第9話 月夜の晩
昔から、祖母の家に行くと口を酸っぱくして至れたことがある。
「月あかりの綺麗な夜は空をみあげてはいけないよ……もし、お月様と目があったら、連れて行かれてしまうからね」
意味がわからなかった。
「夜に口笛を吹いたら蛇が出る」
だとか、
「米粒を残せば目が見えなくなる」
だとか。
そんな、迷信の一つだと思っていた。少なくとも、今この瞬間まではそう思っていた。
祖母の米寿の祝いに親戚一同が揃っていた晩。深酒が始まりだした頃、私は夜風にあたるために縁側から外に出た。時節柄、それは見事な満月の晩のことだった。私は、何の気なしに空を見上げた。そうして、しばらくぼーっとしていた。
「月見だんごでも持ってきたらよかったなぁ」
そう呟いた声が聞こえたのか、隣から声がした。
「なら、これでもたべるか」
私はすごい勢いで隣を見た。そこには何もなかった。誰もいなかった。
なぜか、なぜか、聞いてはいけない声を聞いた気がした。
そうして、どこからともなく歌が聞こえた。
聞き覚えのあるようなないような、そんな歌だった。
私は、何となく。特に理由もなく、歩いてみようと思った。敷地内だし、迷うこともないだろう。そうおもって、散歩に出た。
月明かりが辺りを照らしてくれている。だから、大丈夫だ。そう思っていた。
……だけれど。
「こんな場所、あったっけ」
気がつくと石畳の上を歩いていた。遠くから聞こえるのは、子供が走る足音。
軽い足音。
気味が悪いと振り返ったものの、そこには祖母の家はなく。ただ月明かりだけが確かな宵闇と、朱塗りの鳥居。そして、石段だった。
私は、一心不乱に駆け下りた。
ただひたすらに駆け下りた。
その先にまっていたのは……。
「待ちぼうけたぞ。そろそろゆこうか」
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