第3話 卒業式の朝
「ふわぁ……」
華やかな服を身にまとった人々が行き交う喧騒の中、私は指定された場所へ向かっていた。
普段は講義室として使われている一室。案内されたブースに向かうと、テキパキと着付けがなされていく。瞬く間に着せられた、着慣れない服に窮屈感を覚えながら、その部屋を出る。エレベーターを待ちながら、スマホを見た。
『やっほー! そろそろ着付け終わってるよね、食堂前で合流しよ!』
今日も変わらないいつも通りの彼女からのメッセージに、スタンプを返し、食堂棟へ向かった。
彼女と合流して、写真を撮っていると、どんどんと人が集まって来た。私よりも交友関係の広い彼女の写真撮影を手伝いながら、「学生最後の1日が始まったのだ」と今更ながら実感が湧いて来ていた。
「ねーねー! あとで、全員で写真撮らない?」
彼女のその声に皆が賛同する。
「私、一眼持って来てるから、撮るよ!」
そう声をあげた彼女に、歓声があがる。
「でもそれじゃ、はいれないくない」
親友は私の言葉にハッとしたのか、「教授にとってもらえばいいんじゃない?」と、とんでもないことを言い出した。自由か。入場開始の時刻が近づき、私たちも講堂へ連れ立って移動する。
開式までの間、張り詰めたようなホッとしているような、そんな独特の空気に包まれた会場で私は話し相手もおらず、ソシャゲのイベントを走る。必死になってやるほどでもないのだが、手持ち無沙汰になるとついつい手を出してしまう。もう一戦、というところで式中の注意事項がアナウンスされた。私は渋々中断し、電源を切る。手を握ったり開いたりしながら、ソワソワと、開式を待っていた。
順調に式が進んでいく。閉式の言葉が述べられた後、講堂内に漂っていた緊張感は糸が切れたように一気に消え、穏やかな空気へと変わった。
所属する学部が呼ばれ、私は立ち上がり学部棟へ向かう。卒業証書を受け取ると、私は再び友人たちと合流するべく、食堂前へ向かう。再び、撮影会が始まったがそれも少しの間。予定があるからと、早々にお開きとなった。短かったような長かったような、学生生活を振り返るように、最後にもう一度学部棟を訪れることにした。
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