第13話 触手だからってワナを仕掛けられないとは思うなよ
久しぶりに日光を浴びている。懸念していた吸血鬼化はないわけだから思う存分日光浴を楽しめる。……吸血鬼化してたらこんだけガンガン日光浴びてたら死ぬけどな。あれ?
「そういえばだ。始祖の」
「なんじゃ」
「日光ガンガンに浴びてるけど大丈夫なのか?」
「始祖吸血鬼とその直系の眷属は全然平気なんじゃ」
「ぼくより服薄着だけど日焼けしない?」
「日焼けした吸血鬼って変だろ」
日焼け防止に長袖を着ているエウロパより、吸血鬼の始祖の方が薄着である。確かに日焼けしてる吸血鬼とかいたら笑うしかないが、実際どうなのか。
「それより俺を吸血しようとしていたあのヴァンパイヤ、また襲撃に来るか?」
「あやつもお主たちに結構こっ酷くやられたようじゃが、間違いなく来るのう」
来んのかよ。なら今度は触手砲で土手っ腹に穴開けるぞ。
「来るならこちらもそれなりの反撃はさせてもらうがな」
触手を振り回しつつそう決意を口にする。今度は油断はしない。ブレンも先程から素振りを繰り返している。悔しかったんだろうな。
「じゃが……できれば殺さずになんとかできんかのう」
「……難しいだろうな」
素振りをやめて、ブレンが始祖を見つめる。
「あのヴァンパイアの戦闘力は俺たちよりも上だ。まともにやりあっては勝てると思えないし、ましてや手加減など無理だ」
「そうか……」
始祖は悲しそうな表情を見せる。無理もない、連れ合いが殺されるかもしれないのだからな。
「待って。相手が手加減したくなったらいいんだよね?」
「何か思いついたのかエウロパ?」
「そうだね。触手と始祖さんの力を借りられたらひょっとしたら、だけど」
「そんなことができるのか?それならいくらでも妾の力は貸すのじゃが」
「別に直接何かしなくてもいいんだけど、でも……」
なんか嫌な予感がする。自慢じゃないが嫌な予感は割と当たるんだ。
「エウロパ、普通にやる方向で進めないか?」
「でも直接的にやり合うよりいい方法があるなら、そちらの方がいいでしょ?」
「それももっともじゃの。ミノタウルス娘の言う通りじゃ」
「ぼくはミノタウルス関係ないっ!もーっ!」
ワザと言ってるのかそれ。イヤな予感の原因、始祖は乗り気なのがよりイヤなんだけど。
「逆に俺たちはどうすればいい?」
「なるべく遠巻きにヤツを誘導してはくれぬか?」
「わかった。やってみようラコクオー」
「うむ。慎重に行くぞ」
こうして(俺だけあまり乗り気でない)計画を進めていく。あぁ、本当にイヤなヤツだぞこの計画。エウロパって本当にデリカシーないな!俺にも配慮して欲しいやつだ!さておき、ヴァンパイアは夜に軍勢で攻めて来る可能性が高い。アンデッドも増援で来るかもしれないと始祖に聞いたので、エルフの森を防御力を上げることにする。
工事の手伝いにも参加することになった。すっかりエルフたちとも理解し合えたのはいいことだが。木の間に槍を仕掛けたり、縄で引っかかるようにしたりの準備を進めていく。ブレンやラコクオーも工事の手伝いをやっているようだ。特にラコクオーは巨体を生かして穴を掘ったり荷物を運んだりしている。
「みんなー、一休みしよー?」
「もう昼か」
エウロパが俺たちを呼びに来てくれたようだ。確かに朝から働きづめだからな。ここらで一息入れるか。
「エウロパたちが昼メシ作ってくれたぞー」
ブレンも来たのか、ってそこにワナあるんだけど。
「おいブレンそっち危ないぞ!」
「ってうわぁっ!縄っ!」
などとブレンがワナに引っかかりそうになるなどということもあったが、なんとか準備が進んでいく。昼にはエルフ料理も食べてみたが割と薄味な気がする。俺だけじゃなくブレンも不満そうである。エウロパは平気なようだが……。
