第11話 触手だからって対空攻撃ができないとは思うなよ


 俺たちは先行して、魔物たちの群れの前に駆け出して行く。ゴブリンのような奴らが石を投げつけてくる。エルフの矢に比べたら受けやすいな。


「お返しだ」


 投石に対して投石で返すことにする。ラコクオーが軽々と蹴り飛ばしてゆき、ブレンも馬上から槍で突き刺す。次々と積み上げる死体。


「次から次から!どんだけいやがる!」

「本気で襲ってきているようだな」


 しつこい投石だな。石を掴んでからふと思う。投げ返すだけでは芸がないな。……そうだ、もっと速度を上げてやろう。


 触手を螺旋状にして、そこに石を入れる。入れた石の後ろから空気を圧縮して送りだす。破裂音とともに、投石の数倍の速度で石が飛び出して……ゴブリンたちを貫いた。


「うげ……腹に穴が空いたぞ」

「やりすぎではないか触手」


 ブレンにもラコクオーにもドン引きされているが、威力はあるなこれ。しかも射程も十分に長そうである。投石をつかみつつ、触手から撃ち返す。


「まるで大砲だな」

「大砲?」

「金属の弾などを撃ちだす兵器らしい。俺も数回しか見たことがないが」


 ブレンの言う大砲に似ているのか。そうなら名前をつけるのもいいな。


「触手砲とでも呼ぶのもいいかもな」

「なんかカッコいいなそれ」

「無駄話は後にするぞ!来るっ!」


 ラコクオーによるヒットアンドアウェイと、俺の長射程攻撃で、エルフの森の前の草原に無数の死体が積み上がる。エルフたちの弓の腕も凄まじく、俺たちと同等以上の敵を仕留めている。


「行けそうだな」

「おい、そういうのやめとけ!」


 ブレンが余裕を感じているようだが、実際には3割くらいしか倒せてないぞ。軍隊だと3割は全滅かもしれないが、ここで使い捨てるつもりならこの数はあまりに多く、俺たちの体力だって無限にあるわけじゃない。それはエルフたちも同じようだ。矢が弱くなってきている。矢数も少なくなってきたか?


 しかし、かなりの数を減らしたにもかかわらず、なんでなお攻めてくるんだ?ちょっと待てよ。


「増援とかいるんじゃないか?」

「戦力の逐次投入は愚策だろ触手」

「しかしブレン、同系統でない戦力だとしたらどうだ?今の戦力は俺たちを消耗させるのが狙いで本命がいるとしたら?」

「怖いことを言うな」

「楽観と願望は別物だぞラコクオー」


 そう。あまりに弱い戦力の逐次投入、狙い目としては敵戦力の消耗が狙い目の可能性は高いと見るべきで、どこかから本命が来るとしたら……。


 敵の兵力を削りながら本命を探る。触手を伸ばしてみたりしているが本命らしいものは見当たらない。突然、ブレンが空を指差した。


「ブレン、どうしたんだ?突然指差して。鳥でもいるのか?」

「鳥じゃないぞ!なんだあれは!?」


 ブレンが驚くのも無理はない。球が空に浮いてやがる。おまけによく見ると、周囲に火のついた油の樽までついてやがる。まわりにもモンスターが護衛にいるようだが。


「あれでエルフの森を焼くつもりかよ!あんなので焼かれたらひとたまりもない!」

「ひとまずエルフたちに知らせるぞ!まずい!」


 魔物の群れに触手砲を撃ち込みながら後退する。奴らの戦力は半分になったとはいえ、奴らの中核は空だとすると……。エルフたちに向かって空を指差したままブレンが叫び続ける。


「アレを見ろおおおおぉぉぉぉ!!奴ら燃やす気だ森をおおおおぉぉぉぉ!!」


 俺たちの絶叫を見てエルフたちもさすがに気がついたのだろう。弓を準備しはじめる。


「あれは……一体なんなんだ!?」


 エルフたちは動揺しつつも弓を構えている。かなり近くに来たと思われるとき、エルフのリーダーが叫ぶ。


「そろそろか!放てぇっ!!」


 エルフたちが一気に矢を放ったが、残念ながら想像以上に高空にそいつはあるらしく、全然届かない。思った以上に遠くにある。


「ていうかさ、あれ、デカくね?」


 思わず俺は呟いていた。高いところにあるのに大きな球には、この距離からでは普通にやったのでは届かないようだ。


「どうしたもんだろうか」

「このままでは……」


 エルフの森が空からの火炎攻撃で焼き尽くされてしまう。俺も触手砲で攻撃してみる。エルフの弓でも届かないが、俺の石も届かないのは同じようだ。もっと威力がいるな。何か方法はないか……。石じゃないものを撃ってみるか。


