第29話 触手だからって八つ当たりしないとは思うなよ
武器を装備した俺たちは、カプセルで飛行しながらいよいよ学園都市に接近している。しかしどこもかしこも紫、紫、紫一色である。気持ちが悪い。
「ぼくしばらくぶどうとか食べられないよ」
「奇遇だな俺もだ」
などとエウロパと一緒に窓の外を見ている。紫の液体状のそれは、微妙に動き続けている。この状況下ではみんな紫の液体になってしまったことだろうな。
何かがあちこちで噴出している。噴出したそれらは高く飛んでいき……おいおいおいおい!鳥に当たったぞおい!そのまま落ちていく鳥。そして。思わずグチの1つも言いたくなる。
「なるほど……こんなもんどうしたらいいんだよ」
「液体なんだから乾燥でもさせたらどうだろうか」
「ブレン、そういう液体かどうかもわからないよ」
エウロパの言うように、揮発するようなものなら近づかないで放置していたらいいが、こいつは勝手に移動してやがる。放置は多分無意味だな。
「まさかこの世界がこいつに満たされるまで広がったりはしないだろうな?」
「その可能性もあるな」
「最悪じゃの」
「んでレナード」
俺は皆を代表して聞くことにした。
「こんなもんとどうやって戦う?」
「戦う方法、それを知ることが大事だ。つまり」
「つまり?」
「サンプルを採取しないとな」
一理ある。そもそもこいつが何なのかわからんことには
「採取するにもどうやる?」
「まずは端っこを目指して飛ぶ」
レナードが機体を加速させる。ここは任せることにしよう。しばらく進むと、液体状のやつの辺縁にたどり着いた。学園都市の2/3は覆われているのか……。
「さて、移動速度はと」
レナードが何かの塊を取り出した。魚が入っている透明な袋である。それを投げつけた。
「……生きてるヤツしか相手にされないようだな」
「いいんだか悪いんだか」
魚入り袋、紫の液体の上にいつまでも浮いている。食べるわけでもないのか。なんのために取り込んでいるのか。レナードが採取のために、金属やガラスの管を突き刺しているが……金属の管の一部とガラスが取り込まれたぞおい。ここまでくると世界ごと紫になっちまいそうだな。
「打つ手なしか?」
「いや、そうでもない。金属によっては取り込むのが無理っぽいな」
「それでどうするんだ?」
「撤退する」
敵を認識するところから始めないと仕方がないか。
「しかし撤退してどこに戻るんだよ」
「図書館で解析するとしよう」
そういう方向でなんとかするしかないか。俺たちは異常な光景を後ろに、図書館へ戻っていくことにした。
図書館に着くとレナードは早速解析にかかる。俺たちは手持ち無沙汰である。皆、無言である。すぐにどうこうできるものじゃないのはわかるが、それにしたってすごい光景だった。どうしたらいいんだよあれ。
無言で座ったままかなりの時間がたった気がする。レナードが戻ってきた。くるなり注射器のようなものを取り出した。
「実験がしたい」
「実験?」
「あの組織が生物をどう取り込むかだ」
「どういうことだ?」
「あいつが様々な生物を取り込む機構を調べ、それへの対抗策を考える」
なるほど。そういうことなら色々と試してみないとな。俺たちは快諾して、注射器で血液を渡した。再びレナードが調べていく。相変わらず無言でいた俺たちだが、奇声が部屋から聞こえてきて慌ててその部屋に向かう。
「なんだなんだレナード何があった」
「な、な、な……何故?」
「レナード?」
ブレンがレナードの目の前で手をひらひらする。しばらくしてレナードが再起動したようだ。
「すまん、取り乱した。だが、これは……」
どういうことかさっぱりわからない。わかるように言ってくれ。
「ぼくらにもわかるように言ってよレナード」
「対抗策が……こんなしょぼくていいのか?」
「対抗策?」
レナードが何故か俺を指差す。そして。
「何故かこの触手の体液を忌避しているんだこいつは」
「何故だよ!!」
俺は叫んだ。俺以外も叫んではいなかったが同意だろう。手始めに蠢く液体の断片を触手でツンツンと触ってみた。液体が俺を避けやがる。ふざけんな。
「なめてんのかテメェは!」
キレた。流石にキレていいだろ。液体をぶっ叩くと、なんか蒸発した。蒸発するほどイヤか。そうかイヤか。
「触手、強く生きよう、な」
「ブレン……俺はこんな液体にまで嫌われないといけないのか?なぁ!」
キレながら液体をぶっ叩き続けると、完全に蒸発してしまった。残骸すら残っていない。なんだよおい!
「でもさ触手、これ理由はわからないけど触手が世界を救えるかもしれないよ!ぼくも応援するから頑張ってよ!」
「世界救うより好きな触手と戯れたい」
「戯れる前に世界救えよ」
うっせえヴァンパイア。おまえは散々始祖と戯れてただろが!あとエウロパは昨日散々戯れてただろ!!いい加減にしろ!
「さてちょっと世界救ってきますかね!!」
「触手がやけになっちゃった」
「そうじゃのう」
図書館を飛び出てしばらくいくと、液体が迫ってきやがった。触手を振り回すとそれだけで液体が下がっていく。なんでだよ本当に!
「うおおおおおお!」
叫びながら触手を振り回し続けると、液体が蒸発していく。業を煮やしたのか液体が蠢き、何かを投げつけてきやがった。鉄の棒をすること振り回してきやがる。かわせるレベルだがイラつくな。避けた上で、飛び込んでいくとそこから液体が引いていく。
「くっそおお!なめやがってなめやがって!ふざけんなあ!」
こちらも奪った鉄の棒で液体をぶん殴り続けていく。殴る。殴り続ける。すると。中から小鳥が出てきた。小鳥と……女騎士がいる。触手で触れるとなんか液体が引いていく。そこまでか!そこまで嫌われるのかよぉ!
「落ち着け触手!」
ブレンが俺を押さえている。にしたってこれはなんなの。いい加減にしてくれ。小鳥が意識を取り戻したようだ。そして女騎士も。
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