それからもエルフの森の要塞化を継続し、夕方ごろにはかなり強化できた。ギリギリ間に合ったか。時を同じくしてアンデッド軍団が宵闇に紛れて現れ始めた。地面から次々と現れてくる。こいつらがいるということは……。予想通りあいつが現れたな。
ブレンたちが遠くから攻撃しつつ、ヴァンパイアを誘導し始めた。ヴァンパイアもうまく釣れたようだ。よしよしこっちに来い。
「釣れたようだな獲物は」
「そうだね。触手、始祖さん、あとは頼んだよ」
俺は魚も食べるからな。触手で釣りはする。さて、アンデッドを引き連れながら、ヴァンパイアがこちらにだんだん接近してくる。さあここからが正念場だ。
突然、アンデッドたちがヴァンパイアの方に向かいはじめる。
「うわっ!?何が起きている?」
ヴァンパイアも面食らっていることだろう。まさかこちらに始祖が付いているとは気がついていないのだろうか?アンデッドへの支配をやり直そうとしているが、どうもうまくいっていないようだな。おまけにブレンやラコクオーが攻撃してくるのでは、さしものヴァンパイアも厳しいだろ。
「一体何が起きている!?くっ!ナメた真似を!」
「そこまでだっ!」
俺は始祖の手足に触手を巻きつかせて頭の上にのり叫ぶ。始祖もうえぇ……とか言っているが俺の方が憂鬱になる。これからのことを考えると。
「なっ!?始祖が!?一体……うっ……頭が……」
ヴァンパイアの額から触手のようなものが生えている。やはり洗脳されていたか。それでも始祖のことは認識しているようだな。
「こんなことで、妾を操作、しきれると思うな」
「なっ!?」
「妾は触手に……えっと……あっ……屈したりなどしないっ!」
「きぃさぁまぁ!!」
「演技下手すぎだよ!セリフ!!」
エウロパの言う通りだろ、セリフ忘れちゃダメだろ始祖!おまけに台本棒読みだし!おまけに俺は悪の触手だよ。
「下賎な触手が!我が始祖に何をした!」
「あんなことや……こんなことかな?」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!」
「触手の方が演技上手いな」
あっちゃあ、完全にキレたよ。何冷静に言ってんだよブレン。お前たち早く俺を助けてくれ、本気で襲ってくるぞ。ほら猛スピードで来たじゃないか。
「もっとも、罠は仕掛けてるがな」
「なっ!?」
何層にも渡って張り巡らしたカスミアミに、ヴァンパイアは引っかかりまともに動けなくなった。
「信じてたよ触手!アクアボオォオォォォっルっ!」
「ゴボゴボゴボゴボっ!?な、何が!?」
ヴァンパイアの頭に水の玉がハマっている。そのまま溺れそうになっているな。触手が水の上に出てこようとしている。そこにブレンがやってきた。
「今度は俺たちの勝ちだ。行くぞ!疾風っ!迅雷撃!」
水の上に出ている触手に、ブレンが電撃を纏った拳の一撃を叩き込む。そのまま触手が引きずり出されて……のたうちまわっている触手をラコクオーが踏み潰した。
アンデッドたちは始祖が支配し直しているようだ。そのまま回れ右して返そうとしている。やれやれだぜ。ひと段落できそうだ。ヴァンパイアは白目を剥いているが、生きてはいそうだ。
「触手よ、なかなかの演技だったのう」
「全くだよ。始祖さん見習ってよ」
「冗談じゃない。全く何をやらせるんだ。エウロパ、貸し1だからな」
「えーっ」
えーっじゃないぞ全く。人間の若いメスに変なことをしようとする触手にしか見えないだろ、あんなの。この貸しはいつか返してもらうぞ。
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