第14話 桜の木
姉から一枚の写真が届いた。
美しく咲き誇る桜の木。
しゃんと背筋を伸ばした桜。月夜を背景に満開の花を咲かせている。
おそらく実家の桜だろう。立派な枝ぶりで月夜であること以外わからないから、ただの憶測でしかないのだが。
花びらが舞っているようで、月光を反射して白く輝いているそれが見える。
その写真の裏に姉の字で一言。
「今年はきれいにさけました」
何かを描こうとして失敗したのか赤黒いインクが紙の四辺に不自然に塗られている。姉は絵心がないくせに、こうやって何かを添えたがる。その度に失敗しては塗りつぶしてしまうのだ。
「いつもなら、書き損じたら捨てちゃうのに珍しい」
私は、そのメッセージを眺めながらそう呟いた。このタイミングでこんなに綺麗な桜を見れたのだ、今日は姉に電話でもしようと思う。きっと、まだ出てくれるはず。私は消印の日付を確認し、スマホの電話帳から姉に電話をかける。もちろんタブレットなども持っているのだが、通話アプリは出てくれた試しがない。姉曰く、仕事用だから私との連絡は手紙か電話がいいらしい。だからこうして、毎節ごとに季節にあった写真をとっては手紙を送ってくれている。そのお礼に私からも時折写真を送る。そんなやりとりが好きだった。
『もしもし』
姉は4コール目で電話に出た。
「あ、お姉ちゃん。写真届いたよ、ありがとう」
『よかった。ちゃんと届いたんだーもしかしたら切手貼り忘れてたかもって不安だったんだよね』
「あはは、去年の冬はそうだったっけ。今回は大丈夫だよ……それよりも、お姉ちゃん元気?」
『えー、何突然。元気だよ?』
「そっか、なら良かった。体に気をつけてねー」
『もしかして、それ言うためだけに電話してくれたの?』
「他に何かある?」
『わかんないけど』
「もー、なにそれ。またいい感じの写真撮れたら送るね! それじゃ」
『まってるよー。そっちもちゃんと寝てご飯食べるんだよ』
「はーい」
私は姉の言葉にそう答え、電話を切った。部屋の奥からアルバムを出し、今回の写真をファイルに入れる。そういえば、去年の写真はどんなのだったかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます