第25話 触手だからって危険を察知できないとは思うなよ


 翌朝、ナースプレイとやらをしていたヴァンパイアをしばきあげた俺は、ここから戻るかどうかについてブレンたちと話し合うことにした。


「というわけでだ、この機械を使ったらブレンのブレンの治療薬とか色ボケヴァンパイアどもの繁殖活動をさっさと終わらせられると思うんでだ。降りないか?」

「でも待ってよ触手。ぼくたち肝心なことわからないんだよ?」


 何がわからないんだよエウロパ。見当がつかない。


「肝心なこと?」

「うん。クスリの作り方だよ。あと治療法だってわからないから、下手なクスリを作ったらそれこそ始祖が不妊になったりブレンのブレンが永遠に死んでしまうかもしれない」


 思わずブレンが股間を抑えるが、その気持ちはよくわかる。永遠に死んだらおしまいだからなある意味。


「だとするとどうすればいい?」

「下の街で聞いたサーバーってやつを探そうと思うんだ。その中に必要な情報が入っているんだよね?」

「でも待ってエウロパ」


 どうしたんだファブリー。珍しいなこういう時に話に入るとは。


「サーバーは特殊な方法でないと情報が取り出せないと言われているわ。その方法もわからないわよね」

「うーん……」


 せっかくのいいものを手に入れたというのに、これでは全然ダメダメじゃないか。そもそも誰が、今となっては使えるんだよこんなもの。


「ひとまずもう少し探すか」

「そうじゃの。妾なら多少は古代語も読めるしの」

「待て。いつまでその服着てるんだ色ボケ夫婦」

「お、おう……触手は何か妾たちに思うことがあるのかのう」

「単にお前らの繁殖活動がうるさすぎて寝られないんだよ!」

「そうなの?」

「知らなかったわ」


 おい。ブレンもエウロパもファブリーもうるさくなかったのかよ。動物だってあんなに声出さないぞ。始祖級のヴァンパイアだから恐れるものもないからって、もうちょっと抑えろよ声とか。


「というわけで俺が夜寝られるような睡眠薬も見つけてくれたら、お前らがいくら繁殖活動に専念しても俺は文句言わないから」

「お、おう……」

「くそ、言い返せない……」


 言い返せないじゃねえぞ繁殖ボケ夫婦が。ともかく現在の状況からするとだ。なんらかのサーバーとやらから情報を引き出す方法を探すしかない。全くめんどくさいったらありゃしない。


 塔の上に登っていくうちに、またエレベーターがあった。案の定機械の兵隊が降りてきたので、降りる前に不意打ちで全滅させ、ガラクタになった機械をエレベーターから引きずり下ろした。


「これだったら不意打ちしないほうが楽だった?」


 などとエウロパが言っているけど、精神的には不意打ちで勝てた方が楽だとは思う。さて、そうこうしているうちに、エレベーターの掃除も終わった。引き続き上を目指して登っていこう。


 そうやってかなりエレベーターで登ってきたとき、突然周囲が暗くなってきた。いや、暗いけれども明るい。どういうことだこれは?


「ここは……」

「どうやら妾たちは、宇宙に近いところにまで近づいてしまったようじゃな」

「そんなところまで登ってこれるのかこれ!」


 ブレンが窓の外から星空を見ている。エウロパが突然下の方を指差す。


「あの青いのって!?ひょっとしてぼくたちがいた世界なの?」

「そうじゃ。空や海の青さが宇宙から見るとわかるじゃろ?」


 感動はするけど、それより情報の入手についてだな。そう思ってあちこち家捜ししていると色々なものが出てきた。服だの食べ物だのである。


「超長期保存食か。触手よ、食ってみよ」

「えっ?」


 いきなり始祖に棒を渡された。こんなもん食うのかよ、と不承不承口にすると……なんじゃこれ美味いじゃねぇか!?


「どうなってんだこれ美味いぞ!」

「やはりのう……失われた技術というのは大きいのう」

「これだけのものがあるなら情報が手に入ったら……」

「そう、色々とできるであろうな」


 わかった。ならなんとか情報を入手して俺たちの目的をはたさないとな。引き続き家捜しを続けて塔をうろついている。大きな空間に出ると同時に、ふと何かベタベタしたものが塔の通路に広がっているのに気がついた。なんじゃこれは。


「おい、みんな、気をつけろ何かいる……いや、いたぞ」


 触手で指した方には、何か巨大な生物の外皮のような構造をした球がドロドロとした赤っぽい粘液の中に浮かんでいた。中身の方はどこかに行ってしまったようである。


「これは……なんじゃろうな」

「分からんがロクなもんじゃなさそうだな」


 ブレンの言う通り、これが生物だとするとかなりの大きさである。全長数十メートルである。バケモノか。そんなのがこの辺りをウロウロしているというのか?


 警戒をしながらこちらも家捜しを続けているうちに、多数の機械がこちらに向かってくる。何体来ても同じだ。全部破壊してやる。そうやって破壊し続けてているうちに、突然全部の機械が停止したではないか。もっと早く停止しろよ。


「侵入者が再活動を開始した。危険レベル増大。直ちに排除する」


 その声は人間の若いメスの声のようだった。しかし機械の音にも聞こえる。天井のあたりから複数の棒が突き出た機械が現れたではないか。


「侵入者の再活動確率76%。直ちに排除する」


 そういうと、機械は俺たちに光を放ってきた。あちっ!?ヤバいぞこれ。焼き触手は勘弁してほしい。


「エウロパっ!」

「わかって……るよぉっ!」


 察してくれたエウロパが水のバリアを全員に展開した。俺たちも即座にその機械に向かっていく。俺はブレンの背中に乗り、触手をブレンに巻きつけた。そのまま俺たちは天井を立体的な機動で移動する。不規則な動きに機械の側も面食らっているようだ。


「そんな!?あのような動きができるとは?」


 そのまま機械を斬りつける。硬いな。しかしブレンが電撃の魔法剣を叩きつける。機械も衝撃で仰け反る。それを見た俺は金属弾を用意する。


「ブレンっ!狙いと魔法は任せた!」

「よしっ!ゼロ距離触手砲!食らいやがれっ!」


 鈍い音とともに機械の外殻に亀裂が走る。続けて始祖たちやエウロパの魔法が炸裂する。更にファブリーが何かを投げつけて……お、亀裂に当たったな。亀裂が唐突に広がる。そのまま機械は落下していき、地面に転がった。


「ふう。結構怖かったけどなんとかなったな」

「そうだね。……待って触手っ!来るよっ!?」


 機械の亀裂が外皮全体に広がる。ヤバい?爆発でもするのか?そう思い俺たちは退避を始めた。


 しかし、爆発は起きなかった。


 しばらく機械を見ていると、中から一人の人間のメスが出てきたではないか。


「ふぅ……なんてこった。死ぬかと思ったじゃないか。サーバーとの記憶同期まで飛んだら俺終わりだぞ」

「なんだあんた?」

「俺?俺はレナード・ヴィンセント。今はこの人型ロボットに記憶を移している。本体はとうに死んでるがな」


 言ってる意味がわからない。なんで死んでるのに機械になったんだ?それになんでオスのしゃべり方してるんだこのメスは?

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