第4話 平成最後の法螺話

平成最後の物語


四ヶ月の一年は、もうすぐ終わりを迎える。そうして、次の一年が始まる。この不思議な高揚感はきっとこの先二度と味わうことはできないだろう。出会いと別れの季節、美しい花を見た。それは、暖かに咲く花園で、儚く寒さに耐える川辺で。

不可思議な季節に惑わされながらも、この高揚を人に伝えたくて仕方がなかった。だから、何か。と言われてしまえばそれまでなのだ。

でも、一つぐらいこんな小話があってもいいのではないかと思う。これは、私のエゴだ。だから、こんな突拍子もないことを語っても許されるのだ。そう信じている。信じてもらえるかどうかは知らないし、興味もない。だから、桜が散る前に、美しい桜雪の日に綴っておきたい。

 花鳥風月を称え、良き世であるように願った始まりの年、どこか、遠くで小さな小瓶が落ちた。

その小瓶が割れる事はなかったけれど、中身を少しこぼしてしまった。それは、世界という大きな地図に小さな染みを残してしまった。それは、ある人々にとっては大事であり、またある人々にとっては小事であった。

 その染みが作った物語は、八ヶ月のはずの一年をひと月、伸ばしてしまった。もちろん、四ヶ月の一年はそのままに。

世界は、笑った。人々は、嘆いた。

たった一ヶ月、されどひと月。染みが生み出した、その差異はやがて世界に馴染み、溶け込んでいく。けれど、それは未来の話。現在いまを過ごす人々は、そう達観することはできなかった。容認する事はできなかった。

「戻そう」(なにを)

誰かが言った。

「これは、正しくない」(ただしいってなに)

また別の誰かが言った。

答えの消えた問いの答え合せが始まった。1日、1日と十三ヶ月の一年が当たり前になっていく。今までも、これからも、ずっと変わらないかのように。初めは、人の記憶だった。記録と記憶の齟齬が生まれた。次は、記録だった。記録と記述の齟齬が生まれた。次は、記述だった。人々が語る物語は、十三ヶ月に書き換わっていく。知らぬ間に。

そうして、答えは……いや、「正しいはずの認識」は、「物語の世界」に落ちて行った。

現在を生きている人々は、原因のなくなった靄を抱えながら、九ヶ月の一年を、それからの十三ヶ月の一年を積み重ねて行くのだ。

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