと、不思議そうな顔をしながらも取り次いだ。
「信直様がお会いになると、おっしゃっております」
案内の者に続いて歩いていく。
「信直さんはどんな人なの?」
悟の問いに善兵衛は首を傾げた。
「信直殿は養子だ。父親は石川高信殿で晴政様の叔父になる。
おっとりした性格で勇猛果敢な気風の南部家には、珍しいと言われている。」
今度は、そんなに大きくない部屋の前まで案内された。
「どうぞ」
善兵衛が一声かけると、のんびりした返事が返ってきた。
中には悟より5歳ほど年上の若い男がいた。
どこかのんびりした雰囲気が出ている。
猛将の雰囲気を醸し出していた晴政とは、だいぶ違う。
体もほっそりしていて、武芸をしているという感じはしない。
図書館で勉強している大学生みたいだ。
「私が南部信直だ。養父(ちちうえ)には頼み事を聞いてもらったのだろう?
この私に何のようだ」
善兵衛が来る途中で、買った饅頭を差し出した。
特別高価というわけではない普通の饅頭だ。
晴政に献上した唐物茶入とは雲泥の差があるが、信直は嬉しそうな顔をした。
「信直様にお願いがございます」
要件を言おうとする善兵衛を手で制した。
「ちょっと待ってくれ。まずは饅頭を食べよう」
信直は手を伸ばして、美味しそうに食べ始めた。
手で促すので、善兵衛と悟も頬張った。
「美味いな。餡子がいいな。
それで要件とはなんだ」
「この子ども、悟と申します。
この者を信直様の小姓として、召抱えてはいただけませんか?」
「その者は確か、未来から来た者だったな。
私にも詳しく話を聞かせてくれぬか」
信直は悟に笑顔を向ける。
不思議と吸い込まれるような笑顔だ。
悟は晴政の時と同じ説明をした。
「掛け軸に吸い込まれた・・・か。
なんとも不思議な話だな」
信直は晴政と違って、誰が天下をとるなどという話には興味を持たなかった。
陸奥がどうなるかも聞かなかった。
それよりも、悟がこの時代に来た理由を気にしていた。
「悟、お前はなぜこの時代に来たのだと思う」
「正直分かりません。信長のことなら沢山知っているけど、南部氏や陸奥のことは何も知らない。
俺がこの時代でやるべきことがあるのか、それも分かりません。
分からないことだらけです。
善兵衛さんに出会ってなければ、死んでいたかもしれません」
信直は頷いた。
「分からぬのも無理はない。
人には人の与えられた役割がある。
その役割というものは、死ぬ時になるまで分からぬものだ。
お前の役割はなんであろうな」
そう言って饅頭を頬張る。
「だが養父がお前を買わなかった理由は分かる」
「なぜですか?」
「養父は隠居を考えている。
だから、自分ではなく息子の私につくようにと配慮したのだ。
お前も嫌だろ。
隠居老人の愚痴聞き係になるのは」
そう言って笑った。
「隠居ですか、晴政様はまだまだお元気に見えますが」
「実子が生まれる気配がない。
私に厄介ごとを押し付けて、楽隠居する気だろう」
信直は笑った。
「実は養父から連絡は受けていた。
善兵衛たちが来たら、対応するようにとな」
信直は饅頭を悟に投げた。
慌てて饅頭を取った。
「どうだ?私の元で働きながら、未来に帰る方法を探してみないか。
私は養父や政実殿のように武勇に優れているわけでも、父(石川高信)や為信殿のように知略に優れている訳でもない。
だが、この国を豊かにしたいという気持ちは誰よりもあるつもりだ。
少し手伝ってはくれぬか?」
悟は考えた。
確かに信直は少し頼りない感じがする。
けれど、信じてみてもいいという気に悟はなった。
その穏やかな笑顔を見てそう思った。
善兵衛の時と同じだ。
また自分の直感を信じてみることにした。
「よろしくお願いします!!」
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