「エルフの人、矢を一本貸してくれ」

「えっ?い、いいけど……」


 気の弱そうなエルフに、触手で肩を叩いて矢を借りる。


「この矢、鉄か?」

「鉄ですが」


 鉄の鏃か……待てよ。鉄を引きつける方法って何かなかったか?水辺に鉄を引きつける石が転がってたのを見たことがある。あれは……雷で鉄が……。


「ブレン、力を貸してくれ」

「別にいいが、何をするつもりだ?」

「電撃の魔法を触手に流すんだ!」

「なんだと!?」


 触手を螺旋状に巻いて、その中に鉄の鏃をセットする。電撃の魔法を流すと同時に空気を押し出す。爆音とともに鏃が高速で飛んで行く。


「行けぇ!」


 球の端っこに鏃が当たったようだ。届いた!穴が空いたか?僅かに球が降下し始めたようだな。


「エルフの人、もう一本くれ」

「あ、ああ。全部渡すよ」


 矢を10本ほど貰った。ありがたい、全部当ててやるよ。


「まだまだ行くぞ!」

「これは……磁石ってやつか?」


 ブレンのいう磁石っていうのは鉄を引きつける石か?似たような感じだなこれは。


「ひょっとして磁石だともっと威力がありますか?」


 さっきのエルフの人が磁石を持っていたようだ。ありがたい。


「使わせてもらうぞ!ブレン!また頼むぞぉ!」

「おおおおぉぉぉぉ!!」


 電撃の魔法が触手を伝う。磁石が爆音を立て吹き飛んで行き、空を浮く球を貫く!磁石のような力が電撃で十二分に加速できたようだな。


 空飛ぶ球が、なんかタマネギ?みたいな形になって、だんだん高度が下がってきた。どうやら穴が空いたせいで飛べなくなったらしい。見掛け倒しだったか?でもあんな大量の火のついた油とか食らうと森ごと大火事だよな。


 そのまま空飛ぶ球、森の前の草原に落下して豪快に炎上した。残念だったな。お前らの野望は潰えたぞ。……あっ、よく見るとゴブリンの群れの上じゃんあれ。自滅してしまったようだ。残りもさすがに撤退し始めたか?


「やったぞ!あの連中、やってくれた!」

「おおおおぉぉぉぉ!やるなぁ!」


 なんかエルフたちも俺たちを褒めてくれているようだ。よかった。これで魔物の仲間と思われずに済む。


 ……俺たちの心に僅かに油断があったのは認めよう。何かがすごい速さで近づいて来た!ヤバいかわしきれない!


「ブレン!」


 俺はそのすごい速さで飛んでくる何かに触手をぶつけようとした。……くそっ!触手を噛まれたじゃないか!なんだこいつは!!


 だが、そいつの方も俺のことを見て、そして自分の口元を見直し……固まった。次の瞬間。


「おええええぇぇぇぇ!!!なんで!触手なんで!俺の!口になんで触手が!」


 どうやらブレンに噛み付こうとして、俺に豪快に誤噛みつきしたらしい。


「痛いじゃないかなにしやがる!」

「うええええぇぇぇぇ!!!気持ち悪いものに噛みついたあああ!!!」

「こいつ、吸血鬼か!?」


 ラコクオーの言うように、どうやらそいつはブレンから血を吸おうとしたようだ。しかし、俺が触手で防いだせいで吸血に失敗した模様である。馬鹿なの?馬鹿じゃねぇの?


「お前、馬鹿だろ」

「……うええええぇぇぇぇ……触手には噛み付くわ馬鹿にはされるわ……なんでヌルヌルしてるんだ……」

「お前が噛み付いたからだ馬鹿吸血鬼」

「くそっ……変な病気や毒とか持ってたら……ここは一度引くか」


 そういうと吸血鬼、俺に背を向けて逃げ出しやがった。……触手が痛むな。触手砲はムリか。無事な触手で石だけは投げつけた。あ、当たったようだ。しかしあの程度のダメージではヤツの逃走は防げなかったか。


 どうやらゴブリンたちを率いていたのはあの吸血鬼か。しかし吸血鬼のくせに知能が低すぎる。あの程度の馬鹿なら準備さえしておけば次は潰せると思う。……もっとも頭に例の寄生生物がついてたところを見ると、馬鹿になったのはそいつのせいかもしれないが。

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