第5話 境目の廊下
右を見ても、左を見ても、本ばかり。壁一面の本棚は、様々な背表紙で埋め尽くされ、入らなかったのであろう本が床のいたるところに積み上げられている。
僕は辺りをキョロキョロと見回した。出入り口も、廊下の先も暗くてよく見えない。
というよりも、近くに置かれた燭台が僕の周りを薄明るく照らしているだけに過ぎない。
だけれど、僕は漠然とここが廊下で、僕の前に伸びるこの床はまだ奥まで続いているのだと感じていた。
「……仕方ないか」
振り返っても入口が見えないのだ。僕は諦めて燭台を持ち、この先へ進むことにした。
あれから、どのぐらい歩いたのだろう。実際はそこまで歩いていないのかもしれない。だけれど、少し埃っぽいこの廊下では異様に喉が乾燥する。
コホッ、コホッ。
小さな咳でさえ、闇と静寂に包まれたこの廊下では大きく聞こえる。
水道らしきものもなく、僕は喉の渇きをわずかに感じながらも燭台を手に奥を目指す。
しばらく歩いた時だった。廊下の柱につけられたランプが一斉に点灯した。わずかに眩んだ視界。その廊下の先に小さな扉が見えた。僕はその扉まで早足で向かった。
唯一の明かりを落とさないように、消さないように。ぶっきらぼうな足音が廊下に響くこともかまわずに足をすすめた。
「やっと、出れるのか……?」
ノブに手をかけながら、そんな疑問に苛まれる。
扉の先から、差し込んで来た白い光に、おもわず目を閉じる。恐る恐る開けると、そこはどうやら温室のようで。
「日光……?」
僕は、おびえながらも足を踏み入れる。背後で扉が閉まる音がした。白い陽の光は、半球系の天窓から差し込んでおり、辺りには観葉植物が生い茂っている。
「本棚は、ここにもあるのか」
観葉植物に覆われた本棚を横目に部屋の中央に仰々しく置かれた、白い表紙の本を開いた。
パラパラとページをめくる。何も書かれていない本。それを緑に覆われた台に置こうとした瞬間。周囲がぐにゃりと歪み、本に吸い込まれていった。
「……なんだ? 今の……」
おぼろげな頭で周りを見渡す。スマホのカレンダーは5月1日を示していた。
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