第11話 秋のきらめき

 すれ違う風が冷ややかになったのは、ここ1週間のことだったろうか。ついこの間まで日中のうだるような暑さに愚痴をこぼしていた。

「ねー。本当に寒くなったと思わない?」

そう言いながら、目の前の彼女はアイスコーヒーを飲んでいる。せっかく衣替えしたから、出かけたい。そう誘われて出て来たはいいものの、あてもなく合流した私たちは駅近くの喫茶店に入った。

 ハロウィンも終わり、街はクリスマス準備一色になった。これから色めきだって行く街を想像しながら、ティーカップを口に運ぶ。

「寒いけど、もうすぐ冬だしいいんじゃないの」

私の返答に、机につまらなさそうに突っ伏した彼女は気だるげな返事を返す。

「で、今日はどこいきたいの」

「紅葉みたい」

「また漠然と……」

何の気なしに眺めていたSNSにちょうど見事な紅葉の写真が流れてくる。その投稿を目の前の彼女に送った。高く結った髪を揺らし勢いよく顔を上げた。その目は宝石のようにキラキラと輝いていた。

「ここ! ここ行こう!」

「そう言うと思った」

私は伝票を持って立ち上がりお会計を済ます。彼女は入り口のところでそわそわとこちらを伺う。今の彼女には女の子という言葉がふさわしいと感じた。彼女に手を引かれるようにして、電車に乗り込むと車内は紅葉狩りに出かける観光客でいっぱいだった。座席の手すりに捕まるように立ち、彼女の顔を見た。スマホに向かう彼女の表情は真剣そのもので、私は静かに窓の外へと視線を移した。

電車に揺られること約一時間。やがて地下に入った電車は終点までたどり着き。隣に座る彼女にせかされるように電車を乗り換える。

「特別な電車が走ってるらしくて、もうちょっとあるから何か買っていこ!」

ポニーテールをぴょこぴょこと揺らしながら嬉しそうにパンを買い、彼女はキラキラした目を沈ませることなくホームに向かう。これから見るあの光景を心から楽しみにしているのだろう。ホームに来た2両編成の赤色の車両。私たちは窓と並行になっている座席に座った。

 30分ほど電車に揺られた頃だろうか。住宅街も抜け、電車はすこし速度を落とした。

「わー すごいね! 結構色づいてるね!」

「そうだね。綺麗だね」

「ね、あともうちょっとで着くって! 楽しみだね!」

遠足の子供のようにワクワクし続ける彼女を横目に見ながら、私も少しばかり浮かれているのを感じていた。彼女はあの写真の光景を前にしたらどんな表情を見せてくれるのだろうか。今から楽しみで仕方がない。

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