第4話 触手だからって別れが寂しいわけが無いと思うなよ


 街までの道を進んでいる。道自体は舗装されていて歩きやすい。しかし身体が渇いてきたな。


「ライデン、水とか持ってないか?」

「ふむ。そういえばお主は水場の生き物じゃな」

「一応二、三日は持つが、それを過ぎるとさすがにきつい」

「……人間でもきついですよ」


 ミーナがそんなことを言う。人間も水を飲めないときついのか。毛もないところを見ると、ひょっとして人間も水場の生物だったのかもしれないな。ライデンが水筒を渡してくれた。触手で水筒を掴み、水を飲む。生き返る。


「しかしお主……うーむ……お主の形、どこかで見たような気がするの」

「俺の仲間を見たのか?」

「いや、そうではないのじゃが……そうじゃ。海じゃ!」


 海?なんだそれは。……実物を見たことがないのに言葉のニュアンスだけはわかるか……気持ち悪いな。変な改造しやがって。ものすごく大きい塩の水たまりだとなぜ知っている?


「海?」

「そうじゃ。お主のその姿に似た生き物は何かと考えておったんじゃ。海にいる生き物にウニという生き物がおる」

「でもライデン様。ウニはトゲが全身に覆われている生き物ですよ。触手のある生き物では……」

「いや、ウニにはある触手に似たものがあるのじゃ。仮足というのがある」

「そうなると俺とウニは関係しているのか?」

「そこまではわからんが、ひょっとして似た生き物なのかも知れぬな」


 俺はそのトゲトゲのウニって生き物に似ているのか。複雑な気持ちだな。俺にはトゲとか生えてないぞ。触手ならたくさん生えているが。


 そんな雑談をしているうちに街が見えてきた。大きいな。村よりも建物も大きいし石造りのものも多い。人もたくさん住んでいるのだろうな。しかしここまで人間が多いってのは何故なのか。そんなことを俺が考えているうちに、早速兵士が、ライデンとミーナを発見したことを詰所に連絡しに行ったようだ。俺たちは手持ち無沙汰なので適当に雑談をしている。


「ところでミーナ。これからどうするんだ」

「家族が無事か確認します。そのあとは、家族と相談して考えます」

「そうか。みんな無事だといいな」

「兵士さんの話だと、大けがした人とかはいなかったようなので大丈夫だと思います」


 お、そういえばだ。山賊から奪ったアレ、俺が持っていても……いや、最低限は必要だからな、銀自体は。


「そうだ。この銀だが、ミーナ、貰ってくれないか」

「あの山賊からとった銀貨ですか?」

「身体のこと考えると微量の銀は欲しかったんだが、こんなにたくさんあってもな」

「銀が必要なのか……人間にもわずかに金属が必要という話は聞くが……銀は必要ないからのう」


 そうなのかライデン。ライデンは物知りのようだからな。これからの旅の情報を仕入れるのに役立つ気がする。


「でも、悪いですよ……」

「住んでるところも焼かれたんだし、あると助かるんだろ?こういうやつ」

「それはそうですが……触手さん、これから旅するんですよね。だったら持ってたほうがいいですよ」


 俺使えるのか?いまいち使い道とかわかってないんだが。あとでライデンに聞いとくとしよう。何かに使えるならいいんだが。


「じゃあこうしよう。ここに銀貨入れるやつ二つあるから半分にしよう」

「それでしたら……なんかすいません」

「気にするなって」


 半分でも結構な量の銀貨が触手元に残った。急ぐ旅ではないが何かの役には立つかもしれないといわれるとな。


「ライデン様」

「戻ったか」

「ミーナの家族ですが、全員無事こちらに避難していました」

「よかったなミーナ!」

「はいっ!」


 わかってはいたとはいえやっぱり無事が確認できると嬉しい。俺はミーナと握触手して無事を祝った。ん、そちらの、ライデンほどではないが年のいったオスとメスの人間……ミーナの家族か。


