第8話 あなたの瞳
花火
遠くでパンッと何かが弾けた。
私は、ある少女のことを思い出した。
彼女と私は同級生だった。ほとんど話したことのないただ、同じ教室で共に授業を受けているというだけの関係だった。
特段なにか目立つような人ではなかった。普通に。本当にただただ普通に、休み時間には友達と無駄話をし、放課後は部活に行き、委員会には入らず、勉強も人並み。目立たないことに注力しているのかと考えたこともあったけど、そうじゃなかった。どうやら、それが彼女らしかった。
私は、彼女のことを何も知らない。どこか気になって、ずっとずっと目で追っていたけれど、それ以上の関係になることはなかった……。いや、たった1日だけ、「知り合い」程度にはなれたのかもしれない。高校二年の夏休みのことだった。
いつものように受験対策の補講に出席した帰り。夕日の差し込む廊下で私は彼女と出会った。
「ね、ねえ」
「なに?」
目の前に立ちふさがるように、立つ彼女の言葉にそう返す。
彼女は深呼吸した後、まるで告白でもするかのように、真っ赤な顔で私を見て、
「私と……私と! 一緒に、花火を見に行ってもらえませんか」
私は夕日に映える彼女の姿に目を奪われ、流されるままに約束をした。
そうして、約束の時間。彼女に連れられたのは会場から少し離れた高台だった。
「ここね、花火、すっごく綺麗に見れるんだ。ここって屋台とかもないから、結構穴場で。私、昔からここで毎年花火見てるんだよね」
彼女はそう行って、次々打ち上がる花火をその瞳に映していた。私は気がつくとその瞳越しの花火に魅入ってしまっていた。
どんな花火だったのか、その時の彼女がどんな表情をしていたのか全く覚えていない。だけれど、それを映した瞳がひどく印象に残っている。
高校二年のたった一晩の物語。花火の音を聞くたびに彼女の姿を思い出す。
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