第17話 触手だからって焼かれて平気だとは思うなよ
翌日。俺はなんかテカテカしてる始祖とダルそうなヴァンパイア、そして特に変わってないエウロパとブレンを見ながら、すごくダルさを感じていた。
「寝れなかっただろうが」
「何故じゃ」
「何故じゃもクソもねぇよ自分の胸に聞いてみろお前ら!」
本当に勘弁してくれ。何ヶ月(いや何年かもしれないが)後にこいつらの子が出来たら、その裏には俺の犠牲があったということだ。
「ブレンたちはうるさくなかったのかよ」
「いや、全然」
「ぼくたちぐっすり寝られていたよ。疲れが取れたのかな」
呆れて何も言えなくなった。お前らな。これだから体育会系は……。俺だけが騒いでるみたいじゃないか。
「それで?今日もまだやるのか?」
「身体の具合はまだよくないじゃろ?」
「そんなことな……って始祖痛いだろ!」
「ぼくもまだあちこち痛いし……」
始祖がちょっと触れるだけで痛そうなブレンもエウロパも、まだ身体治ってないのかよ。げっ、そうなるとまだここに滞在すんのか?今日も寝かせないよってナメとんか。
「さすがにブレンたち置いてくわけにもいかんな。……宿の主人に言って部屋変えてもらうか」
「そこまで?そこまでじゃった!?」
「……始祖、今回だけは我々が悪いです……」
仲いいことはいいことなんだよ。でもな、
しばらく一匹になりたいからと言って観光することにした。源泉の方に行ってみる。お湯の川かよ!凄いな。魚は全然……いや、いた!温泉に対応して進化した魚もエビもいる!
「来たか」
「ラコクオー、どうした?」
「こっちの方に馬用の温泉があると聞いてな」
そういえばラコクオーは昨日温泉入ってないからな。今日は入れてやらねばいかんだろ。
「すまん、俺たちだけで先に楽しませてもらった」
「何、気にするな」
こいつの方が人間、じゃないな、ウマが出来ている。少なくとも1000年生きてる始祖より大人だと思う。始祖が子供の可能性も結構ありそうな気がしてきたが。
とにかく二匹で馬用温泉に向かう。しばらく行くとあった。川と温泉が混じる天然温泉のようだな。階段も整備されているし、これなら馬も入りやすかろう。
「特にここは金は要らないようだな」
「うむ、入ってみるか」
かくしてラコクオーが温泉に浸かることになったが、微妙な顔をしている。
「触手よ」
「どうした」
「我が大きすぎて入りにくい」
しまった、こいつ並みの馬よりはるかにデカいんだった。どうしたもんだろうか。
「もうちょっと先の方に行ってみるか?」
「我のためにすまぬな」
「何、気にするな」
こうして俺たちは更に源泉の方に向かうことにした。しかしこっち行くとアツそうだぞお湯。どこかに良さげなところがないか探していると、あった。いい感じに川も入っているし、ここならラコクオーもつかれるサイズだ。
「ここなんてどうだ?」
「行けそうだな」
「足には気をつけろよ」
こうして俺たちは一息つけた。いい湯じゃないか。デリカシーのないメスもいないし。オス同士の風呂って悪くないな。
……と思っていたのにだ。
「キャァっ!」
なんだなんだなんだ?なんか悲鳴をあげたヤツがいるぞ!?
「……ってなんだ、馬なんだ。でも大きいね」
何を言っているかと思ったら、ドラゴンがお湯に浸かっている。
「先客がいたか、すまぬ」
「えっ!?喋れるの?」
「普通は喋らないからなぁ馬って」
「キャァっ!」
いきなりドラゴンブレスを喰らいそうになったぞおい!とっさにお湯の中に逃げ込んだが熱い熱い熱い!
「ちょっと待て!いきなり何を!」
「えっ、触手も喋って……ウソでしょ?」
何を言っているんだこのドラゴンは?とにかく急にブレス吐くなよ危ないだろ。
「そういうお前はなんなんだよ?ドラゴンのメスのようだが、それにしては……反応が人間みたいじゃないか」
「そうね……そうとも言える。私はドラグニュートのファブリー。ファブって呼んで」
「ドラグニュート?」
「龍と人間の因子を組み合わせて『生み出された』種族だと言われているわ」
あーなるほど、だから妙なところで人間っぽいのか。しかしそのドラグニュートが何故温泉に?ラコクオーも気になっているのか俺の意見を代弁してくれた。
「我らはハードな修行の疲れを癒すためにここに来たのだが、ファブはどうしてここに?」
「戦いの傷を癒やすためね」
「戦いの?」
「ええ。私たちの村に魔物の襲撃があってね。龍化して追い払ったのはいいんだけど、戻るまでが大変なの」
「戻るのどのくらいかかるんだ?」
「……一ヶ月。龍化は短時間なのにね」
それは面倒くさいな。しかし人間よりもはるかに大きく見えるんだが、ドラグニュート。
「人間のような形からこうなるのか?」
「そうね。私たちはいうなら龍の身体を内包している。龍化後は空を飛ぶために軽くなっているの」
なるほど。鳥とかと同じなんだな。ラコクオーが更にファブに聞いている。
「しかし魔物か……まさかと思うが、頭に何か寄生されたヤツとかいないよな?」
「お馬さんあなたテレパシーあるの?」
「ない!」
あー、またか。あとでブレンに被害者の会の会員証発行してもらわないと。会員証にエルフの村である機能をつけてもらったのが役に立つな。
「俺だ。ブレン、また被害者がいた。今回はドラグニュートだ」
『またって、またあの紫ゴブリンか?』
「おそらくな」
『行く先行く先現れているのか、むしろ逆なのか?』
「どういうことだブレン?」
『戻ったら話そう。今からまた一風呂浴びてくる』
本当にあいつロクなことをしないな。しかし何が目的なんだ?あいつの裏に誰がいるんだ?
「というわけで俺たちも戻ろう。ファブも来るか?」
「うーん。でもそろそろ戻る頃だから服とかいるんだよね……」
「エウロパにでも借りてみるか」
「それ誰?」
「俺の仲間の人間のメス。頭はいいけど胸のデキモノがでかくてちょっとイヤ」
ドラグニュートが露骨に嫌な顔をする。
「それ乳房でしょ?わたしも結構大きいんだけど……」
「それは済まん。でも身体にデキモノがあるように見えるとか、触手とか生えてないと生理的に嫌なんだよなぁ」
「こっちは触手生えてるほうがイヤよ。もっともわたし尻尾生えてるけど」
尻尾も触手となんか通じるものがあるよな。そういえば人間のオスにも触手が一本だけ生えていたな。もっとたくさんあればいいのに。
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