第2話 バレンタイン

ねえ! 知ってる?? チョコレートってすっごく硬いの!

それに、ただ溶かすだけじゃダメなんだって! 私ね、知らなかったの。

ただ溶かして、固めたらいいんだって思ってたんだけど、調べてみたら、とっても複雑でびっくりしちゃった。温度は一定じゃなきゃいけないし、気をぬくとすぐ固まっちゃうし……。初めて作った生チョコは、すごくいびつになっちゃったけど……。でも、綺麗にできたのを詰め込んだの。喜んでくれるといいなあ。

文化祭の最終日、クラスのみんなでの打ち上げの帰り道。 たまたま帰る方向が同じで、自転車押して並んで帰ったっけ。あんまり話す機会が無かったから、帰る方向が同じなんて知らなくて、沈黙が続いたんだよね。

それがとても居心地の悪い沈黙で。私は何か話さなきゃって必死だった。でも……でもね、あなたが話しかけてくれたでしょう? 「お疲れ様」って。それがすっごく嬉しくって。あなたと仲良くなりたいなぁって思ったの! 「ああ、私はきっとこの子と仲良くできるなぁ」って。それから少しだけだけど、あんまり話したコトないよね。家、こっちなんだ。とか、ぎこちない会話が続いたよね。なにが楽しかったってわけじゃないんだけど、想像してたのと違ったっていうか……なんて言うか……。意外と話すんじゃんって。いつもクラスでは聞き役に回ってたイメージだったから、いい意味でびっくりしたんだよ。

で、気づいたらずっと目で追いかけてた。聞き役って言うよりも、会話の潤滑油? みたいな感じで、周りのことよく見てるんだなぁとか、もしかして数学苦手? とか、でも英語は得意なんだとか。あの夜以来、挨拶ぐらいしかしなかったけど、日に日にぎこちなくなっちゃって。最近だと挨拶もしなくなっちゃって……。目が合ってもそらされちゃうし……。

そんなことを、友達に話してたら、なんかとても嬉しそうに、バレンタインしかないよ!! って。

わ、私は、迷惑だって、言ったんだよ? で、でもね、そのまま押しきられちゃって、その……恋人のいる友達とか巻き込んで、みんなで一緒に作ったの。私は初めてだからって、生チョコの作り方を教えてもらって、作ったんだけど……すっごく不恰好で、固くって……。その日はうまくいかなくて……。で、でも! うまくいったのを詰めたから……美味しくないってことはないと思うから……その……えっと……。

「受け取って、くれますか……?」


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