第15話 翡翠のペンダント

化粧台に置いたピンクの宝石箱。そこに納められているのは直径1センチほどのヒスイのペンダントが一つ。なんでも高校生の頃、数日間の行方不明のあとこれを持ってふらっと帰って来たらしいのだ。私にはその時の記憶がない。いつものように学校から帰り、気づいたらこのペンダントが部屋にあった。最初は皆で私を騙そうとしているのだろうと思ったけれど、それも勘違いだとすぐにわかった。話を聞きに来た警察の人たちは不思議そうな顔をしていたっけか。もうそれもはるか昔のことだけれど。

「ねえさん、今日も1日ここにいんの?」

「なんで、今更外に出なきゃいけないのよ」

「いやー。こんなとこでずっと引きこもってたら、その内おばけにでもなっちまうぞ」

「いやー、それはないわー。どっかの誰かが私にこれを持たせたせいでもう既におばけみたいなもんでしょ」

そう言いながら私はペンダントを見る。

「だからってさぁ」

彼は不満そうにそう言いながら出かけて行った。

 私の時は高校生から止まってしまった。老けないだけで不死なわけじゃないから、不摂生が祟れば普通に体調は崩すし、調子に乗って外を出歩いてうっかり事故で死にかけたのも記憶に新しい。老衰はしないだけだ。おかげで健康維持には気を使わなければならない。このペンダントを私に与えたのが誰なのか、なんの目的があったのか。調べてはいるがここに引きこもっていても何も解決しない……のは確かなのだけど、もう外に出るのが面倒で仕方がない。大体のものは通販で揃うし、揃わないものはさっきの青年に買いに行ってもらっている。まあ、引きこもりでもできる仕事があるのは良い時代になったと思う。大学を卒業してからはしばらく普通に働きに出ていたが、あまりにも気味悪がられることが増えてしまい、仕事は長続きしなかった。お金が貯まっては短大を出ては入るを繰り返していたけれど、それにも限界はある。私はやがてこの山奥のいえに引きこもるようになった。知らぬ間に私の名義になっていたらしく、何もかもがよくわからないままなのだ。

いつか、何かわかるといいとは思う。とりあえずは飽きるまで健康に気をつけて行きていようかな。

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