「ミーナ!無事だったのか!」

「お父さん!お母さん!」

「よかった。助けていただいてありがとうございました。何とお礼を言ったらいいのか……」


 ミーナの母は兵士のほうを見ながらそう言う。ここまで連れてきたのは兵士ではあるからな。しかし。


「いえ、私は何も……」

「それでしたら、助けていただいたのはそちらの……」

「わしもなんもしとらん。むしろ助けられたんじゃが」

「では、誰が……」

「一応俺かな」


 俺が触手を挙げながらそういうと、ミーナの両親はびっくりしている。そういうものなのだろうが、まぁわかってたけど。


「ひっ!しゃ!しゃべった!?」

「なんなんですかあなたは!?」

「触手?」


 しいて言うならそんな感じだよな。触手。


「ミーナ、変なことされなかったか!?」

「お父さん!触手さんに失礼だよ!」

「えぇ……でもなぁ……」

「気にすんなミーナ。そっちの反応が普通だろ」

「いやいかにも変なことしそうじゃない」


 失礼なオスとメスだとは思わなくもないが、ミーナやライデンのほうが理解力ありすぎるのではないか。異種間のコミュニケーションなんてスムーズに行かなくて当たり前だ。


「魔物のアジトから助けてくれた上、襲ってきた山賊も退治してくれたんだよ」

「……それは何とお礼を言っていいやら……」

「まぁとにかく無事家族と合流できたんだ。よかったじゃないか」

「はい!」

「もう家族とはぐれたりすんなよ」


 ミーナと家族は俺に礼を言いながら去っていった。なんだか少し寂しい気分になったな。体の一部にキモいのついてたが、素直ないい子だったからなぁ。


「寂しくなったのう」

「……そうだな」

「そうじゃ。わしの家に行こう。そこでいろいろと話を聞かせてもらおう」

「こちらこそいろいろと聞かせてもらうぞ。長旅の準備がいるしな」

「その前にこれをつけてくれぬか?」

「なんだこれ?」

「従獣の環じゃ。これをつけておけば危険生物扱いはされぬ」

「厄介だな」


 なるほど、別に家畜にされた覚えはないが、そうはいっても攻撃されるのも困る。ここはつけておくのが無難か。俺たちは兵士とも別れ、この街にあるライデンの家に向かった。道行く人が俺のことを怪訝な顔で見るが、何故かライデンの顔を見ると納得したような顔でスルーする。


「ライデン、お前ってどういう扱いなんだよ」

「わしは魔物の研究をしておるからな。よほど危険な魔物でない限りは持ち込みありなんじゃ。それにわしの家は街外れじゃし」


 魔物ね。よくわからんがまぁ攻撃とかされないならそれでいいか。石で舗装された道をしばらく行くと、それなりの大きさの家があった。ここか。なんか変な動物の鳴き声がする。あれと同じ扱いなのか俺。


「あの動物は?」

「ヒポクリフじゃよ。わしには慣れてるから大丈夫だと思うんじゃが」

「おい、それ俺攻撃されないよな」

「近寄らんかったら大丈夫じゃろ」


 そりゃまぁそうかもしれないけど、なんか納得がいかない。複雑な気分のまま家に上がらせてもらう。


「ところでライデン」

「なんじゃ」

「水の補給がしたいんだが、構わんか」

「そちらの水場で水浴びもできるぞ。わしはよく身体汚して孫娘に怒られるから作ったんじゃ」


 ライデンはいろいろと外で何かやってそうだからな。しかし水を浴びる必要があるとか、人間というやつはやっぱり水棲動物なんじゃないのか?そう考えるといろいろ納得がいくが。水棲の哺乳動物か……複雑な気分だ。


「んじゃ使わせてもらうぞ」

「おう、このレバーを下げるとじゃな」

「うわ、すげ!水が雨みたいに降ってきた!」


 ライデンに使い方を教わり、水を体に浴びる。本格的に生き返るな。それにしてもこの水も割ときれいだな。湧水をくみ上げているのか?ふぅ……。俺がそのような感じで水を浴びているとだ。


「おじいちゃん!帰ってきたのにまだシャワー浴びてないの!?」

「いや、ちょっとまだ使ってるやつが」

「そんなのいるわけないじゃない!早くシャワー浴び……」


 人間の若いメスににいきなり扉をあけられてしまった。ミーナと同じくらいの年だろうか。ライデンとあまり似てないな。あ、でも髪の色は同じように青っぽい。しかし胴体の一部が服の上からでもわかるくらい、ミーナ以上に腫れてるように見える。あ、水が割と豪快にかかった。


「おい、外に水が漏れるぞ」

「あ、はい。ごめんなさい」

「服に水かかってるじゃないか、風邪ってやつ引くんだろ?」

「そうだね……ってなんで触手がしゃべってんのぉ!?」


 ちょっとびっくりするのが遅いんじゃないかこの人間のメス。ていうか服の上からできものっぽいのが透けて見えててキモいけど、キモいとか言っちゃいかんよな。


「とにかくお前らも俺の後で水浴びして着替えてくれ」

「うん。……ぼく、なんで触手に怒られてるんだろ」


 そりゃ触手ひとが水浴びてるときにいきなり確認もせずに入ってきたら怒られるだろ。家族に習わなかったのか?教育をしっかりしろよライデン。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る